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0歳児スタートダッシュ物語  作者: 海華
令嬢の戦い編
120/177

2


支度をしなければ、と思い慌てるとそっと頬を撫でられて。

薔薇に滴る夜露のような美しさと妖しさを併せ持つエルク様と目が会い、背筋が痺れる。


目が、離せない。


その金色の瞳に心が吸い込まれていくようだ。



「すごく似合ってる。見せびらかしたいような、閉じ込めておきたいような不思議な気分になるよ」


「……私の方こそ、エルク様の麗しさで腰が抜けそうです」


「じゃあしっかり私の傍で、私に掴まっていてね」


ゆっくりと頬を撫でられて。

その手にすり、と甘えよる。


しばらく見つめあってふふふと笑っていたが、突然ノックの音が聞こえて入室を許可するとレティシアが入ってきた。


「リリア様、先程は申し訳ありませんでした。リリア様のお身体が1番大切であったというのに……!」


「うん、本当に無理な時は言ってるから次からはちゃんと聞いてね」


「はい。徐々にコルセットに慣れていきましょう」


嫌だ。とは言えず曖昧に笑って頷く。

そして立ち上がり、今度はちょっとキツイかな?くらいの強さで締めあげられた。

そのままくるりと周り確認をしてみるが、うん。これなら何とか行けそうだ。


「今度は大丈夫ですか?」


「うん、行けそう。ありがとうレティシア」


「勿体無いお言葉です」


そしてエルク様に差し出された手を取って。

エスコートされて、メルトスの待機している庭の入口まで行く。


僅かの間に空は暗くなり。

庭からはザワザワ、とキャロル領に住む色々な重役や母様や私と付き合いの深い貴族の方々がいらっしゃるのが話し声でわかる。


これから、色々な思惑が飛び交う社交界への第一歩が始まるんだ。

飲まれないよう、怯ま無いよう。

背筋をしっかり伸ばして、しっかりとエルク様の手を握る。



「リリア・キャロル嬢とエルク・キャロル様です」


メルトスの呼び声で、一度エルク様と見つめあって笑ってから。

夜会会場(バトルステージ)へと歩み出した。





パチパチパチと拍手とともに、おめでとうの言葉を沢山かけられる。

招待客一人一人に笑みを向けながら歩いて、庭の中央に立つ母様の元へとゆっくりと優雅に歩いていく。


「今宵、私の可愛いリリアがついに12歳になりましたの。どうか皆様、リリアの門出を祝ってくださいな」


「皆様、わざわざお越し頂きありがとうございます。短い夜ですがどうぞ……お楽しみください」


母様の言葉に続いて、私も簡単に述べて。

手を広げて、魔力を放出する。


「好きに食べていいから、姿を見せて?」


『食べていいの?』

『姿、見せるだけでいいの?』

『おーい食べていいってー』


魔力につられて、精霊が集まって。

魔力と引替えに、オネダリをする。


すると直ぐに、キラキラと光る空中にたくさんの精霊が姿を表した。

わあっと盛り上がるお客様に頭をもう一度下げると、私の後ろに巨大な竜と、その羽に止まった大きな鳥が現れた。

精霊たちにオネダリをする代わりに、契約をしないように二人がみはってくれているのだ。

そして、招待客一人一人と話しながら長い夜会が始まったーーーーー。





……これで33人目……。


「お嬢様の提案のネットで、収穫量が上がり本当に助かっているんです。今日は来させて頂きありがとうございます!」


町長から村長、役場の重役に、魔道具ギルドのソルト、商業ギルドの長に、孤児院の院長達、学校の校長。

さらに母様と仕事で繋がっている貴族の人に……


感謝、媚び、見定め、純粋な祝い。

色々な大人たちとの対話は、想像以上にキツかった。

きつい。そして覚えきれない。

隣のエルク様のフォローがなければまともに話すことが困難な人もいた。

そのしんどさと言ったら、初めて教師になった時の比じゃない。



と言うか、全員を把握しているエルク様の凄さが怖い。

主催側って大変だなあ。全員と挨拶するんだよ?アホじゃない?



「よお、リリアおめでとう」

「おめでとうリリア」



だいぶ疲れてそろそろ一休みと思った時に来たのはダブル皇太子だった。

二人の王子の同時登場に場がざわつく。


今日の主役は私だけど、身分ではこの二人が圧倒的に上なので臣下の礼をすると直ぐに楽にしろと言われた。


そして二人揃って私のドレスを上から下まで、じっくりと。とてもじっくりと、作りまで見透かそうとする勢いで見てくる。


光る糸とか気になるんだろうねえ。

だがそれ以上に、アイザック様にはあらかじめ頼んでおいた宣伝をしてもらわないといけない。

そのために、私はキラキラ光る歩く広告塔になったのだから!!



「そのドレスとても似合ってる。二人で並ぶとまるで夜空の精霊のようだな」


「それは確かキャロル家の使用人が作ったのだろう?趣味のいい使用人がいるんだな」


「ありがとうございます。それもこれもアイザック様のおかげです。アイザック様がこれらの販売許可をくれたおかげですわ」


これら、と言いながら照明の方へ軽く手を出す。

さあ耳をダンボにして盗み聞くがよい。


「お陰様で魔光石の生産も安定しておりますわ。魔石の方も上々。あとはショールディン様に任せ…」


「皆様、このような場で仕事の話とは無粋でしてよ。美しい庭を楽しめないのかしら?」


タイミング良く邪魔をされたが、逆にタイミング良く注意をしてきたのはエリース様だった。

そしてノリノリでそれを利用しにアイザック様が動く。


さっとエリース様の手をとると、手の甲にキスをした。

瞬間で厳しい目で睨んでいたエリース様の頬が赤く染まり、可愛らしい令嬢になった。


「すまないエリース。トーマと話して盛り上がって先にこちらに来てしまった」


「……許してあげますわ。リリア、お誕生日おめでとう。ですが社交の場で仕事の話はあまり宜しくないわ」


「はい。いつもありがとうございます。またこれからはアイザック様と共にお世話にもなります」


「父も、今夜来れないことをとても悔いておりましたわ。デビュタントで逢うのを楽しみにしていると、言付けを預かってきましたの」


「まあ。仕事で逢う方が早そうですね」



ふふふ、と笑いながらエリース様に怒られないギリギリのラインを仕事で攻める。

エリース様の目は呆れているようだったけれど『魔光石』『ショールディン公爵と仕事』『アイザック様の許可』と情報をチラチラばらまく。

あとは勝手に調べてくれるだろう。


気楽な三人ともっと喋りたいが、今宵の私は主賓なので程々で次のお客様の相手に切り替える。




「よお嬢ちゃん誕生日おめでとう、それとうちの奴らを雇ってくれてありがとうな」


次の相手はキャロル領に存在する冒険者ギルドの、統括のギルドマスターだった。先日、新設した商会の職員として元冒険者の紹介を頼んだ人でもある。


定職につきたい冒険者はそこそこ居たらしく、今では運送から簡単な作業、算術を覚えた元冒険者もいる。


「ゼフィリス様、重ねてありがとうございます。紹介された方々はみんなとても素晴らしい人達で助けられてますわ」


「そうか、そう言ってくれると奴らも喜ぶだろうよ。ところで、これ売ってくれないか」



そう言ってゼフィリス様が出してきたのは、会場の照明のひとつだった。

重ねて言おう。会場に配置してある、照明のひとつだ。




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