ぼくのふのえねるぎー
友だちとケンカした。
先生に怒られた。
母さんにも怒られた。
気に入ってた消ゴムがなくなった。
終わらせないといけない課題がぼくだけ終わりそうな感じがしない。
友だちと仲直りできない。
最近、嫌なことばっかりだ。
もやもやして、イライラして、体の中に黒くてドロドロしたものが溜まっていく。
このままでは、もうすぐ容量いっぱいになってしまう。
きっと臨界点突破ってやつだ。
突破しちゃったらどうなるのかな?
ドロドロがゆっくりと溢れだして、周りの家とかを飲み込んじゃうのかな?
バーンと破裂して、ドロドロが半径数キロメートルに渡って飛び散っちゃうのかな?
そうなったら世界は大変だ。
突破される前に何とかしなくては。
このドロドロ、ぼくの負のエネルギーを、なんとか有効活用できないだろうか。
そうだ。
負のエネルギーなんだから、これを必要としてくれる人に売ろう。
そうだな、うん、魔界への輸出だ。
魔界ではきっと、負のエネルギーは需要があるはずだ。
ぼくの負のエネルギーを、魔界へ輸出する。
そしたら、魔界からは引き替えに正のエネルギーが輸出されてくる。
魔界には正のエネルギーはいらないからね。
例えば、子猫を見て可愛いな、守ってあげたいなって思う心。
魔界人にそんな心は邪魔だから、人間界に輸出する。
そうすると、子猫を見てた魔界人にぼくの負のエネルギーが輸出されて...
黒くてドロドロした嫌な気持ちが入った魔界人は、子猫を...
ダメだ!
ぼくの負のエネルギーのせいで、可愛い子猫がひどい目に遭ってしまう。
そんなのダメだ。絶対ダメだ。輸出はダメだ。
...
そうだ。
エネルギーなんだから、不足しているエネルギーに当てよう。
石油資源はいつか枯渇するってきいたことあるぞ。
黒くてドロドロのぼくの負のエネルギーは、そういえば原油に似ている気がする。
ぼくの負のエネルギーを精製して、ガソリンスタンドに売ろう。
今度はエネルギー同士の交換じゃなくてお金になるし、ぼくは大金持ちになれるぞ。
そして、ぼくの負のエネルギーは色んな車を動かすんだ。
ぼくの負のエネルギーで走る車。
... 精製したとはいえ、なんだか真っ黒い排気ガスが出そうだな。
ぼくの負のエネルギーは、排気ガスになって空気中に漂い、いつしか都市を暗く覆うんだ。
光化学スモッグ注意報が毎日出て、校庭で体育が出来なくなる。
学校のプールも中止だし、外遊びもダメって言われる。
大気汚染は深刻な社会問題になって、東京オリンピックの開催も再検討が必要になる。
ダメだ。
ぼくの負のエネルギーのせいで、そんな世界を巻き込んだ社会問題が起きたら、賠償金が大変なことになる。
宝くじの一等賞を当てても返せない額なんだろうな。
負エネルギーのガソリン化で儲けたお金だけじゃ足りなくて、ぼくは小学校を辞めて働かなくちゃいけなくなる。
しれに、プール中止も外でサッカーとかが出来なくなるのも嫌だし。
ダメだ。ダメダメ。ガソリン化はやめよう。
...
そうだ。
真っ黒を活かそう。
使うときは水で少しのばして使えば、そう、黒いインクだ。墨汁でもいい。
ぼくの負のエネルギーで字を書けば、きっと迫力のある字が書けるぞ。
お化け屋敷の看板とかにぴったりだ。
全国のお化け屋敷の看板をぼくの負のエネルギーインクで書き直そう。
お化け屋敷に入る前から、ドロドロした暗い気持ちになれる。これは発明だ。
怖い話の本を印刷するときにもぼくの負のエネルギーインクの出番だ。
怖くない話まで怖くなっちゃうぞ。
本当に怖い話だったら、ぼくの負のエネルギーインク効果で怖さ倍増。
大人だって一人でトイレに行けなくなるほどだ。
ホラー漫画なんかに使っちゃったらもう大変だ。
ぼくの負のエネルギーインクで描かれた悪霊やゾンビは実体を得て紙面から具現化し、人々を襲う。
世界に誇る日本の漫画は、世界中を恐怖の渦に巻き込んで、そして世界は滅びるんだ。
ーーって、ダメだ!
世界滅ぼしちゃダメだ!
負エネルギーインク化も却下だ!
何てことだろう。
なんて恐ろしいんだ、ぼくの負のエネルギーは。
どんなに考えても、有効活用が思い付かない。
むしろ、どんどん悪くなる。
ぼくは寝ないで考えた。
このまま負のエネルギーを放っておいたら臨界点突破で町が呑み込まれるし、
何かに使っても罪のない可愛い子猫がひどい目に遭ったり、大気汚染で賠償問題になったり、世界にゾンビが溢れて人類滅亡したりしてしまう。
可愛い子猫や世界を救うために、ぼくは一体どうしたらいいんだ。
ぼくは考えに考えた。
そして決意した。
とりあえず、友だちに謝ってみよう...