退かぬ道
電撃は大蛇に放たれ一直線上の遮蔽物は灰と化すそんな一撃の電光に、辺りは包まれた。
「楽勝ね、下位3級って言ったところかしら。動きが単純すぎるわ。」
「いや、それじゃァ火力不足だぜェ。」
「誰、いえ、それより火力不足ですって?!」
「よそ見するんじゃねェ、こいつの二の舞を踏むぞ。うしろだぜェ」
「神具が喋った!?いえ、後ろよ!。」
そこには黒炭となった大蛇の姿の影が残っていた。一瞬ならそう思うだろう。だが、黒い影は動き出す。うねうねと動いたあとその黒い形を保ったままやつの背から白い姿を現す。
「「脱皮!?」」
そう、大蛇は黒炭となった体を治しなおかつ裁断された首から小さな蛇 4匹の頭と体をはやしてた。そこにそびえたつ化け物は体長は40m超と先ほどまでの推測の体長の2倍も上回り、頭が前後で5つあり爬虫類独特の鱗をまとう一匹の大蛇だ。
「ならばもう一度炭に灰にしてあげるわ。」
ビッカあああん。再び電撃が放たれるがあまり効いてない
「嘘でしょ、効かないの。どうしよ!!」
効かないことが意外だったのか口調の威厳差は薄れている。
「一回形成を立て直すため、下がるぜェちびっ子!」
「誰がちびですって???でも、判断は正しいわ。下がらないと。その子運ぶの手伝おうか?」
「いや必要ねぇ。」
「便利ね、あなた。」
先ほどの状態から紅蓮はまた先端をアンカー上に伸ばして僕を運んで縮む動作を繰り返し校舎に運ぶ。その後ろからりルと名乗った天使は追いかけてきた。
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校舎二階の廊下にいったん集まった。
「それで、どうやって倒すつもり?」
彼女が開口一番にそういう。続けて紅蓮も話し出した。
「そうだな、だがその前に人員を確認しねぇといけないぜェ。なぁ夕お前まだ戦えるはずだよな。ある程度は止血処置はしてあるはずだぜェその体は。」
僕に視線が集まる。僕は、その質問を確かめるため僕は先ほど食べられた腹部を確認する。ある程度血は止まり傷口は固まっていたが痛みは健在だった。
「僕は戦えない。」
それが僕が出した答えだった。傷がふさがっていても、精神的な傷はふさがってはいない。
思い出すのは先はどの光景。
40mの大蛇が僕の腹部を喰らう。紅蓮が連れだしてくれたのが一瞬でも遅ければ、僕は頭ごと喰われていただろう。考えてほしい、ごく普通の日常で体験することの痛み、出会うことのない大蛇。怖くて仕方ないだろう、逃げ出して当然だろう。
「あら、あんたなら戦うかと思ったわ。このりるから運よく、いえ、たまたま逃げ出すことが出来た有能な天使みたいなわけだし。いや、ほんと運がよ…」
「俺様もお前には期待してたぜ。でも、できないならここから逃げな、そしてイヴの事を忘れろ。酷いことは言ってねぇ。お前の覚悟が甘かっただけだ。悪魔からは逃げることはできないぜェ。」
紅蓮の話す言葉には重みがあった。いや、重みというのには軽すぎるかもしれない。彼は怒っていた、憤りを感じていたのだ僕の態度に。
紅蓮は僕の心情を読んでいたのか、それともそう態度に出ていたのかわからない。けれども、彼は言った。覚悟が甘いと。イヴのことを忘れろと。恐らく僕に足りないものを言ってくれたんだ。
覚悟それは僕にないもの。
イヴそれは僕を変えるきっかけになった人。
足りないもの。それは補うことが出来ないもの。僕にとってのその存在が天使になって頭の中を駆け巡る。
もし僕があの日天使にならなければ、彼女を知らなければ、一体どうなっていただろうか。
その答えに終点はない。でもいつかたどり着く日が来るのだろう。
だから今日その問いの一つに一つ答えを出す。
「僕は、天使に憧れたんだ。覚悟なんてない、彼女のことなど忘れるわけがない、出会わなければよかったなんて思わない。」
僕は2人にそう言った。いきなり何を言ってるんだろうとでも思うだろうか。
でも僕は戦えない。怖い。だから僕は一人になる。
「いきなり何言っているの。あんた重いわよ。もっと簡単に、軽く考えればいいじゃない。って言っても何のことかわからないけど。あとキm…」
「偶然だったかもしれねぇ、運命だったかもしれぇ、それでもお前の背負うものは変わらない。お前はてめぇには使命があるだろ。」
偶然?運命?違う。大切なのは使命だ。
僕の使命、それは彼女を天使に戻すこと。そのためには僕は悪魔と戦わなければいけない。
もっと簡単にもっと軽く、彼女の言葉が僕に刺さる。
僕は悪魔と戦わないといけない。けど、戦いたくない。もっと簡単に。
僕は戦いたくない。怖いから。もっと軽く。
僕は…。彼女ならなんて言ってくれるだろうか。
『なに悩んでるのよ、そんなの私も手伝ってあげるわよ。』
僕の弱さは心だ。なら強くすればいい。
いや、そんなことしなくていい。弱くてもいい、強くなれなんて誰も言ってない。
覚悟なんてない。そんな強さなどない。だからこそ勇気をもらえ。
勇気は心を強くする。
必要なのは強さだ。いや、勇気という心だ。
臆しても刀を握れ、
「僕は戦えない、怖いから。だからこそ二人ともどうか僕に力を貸してくれないか。」
「ああ、俺様が貸してやらねぇとナァ!!」
「もちろんよ!でどうするわけ?」
僕の隣には人がいる。一人じゃない、ならばどこに臆する必要があるのか。
逃げるな立ち向かえ。
その瞬間僕の腹部の痛みは引いていった。いや、僕の心の枷がなくなったからだ。
「それなら僕にいい考えが。」ごにょごにょ
「あんたがいいっていうならそれでいいけど、ほんとあんたこの短時間で何があったのよ。」
「頼むぜェ夕!!」
時刻は丑三つ時を過ぎたころだろうか、僕らは大蛇を討つ戦いに出る。
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春といえども、夜風は少し冷たく体育館の窓から見える月夜に大蛇は黄昏ていた。
その月に大蛇は何を見るのだろうか。大蛇の体色は白くここに歌人でもいるならば一句でも読めるだろう。なぜならその姿は不思議な桃源郷の守り神にでも見えたのだから。
しかしその景観を崩すかのように奴の口元は赤く染められていた。
僕と視線が合う。そこに語られるのは何もなく、悪魔と天使だけがその空間に存在した。
「僕の肉はおいしかったか?」喰われた横腹がうずく。
「シャァアアアアア」大蛇が咆哮を放つ。だが臆するものか。
「なら、もっと喰ってっみろよ。その代わりに命をもらうぜェ」
シャァアアアアアアアアア!!!
大蛇は僕に襲い掛かってくる。もちろんここまでは予想通り。だから、
「頼むぞ紅蓮!!伸ばせ!!」
「任せとけ、それとさっきのキザなセリフはなかなか良かったぜェ!!」
こんな時でも、僕に対する言葉攻めは変わんない。緊張をほぐしてくれているつもりなのか?それより、キザなセリフってお前までイヴみたいなこと言うなよ。それにさっきのセリフの口調は…って考えてる暇ねぇ。
大蛇の動きは、首を断つ前に比べ速くなっていた。それでも紅蓮の方が速いが。
しばらく僕は大蛇の攻撃をかわすのに専念していた。紅蓮をワイヤーのようにして移動して避ける、相手から見たら攻撃もしないでただただ腹が立つだろう。
シャアアアアアアア。でも所詮は獣怒らせた後はこっちの番だ。
蛇というのは慎重でこざかしい。だからおびき寄せるのには手間がかかるだろう。
僕は前線を引きながら、体育館を出る。するとどうだろう僕を大蛇は追いかけてくる。その様はゾンビ映画のゾンビのおびき寄せる姿でも想像してもらえたらわかりやすい。
そして僕達は廊下から大蛇のかみつきをよけながら階段を駆けあがる。
そして、登り切った最上階の一本道の廊下で僕と大蛇は対面した。
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「何故か癪だけど完璧だったわねこの作戦。りる少し気に入ったわ」
階段下で小さな少女はそう呟く。
階段下そこには大蛇のもう半分、四匹の頭、尻尾があった。
階段の性質それは以前夕に思い去られた、折り返す性質。私の神具の弱点をついた地形だ。
大蛇は夕を追いかけるのが精いっぱいで、自身がこの螺旋に巻き付いてることを感じていない。つまりそれは、長いリーチを生かせず狭い通路で戦うことを強制させられる。
彼等の作戦だった。
「こうして狭い通路で見ると案外かわいいわね。」
シャァアアアア×4。小さな蛇頭は威嚇し噛もうと彼女に襲い掛かるが、
「あなた今リルに敵対心を抱いたわね」
その瞬間彼女の手元の箱が光る
「エレクトリック タイプ 1 『電撃』!!!」
激しい電撃に大蛇の4頭は黒くなり死滅していた。
「やっぱりこっちは本体じゃないのね、となるとあいつ平気かな」
ほんのり焦げたにおいがたたずむ中、最上階に目を向ける。
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一本道の通路互いに退路はある。
だが逃げないだろう、下がらないだろう何故なら彼らは自覚しているから、己が勝つと。
許せるものか、僕を殺そうとした奴を。
許せるものか、我の領域に踏み込んだものを。
悪魔は殺さなければならない、僕の糧となれ。
天使は許してはならない、復讐の力の糧になれ。
互いに許さない存在、互いに交わることはない、そして語ることすらできない。
僕は大蛇の赤大蛇の目を見る。
我は小僧の天使の瞳を覗く。
互いの目に映ったものそれは 互いの覚悟。命をもらう覚悟。
「よろしい、ならば望むところだ小僧」
「行くぞ紅蓮、この一刀で奴を討つ。」
大蛇は体をひねらせ、一目散に夕目掛け向かってくる。まるで避けるなと、かかってこいと。
だからこそ僕はその頭に一目散に狙いを定める。
天使となったことで人間のころとは比較にならない運動能力。その瞬発力を足に込める。
構えを取る、これは数少ない夕の刀の技
頭上に構える。そこから繰り出す動きは初心者でもわかるほど何の変哲もない振りおろす動作だろう。誰がどこから見てもその一刀しか出せない構え。
だからこそ相手は油断する。その一刀は踏み出すことで真価を発揮する。
「紅蓮一刀流 鎌風」
「シャアアアアアアア!!!!!」
その一刀は速く低い。誰もが振り下ろす構えは相手に届く前に振り終わり、低い姿勢でそのまま突撃するいわば突きである。
大蛇は彼が上から振り下ろすと思い、体を上に急激に伸ばし喰らおうとするが、その高さがあだとなり下からの彼の突きに対応できなかった。
「シャアアアアァァァァァァァァ…(見事…)」
赤大蛇の体の崩壊が始まる、恐らくまだ襲ってこれただろう。しかし、そうしなかったのは奴の目を見ればわかる。だがそれをここで語るのは蛇足だろう。
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大蛇の崩壊が終わったのを確認した後りるという名の天使に合流する。
「遅かったじゃないの、喰われたかと思ったわよ」
「おいおい、いきなりそれかよ。いや、それより聞きたかったことがある、なんでこの学校にいたんだ寄りによってこんな時間に。」
「あーそのことは前も言った通り、私がこの地区の担当だからっていうのと、あなたを探していたからかな。」
「僕を探してた!?一体何の目的で!?」
まずいぞ、ここで連行でもされたら今までの死線がぱーだ。それに彼女の命だって。
「合格よあんた」
「ごうかく??」
「まぁ詳細は明日にでもいいわね、今日は大量で疲れたし眠たいわ。」
「お、おいどういう。」
「じゃ、どいたま」
そう言って彼女は羽をはやし飛んで行った。あれ、成長したら僕でもできるんだろうか?てか飛びたい。
以上が初めての噂退治の内容だ。正直もう行きたくない。だがまぁこの後行くことになりそうだな。イヴ辺りが行きたいって言いそう。
それよりも、謎の天使りルに合格と告げられ嫌な予感が絶えないのはなぜだろうか。
まぁ色々あって疲れた僕も家に帰ろう。んそういえば、三人は、三人の姿が見当たらない。
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「ただいま」
「うーんzzzあらおかえり、ずいぶん遅かったじゃない」
「遅かった?遅かった?遅かったじゃないぞおおおお」
「何よいきなり大声出して、近所迷惑よ。」
「そ、そうだな。ってそうじゃない何で帰ってるの?忘れたの?わざとなの?」
「だってあなた避難しろって言ったじゃない。」
「あーれーは、理紗と仁に言ったの。おま、なんで残ってないの??」
「そうだったのね、かわいそうに」
「うーん絶妙にかみ合わないな」
「なによ、いてほしかったの?」
「うーんそうじゃないけど、心細かったというか、寂し。」
「あなたを信用してたから任せてたけど、まだ私見てないといけないのね、はぁ…。」
「え」
「もう寝るわ、眠い電気消してね。」
「え」
彼女が初めて僕を褒めたような、いやそれよりとてつもなくうれしい言葉が。
「それじゃ、おやすみ」
「うん!おやすみ」
((まぁ今のあなたの状態じゃ話したところで、役に立たないし一回回復してもらわないと。この学校にまさかあんな悪魔がいるとは思わなかったわ。))
電気を消して僕はすやすや深い眠りにすぐついた。押入れの彼女は不安を抱えていたことを知らずに。
夕君立ち直ったことで、もう面倒な心理状態はしばらくでないので、全体的にテンポはよくなると思います。