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ある上官の朝 〜一族への呪いとその解決法〜

 

この話は「性転換」「TS」「女体化」「精神的ボーイズラブ」の要素を含みます!

苦手な方はご注意ください!

 

 

 

 王国騎士団の第四隊の隊長。

 それが俺グレン・ロイヴァーの肩書きだ。

 隊長格の中で、二十四歳という年齢ははっきり言って若い。それが親父殿の七光りのおかげである事は否定しない。

 ロイヴァー公爵の長男を、何の下心もなく扱える人間なんて普通はいないからな。


 そんな俺だが、肩書きに恥じない働きはしている自負はある。

 親父殿の子は俺一人で、叔父貴たちは子沢山だ。

 使えないと見なされれば、俺の一族が代わりを用意するのは明らかで。

 つまり、親父殿の七光りにも関わらず緊張感を持って日々を送っている俺は、多忙と自主的な精進ゆえに、夜は深い眠りが日常となっていた。



 今日も深い睡眠後の爽やかな朝を迎え……猛烈な違和感を覚えた。

 原因が何かはわからず、とりあえず身を起こそうとしてまた首を傾げた。

 体が重い。

 いや、そうじゃない。体は軽いのにうまく起き上がれないのだ。


 この感じは、体が出来上がっていないガキの頃に苦しんだ筋肉痛のようだ。

 なんてことだ。

 十三歳の時から、俺は筋肉に不自由していなかったのに。

 昨日の訓練はそんなに厳しかっただろうかと考えていて、ふと気づいた。


 俺の手が、細い。

 細くて白くて、手首も二の腕も細かった。

 ゴツゴツしていた手のひらは見るからになめらかで、触れてみると柔らかった。

 なんだか嫌な予感がしてきた。

 慌ててベッドを降り立ったら、ズボンがストンと床に落ちた。


「……紐が切れた、わけじゃないよな?」


 ズボンの紐は切れていない。

 寝る前に緩めに締めた、不恰好な結び目がそのまま残っている。

 だったら何が起こったのか。

 というか、スボンが落ちたのになんで俺の膝は隠れているんだ? 洗いざらしのシャツの裾が、どうしてこんなに伸びている?


 俺は何気なくシャツの裾をめくった。

 すると、はっとするほど白い太腿があらわになった。柔らかそうな肌で、一瞬俺はゴクリを唾を飲む。

 そしてまた気付いた。

 このみずみずしくて美味しそうな太腿は、俺の足だ。

 体毛も筋肉も硬い皮膚もなくなっているが、これは俺の足だ。二年前の傷跡があるから間違いない。

 興醒めだな。


 ……と言うか、ないんだが。

 何もない。

 就寝時には下穿きはつけない主義で、だからズボンなしの状態なら元気な朝を迎えるブツが丸見えのはず。なのにない。


 ないったらない。

 何ゆえにない。

 あるのはささやかな下生えと、不可解な谷と、視界を妨げない程度にシャツを押し上げている控えめな隆起と……。


「……な……」


 ガバリ、とシャツを首元まで大きくめくり上げ、俺は大きく息を吸った。





「…………なんじゃあ、これはぁあああぁぁっっっっっっ!」


 俺の絶叫から正確に十秒後。

 ノックなしに扉が開いた。


「グレン隊長、朝から何を騒いでいるんですか。抜け毛の話なら昨日も一昨日もそうだったんだから、いい加減に慣れて……えっ?」


 欠伸をしながら入ってきた男が、大きく開いた戸口で動きを止めた。

 腹が立つほど整った顔が、目と口を中途半端に開いているために見事なアホ面になっている。

 ……うむ、少し胸がすく。

 いや、今はそんな暗黒面に浸る場合じゃなかった!


「おい、ファザル! 俺は何に見えるっ?」


 俺がそう聞くと、奴は我に返ったようだ。

 素早く廊下を見回して誰もいないことを確かめ、それから室内に入って用心深く扉を閉めた。


「なあ、ファザル。今の俺が何に見えるか、言ってくれ!」

「……何に見えるかと言われれば、女性に見えます。いや、女性というより少女ですね。推定年齢は十三歳。ただし年齢のわりに胸は膨らんでおらず、肉付きは全体的に薄め。しかしその紫色の目は、ロイヴァー公爵家の他には王家にしか出ない色だ。それに、その顔立ちと口調ということは」


 浅黒い肌に緩やかに波打つ黒髪の男は、やや長いくせ毛をかき上げながら俺を見つめ、何度も躊躇ってから言葉を続けた。


「……つまりあなたは、グレン・ロイヴァー隊長、というわけですか?」

「そうだ、その通りなんだよ! しかし、どうなってるんだ、これ」


 俺だとわかってもらえて、俺はほっとした。

 そうすると、筋肉過多な自分がなぜ女になっているか、という異常事態が気になった。

 急いで鏡の前に立つと、寝癖のついたボサボサ髪の美少女が映っていた。



 ああ、これはすごい。

 俺の従姉妹の若い頃がこんな感じだった。ただし、その従姉妹はこの年齢の頃にはもっと胸が大きかった。

 五年前に嫁いでいったが、その弾けるような胸を我が物にした男は、王国騎士団の若い男たち全員に呪われていたものだ。


 と言うことは、あの時の呪いが俺の身に返ってきたのだろうか。

 そんなことを考えている間に、いつもの落ち着きを取り戻したファザルが勝手に部屋を物色し始めた。


「おい、人の部屋を勝手に漁るな」

「……グレン隊長。また変な薬を買いましたね?」

「え、ええ? そ、そんなことは……」

「この薬、あの怪しげな露店で売っていたものですね?」


 ファザルは処分しないまま放置していた空き瓶をつまみあげた。

 身に覚えがある。

 昨夜飲んだ薬だと言うことも否定しない。

 騎士たる者、後ろ暗いことなど何も……何も……ないとは言わない。


「念のために聞きますが、これは何の薬ですか?」

「……薄毛に効く薬だ」

「はあ、薄毛、ですか」

「今度は劇的に効くって話だったんだ! 抜け毛を防ぐとか毛根が復活するとか、そう言う対処療法ではなく、もっと根源的に薄毛に効くと言ってたからっ!」

「根源的に、ですか。なるほど」


 空き瓶をテーブルの上に戻したファザルは、俺をじっと見た。

 全てを見透かすような銀水色の目に、俺はつい目をそらしてしまった。



 お、男なら薄毛に効くと言われれば、興味を持つだろう?

 今現在の俺は薄毛とは無縁だ。しかし、父親も叔父も祖父も大叔父もハゲ……いや薄毛となれば、気になるのは当たり前だろう?

 騎士だった叔父が、甲冑を着た時に蒸れなくていい!などと豪快に笑っていた叔父貴が、鏡の前で真剣に毛生え薬をつけているのを見てしまったら、気になって仕方なくなるのは当たり前じゃないか。


 そう、これは呪いなんだ。

 二十代まではフサフサなのに、三十路を過ぎると急に頭髪が薄くなるなんて、呪い以外の何物でもないではないかっ!


「……まあ、確かに劇的に効いたようですね」

「は? 何を言っている?」

「隊長の家系は男性ホルモン過多なようですから、女体化なら根源的な解決法と言えなくもないですね」

「ああ、なるほど! そう言われてみれば確かにそうかもしれないな!」

「そうでしょう? ……ってアンタはバカか! ロイヴァー公爵家を潰そうと企むどっかのお貴族様が、練りに練って後継ぎのアンタに仕掛けた嫌がらせに決まっているだろっ!」


 突然、ファザルがキレた。

 いつもの丁寧な口調を放棄して、ぐぐっと俺の顔に顔を寄せてきた。

 に、睨むなよ。

 それともあれか? その無駄に整った顔を自慢しているのか?

 淀み拗れた貴族と違って、多様な混血が生み出す庶民の美貌というものは、妬みを差っ引いてもとんでもないものだからな。


 そんな事を考えていたら、強烈なデコピンに襲われた。


「何をする!」

「このボケ上官野郎! ぼんやりとつまんねぇ事を考えている暇があったら、さっさと服を着ろっ! 俺の嗜好を忘れたのかっ!」

「は? お前の嗜好? 重度の熟女好きなフリをして寄ってくる女を追い払っているけど、本当はウブな十代前半の貧乳を崇拝する変態野郎だろ? ……あ」


 俺はやっと思い至った。

 そうだ。目の前の混血イケメンは変態だ。

 ベロンベロンに酔うと、巨乳は滅びろとか、恥ずかしがる少女の貧乳を揉みたいとか抜かしていた、極めて偏った性的嗜好の男だった。


 ……つまり、今の俺はこいつの嗜好のど真ん中だったりする。

 こ、これは確かに危ないなっ!

 本気で青ざめた俺は、慌てて毛布をひっ被った。

 

 

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