< 12 この世界に就任した神 十二柱目 06 >
娘に子供が産まれます。
無事に生まれる様に祈ります。
でも、私が神ですからね。
私は誰に祈ればいいのでしょうか?
普通であれば、私が神力を使ってなんとかするのですが、私は神力がギリギリまで減らされているので、何かが起きてしまった場合、何も出来ません。
神である私も祈りたい気持ちなのですが、この場合、誰に祈ればいいんですかね?
誰に祈ればいいのか分かりませんでしたが、とにかく私は祈りました。
娘が娘を産みました。
母子共に健康です。
良かったです。
”娘の娘”は、娘の腕の中で眠っています。
娘は笑顔です。
私も笑顔です。
しかし、生まれた子供を”娘の娘”と呼ぶのは分かり難いですね。
孫ではないので、孫と呼ぶ訳にはいきませんし。
不便に思いますが、神は人の名前を呼ばないので、仕方が無いですね。
娘の笑顔をたっぷりと補給した私は、魔法を教える仕事に向かいます。
【クリエイトウォーター】の魔法を漁師さんたちに教えようと思ったので。
漁師さんたちは、飲み水を舟に積んでいます。
水は重たいので、その分、魚を積めなくなってしまいます。
【クリエイトウォーター】の魔法で飲み水を確保できれば、舟に積む水を減らせると思ったのです。
海に来ました。
漁に向かう一隻の舟を観察します。
舟には二人の漁師さんが乗っています。
そして飲み水を、樽二つ分積んでいました。
やはり、それなりの量の水を積んでいましたね。
漁師さんたちに【クリエイトウォーター】の魔法は歓迎されそうです。
その日の夜。
夢の中で漁師さんたちに【クリエイトウォーター】の魔法を教えました。
有効に使ってくれればいいですね。
翌朝。
早速、【クリエイトウォーター】の魔法を確認しています。
二人とも上手に魔法を使えている様です。
漁師さんたちは、【クリエイトウォーター】の魔法を使える様になった事に喜んでいます。
積んでいる飲み水をどうするのかと思ったのですが、そのまま積んでおく様です。
この漁師さんたちは慎重な人たちの様ですね。
飲み水の大切さや、魔力を使い過ぎるとどうなるかを、良く知っている様です。
引き続き、彼らを見守る事にします。
彼らは順調に漁を終え、帰路に就きました。
舟に【軽量化】の魔法を掛け、【身体強化】で力強くオールを漕ぎ、襲って来た魔物を【ファイアアロー】で撃退し、倒した魔物は捌いて大鍋に入れ【ファイヤー】で燃やしました。
そして、港が見えてきたところで、飲み水を全部捨てました。
残りの距離で必要な飲み水は【クリエイトウォーター】で賄うつもりなのでしょう。
驚きました。
私がこの世界で見た人たちの中で、一番上手に魔法を使っています。
今、この世界で最強の魔術師は、この漁師さんたちの様な気がします。
私の思い描く魔術師像とはかなり違いますが、必要な人に必要な魔法を教えた結果です。
最強の魔術師が漁師さんだという世界が、一つぐらい在っても良いでしょう。
うん。自分のイメージを押し付けるのはいけませんよね。
うん。問題ありません。うんうん。
私は舟が港に着くのを見届けてから、娘のところに帰りました。
「これでいいのかな?」と言う、モヤモヤした気持ちを抑え込みながら。
子供の成長は早いですね。
娘の娘は、立ち上がられるくらいまで成長しました。
私は、娘が娘の娘と遊んでいるのを眺めています。
娘の娘は、とてもかわいいです。
娘の娘は笑顔です。
娘も笑顔です。
私も笑顔です。
今日もたっぷりと、マシマシになった娘の笑顔を補給します。
私が至福の時を過ごしていたら、娘の夫が担ぎ込まれて来ました。
怪我をした様です。
痛そうにしています。
足首の辺りを酷く腫らしています。
骨折しているのかもしれません。
ベッドに運ばれ、寝かされました。
現場監督らしき男性が娘に説明します。
新人が、娘の夫が【身体強化】の魔法を使っていないとは知らずに、重い石を渡してしまった。
それを受け止め切れずにバランスを崩し、足場から転落して、足を怪我してしまったそうです。
この世界は、医療がまったく発達していません。
足首の骨折となると、再び歩く事が出来なくなっても不思議ではありません。
娘は悲しそうな顔をしています。
娘のそんな顔を見ると、私も悲しいです。
困りました。
私は考えます。
この状況をなんとかする方法を。
【治癒魔法】が必要でしょうか?
そうですね、【治癒魔法】が必要でしょうね。
ポーションを作らせようにも、そういった技術もこの世界には在りませんしね。
しかし、【治癒魔法】を見た人たちは、「神の奇跡」とか言い出しますからねぇ。
この村で、【治癒魔法】を教えるのは危険です。
この村の人たちは”神”に対して”残念な人”という印象を持っていますからね。
下手に私が”神”と名乗ると、私の心に痛烈な一撃を加えて来るので、慎重に対応しなければなりません。
私の心を守る為に。
他の星では有り得ない困難な状況ですが、何とかしなければなりません。
困りました。
村長が娘の元を訪れました。
謝罪しています。
村を囲う石垣を作るのは、村の事業ですからね。
責任者として謝罪に訪れたのでしょう。
「生活に困らない様に、しっかりと確実に支援する。」と、言ってくれています。
村長はとても良い人の様です。
しかし娘は、その支援を固辞しました。
「十二分に良くしていただいているから。」と。
二人の話は平行線のまま、村長が帰って行きました。
そうでした。
娘は、以前住んでいた村を追い出されて、この村に受け入れてもらっていたのでしたね。
村のお荷物には、なりたくないのでしょう。
しかし、生活をどうにかする手立てが有る様には思えません。
私が何とかしなければなりませんね。
大切な娘の笑顔を守る為に。
この村の人たちは、”神”に対して”残念な人”と言う印象を持っていますが、娘にはそれが有りませんでしたね。
娘は、別の村で生まれ育ったからですね。
それに、以前、娘に夢の中で初めて会った時に”神”と自己紹介したのに、”残念な人”と言う対応ではなかったですね。
夢の中で【ファイヤーボール】を教えたら、”変な夢を見た”と言う対応でしたが。(苦笑)
娘になら【治癒魔法】を教えても、私の心にダメージを受ける事が無い様な気がしてきました。
それに、【治癒魔法】しか治療する方法が無いのですから、それに賭けるしかありません。
私は、娘に【治癒魔法】を教える事に決めました。
大切な娘の笑顔を守る為に。
その日の夜、夢の中で娘に【治癒魔法】を教えます。
こうして娘に魔法を教えるのは久しぶりです。
【ライト】の魔法を教えたり、魔力を使い過ぎない様に、魔力を上手に使う方法を教えたりしましたね。
今回も、魔力を上手に使う方法も教えました。丁寧に丁寧に丁寧に。
娘は魔力が少ないので、気絶してしまう危険が有りますからね。
さらに、一日一回、数日に分けて【治癒魔法】を使う必要が有る事も教えました。
これで上手くいくと良いですね。
翌朝。
娘は起きると、早速【治癒魔法】を使おうとします。
気が早いですね。
私は、慌ててサポートします。
漠然と【治癒魔法】を使っては、娘の夫の怪我はなかなか治りません。
娘は魔力が少ないので。
娘の【治癒魔法】で骨折を治す為には、的確に骨折している箇所に【治癒魔法】を掛けるべきです。
私は神力を使って、骨折している箇所に【治癒魔法】が掛かる様にサポートしました。
【治癒魔法】が効いている確かな手応えを感じます。
ですが、娘の魔力が尽きそうです。
しかし、娘には【治癒魔法】を止める気配がありません。
このままでは気絶してしまいます。
どうしましょう?
やむなく、【スリーブ】の魔法を掛けて、娘を眠らせました。
ふう。
魔力を使い過ぎると気絶してしまうと教えたというのに…。
困った娘です。
娘の夫の怪我の様子を見てみます。
少し、腫れが引いたでしょうか。
娘が初めて使った【治癒魔法】でしたが、まずまずの成果の様に見えます。
これを何度か続けていけば、怪我を完治させる事が出来るでしょう。
娘を寝かせたので、夢の中で魔力を上手に使う方法を教えます。丁寧に丁寧に丁寧に。
魔力を使い過ぎると気絶してしまう危険がある事も、しっかりと言い聞かせます。
むくれるんじゃありません。
さらに「子供の世話も有るのですから、もっと冷静になりなさい。」と、言い聞かせる事になりました。
それと、骨を丈夫にする食べ物についても教えました。
怪我が短期間で治った時の言い訳にもなると思ったので。
言い訳として有効かどうかは、分かりませんが。
そんな事を数日続けました。
娘が【治癒魔法】を使うのと、私が【スリーブ】の魔法を掛けるのと、夢の中で魔力を使い過ぎると気絶してしまう危険がある事を言い聞かせるのと、娘がむくれるのと、「もっと冷静になりなさい。」と言い聞かせるのを、セットでです。
娘が、限界を超えて【治癒魔法】を使おうとするのには、困ります。
なかなか強情な娘です。
私が【スリーブ】の魔法を掛けるのを見越して、限界を超えるところまで【治癒魔法】を掛けている様にも感じます。
いい様に使われている感じがしないでもないですが、私は、娘の為に出来る事をするだけです。
結局、娘の夫の怪我が治るまで、毎日、そのセットが続く事になりました。
私の少ない神力が保って良かったです。
割と本気で危なかったですが。(苦笑)
夫の怪我の完治を喜ぶ娘を見て、私は呆れます。
ホント強情な娘です。(笑顔)
二十日後、娘の夫は仕事に復帰しました。
同僚たちは驚いています。
娘の夫は、「妻の愛の力だ。」と、誇らしげに言っています。
同僚たちは、娘の夫の”のろけ”に呆れながらも、復帰を喜んでくれました。
娘の夫は、以前よりもガンガン仕事をしています。
【身体強化】の魔法を使って。
怪我が完治してから、仕事に復帰する間に、私が【身体強化】の魔法を教えたからです。
もちろん、夢の中でです。
娘の夫は、娘が魔法を嫌ってい素振りがあるのを感じていました。
その為、【身体強化】の魔法を使うどころか、学ぶこともしていませんでした。
しかし、その所為で怪我をしてしまいました。
あの事故は【身体強化】の魔法を使っていれば起きませんでしたし、足場から落ちても大怪我をする事態にはならなかったでしょう。
そういった事を夢の中で娘に話し、娘に、娘の夫が【身体強化】の魔法を使う様に説得させました。
娘の説得により娘の夫は、【身体強化】の魔法を使う事に前向きになってくれました。
しかし、【身体強化】の魔法の習得は、順調には行きませんでした。
彼に、魔法に対する忌避感が残っていたからでしょう。
こういう事が起こるとは、私はまったく知りませんでした。
私は、大好きな【ファイヤーボール】ばかり放っていましたから、知る機会が無かっただけでしょうけど。
そんな問題が有った為、【身体強化】の魔法の習得に日数が掛かってしまいました。
ですが、あまり短期間で仕事に復帰できてしまうのも問題だったので、ちょうど良かったのかもしれません。
その間、やたらと小魚を食べさせられていたのには、ちょっとだけ同情しないでもありませんでしたが。
一時はどうなる事かと思いましたが、娘の笑顔と私の心の両方が守られたので、私は満足でした。




