王太子の攻略方法
同じ人間とは思えないんだ。
リリア・キャロルという人間は。
「将来有望すぎて絶対に我が国につなぎ止めておきたい令嬢を呼ぶからな。1番反応の良いものと婚約をさせるのでそのつもりでいるように」
幼くても皇子として俺たちを扱う陛下は、それでも親の顔で笑った。
3人の中で選択肢を与えたのは俺たちに対してか、リリア嬢に対してか。
どちらへのものだったかは分からないが、父の情けだったのであろう。
けれど彼女が唯一選んだのはエルク・フォン・ルクセル。兄のように慕う従兄弟であった。
リリアの反応は明らかにわかり易すぎて、全身で恋してると訴えて居た。
そんな彼女の望むまま、エルクとリリアは婚約をして。
そして自由に生きてきた。
そう、違和感のあるほど自由に。
リリア・キャロルは魔法の鬼才であった。
そしてその発想はどこから出てくるのかと言うくらい奇抜だった。
幼い頃から年下の彼女に魔法を習ってる時に聞いた忘れられない質問がある。
「何故リリーは魔力操作を習得したんだい?」
「自分に出来ることをやってみて出来たのが、魔力操作だっただけのことですが…?」
俺はこの返答に驚愕した。
俺は、第1皇子の俺は。
色々な先生に師事し、色々な教科書や歴史書で学んで、学習しているのに。
彼女のそれは独学だった。
教科書に書いてないことを、学ぶなら。
教科書にない答えが欲しいなら、
リリア・キャロルに聞くべきだと、
幼心に刻み込まれた質問だ。
けれど父上は、とても有能な彼女を放逐した。
それにより彼女はエルクと共に領地で自由にすごし、結果キャロル領は魔国に負けない技術と、人材に恵まれる領になった。
今や税収、領民数、ナンバーワンの最高の領だ。
そんなキャロル領の経営手腕から、いい所を真似て国を良くしていけばいいと思うのに陛下はやはり関わろうとしなかった。
むしろ、追い落とそうとしている。意味がわからなかった。
リリアを、深緑の賢者を使えば国はさらに発展するのに。
学園生活の傍らで、徐々に政を任されるようになってくると俺は速攻で教師をしているリリーの元へ行った。
そこにはすっかりリリーの親友になった魔国の王子と、エルクもいて。
「リリー、少し意見が欲しいんだけど頼めるかな?」
「なんですか?」
「複数計算の結果が良く誤魔化されてしまうんだが、正確な計算かどうか判別できる方法はないかい?」
「アイザック様が計算出来るようになれば良いんじゃないんですか?」
「それが出来たら苦労しないよ……」
「どんな計算ですか、なにか参考になるものはありますか」
そう言われて、少し迷ったがある領から提出された税収のリストを渡す。項目が20以上あり、桁も10000000以上になるため合計が合ってるのかの計算が困難な逸品だ。
にもかかわらず、リリーは白紙の紙にちょこちょこと何かを書き出すと……
「これ、250万以上の誤差が出てますね」
数分であっさりと言い放った。
それにはトーマもエルクも目を見開いて、表とリリーを凝視した。
「何故、それがわかる」
「計算したからですけど」
「こんな大量のものをか!?」
「ええ。まずこの数字を全部綺麗にならべて……」
簡単と言わんばかりに見せられたその技に、正直魅せられた。
20以上の項目も、1桁、1桁足していくのならさほど難しくない。
そして繰り上げと言う、斬新な計算方法。
まさに神の御業のような手法であった。
習ってみると難しいものではなく、その有用性に身震いした。
「本当は横線ではなく、縦線も引いてあるノートがあると1文字の位置が固定されて便利なんですけどねえ」
「そうか……リリア、縦線もあるノート制作を頼んでもいいだろうか」
「はひっ?」
「そうだな、サンプルのまずは数冊。それが良い感じなら量販も頼む」
「うちは別に文房具に突出してるとかないんですけど!?普通に紙類の生産が盛んな…ええと…」
「ルクタール領ですね」
「そうそう。そこに頼んでくださいよ」
「じゃあそこに頼んでくれ。エルク、お前も確か交渉事は得意だったろう?ついでになにか面白い案があれば作って貰えよリリー」
なんで!!!と驚くリリーに頼み込めば彼女は渋々ひきうけた。
そのノートのおかげで計算がより正確に捗るようになり、ルクタール領は新たな技術を次々に開発して行った。
マス目の紙は今や城での計算系の書類に重宝され。
魔道具ギルドとコラボした固定位置に穴を開ける小道具、元々穴が空いてる紙、専用の輪が何個も有り先に言った紙をどんどん足して本を作れる表紙は全領土で爆発的な人気になった。
いや全領土ではない。国外にも輸出を多くし各地での爆発的な人気の産業のひとつとなった。
上質な紙を作る割に、単価が高くなく労働の割に収入が低く誇りで懸命に働いていたルクタール領は今やリリーを崇拝しているらしい。
まあ、リリアは全力で嫌がっているようだが。
その後も彼女の斬新なアイディアが欲しくてちょこちょこ魔力操作準備室に行くと、次第に態度が雑に…いや、砕けてきたリリーは結果的に俺から逃げ回るようになった。
それをさらに捕獲して、意見を絞り出させる。そしてこき使う。
無茶振りもいいところだが、エルクとリリアは毎回きっちり仕事をこなすのであの二人は実にいい夫婦だと思う。
婚約者をエリース・ショールディンに決めたのも、リリアと仲がいいと言う話で興味を持ったのがきっかけだ。
もちろんエリースとはきちんと交流を深めて、隣に立ってもらいたいと思ったから決定したが。
リリア・キャロルはこの国に必要な人間だ。
陛下が影に出した指示の半数は握りつぶせた。
早く。もっと早く政務をしっかり物にして。
父上には退位してもらい、リリーは顧問魔術師にでもして彼女は側近に添えよう。
そのための地盤作りをしながら、俺はリリーとエルクを蹴落とそうとする父上をどう出し抜くかを考えた。
「なあトーマ殿。君はどうやってリリーと仲良くなったんだ?」
「エルクを喜ばせる感じでグイグイ行けば割と面倒みがいいからちょろいぜ」
「なるほど。参考にさせてもらおう」
「あとリリアが持ってない特技が、リリアにとって有用だと判断されても仲良くなれるぜ」
「なるほど。随分難しい話だな……」
「そうでも無いだろ。あいつは友達が少ないから。ザックは王太子の人脈とか、あるだろ?」
「なるほど……」




