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とりあえず秋の誕生日を迎えた後にあるデビュタントのアクセサリー。
ここにロケットペンダントを持ち込めたら、宣伝効果は良いのでは無いだろうか。
秋のデビュタントは私のせいで一般の参加者が多すぎて選別が必要になったとアイザック様が言っているくらい注目されるんだろうし…。
トーマに頼んでアイラ様とフェルナンド様の姿絵のロケットペンダントを2人に着けてもらったら、国外への宣伝もバッチリかな。魔国には政治的取引で各国の王族が沢山いると聞くし。
トーマがダメならアイザック様から送って貰ってもいい。何せ兄弟だし。
まあそんなことはどうでもいいのだ。
ロケットペンダントに入れるエルク様の写真。これが問題だ。
カールやイェスラと戯れる無邪気なエルク様にするか。
それともでろ甘の時の蕩けるような笑顔にするか。
それとも授業中の真剣なエルク様にするか。
どれも捨て難い。どれも欲しい。そうだどれも作って、その日の気分で着用しよう。
「ねえリリア、私も君の写真が入った飾り物が欲しいんだけど今度作らせてもいいかな?」
「へ?構いませんけど。じゃあ私の写真も撮影しなければいけませんねえ」
「……あれだけ写真を持っていて、自分のは全然無いのかい…?」
「無いですね。試し撮りをするならエルク様かイェスラかリェスラですし。自分を撮影しても、写真にまでしようとは思えませんし」
「……私も、リリアの写真が沢山欲しいのにな」
「エルク様仕様のカメラ、帰宅次第作ります!」
「うん、そうして」
そっか。写真を欲しいのかとどこか他人事のような気分で魔石を使って撮影するなら、どの部分に動力となる魔石をつけて魔法陣の回路はどうするべきかと考える。
まあ、それくらいなら今まで作ったものの流用で問題は無いだろう。
無色の魔石も、領地の孤児院の子で数人作れる子が見つかりマイクたちが教師をしに行っている時に日頃作った分を譲ってもらう様になってから安定して王家に供給することができるようになった。
一時期、ジークさんが捕らえられた時はシャルマしか作れるものがいなくなり、賢者様達に頼まれて魔術棟に納品していた時は本当にキツかった。
うちの家で使える分が激減し、好き勝手撮って現像が出来なくなったから。
今は、学園に通うものたちでも魔石を作れるほどの魔力塊を作れるものも増えてきたので近い将来はキャロル領以外でも取引が可能になるだろう。
その時までに写真の布教が完成するのならば、子供たちも魔石を売って稼げるし。
もしかしたら賢者の誰かの弟子になって魔術棟に入るかもしれない。
ただ、最近。
領地では孤児院ばかり優遇をしているんじゃないかと不満が出てきているようだ。
一応水が出るパイプや、畑の整備や川の整備などもきちんと行い、仕事を割り振り給金も出しているのだが。
まあ、隣の芝生は青く見えるものだし。
実際に子供の環境という点では一般家庭より孤児院の方が学習面や就職面では場合によっては優れている。
飛び抜けた子は侯爵家でスカウトしてるからね。
母様が立てた学校もまだ少ないし、これから建てると言っても数十年規模の時間がかかるだろう。
それまでの間、うちの家のものが訪問して孤児院で教師をやる時は希望者は一般家庭の子も来てもいいということにはしたが。
すると、今度は孤児院側から不満がでてきたらしい。
親がいる子が目の前にチラチラされたら、どうしたって羨むものだからなあ。
そういう繊細な調整をどうしたものか。
はあ、とため息をつくと
ん?とエルク様が首を傾げた。
言うか言わざるか少し迷って。
「お仕事って大変ですねえ」
「リリアの仕事は通常とはだいぶ異なるけどね」
ぼかして言ったのに注意された。
まあエルク様を振り回している自覚があるのでそう言われると弱い。
少しだけ申し訳なくなって、目を伏せるとポンポンと頭を撫でられた。
「それでも。私はリリアといて楽しいよ。次は一体どんな提案が出てくるのかといつもドキドキするよ」
「私、そんな提案してますか?」
「してるよ。現に今も公爵閣下は飛び出して行っただろう。きっと採用したくて一生懸命調整と、調査をしてるんだと思うよ」
「お役に立てたのなら光栄です」
あとは犯罪者の手配書を写真にするとか。
冒険者ギルドでの依頼書を写真付きにするとか。
思えば色々と写真の使い勝手は大きい。
けれど私はあまり広く世界を知らない。
冬にフェルナンド様の結婚式で魔国まで旅行に行くから、その時に色々と色々と見聞を深めたいなあ。エルク様を幸せにすると決めて諦めたけど、やっぱり冒険者とかもロマンだよなあ。
魔物がいて魔法があったら、やっぱり冒険者だ。
「戻ってきましたよリリア」
エルク様の声で我に返って扉を見ると、書類や本を抱えた公爵閣下が居た。
険しい顔でカツカツカツと足音を立てて戻ってきた公爵閣下はそれらをまず机の上に置いた。
「御相手出来ずすまない。リリア嬢、エルク殿。もう少しアドバイスを細かく頂いても良いだろうか」
「構いませんけど、私は常識は欠落しているそうですがいいですか?」
「構わない。非常識でぶっ飛んだアイディアが実際に素晴らしい案だからな」
非常識と言われた。地味にしょんぼりしながらも、カメラの効果の幅や実際にまとめて撮るとしたら何人ほど行けるのかの予測と使用人さんたちを使っての実験。
そして魔石の代金とカメラの使用回数から考えられるまとめ撮りでの1枚あたりの予測単価、諸々の議論を重ね。
さりげなく、アイザック様に無理やり製品開発をゴリ押しされた『ルーズリーフ』を公爵閣下にはオススメさせてもらった。
人員が増える度に、紙を1枚足すだけでよく。
さらに人員が辞めれば、1枚外して離職者リストのファイルへの移動もたやすいルーズリーフ。
まだ知る人ぞ知るそれの存在を聞いただけであったらしい公爵閣下はガッツリと興味を持ってくれたので、帰宅次第我が家にあるのを数冊差し上げますと言ったらもうね。
「素晴らしい。君たちのような者がうちにも欲しいくらいだ」
好感度はバリバリ上がってましたよ。
冗談では無いのだろう。エリース様と似て、冗談は好まなさそうだし何より目がマジだ。
「ダメだぞスチュアート。リリーとエルクは俺が先に手をつけているんだから」
「そうですか。殿下に愛想を尽かしたら是非とも当家にいらしてください」
「いえ、私それ以前に侯爵家を継ぐ予定ですので」
「……実に惜しい。けれどキャロル家とは今後も良いお付き合いをしたいですな。さて、今回の提案料として売上の10%程を渡そうと考えていますがそれでいいですか?良いならすぐにでも文書にしたためますが」
提案料って、なに?
首を傾げていると、エルク様がさりげなく私の首を治した。
「いえ、今回のこれはリリアの独り言のようなものですから売上などは不要です。エリース様とアイザック様の婚約祝いとでも思ってください」
「そうは行きません。こんな独り言、大金を払ってでも欲しい重要な提案です」
「そこまで言われるのでしたら、一つ頼み事があるのでそれを頼まれてくれませんか。もちろん聞いた後に断ってくれても構いません」