< 10 この世界に就任した神 十二柱目 04 >
ベンチに座り、あの元村長の一家を見守ります。
もちろん、娘の笑顔を補給することを忘れません。
今では、それが私の仕事です。
北の森から帰って来て、かなり経ちました。
次に何をするかを考えています。
私が魔法を教えたことで、魔物や熊から身を守るの為に魔法が使われる様になりました。
次にどんな魔法が必要になるのでしょうか?
治癒魔法を考えましたが、あれは駄目です。
治癒魔法を教えたら、「あなたは誰ですか?」と、危険な事を訊かれるのが目に見えていますので。
それ以外の魔法を考えるのですが、思い付きません。
私はほとんど【ファイヤーボール】しか使ってこなかったので。
この村では、今、村を囲う石垣を作っています。
【身体強化】が役に立ちそうですが、役に立つだけで、必要な訳ではないでしょう。
勝率が高くないのに、この村で危険な事をする訳にはいきません。
私の心が危険に晒されてしまいますから。
しばらくの間、私はこの村で娘の笑顔を補給する仕事を続けることになりました。
次に何の魔法を教えようか考えていましたが、何も思い付きませんでした。
場所を変えてみようと思い、久しぶりに南西の森の村へ行ってみることにしました。
娘の笑顔をガッツリ補給してから、私は南西の森に向かいました。
南西の森の村に来ました。
丸太を台車に載せて運んでいます。
どうやら海に向かう様です。
漁業でも始めるのでしょうか?
私は彼らに付いて行きます。
海岸のすぐ近くで舟を作っていました。
あの娘の居る村で作られている舟と同じ物の様に見えます。
会話を聞いてみます。
舟を作っているのは、あの村の人たちの様です。
海に出て漁をしていて流され、さらに座礁して舟が沈んでしまった様です。
南西の森の村人たちから木材と道具と食料を提供してもらう対価の一部として、舟の作り方を教えている様です。
これを切っ掛けに、村と村との間で交流が行われる事になりそうですね。
そうなれば、この世界のさらなる発展に繋がることでしょう。
私は喜びます。
三隻の舟が完成しました。
その内の二隻は、ここで漁をするのに使われるそうです。
ここで漁をする村人たちが、舟の操り方を一生懸命学んでいます。
西から東に向かう風が吹いています。
あの村から来た人たちが、新しく作った舟で帰って行きます。
私は、彼らが無事に村に帰れる様に、見守ることにします。
風が止んでしまいました。
舟の進む速度が、目に見えて遅くなります。
オールを漕ぎますが、あまり進んでいません。
彼らに【ウィンド】の魔法を教えましょうか?
でも、風で舟を進める為には、沢山の魔力が必要になりそうですね。
オールを漕ぐ力を高める【身体強化】の方が、魔力の消費が少ないでしょう。
うん、こちらの方が役に立ちそうですね。
【軽量化】の魔法で、舟を軽くすれば、さらに効果が上がりそうです。
夢の中で、この二つの魔法を教えることにしましょう。
翌日。
彼らは、【身体強化】と【軽量化】の魔法を使ってくれました。
二つの魔法で、舟の進む速度が上がりました。
よし。
彼らには魔法の有用性が理解できたことでしょう。
彼らから魔法が広がっていく事が期待できます。
やったね。
さらに翌々日。
彼らは無事に村に帰って来れました。
彼らは村長に会い、南西の森に村が在ったことを報告します。
また、木材等の対価として舟の作り方を教えたこと。
何者かに夢の中で、【身体強化】と【軽量化】の魔法を教えてもらったこと。
この二つの魔法が舟を操るのに有用だった事を報告します。
村長はその場で、その二つの魔法を他の者たちに教える様に依頼しました。
この村に魔法が広がっていく確かな手応えを感じます。
私は喜びます。
彼らの話が、”夢の中で魔法を教えてくれたナニモノか”に、移りました。
私はその場から逃げ出しました。
今日も私の心は守られました。
村で大事件が起こりました。
娘に言い寄る害虫が現れたのです。
【ファイヤーボール】の出番です。
そう思いましたが、神力が少な過ぎて【ファイヤーボール】を放つことが出来ませんでしたね。
何の魔法を放つか考えながら、話をしている二人を見ます。
娘は笑顔です。
あれ?
娘は笑顔です。
男も笑顔です。
あれれ?
少し話をしてから二人は別れました。
二人は仲が良い様に感じましたが、どうしましょうか?
娘を守るのは私の役目です。
私は男を監視することにしました。
少ない神力で、どの様に【ファイヤーボール】を放つかを考えながら。
あれから男を監視し続けています。
少ない神力で、どの様に【ファイヤーボール】を放つかの検討も、もちろん続けています。
男は村を囲う石垣を作る仕事をしていました。
真面目に仕事している様です。
なかなか【ファイヤーボール】を放つ機会がありません。
うーん、どうしましょうか?
さらに男を監視し続けることにしました。
石垣を作る仕事をする男たち。
この仕事をする男たちの中には、【身体強化】の魔法を使う人が増えてきました。
【軽量化】の魔法は、使われていませんね。
【身体強化】の魔法は、素人でも理解しやすく、使い易い魔法ですが、【軽量化】の魔法はそうではないのでしょう。
普段扱っている石を目の前にすれば、重さがなんとなく想像できてしまうので、その想像が【軽量化】の魔法の発動の邪魔をしてしまうのでしょう。
そう言えば、漁師さんたちは割と【軽量化】の魔法を使えていますね。
舟が水に浮いている事が、【軽量化】の魔法の発動に良い影響を与えているのかもしれませんね。
私は今までバカスカ【ファイヤーボール】を放ってきましたが、魔法について詳しく考えた事はありませんでした。
この星で魔法を教える今の仕事は、私自身が魔法を理解する事に役立っている様です。
それはそれとして。
私は今日も、男を監視しています。
それが今の最重要の仕事です。
男は魔法に興味が無い様ですね。
男が魔法に興味が無い事は、良い事なのでしょうか? 悪い事なのでしょうか?
少し考えましたが、分かりそうになかったので、男の監視を続けました。
あの男が魔法に興味が無い理由が分かりました。
娘が魔法を嫌っている素振りがあるのを感じたからでした。
娘は、私が教えた【ライト】の魔法が原因で、以前住んでいた村を一家で追い出されたのです。
魔法にトラウマがあって当然です。
男は、娘に配慮をしていたのですね。
男は、良い人の様です。
男に対する好感度が少しだけ上がりました。
あくまでも、少しだけです。
少ない神力で、どの様に【ファイヤーボール】を放つかの検討は、もちろん続けています。
二人はお付き合いを始めた様です。
手を繋いで村を歩く姿を見掛ける様になりました。
娘は笑顔です。
娘が笑顔なので、私も笑顔です。
娘の笑顔を見守るのが私の仕事です。
娘が笑顔ならば、それで良いのです。
月日が流れて、二人は結婚しました。
二人は笑顔です。
娘が笑顔なので、私も笑顔です。
二人は多くの人たちに祝福されています。
ありがとうございます。
ありがとうございます。
私は、娘を祝福してくれている人たちにお礼を言いながら、娘の幸せを心から願います。
本来の仕事を忘れている気がしないでもないですが、娘の笑顔を見守るのが私の仕事です。
だから良いのです。
うん。




