< 07 この世界に就任した神 十二柱目 01 >
この世界の神に異動になりました。
やり過ぎてトバされたんですが。
「魔法を知らないこの世界の住人に、魔法を教えろ。」と、命令されました。
天界の議会に。
神力を、ギリギリまで減らされた状態で。
「やり過ぎるから。」と。
ちっ。
この世界の、人間が住んでいる星に来ました。
魔法を教える為に。
さて、どの国に行きましょうか?
調査を始めます。
国が在りませんでした。orz
ここまで文明レベルが低いとは、思っていませんでした。
国の重鎮の近しい者に魔法を教えて、国の保護を受けながら広めていこうと思っていたのに、最初で躓いてしまいました。
裕福そうな村を探します。
在りました。
川の中流辺りの村です。
交易で栄えている様です。
この村の村長の娘に魔法を教えましょう。
夢の中で、娘に魔法を教えました。
”夢の中で”なのは、神力の消費が少なくて済むからです。
神力を、ギリギリまで減らされているので、こうするしかないのです。
くそう。
娘は、まったく魔法を使ってくれませんでした。
”変な夢を見た”としか、思ってくれなかった様です。
おかしいですね。
夢の中で”神”に会えた事に、感激してもおかしくないのですが。
ここまで、反応と言うか、手応えと言うか、そう言ったモノが無いとは思いませんでした。
戸惑います。
方針を変えます。
娘が使いたくなる様な魔法を、夢の中で教えましょう。
そうすれば魔法を使ってくれるでしょう。
【ファイヤーボール】を使って欲しかったのですが、仕方がありませんね。
娘に【ライト】の魔法を教えました。夢の中で。
「夜、トイレに行くのが怖いの。」と、夢の中で話してくれたので。
次の日の夜。
トイレに起きた娘は、【ライト】の魔法を使ってくれました。
やったね。
【ライト】で光を灯しながら歩いています。
トテ トテ トテ トテ パタリ
娘は気絶してしまいました。
あれれ?
魔力が尽きてしまった様です。
さらに悲劇が起きてしまいましたが、私が処理して、記憶を改ざんして、事なきを得ました。
トラウマになっては困りますからね。
魔法を使いたくないと思われては困るのです。
娘のMP(Magic Point)の値を高くしてあげないといけませんね。
魔法でMPの値を高くします。
神力が足りませんでした。
そうでした。
神力をギリギリまで減らされていたのでした。
ちっ。
娘が魔力を使い過ぎない様に、魔力を上手に使う方法を教えました。夢の中で。
それはもう、丁寧に丁寧に丁寧に。
しっかりと言い聞かせました。
悲劇が二度と起こらない様に。
さらに次の日の夜。
この日もトイレに起きた娘は、【ライト】の魔法を使ってくれました。
よし。
魔力を上手に使い、気絶することなく、寝床まで戻って来れました。
やったー。
ばんざーい。
我が子が初めて歩いたかの様に、喜んでしまいました。
子供を産んだことはありませんが。
娘が両親に【ライト】の魔法を披露しています。
「これで、夜でもトイレに行けるよ。」と、良い笑顔で話します。
娘の笑顔に、私も笑顔になります。
両親も笑顔です。
引き攣っていますが。
まぁ、初めて魔法を見たら、そんな反応ですよね。
娘が友達に【ライト】の魔法を教えています。
友達は熱心に聞いています。
これで魔法が広がってくれれば良いですね。
彼女たちを見て、ほっこりします。
そして、祈ります。
「夜中に悲劇が起きません様に。」と。
それは、明るい内に起きました。
なにやら態度の大きな男が、村長に詰め寄ります。
「村長の娘が妖しいことをしている。」と。
ちょっとだけ、村長の顔が引き攣りました。
その様子に勢いづく、態度の大きな男。
村を二分する、大きな騒動になりました。
夜。
村長の一家が村を出て行きました。
娘は泣いていました。
娘が泣いているのを見て、私も泣きました。
村に超特大の【ファイヤーボール】をぶちかましたくなりましたが、神力がまったく足りませんでした。
私は泣きました。
元村長の一家は、川を下った先の大きな池のそばの村に移住しました。
受け入れてくれた村長に感謝しています。
私も感謝します。
ありがとうございます。
元村長の一家を見守りながら、この村の人に魔法を教えることにします。
今回は少し方針を変えます。
MPの値が大きい人を探して、その人に魔法を教えます。
悲劇は一回で十分なのです。
MPの値が大きい人を探します。
居ました。
三十歳くらいの男性です。
彼が使いたくなる様な魔法を、夢の中で訊きます。
「【ファイヤーボール】ですか? 【ファイヤーボール】ですよね? 【ファイヤーボール】ですよね!」
「え? 違いますか?」
「じゃあ、【ファイヤーボール】ですか?」
”可哀想な人”を見る様な目で見られました。
失礼ですね。
「私は神ですよ、もっと敬ってくれて良いんですよ。」
”ものすごく残念な人”を見る様な目で見られました。
ものすごく失礼ですね!
私が心に傷を負ったら、どうしてくれるんですか。
私は逃げ…、いえ、戦略的な撤退をしました。
次の人です。
男の子です。
スレた大人は駄目ですよね。こういう純真な子供でないと。
男の子が使いたくなる様な魔法を、夢の中で訊きます。
「【ファイヤーボール】ですか? 【ファイヤーボール】ですよね? 【ファイヤーボール】ですよね!」
「え? 違いますか?」
「じゃあ、【ファイヤーボール】ですか?」
”可哀想な人”を見る様な目で見られました。
くっ。
心の傷が疼きます。
心を落ち着けます。
そして、「慎重に行こう。」と、自分に言い聞かせます。
頭の中で警報が鳴っていますので。
「あなたに魔法を教えます。」
「魔法は、あなたを手助けしたり、あなたやあなたの大切な人を守ったり出来ます。」
「あなたの欲しい【ファイ…、ごほん。あなたの欲しい魔法を教えます。」
「どの様な魔法が欲しいですか? 今なら【ファイヤーボール】がお勧めです。いえ、いつでも【ファイヤーボール】がお勧めです! 【ファイヤーボール】が超お勧めです!」
「………………。」
「………………。」
沈黙が痛いです。
「あなたは誰ですか?」
そう言えば、まだ名乗っていませんでしたね。
なぜか、頭の中で警報がすごく強まっていますが、私は名乗ります。
「私は神です。」
”ものすごく残念な人”を見る様な目で見られました。
うわーーーーーん。
ベンチに座っています。
あれから、魔法を教える仕事は、一時中断しています。
”一時中断”です。
別に、燃え尽きてなんかいません。
燃え尽きたと認めない限り、燃え尽きてなどいないのです。
視線の先の、元村長の一家を見守っています。
村を追われてしまった彼らですが、最近では笑顔も見えます。
この村に受け入れてもらえて、本当に良かったです。
娘の笑顔が、私の心のオアシスです。
この笑顔があれば、私は頑張れます。
心が折れたと認めない限り、心は折れてなどいないのです。
今後の方針を考えます。
この村で魔法を教えるのは無理なのではないかと、思い始めています。
私の心的に。
もう一撃喰らったら、お終いな気がします。
割と本気で。
”MPの値が大きい人”ではなく、”魔法を必要としている人”を、対象にすべきでしょうか?
その方が危険が少ない気がします。
そう、私の心的に。
”魔法を必要としている人”とは、どんな人でしょうか?
考えます。
閃きました。
魔物と戦っている人たちですね。
その様な人たちなら、【ファイヤーボール】を、使ってくれるでしょう。
早速、【ファイヤーボール】の餌食になってくれる魔物を探します。
居ました。
ここから遠いですね。
この大陸の南西に在る森に、魔物が居ます。
仕方がありません。南西の森に行きましょう。
私は、元村長の一家を見守りながら、南西の森の近くの村まで魔法を教えに行くことにしました。




