訓練と旅支度
異世界に来て、3ヶ月が経った。
魔力操作は気功と似通っていたおかげか、最初の1ヶ月は手こずったが練気を続けていく内にコントロール出来るようになった。その後に魔闘気術で1ヶ月の時間を費やした。
合間にレベル上げをやっていたのもあるのだが。
異世界について学び、その次の日にポーチの中を確認。装備品を出してみて一級品以上の物だと見た瞬間に分かり、すぐにしまった。
この体に慣れて旅立つときまで鑑定しない、使わないと決めて。
起きて顔を洗い外に出る。刀術の鍛練は幼い頃からの朝の日課だ。木刀は小屋のなかに何故か置いてあった。
ぶつけても、魔物を叩きつけても壊れない。血が付着しても一度振れば綺麗に取れる。一体何で出来ているのか。鑑定しても『硬い木から出来た木刀』としか表示されないのだ。
その木刀を振るって一通りの鍛練を済ませると、胡座で座り目を閉じ、練気を始める。気功ではなく、魔力と闘気が混じり合う魔闘気術は闘気と魔力を一定に保ち、緩やかに混ぜて魔闘気に変換しなければならない。ここ3ヶ月でうっすらと纏う所まで出来るようになった。
1時間程その訓練に集中し、鈴霞は目を開ける。
「魔力操作や魔闘気術は使いこなせるようになったから良いとして……そろそろ魔法やってみなくちゃ。魔法はイメージが大事よねぇ~」
鈴霞は掌に魔力を集める。
魔力が集まってきたところで、指先へと移動させる。
「……よし。ファイア」
言葉にした瞬間、指先に小さな炎が出た。ゆらゆらと揺れている。
それを鈴霞はじっと見る。
「うん、上手くいった。後は属性の応用ね」
ゆっくりとそれぞれの属性のイメージを膨らませ、次々に色を変え、形を変える。
その動作を終えると、木刀を持って森の方へと歩き出した。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
ザシュッ!ドサドサッ!
「ふぅ……。この辺りの魔物の強さに慣れてきたわね。レベルもそれなりに上がったし……もう少ししたら旅立てそうだわ」
ヒュッと木刀を振って血糊を飛ばし、辺りを見回す。魔物─────オークの死体が5体転がっていた。
今日の森での戦闘は食料確保を目的にしている。森の東側は低レベルの魔物と食料としての魔物が多く生息。高レベルの強い魔物が生息する森の北側がレベルアップに適している。
魔物を倒す際に初めは躊躇があったが、3ヶ月間続けていると、慣れか精神耐性のスキルのお陰か。現在の気分は落ち着いている。
人に対してどうなるかは、まだ分からないのだが。
「鑑定は便利だわ。私よりレベルが上の人達のは見えるか分からないけど、食べれるかどうかが解るのは助かるし。オーク肉って異世界の定番よね。ゴブリンと同じで女性襲うのが厄介だけど」
鈴霞は呟きながら、解体していく。
ネアと女神からの贈り物のポーチの中に解体した肉を詰めて立ち上がる。このポーチは時間停止機能が付いている。これだけは、受け取ったその日に鑑定で確認したのだ。
「さて……。食料の確保も出来たし、小屋に戻ってそろそろ旅立つ準備をしなくちゃ」
その前に朝食ね、と言いながら小屋へと戻り、食事の仕度を始めることにする。
小屋のキッチンには地球と同じ調味料が置かれ、味付けに違和感を感じる様なことはない。
不満を言うなら、全てビン詰めという状態か。
「今日の朝食は……オーク肉の生姜焼きと森で取れたキノコのお味噌汁かな」
鼻歌混じりに朝食を手早く作り上げると、テーブルに運んだ。
「いただきます。──異世界だけどこの味付け最高♪」
椅子に腰掛けて手を合わせ、食べ始める。
ご機嫌で食事をしながら今後の事に思考を巡らせる。ゆったりと時間を掛けて朝食を食べ終え、食器を片付ける。
高校を卒業し、今まで仕事と本を読む事にばかり時間を費やしてきた。あの頃の自分を忘れていられるように。
「今まで、こんな時間持ったこと無かったのよね……。まぁ、時間に囚われることも無いからまったりと楽しみましょ。あいつらに会えるわけじゃないもんね」
装備の確認しないと、と呟きながらリビングに移動し装備品一式を出す。
「──────よし、鑑定!」
スキルを発動して、結果に目を見開く。
武器:黒龍雪花(神刀。創世神ラムネアが孫娘に作った愛情の一刀。使用者固定、自動修復、破壊不可)
防具:黒龍の衣(女神リーシアのお手製。物理攻撃と魔法攻撃のダメージを90%軽減。自動修復、使用者固定)
黒狼のレギンス(敏捷最大UP、物理防御50%UP、自動修復、使用者固定)黒狼のブーツ(物理防御30%UP、自動修復、使用者固定) エアリアルローブ(認識阻害、自動修復、温度自動調整、使用者固定)
アクセサリ:月光石のピアス(魔力回復速度UP、使用者固定) ジュエルリング(無限収納、時間停止、使用者固定)
「何でこんな装備を……。まぁ、これから先どんなことあるか分からないから仕方ないんだろうけど。何でポーチ有るのに無限収納?過保護過ぎる」
冷や汗を流しつつ、ひとつずつ装備していく。
「こんな可愛い装備なのに、強すぎでしょ……。取り敢えず、『ステータス』」
名前:遠宮鈴霞
性別:女
AGE:15
種族:人族
職業:魔刀剣士
LV:50
HP:3200《+25000》
MP:3450《+25000》
属性:火 水 土 風 聖 闇 無 時空
スキル:刀剣術 武闘術 魔闘気術 無詠唱 練気 隠蔽 鑑定 威圧 家事 索敵 状態異常無効 精神耐性 全言語理解
称号:創世神が後見する者 転生者
加護:創世神ラムネアの加護《孫娘》
武器:神刀・黒龍雪花
防具:黒龍の衣・黒狼のレギンス・黒狼のブーツ・エアリアルローブ
アクセサリ:月光石のピアス・ジュエルリング
「この見た目ならそこまで違和感無いよねぇ」
鏡の前でクルリと1回転。黒髪に青みがかった黒い瞳。顔立ちは前世の頃より女の子らしい。
目立つ顔立ちはトラブルのもとなんだけど……仕方ない。ソファに腰掛け、そろそろ独り言も飽きてきたなぁ……と呟いていると近くの空間がゆがむ。
「おぉ、鈴霞殿おはようじゃ。丁度良かったようじゃの。準備はどうじゃ?」
「あ、ネアお爺ちゃんおはようございます。準備は大体出来ました。明日の朝出発しようかと。だけど、こんな装備貰って良いんですか?」
「ふぉっふぉ。良いんじゃ良いんじゃ。良く似合って可愛いの。明日か~……寂しくなるのう。明日は見送りに来るぞい」
可愛い孫娘の旅立ちじゃ~!と機嫌良く叫ぶネアを、苦笑混じりに見る鈴霞。
この時、鈴霞はネアから聞かされた『鈴霞の事を知っている者がいる』という言葉をすっかり忘れ、のちに驚くことになろうとは誰も知らない。