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だがしかし、彼の出してきた照明は光っていなかった。
よく見て見たらその状態がわかる。中の魔光石の魔法陣が壊れていた。
壊れるというか、魔石が不自然に欠けている…?
「悪い、俺の精霊が壊しちまったみたいでな」
「ああ、それでですか。すぐ直せますので気になさらないで結構ですよ」
言いながら、照明の中の魔石を取り出して魔力を沢山込めて魔法陣の形に変えて、魔力を流す。
すると魔光石は直ぐに魔石を燃料にひかり出した。
ほら、と光った照明を見せると何故かゼフィリス様は考え込まれた。
「すごいな。明るいのに熱でも火でもない。これは水の中でも光るのか?」
「魔法ですから、水中でも光りますよ」
「ならば夜の雨の中や深い水中での作業にも使えそうだな」
じーっと。ものすごく穴が空きそうなほど見られる。
恐らく欲しいのだろう。いやものすごく欲しいのだろう。
エルク様を見上げると、ゼフィリス様の意志を把握しているのかエルク様も困ったように笑った。
「ゼフィリス殿、もしよろしければ優秀な人材を派遣してもらった御礼に試作品ですが一つどうぞ」
「本当か!!いやあ助かる」
エルク様が言うので差し出すと、照明は速攻で受け取られた。
試作品なので入れ物すごく適当に作ってるんだけどねえ。
そしてゼフィリス様にプレゼントしたことにより周りがざわつき出した。
欲しいんだろうなあ、うん。
予想以上の魔光石の人気に少し戸惑い、自動じゃ無ければ販売の許可は降りているので早いとこ売り先を見つけねばなあ、と考えていると。
本当に都合よく売り先として打診しようとしていたルクタール様が慌ててかけてきた。
「ルクタール様、今宵はいらしていただきありがとうござ「リリア様!!私にもください!!」
その鼻息荒い一言目で、場の空気が完全に変わった。
物欲しそうだった空気は、何あの失礼なやつと言った敵意のあるものに。この空気なら他の人は言い出せないだろうから、ルクタール様に感謝するしかない。
「紙業は火気厳禁なのです!ですが!ですが!このライトがあれば夜でも作業が出来ます!これは紙生産業界の希望の光なのです!どうか、どうか、うちにもください!」
大声で外聞もなく叫んで、貴族らしからぬ態度で腰を曲げてほぼ90度で頭を下げるルクタール様。呆気に取られるもの。眉を顰めるもの。面白そうに見るもの。
他者の視線は様々だが、コレが今夜一番の大事で今後を左右するものだと薄らと察した。
周りは、私の対応で私を見定めようとしている。
「ルクタール様、想像をしてください」
「……はい?」
怪訝そうに顔をあげたルクタール様の前で目を閉じる。
「燃えぬ光なのです。ならばこれを木と紙でランタンを作れば?ガラスと違い木と紙ならば壊れても修復は容易く、また加工もしやすく誰でも手に入る素晴らしい灯りが出来ると思いませんか?」
イメージは提灯だ。いやあれは中身ロウソクと火だったけど。
あと流し灯篭なんかもイメージする。
「紙に絵を書いて中から照らせば素敵でしょう。複雑な形に切った紙を重ねても素敵でしょう。私は紙のプロフェッショナルな貴方にそれをやって欲しいと思っています」
そこまで言ってから目を開くと、ルクタール様は何故か地面に膝を着いてワナワナと震えていた。
周りの人達の目線も、想像をしたのか好ましいものになっている。
「それ、は、また!また、魔道具ギルドと合作が出来るということでしょうか!?」
「いいえ違います」
「え、違うの?」
ルクタール様も周りも上げて落として動揺して。
動揺してないものは楽しそうにこちらを見ている。
「我がアイエル商会から、この光源を買ってくださいルクタール様。作るのは貴方です。使ってよし、作ってよし、売ってよしの商品ですが誰にでも売れるものではありません。私は貴方に買っていただきたい。貴方の作った照明が欲しいんですルクタール様」
そこまで言ってふっと笑うと
目の前のいい歳をした大人はボロボロと泣き出した。
え、なんで泣くの。そこまでのこと言ったかなと笑顔の下で全力で慌てる。ちらと助けを求めるためにエルク様を見てもエルク様も笑っているし。
「わ、わかっ、わかり、ました!!このルクタール!必ず、必ずや!リリア様の御期待に応えましょう!!」
号泣しながら手を取られてぶんぶん振られて。
ルクタール様はすっと立ち上がってどこかへ走っていった。
貴族として有り得ないその様子が逆に好感が持てて、くすくすと笑うとエルク様に頭を撫でられた。対応としてはそう間違っていなかったのだろう。
だが。
その後商人や貴族がうちにも!と群がり。
それをアイザック様とトーマに払って貰ったのは情けなかった…。
新設したアイエル商会の第一取引先はアイザック様の経営する工場。恐るべきことにアイザック様は公共事業として工場の開発、経営を始めた。
第二取引先はショールディン公爵領。
そこに新たにルクタール伯爵領が加わり、現在のキャロル領の工房は過半数の製品は基礎部品のみの開発になっている。
次の候補はルチルの生家のドーリン伯爵家とメルトスの実家のダレル子爵家らしい。
売り込む必要が無いくらい、他領、さらに他国からの取引要望が相次いでいるのは審査の意味でしんどいのでその辺は基本的にアイザック様に任せている。
取引先の精査、お断り対応、新作魔道具の許可がアイザック様の仕事で。
私は開発と生産対応、キャロル領内での運搬を対応している。
だが、引き渡し場所に困るのでキャロル領内のハズレの場所に製品引渡し専用施設を作ろう……と思っていたら、隣接する領の人達が立地よし、街の設備よしの場所に引渡し可能設備を作ったから是非とも利用をしてくださいと言われた。
ーーーー暗にうちにも売ってくれと言っているのだろう。実際取引要望は来ているし。まあその辺はアイザック様に丸投げだけど。
ちなみに魔石の使用許可が降りて一番嬉しそうなのはメルトスだった。
普段もキリキリ仕事仕事の鬼のメルトスだったが、今は凄みのある笑顔でアイザック様相手でも怯むことなく魔道具の許可のプレゼンをしている。
私が適当に雑に作った魔道具の企画書をよくぞ毎回ここまで調べるな、と感心するほどの分厚い書類の束にして提出をしている。
母様の部下だった頃はここまでの仕事の鬼じゃなかったそうなので、何かわからないがツボにハマっているのだろう。
だがしかしメルトスとジャックとルチル。この三人が揃ったことにより私の仕事はとんでもなく楽になった。
ジャックはさすが次期公爵なだけあって元々の教育が良く、添付けられた資料が文句のつけ所がない。調べ直しがほぼ無くなった。
ルチルは嘆願書などの取捨選択のポイントが私とほぼ同じだった。今では嘆願書のチェックは彼女に一任している。
そして恐るべきはメルトス。
笑顔で仕事を増やしている彼だったが、その数倍の業務をこなしている。
私の元に不備のある書類は来なくなった。彼が全てチェックしているのだ。
もちろんエルク様にも頼りきっている。
彼は何よりも私を支えてくれて、助けてくれて、やる気をくれる最高の旦那様だーーーー。




