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0歳児スタートダッシュ物語  作者: 海華
令嬢の戦い編
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9


まあ作ったとして、売りに出す許可は二人の公爵夫人にかかってるけど。

そう思いながら振り向くと、公爵夫人はこれ!と二粒の魔石を見せてきた。


ダッテバルダ夫人は小指の爪くらいの魔石を。ショールディン夫人は一番大きな魔石を選んでいた。

いや、ショールディン夫人…それ添え物程度でなくメインで使う気満々!なサイズなんですけど……。


「制作にはこちらのサイズがいいのだけれど、この赤く綺麗な魔石?ならこのサイズでアクセサリーを作りたいわ」


「申し訳ありませんが、私の魔石は譲渡禁止なんですよ」


精霊の声が聞こえるから、差し上げる訳にはいかない。

えぇ残念…。とこれみよがしに溜息をつかれてもダメなものはダメだ。魔石は全て回収して、姿を消してそばに居るイェスラとリェスラに食べていいいと小声で渡す。


「随分と楽しそうだな」


ちょうどと言っていい頃合で、最早御婦人の一団と言って良い塊にアイザック様がやってきた。即座に全員が臣下の礼を取り許可を貰い頭をあげる。


「それで?だいぶ可愛がられているようだが大丈夫かリリア」


「ショールディン夫人もダッテバルダ夫人もとても優しく、美について博識で色々と教えて貰っておりますの」


「随分と酷い言い草じゃありませんか、殿下?私たちはとても可愛いリリアを娘のように可愛がっているだけですわ」


「ええ。こんな有能な(こんなかわいい)お嬢さん、そうはいませんわ」


既に両サイドを埋められ、とても。とっても可愛がられているらしい。その目は獲物を狩るハンターのようだけれど。

対してアイザック様の目は、お前二人に一体何したんだ?と言いたそうな呆れた目だった。


「娘を可愛がるのは構わないが、そろそろエルクに返してやってくれないか?俺の従兄弟が寂しそうにしているぞ」


言われた瞬間、今まで傍でじっとしていたエルク様の元へ寄る。

その手を取って見上げて、瞳の中に寂しさがないか探るためにじっと見詰めるとエルク様は楽しそうにクスクス笑った。



「まあ」


「あら」


「大丈夫だよリリア。リリアはちゃんと戻ってきてくれるから」


空いてる手で頬を撫でられて、その手に擦り寄れば握った手を離されてやんわりと抱き寄せられた。抗うことなく負担にならないよう気をつけながらポスッと抱きつくと、そのまま背中を手でぎゅっと押えられた。


「ですが、リリアは初めての社交で少し疲れているようなので休憩をさせて貰ってもよろしいですか?」


「あらあら随分仲のよろしいこと。いつまでも捕まえていてごめんなさいね」


「先程の話は後日使いをやるわ。そうね、今度三人でお茶会でもしましょう」


三人って、どの三人ですか。

まさかとは思うけど、ショールディン夫人とダッテバルダ夫人と私じゃないよね!?

エルク様の胸元に顔を埋めたまま身を硬くしてぎゅっとエルク様の服を掴むと、エルク様は私の望みを忠実に理解をしてくれた。


「ダメですよ。私はとても嫉妬深いので、私の目の届かないところに愛する妻はやれませんよ?」


「あらあらぁ」


「まあぁぁ」


「お前……」


忠実に理解をしてくれた、が。

耳元で甘く囁くように言われたセリフに色んな意味で貫かれて、エルク様にしがみつく。エルク様も片手でガッツリと背中を抱いた。


「そ、そういう訳ならば貴方も招待しない訳には行かないわね」


「しかしまあ、リリア貴女何をしたの?あのエルク様が……」


「……では失礼しますね」


状況を一番理解しているエルク様はそのまま私を姫抱きにして持ち上げた。こんな会場の中で。御婦人軍団の中で。

さすがに恥ずかしくて顔を隠すが、抗うことは出来なかった。





エルク様の一言で、腰が抜けていたから。





ーーーーーーーーーー


「あのお人形と言われたエルク様が随分と変わりましたわねえ」


「ええ。お仕事の関係で我が家に来たことがありますが、あの二人は仲睦まじくってまるで別人ですわ」


普段競い合う二人が、呆然としながらエルクとリリアが出ていったテラスを見る。

そんな二人を見て、にっこりと笑うアイザック。


「初めはリリアの一目惚れで結ばれた婚約だが、あの通り今ではエルクも骨抜きだからな」


「わたくしもずっと、あの二人はただの政略婚だと思ってましたわ」


そう思っていたのは恐らくショールディン夫人だけではないだろう。

早々に王家が手をつけたにも関わらず、リリアを掠め取ろうとした家は少なくない。最たるものは魔国だがショールディンもその中の一つだ。


「私はリリアが一目惚れをした瞬間から知っているが、リリアの愛が余所見をすることはないと断言出来るぞ」


キッパリと言い切ると噂好きの御婦人の興味を引けたようだ。

二人とも視線がリリアたちからこっちへと移動した。


「リリアが行った数々の愛ゆえの奇跡のような発明について、知りたくないか?」



ゴクリ、と。

誰かが息を飲むのがわかった。


さあ、奴らへの余計なちょっかいの牽制と

魔石を使った魔道具の宣伝を始めようか。



ーーーーーーーーーー



「大丈夫?」


「あの発言は反則です…」


「そうかな?ごめんね?」


嬉しそうに笑うエルク様の膝をパンパン叩くが、なんの効果もなくエルク様はますます嬉しそうに私の髪を撫でた。

去り際にお人形なエルク様とか聞こえて内容が気になって仕方ないが、今ここでまったりする時間の方が何倍も大事だ。


会場からテラスへ出ると、そこは外へ通じる階段があった。

階段を降りると庭園だが私とエルク様はテラスに設置してあるベンチに仲良く座っていた。


座って、エルク様の隣で息を吐くと結構緊張していたらしく意識せずため息が出た。

ただでさえデビュタントで緊張しているのに、公爵、公爵夫人、公爵夫人と公爵コンボだ。


ダッテバルダ夫人とショールディン夫人のおかげで他の人は率先して話しかけては来なかったけれど、

あのお二人だけで十分重い。



「とりあえず公爵夫人達に好かれたようで良かったよ。とは言え、話してる内容が完全に商談だったけど」


「あれが一番楽だと気づいたんです…」


「それでも。きちんと駆け引きもできるようにならないとダメだよ?」


「はい…」


「それと、まだ夜会は終わってないのだから油断しないように」


「はい」


すっかり終わった感でくつろいでいた心と身体をシャキッとさせるけど…やっぱり、ちょっと疲れたのでエルク様に寄りかかると迷わずに抱き寄せられた。

言ってることはきちんとした注意なのに、エルク様はやはり私に甘い。


とりあえずエルク様に寄りかかって。

少しの間だったけれど王城から見下ろす夜の城下町を堪能した。



その後は戻るなり正装をした賢者たち(おじいちゃんず)にあったくらいで大したことも無くたんたんと夜会は終わった。

まあそう何回もイベントは起きなくていいものだけど。


二人の夫人のやる気を見るにまだなにか詰め寄ってくるかと身構えていた私は正直少し肩透かしをくらった気分だった。





が。



夜も更けて、深夜に家に帰った私を待っていたのは。


二通のお茶会の招待状であった。


差出人はもちろん、ダッテバルダ夫人とショールディン夫人だった。

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