森からの旅立ち
夜も明けきらぬ薄明かりの森の入り口に、2つの人影が向かい合って静かに佇んでいる。
薄明かりのなかに佇んでいるのはこの森に来た鈴霞とネアだ。
「気を付けて行くんじゃぞ。そうじゃ、これが最後のプレゼントじゃ」
ネアが懐からペンダントを取り出し、鈴霞の手のひらに乗せた。
「これは?」
三日月のペンダントトップと一緒に小さな長方形の銀色のカードが付いている。
「そのペンダントに魔力を流すと、そのカードが身元証明になる。利用すると良いぞい。こちらの不手際で不自由な思いをさせて済まんの。それから名前なんじゃが、この世界では地球での名前は使わん方がよい。新たに人生を始めるんじゃから。名前は『リン・トウヤ』じゃ。ステータスの名前も同じじゃからな?」
「はい。こんなに、色々と有り難うございます。そこまで不自由な感じはありません。むしろ楽しいんです。今まで時間に追われるような生活してましたから。───ネアお爺ちゃん……いえ、『創世神様』お世話になりました。女神様にもお礼を伝えてください」
「なんと!バレておったのか……。ふぉっふぉ、いつからじゃ?」
「ネアっていう名前から何となく、です」
「そうかそうか。ワシもまだまだだの。リン、ワシはお前さんを可愛い孫だと思っておる。気を付けて行くんじゃぞ?」
「はい!では行ってきます!」
ペンダントを首につけて深々と頭を下げると、鈴霞は街道に向けて歩き出す。ここから──────新しいスタートだと、気を引き締めて。『リン・トウヤ』として生きていく。──リンは後ろを振り返って大きく手を振り再び歩きだす。どんどん小さくなってネアからは見えなくなった。
「行ってしもうたの……。さて、ワシは上から見守ることにするかの」
ニコニコしながらネアはそう呟くと、姿を消した。
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森から出て歩き、数時間。リンは街道に続く獣道を歩く。途中で魔物と出くわし戦闘しつつ、暫く歩いていると拓けた場所に出た。綺麗に整備されている場所の中ほどに出て辺りを見回すと、右と左に道が続いている。
「結構歩いたなー。っと、街道に出たら左に行くと和国オウラだったわね。あ、その前に辺境都市レグリアだっけ。カードの確認しておかないと不味いよね」
リンは呟きながら一旦足を止め、先ほど貰ったペンダントに魔力を流す。
プレートが大きくなると、浮かんだ文字を読んでみる。どうやら冒険者ギルドのギルドカードのようだ。
名前:リン・トウヤ
年齢:15
性別:女
種族:ヒューマン
LV:50
HP:3500(+25000《隠蔽》)
MP:3450(+25000《隠蔽》)
属性:火 聖 (水 風 土 闇 空間《隠蔽》)
スキル:刀剣術 武闘術 家事 (魔闘気 索敵 鑑定 隠蔽 威圧 転移《隠蔽》)
称号:無し(創世神が後見する者 転生者《隠蔽》)
加護:女神リーシアの祝福(創世神ラムネアの加護《隠蔽》)
ギルドランク:C
「リン・トウヤか……。うん、良いわね。ギルドカード登録は必要無いから助かった。隠蔽されてるけど、バレたらちょっと面倒かも……。」
疑問を持ちつつもカードを仕舞うように念じると、カードはペンダントトップに戻った。
「取り敢えず、先に進んでみないと分からないよね」
リンは小さく息を吐き、索敵を始める。マップが出てくるが、マッピングのスキルを持っている訳ではない。不思議だ。
辺境都市までは、歩いて20日程。リンの歩行スピードでは15日程だ。
街道は馬車が行き交うのに余裕があるくらいの広さがあり、今のところは行き交う人もいない。
マップを確認すると、ここから3日かけた場所に野営地点があるようだ。
「急ぐ旅でもないし。アチコチ鑑定しながら行こうっと♪」
フードを目深にかぶり直して鼻歌混じりに歩きだし、先ずはそこを目指すことにした。