魔女の願い
書きだめするため、番外編は1日1回更新にさせていただきます(⋆ᵕᴗᵕ⋆).+*ペコ
それは突然だった。
ある日流行病で熱を出して苦しんで、それが治ると世界は変わった。
「リュート、リュート無事でよかった」
意地悪な近くに住む幼馴染は泣きながら抱きついてきた。
いつもと違うその様子にゾッとして突き飛ばして逃げる。
いつもと同じ街並み、いつもと同じなのに
みんなが私を見ていた。
何か変なのだろうか、自分を慌てて見るが何も変わらない。
変わらないはずなのに何故みんなが見てくるのか意味がわからなかった。
その悪夢は、終わりなく続いた。
わかったことといえば、見られる理由……それは私がものすごく好かれているか、嫌われているかの二択だった。
母さんに聞いても、牧師様に聞いてもわからない。
無関心という人がいないのだ。常に意識されるそれは異常で、周りにいる人たちには好意を全開で向けられているとはいえ
私は無関心の人を求めるようになっていった。
そんな自分の特異体質を利用されて、彼女を虜にできれば私の特異体質は治せるよ。
そう言われて、全力で落としにかかった賢者リリア・キャロル。
それが私の師匠の名前だ。
師匠は私の謎の特異体質の毒牙にかかったにも関わらず、それを自力で解いて私を囲んでいた悪い人たちから救ってくれた。
当時私は悪い人なんて思ってなくって、完全にあっち側だったのに。
『リュートは大事な友達だから』
作り物の友情だったのに、師匠はそう言って笑った。
魔力を部屋の中に閉じ込め外に出さない訓練室で、一人必死に操作の練習をする。
特異体質の原因は、無意識に漏れだしていた私の魔力だった。
普通の人の魔力を石に例えると私の魔力は砂らしい。細すぎて、人に色々な影響を与えると師匠に聞いた。
おそらく流行病で死にかけて魔力量があがったことで漏れ出るようになったのだろうと、紅蓮の賢者様は言った。
訓練部屋から出る時は、私は魔力封印の魔道具を着けられる。
これは周りの人だけじゃなくて私自身も守る物だよ、と師匠は言った。
私の魔力の影響を与えないで暮らせる魔術棟の暮らしは今までと比べたらまるで天国だった。
元々研究気質の魔術師は無関心が多い。会話したことの無い人も多い。
もちろん危険人物として目立っているけれど、このくらいなら可愛いものだった。
「リュートや、今日はりりたんは来るのかい?」
「はい。学校が終わったあとに来るそうです。ですので蒼海の賢者様、果物をいくつか分けてくれませんか?」
「おうおう、良いとも良いとも。お菓子を作るんじゃね?」
「はい」
「りりたんはリュートが作ったお菓子じゃと喜ぶからのう。グリーンマンや最高に美味な果物を取ってこようぞ」
そういうとダッシュで外に出ていった賢者様。恐らく蒼海の賢者様の温室に向かったのだろう。彼の方は植物魔法が得意な方だから。
厨房で師匠のための菓子を焼きたいと言うと、今日の厨房担当の魔術師は好きなだけ使えと言って小麦も貴重な砂糖も渡してくれた。
お菓子の教本を見ながら、クッキーとパウンドケーキの支度をする。
「手伝うよリュート」
「ありがとうございます」
黄金の賢者様の弟子の一人と一緒に分量を計って、混ぜて、型を抜いて。
そうこうしてるあいだに蒼海の賢者様がとてもいい笑顔で果物を持ってきてくれたので、それをスライスしてパウンドケーキの材料に入れる。
今日は、誰を連れてくるのだろう。
ここに来てから半年。ある程度魔力操作が上達すると師匠は元クラスメイトを連れてくるようになった。
なんでも私の魔力がまだクラスメイトに根を張っているのでそれを取って欲しいというのだ。
なので最近は師匠は魔術棟に来る度誰かしらを連れてくる。
今日は誰を連れてくるのかなあ……。
クラスメイトだった第二皇子を連れてきた時は不敬罪で私、死刑かと思った。
「リュート、久しぶり」
黒い宝石とリボンとレースの着いた可愛らしい髪留めで赤い髪を纏めた、シンプルだけど品のいいドレスの可愛い師匠。
師匠は今日もその旦那さんと来た。
私はこの旦那さん……エルクさんが苦手だ。
初め学園長に彼はやばい人だから近づかないようにと言われたけれど、それ以上に彼は昔から今に至るまで冷たい目で見てくる。
その理由がなにかはわからないけれど、整った優しげの無い顔立ちと相まってすごく怖い。
「師匠、先週あったばかりじゃないですか」
「敬語。師弟でも友達なんだから嫌だってば」
「ダメです。礼儀はしっかりしなさいって先輩たちに言われてますから」
「誰がそんなこと言ったの」
むくれた顔で不機嫌になった師匠。でも今日は人間は師匠とエルクさんしかいなかった。他の人はいない。
「今日は誰も来ないんですか?」
「ああ、もう全員終わったよ」
終わった。そうか終わったのか、迷惑をかけた人達は。そんなことを思っていると、
師匠に手を引っ張られて訓練室へ連行される。
「よしじゃあ、特訓の成果を見せて?」
「はい、師匠!」
魔力が細かい。そう言った師匠の言葉に間違いはなく。
あれから二年みっちり修行漬けをしても私は魔力塊を作れなかった。
師匠の推測では、細すぎて固めるのが普通よりやり辛いのだろうと言う。
そう言った師匠は即座に私の修行を別のものに切り替えた。
辛いなら無理せずに、私に出来ることをしよう。
そう言われて私は今、呪いの効果の研究をしている。
人の体の魔力の源。どこを塞いだらどんな効果が出るか。
それを実験体として志願してくれた彼と、一緒に研究をしている。
「ん?リュートなんか体が軽くなった気がする」
「本当?じゃあ今日一日これで過ごしてみる?」
「わかった。じゃあ運動してみようかな。今なら腹筋10回できる気がするよ」
「少なすぎない?」
「体力皆無の魔術師だからね」
くすくす笑う、どこにでも居るような魔術師の彼とは先月から付き合っている。
どこにでもある魔法使いの、どこにでもある普通の恋。
1度は失った『普通』が何よりも愛しい。
それをくれた師匠には感謝どころではない。
あんな呪い、二度と起きてはいけない。
信念を持って、私は今日も呪いの研究解明をするのだ…!