ネア爺ちゃんの異世界講座
「では、このアークスライドについて教えるとしよう。良いかの?」
「は、はぃ」
ニコニコとしているネアに気圧されながら返事を返す。ネアがゆっくりと手を上げた。
ポンッと言う音とともに現れたのは─────
「えっ!?ホワイトボード⁉」
「うむ。その方が説明しやすいんじゃ」
ぽかんと口を開けたままの鈴霞をそのままに、キュキュッと音を出しながら歪な長方形の地図を書き上げた。
「この世界の名前は聞いたから分かるな?じゃから大陸の国々を教えよう。出来るだけ簡潔に分かりやすくいくかのぅ。
先ず最初に─────────北のウルクロスト帝国かの。この地図じゃと右上じゃ。
人族上位思考の国で、実力が物を言う。魔道具発展国で魔道具の研究に余念が無いの。
次に左上が聖国ベルディア。女神信仰が厚く、世界の教会を管理しておる。種族に関して偏見はないの。
真ん中の広い上下を仕切っておる場所が、カルツェ平原じゃ。夜はアンデットがうようよじゃ。
今度は下じゃな。左から順番に行くぞい。
アルクリア王国。ここも種族間の偏見の無い国じゃ。この国には唯一冒険者を育成する機関がある。住みやすい国じゃから、気が向いたら行ってみると良いぞ。右に行くと、イラム砂漠、その下が獣国ガルレド、右にドワーフの国ガルボ王国。獣国から右下に和国オウラがある。鈴霞殿が最初に向かうのは、この和国オウラじゃ。ここまでは良いかの?」
指揮棒のような物で地図を指しながら、ネアが説明する。一気に話したからか、ネアは一口お茶を飲んだ。
「はい。地図の見方も解るので助かります」
「うむ。では、続きじゃ。
残りの下の陸地の真ん中にあるのが、ワシと鈴霞殿がいる女神の森じゃ。特定された人物しか入れんようになっておる。その下が森の国ラルナ。エルフ族が住んでおる。この世界のエルフは穏やかな性格じゃ。左下の島が魔国じゃな」
鈴霞が再び頷くと、ネアはホワイトボードの地図を消した。
「ふむ。理解が早くて助かるの。次は通貨に関してじゃな。この世界では、共通通貨じゃ。
1ガルド=1円単位じゃから、計算は難しくは無いはずじゃ。銀貨や金貨は貴族や王族が利用するがの。他に知りたいことが有れば答えるぞい」
「冒険者ギルドは有るんですよね?後、お金を持ち歩くときはかさばりそうだから……預かり所って有るんですか?もう1つは魔力について。それと!何故かステータスが異常何ですけど⁉」
一番気になったこと。ステータスは異常過ぎて納得できません!と言う顔をする鈴霞にネアは苦笑混じりに答えた。
「ふぉっふぉ。それは冒険者ギルドに揃っておる。魔力に関しては、鈴霞殿は気功が使えるじゃろう?その応用で上手くコントロール出来る筈じゃ。それと魔法に関してなんじゃが、ステータスには魔法名は出んぞ。詠唱や無詠唱で使う者。本人のイメージ力によって魔法の使い方や強さが様々、と言うような理由からじゃ。ステータスはまぁ……女神様からのお詫びじゃろう。そのまま受け取ってはもらえんかのう?」
むむむ……と鈴霞は考え込むが、無いよりは良いかという顔で頷いた。
「分かりました。有り難く受け取ります」
「うむ、良かった良かった。後は戦闘と魔法、この世界に体が慣れるまでここで暫く暮らすと良いぞい。ワシは神界に戻るが、呼べばすぐに来るからの。これでワシからの講座は終わりじゃ。良い異世界生活をな。頑張るんじゃぞ」
ふぉっふぉと笑いながらネアは姿を消した。
側のテーブルの上にいつの間にかポーチが乗っている。
鈴霞はテーブルに近付き、ポーチを見る。他に紙が置いてあり文字が綴られていた。その紙を手に取り眺める。手紙のようだ。
《ワシの講座は分かりやすかったかのう?素直に聞いてくれて有り難う。久方ぶりに楽しかったぞい。このアイテムポーチはワシと女神からの贈り物じゃ。100個のアイテムが入るから好きに使うと良いぞい。このポーチの中に、装備品一式と必要な着替えやアイテム類が入っておる。旅費に5万ガルド入れておいたからの。ワシからの小遣いじゃ。大事に使っておくれ♪》
「何から何まで……有り難うございます。大事に使わせて頂きます。───────さぁ~て♪私の力がどこまで通用するか、これからが楽しみだよ~♪明日からは色々やるよ~!」
いろんな事を聞いて、鈴霞は異世界に来たことを少し実感。
興奮が冷めない内に気合いを入れると、鈴霞は夜の帳が降りた部屋のベッドへ潜り込み、眠りについた。