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リレビュー・四百文字のその先  作者: 稲村某(@inamurabow)
第一部・秋山エルザ(巨乳眼鏡)編
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コズコズ・作【パン屋のあの娘に告白を!】

あなたはレビューを読みますか?そのレビューは……あなたの心に刺さりましたか?刺さらなかったレビューは……残念ながら、そんなレビューだったのです。

 


 彼女は生まれて初めて、利根川を電車で横断した。


 断続的に鉄橋を構成している鉄筋が奏でる振動と共振音が鳴り響き、不意に視界が開けて河川敷の上を通過する。


 そうして電車はひた走り、目的地の駅へと到達する。その駅は二つの路線が交差する中継点のようで、近隣の高校に通っている学生の姿が時折散見される程度の時間帯であった為、人の姿はまばらである。


 駅舎から歩み出た彼女はタクシーを拾うと、目的地の目の前に有る小学校の名前を告げて、後部座席に収まる。無言の彼女に気を遣ったのか、バックミラー越しの視線も少な目である。


 やがてタクシーは目的地の小学校前、しかも登校門ではなく校庭の反対側、昔はそこに登校門があったのか、巨大なプラタナスの樹が一対聳えるその下で清算を済ませた。


 彼女は目的地の小学校……ではなく、その向かい側にあるマンションへと足を踏み入れて、エレベータのボタンを押して目的の階、そして部屋の前までヒールの音を響かせながら歩み、ドアの横に貼られた表札の「INAMURA」のローマ字を眼で確認してから、チャイムのボタンを押した。


「……はーいはいはいはい…………っと」


 扉を開けて顔を出したのは、髪の毛を短く刈り込んだ一人の中年男だった。



【……稲村某。たまたま出版の機会が巡った為に、世間的に小説家を名乗ってはいるが、いわゆる売れない作家である。執筆よりも副業に従事している時間の方が圧倒的に長く、その辺りは駆け出しのお笑い芸人とあまり変わらない。ちなみに別れた女性のアドレスは消すタイプ】


 彼女はたぶんこのヒトが稲村某なんだと当たりをつけてから、玄関先では失礼になるので玄関へ進むとカバンから名刺入れを取り出して、


「……初めまして。この度【月刊Web・ヨモ!】の編集部からやって来ました秋山恵瑠坐といいます」


【……秋山・恵瑠坐(えるざ)。某出版社新人編集部員。大学で教員免許は所得したものの、好きな本に囲まれて過ごしたくて地味な編集部へとやって来た。()()()()()()()


(……うぉっ!……で、デカイっ!!)


 稲村某は心の中で絶叫した。それはそうである。濃紺のスーツと白のブラウスに身を包んだ彼女だったが、そのブラウスはボタンの間が限り無く広がり、危うく身に付けているピンク色の《大きめのタイプ用》がチラ見しちゃいそうな感じなのだ。


 しかし稲村の視線に全く気付かずに、黒縁の眼鏡を上げながら軽く会釈した後、案内された玄関脇の部屋へ進んだのだが……そこはかなりカオスな空間であった。


 まず一番最初に眼へと飛び込んで来たのは……信楽焼のタヌキ(聞けばサントリ○の販促グッズだったらしい)のミニチュア人形(しかし高さは軽く30センチはある)、更にその横には《サントリ○純生》と銘打たれた二リットルのアルミビヤ樽を保冷出来る樽型容器、更にその横にはやや小さいながらも……初音ミ○のフィギュア。その周りを取り囲むように開封済みの洋酒(リキュールが大半)の瓶が有るわ有るわ……その混沌とした風景に少しだけ圧倒されたものの、掃除は行き届いているようで清潔感はある。彼女は案内されるままちゃぶ台脇の座布団へと座りながら、話を進めていった。



「あの、今回は【月刊Web・ヨモ!】の企画に参加、そして寄稿していただけると言うことですので……その打ち合わせに参りました。で、候補は決まっていますか?」


「あ、はい……候補はもう決まってます……っが!?」


 エルザは思わず身を乗り出すと、なんと目の前の作家(馬鹿)の手を掴み、


「わ、私……本は好きなんですが、実はWeb小説っていうのはあまり馴染みがなくて……この機会に色々と教えて頂けると助かります!」


 ややぽっちゃり体型ながらパッチリとした目元、そして長い黒髪と眼鏡がチャームポイントの彼女。その編集者……つまり、自分から見れば雲の上から派遣される存在たる()使()が……【色々と教えてくださると助かります!】と言ったのだ。


「じ、じゃあ、今回レビューする作品です……」


 そう言う彼の声は、緊張からかいつもよりやや高めで、まさに、落ち着かない心境を体現していたのだが、しかし次の瞬間からは滑らかな口調で話し始めたのだった。



 ✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳




 ちなみに、そのレビューの原型はこのような形で公開されていた。制限の四百文字内ギリギリ一杯を使いきり、行間も空けて溜めを持たせるスタイルも用いてのレビューである。




【……比較的、寡黙な作者のマイペースな更新(二話目が実時間で一年後と記されている!)ではあるが、俺はそんなことは気にしない。


 ……何故なら、俺が主人公とヒロインの往く末を見届けたいからだ!!


 書き出しを見て、巷に遍在する冒険譚と忌嫌するのは軽率である。断言するが、読み専20年超の筆者が読んでも十分に【惹かれる転がし具合】だ。詳細は伏せるが、想いを胸に秘めた主人公が一世一代の異世界の《単独行動》で目指す先は……、




 ……今すぐ読め!!そしてブクマして想いを作者に届けろ!!「続きはよ書いたって~」と願い乞え!!そうやって運命の歯車を回すのが読者の使命……物語の主人公達に命を吹き込み、物語の結末を迎えさせる為に……。


 必死に生き、必死に想いを遂げようとする……彼を突き動かす原動力、愛を具現化させる為に……。


 ……てな具合なんで、是非続き書いてくださいませ!俺は最後まで付き合いますから♪】



【コズコズ氏・「パン屋のあの娘に告白を!」レビューから抜粋】



 ✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



「……【パン屋のあの娘に告白を!】……ですか?」


 エルザはそう言うと、テーブルに置かれたコーヒーを一口啜り、稲村某の出方を待った。




「そう!まず、タイトルを見た瞬間、《うわ、普通の恋愛系なのかなぁ……》と正直思ったし、紹介文(あらすじ)を見ても血沸き肉踊るような内容とは思えない。当時書いていた自作品へと落とし込めるような暴虐な展開も期待出来そうにも思えなかった。だから、チラッと読むだけ読んだら次を探そうとしたんだけど……」


「だけど?」


「……ネタバレするからレビュー時に詳細は伏せるつもり!でも、冒頭のホンの少しだけの流れで……主人公と、主人公が恋しているパン屋の娘が相思相愛なんだって判る描写なんだよねぇ!しかも、お互いが告白するつもりで祭りの夜に臨むって言うんだよ!?どんだけ彼女の態度がそっけなかろうと、いつも一言二言交わすだけの馴染みの関係なのに……主人公の無事をただひた向きに祈るんだよ!?もっのすごいツンデレなんだけど真摯且つ……純粋に主人公のことを想っているのか……それが第一話だけで丸判りなの!!判るっ!?」


「あ、なるほど……でも、そーゆーのって良く有りません?ハーレム系なんかの作品で……」


「いやそれとは違うから!まずは聞いてくれ……ヒロインが祈りを捧げるのは、毎朝買いに来る○○○スペシャルと彼が勝手に名付けたパンを買いに来る主人公にだけなの!つまり、相思相愛の二人が一生に一度だけの機会を逃さぬように、片や娘は己が心に忠実に……片や主人公は地下迷宮に足を踏み入れて彼女への贈り物を手に入れようと更に深き世界へ……だがしかし、この物語にはチートなんて最初から存在しない!ハーレムぅ!?何それ?ハッキリ言わせて貰えるならば、大好きな娘の為に命を賭けられる一途な男と、ウヒャウヒャ言いながら複数の女を力任せに(はべ)らす男……君が一生を捧げれるとしたら……相手はどっち!?」


「……そんなの即答じゃないですか!一途なヒトに決まってます!!」


「うんうん、そーだろう……ま、最近の傾向として、複数の女性(男性もあるのか?)キャラを登場させる某AKB方式の拡散型ショットガン風の展開よりも、一撃必殺のライフル銃方式の方が圧倒的に刺さるよね?計算していなくても誰だってそう思うでしょ」


「でも、この作品の魅力ってそれだけなんですか?」


「いや、当然ながらこの作品の良作たる点はそれだけじゃない。敵は全て……いわゆる雑魚キャラ、良くあるゲームの序盤やチュートリアル等で一撃でやられる連中なんだけど……これがムチャクチャ強い!!」


「はい?それって作中での扱い方が単純に強い設定か、主人公がムチャクチャ弱いんですか?」


「いや、そんなことはないよ。ただ、どちらかと言えば、主人公は……主戦力ではなくて後方支援系なんだよね。ま、彼の立ち位置は作品を読み進めれば判ることなんだけど、この小説には全ての物語に共通の《過程を読み解く楽しみ》がキチンと存在していて、それがしっかりと根幹を成していると思うんだ」


「うーん、それは具体的に言うとどんな所が、ですか?」


「……ネタバレしないようにしながら詳細を伝えるのは、至難の技なんだけど……そうだなぁ……秋山君が好きなヒトから告白されなかったら、君はその後どうするんだい?」


「えっ!?い、いきなり何を言うかと思ったら……ふむむ……た、たぶん……」


「……たぶん?」


「……フラれたッ!!と思って大泣きして、それから友達とかと、わぁ~ッ!!て行って飲んで食べて……笑い話にしちゃいます!!」


(……漢らしいじゃん……)


「……何か言いました?」


「いや?別に……それはともかく、ヒロインのその娘は……そう思いながら、ダンジョンへと向かって未だ帰らない意中の相手を想い……祈る。その祈りは、苦渋と痛切に満ちた彼女の純な想いしかない。ホント、主人公が羨ましい位に……ねぇ」


「苦渋……ですか?」


「そう。だって、主人公が誰に告白するか、ヒロインは知らないんだけど……それでも彼女はひたむきに、ひたすらに……無事を、主人公の無事の帰還を祈るんだよねぇ……《私に告白をしなくてもいいから……無事に帰って来てっ!!》ってさぁ……これを純愛って言わなくて何を純愛と言うんですかっ!?」


「は、はぁ……そうですね……」


「この作品の主眼は三つあると稲村は思っていて、一つは主人公とヒロインのそれぞれの心理描写。そして一つは……地下迷宮に踏み込む非戦闘系の主人公が遭遇する強敵達。そして最後は……二人の恋の行方だね」


「じ、じゃあ……二人は結ばれるんですか!?」


「いや、残念ながら二人の物語の結末は……まだ公開されていない。それは作家さんの制作姿勢の末だと俺は思っている」


「制作……姿勢?」


「うん。例えば稲村の執筆スピードの平均はどんな程度か判る?」


「えっ?……確か、最速で時速二千文字……位ですか?」


「まぁ、多少のムラもあるけどそんな感じだね」


「で、それがどんな関係があると……?」



「キッチリかっちりシッカリと書いていれば、一日やそこらで作品は書けないってこと!」


「あ、あぁ……それはそうですよねぇ……センセは急ぎの時は適当に書き上げてますけどねぇ」


「適当に……とか気安く言わないの!!」



 ✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



「まぁ、この作品が【相思相愛の二人が必死になって成就させようとする状況を疑似体験出来る】小説なのは判りました。……で、稲村センセはどこに惹かれたんですか?」


「うむ!そりゃ簡単だよ!こんな小説、Web上にしか存在しないでしょ?しかも登場人物も冒険者の補佐系が主人公、ヒロインはパン屋の娘、おまけにライバルはよく居る雑魚ヤラレキャラ……」


「……ごめんなさい……作者さんに申し訳ありませんが、商業用作品には一切出てこないかも……です」


「そう、いわゆる【コンテンツ映え】はしない。たぶんアニメ化もされない。でも……だからこそ!いや、この作品が読めるのは……この小説でしか存在しない訳!!……つまり、大資本をブチ込める大手出版系がやってこようがハリウッドが本気で頑張ろうが関係なく!!【()()()()()()()()()()()()()()()()()】ってことに変わりはないってこと!!」


「……っ!?……こ、ここでしか……見られない?」


「そう……たとえ、更新速度が早くなかろうが、毎日更新していなかろうが……そんなことは関係なく、この作品は読むだけの価値があり、読んだ人間それぞれが思っただけの読後感は必ず訪れる、そんな小説なんだよ……」


 秋山嬢は稲村某の言葉に少なからぬ衝撃を受けた。……そう、この作品が発表されているWeb上以外では、この小説に巡り会うことは出来ない。逆に言えば、このWeb上で巡り会えたからこそ……主人公とヒロインの出会いと大願成就に立ち会える幸せは、訪れるのである。




「……せ、センセ!私……帰りの電車でこの小説、読んでみます!」


「うん、十話位だから、丁度いい長さかもしれないね。まぁ、次に紹介する作品はもう少し長いから、時間はやや長めになるかもしれないけどね」


「センセ、その小説って、何ですか?」




「……それは、玉藻稲荷&土鍋御飯さんの【笑っておくれよダンデライアン】ですよ」



「……いなり?」






 ……続きは近いうちに書きます。

次回は玉藻稲荷&土鍋御飯さんの【笑っておくれよダンデライアン】です。SF読め!!SF、読め!!いやマジで感動するから!乞う御期待!!

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