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見習い侍従の戦い


マナー教育に読み書きに計算。

さらにお嬢様自ら魔法を教えてもらい、目標のために必死の努力をして半年で『見習い侍従』にこぎつけた。


見習い程度ならば、かろうじて及第点。

けれど正式採用は程遠いと思いなさい。とは、最上級の上司であるこの家の家令の言葉だ。


それでも、尊敬と感謝と恩返しと諸々ひっくるめた感情で願い続けた立場への第一歩を踏み出せた時は嬉しかった。



嬉しかった。



たとえ同期が四人いても。



お前らもかよ!と思わなくも無かったが、まあお前らもだよなと納得もした。



それから一年余り。初めは孤児院の教師を一月交代で。領地の各地に散らばる孤児院を順番で訪問した。


訪問教師の一番目は俺で、俺自身もそうだったが孤児ってーのは余所者が怖い。ましてやお貴族様の使いなんて怖いけど気になる存在だろう。


だから一発目で俺も孤児院に居たんだよと言ったら掴みは完璧だった。

今から教える魔法が優秀だったから侯爵様に引き取られて、立派な仕事を貰ったんだと言ったらほぼ全ての子供は目の色を変えて学びたがったね。


未来の不安なんて全員あるんだ。何せ頼るべき親がいないんだから。

子供でも、それを掴み取る夢くらいみたい。しかも侯爵様のお墨付きだ。本当は、次期侯爵様だけど『母様の名前の方がわかりやすいでしょう?子供のお遊びって思われても困るし』とお嬢様に言い含められている。


その意見には納得した。

金持ちのお嬢様の遊びでは、みんなやる気にならないだろうから。


その遊びが異常で、すさまじいんだけどな……。


まあお嬢様自らこの教育で優秀なものはキャロル領に作る予定の魔法学校への無料進学、さらに生活費も出すと言っていたので恐ろしい。見返りはキャロル領での就職だけでいいと言うから太っ腹だ。

そして先月、学校開設と同時に数十名の生徒がお嬢様の力添えで学校へと進学を果たした。

俺たちは孤児院を交互に回りながら、時折視察で学校を訪問している。

基礎計算、マナー、魔法操作、体力強化が基本でさらに選択教科で剣術、魔法陣学、精霊魔法学、鍛冶木工学があった。

平民たちが欲しい技術の塊で、聞くところによると貧乏な貴族の三男とかも通ってるらしい。


そして成績優秀者は魔道具ギルドや侯爵家で雇うと言っているのだから、もう至れり尽くせりだ。




孤児院で教師の仕事をしながら、リリアお嬢様の従者のさらに下で走り回る日々。けれど毎日成長を感じるやりがいのある日々だ。



「助けてくれマイク!!」


図書室でエルク様の侍従に頼まれた資料を探していると、突然ネルが飛び込んできた。その顔はやつれ、真っ黒の隈が浮かび上がり明らかに体調が悪そうだが、俺にはその心当たりがある。



「ネル、資料が劣化するから騒ぐな」


「あ、ああ、悪いでも匿ってくれ……!」


「無理だと思うが」


「なんでだよ!」


「だってネルの後ろにレティシアもういるし」


ボサボサの髪はまるで物乞いのようで。

俺に指摘された瞬間、「うふふふふ…」と笑いだしたレティシアの目も隈が酷く彼女もまたやつれている。



「ぎゃあああ、た、助けてくれマイク!」


「悪いな、俺の精霊は植物系だから無理だ」


巻き込まれたくないのでキッパリ断ると、頭の上で木のぶつかる音が聞こえた。俺の精霊、木霊だ。

魔力操作が安定してきた頃、俺と契約してくれた大事な相棒。

相棒のおかげでお嬢様の『洗濯バサミ』や『ハサミクリップ』の実物が簡単に作れ、今俺はクリップ関連と洗濯バサミの生産、販売管理は任されている。


なお、内職を務めてくれているのは俺と契約した数箇所の孤児院だ。今では基本型の大量生産や、女性向けのデザイン、貴族向けのオシャレなデザインの生産まで可能な頼もしい同業者たちだ。


突出した技能を持ち、成人した奴は魔道具ギルドを通して正式雇用もしている。


ちなみに、俺の前で絶叫をあげるネルは土地整備を担当している。化け女みたいなレティシアはこれでもデザイン系を担当している。


そう、こんなみすぼらしいというか、

物乞いもびっくりなボサボサの彼女は、通常仕様だととても綺麗な女性だ。

ただ今は、時期がだいぶ悪い。


「はーやぁく?ねえ、ネルゥ?はやく黒銀を加工しなさいよぉ?」


首を傾げると乱れた髪がまさに魔物みたいな恐ろしさを醸し出す。

レティシアはそのデザインセンスをお嬢様はもちろん、侯爵様にも認められて三か月後のリリアお嬢様のデビュタントのお嬢様とエルク様のコーディネートを任されたのだ。


服、アクセサリー、髪型などあらゆるコーディネートだ。

それが決まってからレティシアはすごい数のデザイン画を描き、それを簡単に作れる気心がしれた同郷のネルをアクセサリー分野でこき使っている。



「お、俺もとかっちも魔力切れだから!!」


「大丈夫よぅ、私の溜め込んでおいた魔石食べて回復して作りなさぁい?」


鬼だ。鬼がいる。ネルは細かい魔力操作が苦手で、出来るけど金属の形を変えるのは苦手なのに。


「さぁ、戻るゎよぉ、うふふふふ……」


「もうやだー!たーすーけー………」


逃げようとしたネルは、レティシアの精霊の糸でぐるぐる巻きにされて引きずられていった。器用なことにネルの精霊もぐるぐる巻きになっていた。


頑張れ、ネル!

お嬢様のデビュタントが終わるまで、あいつの出張教師は代わってやろうと心に決めて。


そうとなれば仕事を早めに片付けようと資料探しを再開した。




彼らの二年



レティシア=蜘蛛の精霊持ちでレース編みの才能が特化していたが、レースモチーフを見るために色々なドレスを見ていたらデザイナーの才能を開花させた。通常時はメイド兼デザイナー。


マイク=植物属性の木霊と契約し、手先の器用さもあって木工製品を中心に細かいものが得意。リリア発案の小物系の販売や生産ルートを担当することになる。


ネル=土属性のアースリザードと契約し、道路整備を担当している。災害時には土魔法使いとしても出動するが基本的には地盤調査など担当。が、苦手だが魔力を込めて金属の形状を操ることも出来るのでリリアのデビュタントでは影の被害者。


リア=火属性のファイアリザードと契約済み。リリアの父にしごかれて火魔法を操る魔法戦士として護衛任務が中心の侍従。

頭が悪くて考え事は苦手だが、戦闘能力は突出している。


シャルマ=何よりもリリアの望みを理解し魔石を作ることだけに魔法は特化し、あとは教師や事務手伝いなどを黙って行う。もちろん侍従の先輩ほどの事務能力はないけれどその地道な仕事ぶりは評価されていく。



全員がメイドや侍従としてはその道を生きてきたプロに勝てないと判断し何かに特化してリリアに仕えることを選んだ。

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