ナビさんはお爺ちゃん
鈴霞が眠りについた頃───神界では
「うむうむ、可愛いのう。孫娘を見ておるようじゃ」
目尻の下がった顔で画面らしき物を覗き込んでいるのは────勿論、創世神ラムネアである。
「孫娘って……創世神様に孫なんていないじゃないですかっ」
「良いではないか、リーシア。……そうじゃ‼リーシア、ワシちょっとナビゲーターとして出掛けてくるぞい。後の事、暫しの間頼むぞー」
創世神はそう言うと同時に、姿を消した。
「あっ‼創世神様行ったらダメですぅ~!……ってもういないぃー!私じゃ神界の管理者代理なんて無理なのにぃー!創世神様ー!帰ってきてくださいぃ……」
リーシアはガックリと項垂れてしまうのだった。
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地上の女神の森──────
鈴霞はベッドでぐっすりと眠っている。
10年間会社に勤め、帰りも遅くまともな睡眠時間を取っていなかった為か、この世界に降りた時点で精神的に疲れたせいか。
その傍らに立つ老人、創世神だ。鈴霞の事を心配そうに眺めている。
「うむ……良く眠っておる。起きたら腹が空くじゃろうから、よっこらしょ」
寝室の中にテーブルと椅子を2脚出し、何もない空間から、温かな食事を取り出して並べる。
柔らかそうなパンに野菜たっぷりのクリームスープ。温かい紅茶。
「まともに食べてはおらんかったようじゃから、このくらいで良かろう」
創世神が呟くと、鈴霞が身動ぎする。
食事の匂いに反応しているようだ。
「ん~……ご飯」
むくりと起き上がった鈴霞は目を擦りながらボーッとする頭で周囲を見回す。
部屋にいつの間にかテーブルがあり、その上にある食物が目に入る。
匂いに釣られてベッドから降りようと足を下ろした時だった。
「目が覚めたようじゃの」
年配の声がした方向に鈴霞が視線を向けると、そこから少し離れた場所にニコニコとしている老人と目が合った。
「ふぇ?」
鈴霞は驚き、思わず変な声が出た。
「おぉ、済まぬ。驚かせたかの?ワシがここのナビゲーターを頼まれたネアじゃ。遠宮鈴霞さんじゃな?食事を用意したのでな、まずは食べると良い」
てか、何で寝室に……ここで叫ぶべき?とか色々思うところはあるがそれをやめる。これが同年代の男性なら、鈴霞は容赦なく叫んでいただろう。
「はぁ……」
取り敢えず返事を返し、鈴霞はそろそろとベッドから降りて立ち上がる。
テーブルの側に近寄ってゆっくりとした動作で椅子に座った。
湯気と美味しそうな匂いに釣られてか、鈴霞のお腹が鳴る。そう言えば、こんな食事はいつしたかなぁと思いを馳せる。
「……いただきます」
手を合わせてスプーンを持ち、クリームスープを掬って口へと運ぶ。
野菜が柔らかく煮込まれており、スープの口当たりもまろやかだ。
「……美味しい」
「そうかそうか、それは良かった。食べ終わったら少し休むと良い。今までの生活の話は、地球の神に聞いておるからの。この世界のこと等を教える前に、1つ言っておきたい事が有るんじゃ。」
ネアの優しい眼差しに、鈴霞の食事の手が止まる。
「この世界に送った理由─────それはな、お前さんの知っている者がいるからじゃ。誰かは言わん。縁があれば出会うじゃろうからの」
「え……」
ネアの言葉に驚き、言葉がでない。一体誰がいるというのか。
「まぁ、この世界に慣れてからゆっくりと考えると良い。あ、それからワシの事はお爺ちゃんと呼んでおくれ」
「お爺ちゃん?」
鈴霞は首を傾げつつ聞いてみる。
「うむ。ネアさんやネア様等と呼ばれたら他人行儀で嫌なんじゃ」
ニコニコとしているネアを複雑な心境で眺めつつ、食事をしながら鈴霞は頷くのだった。