13
「これは……その胸元のペンが魔道具か」
「はい、どうぞ」
エルク様が全ての花から出た細い線上の魔力塊が密集してある見た目はペンな自動魔力無効結界をアイザック様に差し出すと全員がアイザック様に集合した。
そして黄金の賢者様が触れない魔力塊の花に触れようとして透け通り、声に魔力を乗せて無効結界を発動させていた。
トーマは逆に自分で魔力塊を二つ出して、片方を有型の魔法陣にしもう片方を部分魔石化しようとして出来ず……。
私が何を作り出したのかを理解してにっこりと笑った。
「なあリリア、俺たち友達だよな」
「ええ。大切に思っている友人ですよ」
「………いや、やっぱりいい。これは広めちゃダメなヤバい魔道具だ。ただ可能なら販売だけ頼みたい。すごく知りたいけど。ものすごく知りたいけどこれの作業工程!」
「ですよねー。出来栄えはようやく満足のいくものなんですけど、これ水平展開すれば対人自動トラップとか色々とやばそうなの作れちゃうんですよね」
「自動魔力無効結界の時点でやばいわ。魔術師泣かせにも程があるだろう。ちなみに身体強化とかはどうだ?」
「範囲内に接近すれば解除されますね。感知しないのは体内の活性化してない魔力だけなので活性化している時点でアウトです。ちなみにこちらの魔道具を水平展開して作成した、人が通るだけで自動で明かりがつく自動点灯器を魔道具ギルドから製品化の切望をされてまして……」
渋い顔のアイザック様をチラチラと見る。アイザック様はマジックキャンセラーと書類をチラチラとみて、深くため息をついた。
「そろそろ魔石の販売を解禁しようと思っていたが正直魔石を使った魔道具の許可範囲が決め兼ねる。無論これは特注で注文をしたいところだが量産は絶対にダメだ。だがリリア、条件次第で色々と許可を出そう」
なんだろう。どんな無茶ぶりだろう。
覚悟を決める私の前でアイザックはブツブツ呟いて真剣に悩んでいる。きっと今決めていることなのでまだ纏まらないのだろうと思い、大人しく落ち着くのを待つ。
しばらくしてアイザック様が私を見据えた。
どうやら考えが纏まったようだ。
「この商会、私を共同経営者にしてくれ。それで魔道具の許可は私が担当しよう。許可も物事に難易度を決めて、委託先の信頼度で対応した難易度の物を任せるのでどうだ?もちろん最高難易度はリリアの特注品だ。これならば許可が素早く出せて、私というバックボーンで信頼度も高く、また私にも各領に仕事を回し就職率を高められるというメリットがある。またリリアが発明した魔道具もある程度把握できるのも嬉しいな」
言われた意味を反芻して、考える。
一考すると悪くは無い。だが相手は王太子だ。共同経営者と言ってもアイザック様の側近に近い存在になってしまうだろう。
また、彼の財力と人脈ならば魔道具の製造方法を知り新しく商会を作ることも可能だ。
商会の乗っ取りも出来るだけの人物だ。
ーーーーだが、大手を振って魔道具制作の許可を貰えるのはとてつもなく魅力的だ。
特に今回を含め今後もヤバい物を作り出す可能性は有る。と言うか多分作る。
そんな時に『アイザック様の許可済み』と言うのはとてつもなく大きい。
危険性と、安全性と。
相方としての信頼性はもちろん、ある。
「また共同経営者なら色々なイチャモンから守ってやれるだろ。お前が成人したら、狡賢い大人共が群がるだろうしな」
あーそっちの防波堤もしてくれるのか。
そう思ったけど、何となくそれ以外の含みも感じられた。それが何なのかは分からないけれど、私を見てエルク様が頷いたからきっとエルク様は知ってる何かがあったのだろう。
と言うかエルク様がゴーサインを出してるのに断る理由はない。
「では後日改めて魔道具ギルドのギルドマスターと会議できる機会を設けましょう。これからは共同経営者としてよろしくお願いします」
「ああ、助かる。ちなみにこれは無論量販は禁止だが、数個作ってもらってもいいか?」
「構いませんよ。それはペンでなくてもいいので何かアクセサリーとか元になるアイテムも希望があればどうぞ持ち込みしてくださればそれを改造しましょう」
「アイザック、俺も作ってもらってもいいか?」
「…三個までなら許可しよう」
「ありがとう、助かるよ。リリア、今度アクセサリーを持ち込むからそれに作りこんでくれ」
「了解です。で、とりあえずこれを作る鍵になる魔力の半固定化の魔法陣についての論文書いてきたんですが…どうしますか?」
マジックキャンセラーを作る要となっている、半固定化の魔法陣。意識を魔力塊から外しても魔力塊が維持されるという優れものを作り出す新作魔法陣。
魔術棟に預けろと言うならば、預けるが。
けれど真っ先に拒んだのは蒼海の賢者だった。
「うちはやめた方がいいじゃろう。厳重に保管しといても知ってしまえば、作りたくなるのが魔術師の性じゃ」
確かに。研究と開発の要のここに置いたら見たくなるし作りたくなるだろう。賢者たちが禁止された場合禁を犯すとは思っていないが、弟子の誰かが何かをする可能性がないとも言いきれない。
迷わず論文を受け取り軽く読んだアイザック様は、だがしかし論文を返してきた。
「ならばリリア、その魔法陣を使う場合は常に使用済み品をきっちりと破棄し図案はリリアの頭の中にだけにとどめよ。また同じ魔法陣を刻み込んだ何かを俺に収めてくれ。国宝として厳重に保管しよう」
国宝にされたよ。
たかが魔法陣に大袈裟な気がしなくもないが、わかる気もするので言われた通り頷いて論文を燃やす。さらに燃えカスを細かく砕いて水に溶いてイェスラに森の栄養にしてきてもらった。
「それではリリア、私は今から自動魔力無効結界を仕込んでもらう物を選んでくる。魔道具ギルドに行く日はスチュアートも連れていった方がいいな、うん。ショールディン公爵領を一番の営業先にするのが楽だからな。日程調整は頼んだぞエルク」
そしてアイザック様とトーマが宝飾品?を探しに行って。
賢者のおじいちゃんと軽く談義を交わしてから、リュートの魔法操作の報告を受けてアドバイスをして。
大至急で家に帰り、執務を片付けてから魔石を作るための人員と工房の確保に勤しんだ。
魔力塊を作れる人はだいたいわかるので、学園の卒業生または現在六学年の生徒から断られることを予想して平民を中心に50名ほど。それからキャロル領の各孤児院に作業員募集の案内を飛ばした。
魔石の生産ラインを整えて
魔道具ギルドのソルトと、共同経営者のアイザック様と、第一販売先のショールディン公爵様と色々と話し合って。
ああ、運搬作業者の募集案内を冒険者ギルドにも出さないと。
やるべきことはとても多いけれど、私はひとりじゃない。
「リリア、会議の日程調整は私がやってもいいですか」
「はい、お願いしますエルク様」
「お嬢様、魔石工房ですがこの街の西がまだ開拓の余地があるのでどうでしょう」
「候補地を三つほど選んで資料にして回しといてください」
頼りになる旦那様も従者たちも居る。
だからもっともっと頑張れるから。
私は力一杯好きなことをやるのだ。