ある小さな恋の物語⑧catastropheの手前⑧
「誰に似たとかではない、自分は自分。
そんな揺るがない所を持っているつもりですが、心の隅っこで"本当に自分は誰に似たんだろうなあ"と思う時があります。
まあ、思うというか軽く考えるだけなんですけれどね、世間的に言えば半分は父上の血だとは判ってはいるのですし」
そっぽを向いてしまった賢者の視線を戻すべく、サブノックの優秀な武人はそんな言葉を口にする。
それなりの賢者との付合いでこの手の発言をしたなら、反応を返してくれるのは判っていた。
「……だったら、それでいいじゃないか」
「ええ、でもそう思える様になったのは、賢者殿がよく"私は私だ"と、仰っていたからですよ」
予想通りの反応を返してくれたので、気分を良くした護衛騎士は、賢者が聞きたがっていた話しを少しだけ口にする事にした。
「サブノックの武骨な武人達に威圧に一歩も引かずに、意見を仰っているその姿は、護衛騎士になりたてだった少年に、衝撃的で印象的で強烈でしたから。
剣も、何も武器らしい武器を手にしてない"御婦人"が、まるで怖いもの知らずのやんちゃ坊主の様に売られた喧嘩を買っている。
ストラス家の武人として育てられていた、少年の価値観を一度ぶち壊して作り直させるには、十分な姿でしたよ。
だから―――」
そこで”賢者の聞きたがっていた”話しをする為に勇気を出す為に少しだけ緊張して、息を吐く。
「私が、伴侶に求める―――というよりも、惚れるとしたなら、そんな所を携えているお嬢さんになりそうです。
外見云々よりも、ちょっと人との交流が苦手で、周囲に誤解を去れようとも、真直ぐ自分にとって大切な物を貫き通せる、そんな強さを持っている人が良いですね」
勇気を出して告げた内容は、相手を呆れさせて、少しだけ嬉しそうな表情を浮かべさせるのに成功する。
「そんな、殿方に歯向かうなんて、サブノックのお嬢さん達には、ありえないことじゃないか」
「ええ、そうですね。だから、わたしもスパンコーンみたいに、この国に突然やって来た異国の淑女に恋をするかもしれません。
その時は、応援をよろしくお願いしますね―――"母上"」
生涯、口にする事がないだろう呼称の想いを込めて、一生に一度の願いを口にした。