表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
83/180

行きはよいよい、帰りはどうだ?その②

随分と久しぶりになるその②です。

挿絵(By みてみん)

「……ふと思ったんすけれど、俺達……いや、俺を含めたアトになるんすかね?。帰りというか、これからどうするんすか?」

(その、ぐったりしている”ウサギの賢者"殿も含めて何すけれども)


そんな事を尋ね、口には出せない、頭に拾ってもらう意見を浮かべながら、シュトは暖かいカップに手を手を伸ばした。

口に含んだなら、少しだけ焦がした様な甘い匂いと共に味が広がる。


"喫茶店"壱-ONE-"にて、お代わりをしても構わないという言葉に甘えて、2杯目まで冷たい物を一気に飲んでいたので、今度はゆっくりと味わって呑めるようにと、3杯目の飲料は温かい物にして貰っているシュトであった。


『どうせなら、飲んでみたことがない物でって、殆ど飲んだ事はないんですけれど、お薦めな良いものがありますか?』


と、注文リクエストをしたならアイリッシュ・コーヒーを出して貰う。


本来ならアルコールを使っている飲料ホットドリンクらしいのだが、シュトも一応未成年という事もあって、喫茶店のマスターのウエスト氏がノンアルコールカクテルを駆使して、風味を見事に再現して作ってくれていた。


これも随分と気に入った少 シュトは、寒い時期になったら、また美味いだろうなと思いながら同じ様にアイリッシュ・コーヒーを優雅に飲んでいる、この国の英雄で美人の貴族で軍人のアルセン・パドリックを見つめた。


その膝の上には、ぐったりしているウサギのぬいぐるみ状態で一応この国最高峰の賢者は、"じっくり鑑賞したいので"という理由ヘリクツと共に、とても良い笑顔の美人の貴族の膝の上に腹這い状態で乗っている。



小一時間程前、アルセンが合計10ッ本の指を巧みに動かして、悲鳴にならないテレパシーを聞こえる一同に響かせて、どうやら軽く尋問みたいな物が行われたのは窺えた。



「そうですねえ、シュト君達はロドリー・マインド邸に本日から世話になりますから、最終的にはそちらという事で。

アルスは、私が先程話していた通りで、リリィさんにルイ君にキングスのお弟子さんのシノさんですか、今はもうマーガレットさんのお店で合流をしているでしょう。

特に、今日中に大きく考える事はないと思いますけれども」

《あと、この不貞不貞ふてぶてしい賢者に関してですが、どうやらこの姿ならではですけれども、"魔法の箒"で飛んで来たみたいですね》


"魔法の箒"と言う単語ワードに、テレパシーでの会話に参加をしていない一同も思わず視線を、アルセンの膝の上で腹ばいで伸びている、ウサギの姿をした賢者に注ぐことになる。


最初こそ視線には"信じられない"という感情を含んでいたけれども、中身は兎も角、外見は幻想的ファンタジー絵本ワールドから出てきたような姿を見て、直ぐに"られない"部分は、各々《おのおの》払拭していたようだった。


シュトも"今日はもう特に動きがない"という言葉に、少しばかり安堵をしながら、頷いて返事を行う。


「確かにそうですね。

それじゃあ、明日集合っていうか、もう今日の事じゃなくて"明日"どうするべきかを考えた方が良いって事になるんすね」

(魔法の箒で空を飛んで帰るっていうのは凄いですね、"ウサギの姿"ならではって感じですか。

ああ、そう言えばロブロウの時も、イグニャン……じゃなくって、ワシのイグさんに掴まって、地形無視して行動してましたもんね。

でも、何にしてもアルス達よりも早く、鎮守の森の魔法屋敷ですっけ、そちらに戻るというか、帰らないと行けないんですよね?)



アルセン説明に十分納得は出来たけれども、その膝の上 で伸びているウサギの姿をした賢者は、そろそろ鎮守の森の魔法屋敷とやらに戻った方が良いようにも思える。


(もし、戻っていなかったなら、アルスが言うには、リリィのお嬢ちゃんが大泣きしてしまうかもしれないし)


《それは、勿論リリィとアルス君が戻るまでには戻るつもりだよ。でも本当、ロッツ君が許してくれるなら、イグさん借りて、獲物にされている巣に持ち替えられているウサギの恰好で構わないから、運んで欲しい。

ワシの脇が死んでしまったから、魔法の箒に跨って掴まって、空飛んで帰る気力が殆どないよう》


誰に拾われて読まれても構わない"意見"として、シュトは頭に浮かべていたのだが、動きは全く微動にしていない賢者が、その気持ちを拾い読んでテレパシーで返事を返していた。


「明日は、私は普通に課業があって出勤ですからね。

ロブロウでの報告書レポートが、もう少しで一段落が付きそうですから。

明日、お話に参加させて貰えるなら、私は課業後になりそうです」

《気力がないなら、魔法の箒に縛り、括りつけて飛ばして差し上げましょうか?》


シュトにはまるで教え子に座学を指導する時のように、極穏やかに語りかけながらも、自分の膝に乗っけている、軍隊時代の先輩には辛辣な物言いをしていた。


そこに今度は、午後から色々と王都での情報を纏めたアプリコットが会話に、卓上一杯に広げていた資料を手際よく纏めつつ加わる。


「私は、王都での行動は、もう暫くユンフォ様にお話を伺って、これからの予定を立てるつもり。

取りあえず何にしても、アトの検査の予約は物凄く順番待ちになることみたいだから、先ず明日はそれから。

受付も午前中のみらしいから、今日はもう無理として明日の朝一ね。

予約を入れてからでも最短で、月の一回り先ぐらいまでは予約が常に入っている状態らしいから、その間も役所とかで詳しく聞いておくわ」

《魔法の箒にぶら下がっている賢者殿か……。でも、それだと帰ってから自分で解くの大変じゃないかしら?、あ、でもナイフがあるから、それで内側からいけるかしら?》


口では極々真面目な、明日からの王都での行動案を口にしながらも、テレパシーで伝えてくるのは、ウサギの姿をした賢者を、真面目な調子で揶揄うものだった。


《縄を解く前に、吊るされたまま飛ば された後の、"着地"の心配をして欲しいんだがね、淑女フロイライン……》


だが、不貞不貞ふてぶてしいウサギの姿をした賢者も、こういった応酬は慣れているのでそんな返しをした後に、更にテレパシーで少しばかり真面目な物にして飛ばす。


《でも、実際問題、魔法の箒はマーガレットさんの店のはす向かいにある、本日は臨時休業のバロータ爺さんのパン屋の中に、隠しておいているんだよね。

外からは見えない場所にいるから、リリィやアルス君の視界には入らないとは思うのだろうけれども、ワシが帰る時に、|そこまで《バロータ爺さんのパン屋》まで行かなきゃならないんだよね~》


(あ、やっぱり、何にしても最初に戻るっていうか、バロータ……さんのお店に置いていたんですね)


バロータ爺さんのある意味では"正体"を知っている立場として、シュトが少々呼称に戸惑いながらウサギの賢者のテレパシーに反応していると、アプリコットもそれに続く。


「とりあえず、私は一度、シュト達が世話になるっていうロドリー・マインド"様"に御挨拶をしたいから、この後一緒にマーガレットさんのお店に伺うわ」


《じゃあ、何にしても帰る際に使用する魔法の箒を使う為には、ウサギの賢者殿を、バロータ様の営んでいるパン屋さんの所まで、運ばなければいけないってことなのね。

アルセン様はどうするのかしら?。

確か今日アトには会っているけれども、そんなにお話をしてはいないのですよね?。

良かったなら、御一緒しませんか?》


アト・ザヘトがロブロウでアルセンに"天使さま"という例えを使う程、随分と懐いていた事はアプリコットの記憶に新しい。


美人の貴族で軍人が良かったなら、先程の話を鑑みるに、逢うにはあったがほんの僅かな時間しか逢えていないし、会話すらしてないようなので一緒に赴いてくれたのたのなら、アト(心が幼いお兄さん)が、大層喜びそうに思えた。


ただ、本当に偶然ではあるのだが上京してきたばかりの自分が、"誘い"の言葉を(一応)異性である、アルセンに言葉に出すを無意識に抑えて、テレパシーで誘う。

そんなアプリコットの誘われた方はサラサラとした長い金色の前髪を、申し訳なさそうな表情と共に、左右に頭を揺らし、辞退をテレパシーでもって告げる。


《すみません、アト君とゆっくりと話すのは、とても癒されそうですが丁度職場(軍学校)に近いんで、立ち寄って明日の仕事の分量を確認しようと思っています。

それに、これからはそれこそ沢山会えますからね、明日にも打ち合わせなどをせずとも、早速会うかもしれませんしね》


そんな風に穏やかに話が終わるかと思いきや、次の間に少しだけ"年上の威厳"と例えるのに相応の、綺麗ながらも眼元に険を添えて更にテレパシーは続けられた。



《……最後に、淑女フロイラインアプリコット・ビネガー嬢。

全く互いに"その気がない"のと、外見と中身が天と地程の差があったとしても、男女の関係を疑われそうな振る舞いを、声を出さずに行った事は、とても懸命だと思います。

田舎ロブロウ程ではないかもしれませんが、この王都も、ここにいる皆さんの様に視野が広い方ばかりでもありませんし。

思い込んだなら、そのまま"噂"として流されてしまう事もあるでしょう、お気を付けください》


《……ああ、そうだった、アルセン様って、現在進行形で有名人で美形でしたね。ご注意、ありがとうござました》


ほんの少し前だったら、アプリコットの提案を承諾されてアルセンと行動を共にする事で、ロブロウであろうが王都であろうが、変な噂がたとうとも微塵にも気にしなかったが、現在では事情が違う。



《本当に、迂闊でした。留意して、これからは言葉も考えた後に行動します》


今まで悪い噂に包まれていても、仮面をつけていた事で総合的に守られていた物があったと、喪った事で改めてむざむざと感じ、反省し殊勝な返事をテレパシーでもって行っていた。


大人しくさえしていれば、外見上は淑女で通じる様になってしまった小柄の田舎から出てきた御婦人の素直な返事に、アルセンの方はあっさりと険を引っ込め、更には困った様にも見える笑顔を浮かべる。


《いえいえ、私も自意識過剰に取られても呆れられても仕方がない内容を、真摯に受けとめて貰った上に御理解頂いて、有難い限りです》


そんな俄かに始まった"大人"のそう言ったやり取りのテレパシーでの会話に、勉強は好きではないが、頭の回る少年は諸々を察し、もくして温かく甘いコーヒーを啜りながら動向を見守っていた。


(そっか、そういう事にも気を使わないといけない面も、王都で は出てくるんだよなあ。仕方ない事なんだろうけれども、面倒くせえなあ)


言葉に出されて行われていた会話に関しては、丁度区切りが良かったので新たに言葉を挟む事もなく、自然の流れで進んで行くテレパシーのを感想を、シュトは胸に浮かべた。


別に聞かれても構わない調子で考えを浮かべていた少年シュトの呟きの様な感想を、アルセンがを拾い読み、一瞥した後に小さく頷く。





《"面倒くさい”というのもあるかもしれませんが、今日は"私服"でもあるので、特に注意をしておかないと、厄介な事になりかねませんからね。

シュト君もその内話を耳に入れると思いますが、アルスもあの子はあの子で、それなりに有名人ですから。

でも、教え子と教官という立場で、それは周知なので本日は気軽に一緒に行動をさせてもらいました》


「……」


教え子(アルス)の親友で、自身アルセンの親友でもあった存在の教え子であるシュトの感想に、説明を添える様にテレパシーを送ったのなら、少しばかり考え込む様に少年は、再びカップに口をつけていた。


《えーと、それじゃあ、ワシをバロータさんのパン屋さんの所に運んでくれるのは、アプリコットさんとシュト君でという事になるのかな?》



アルセンの膝の上で腹ばいの俯せ状態になっている、ウサギの姿をした賢者が"敢えて空気を読まない"と言った調子で、根元から垂れている状態の耳を僅かに動かし、テレパシーで尋ねた。


これには、先程のやり取りから気持ちをさっくりと既に切り替えて、荷物を纏め始めているアプリコットが返事をする。


《そう言う事になりそうね。散々擽られて、笑い続けてぬいぐるみの身体は満身創痍かもしれないけれども、取りあえずバロータさんのパン屋さんまでは運ぶから、そこからは自力で帰って頂戴ね。

あ、でも、思えば私はバロータさんのパン屋さんに行った事はないんだわ。

住所も聞いているし、凡その地図も頭に入っているけれど、実際には行ってはいないからなあ。と、言う理由わけでシュト、場所の方は大丈夫?》


アプリコットはテレパシーで今回関わった人々に全体的に伝わる様に"飛ばしている"ので、自然と視線はシュトに集中することになり、ノンアルコールのアイリッシュ・コーヒーの味わっていた少年は少しばかりドキリとする事になる。


(場所は確りと覚えたんで大丈夫です)


―――何せ、胃袋も雰囲気も、がっちり掴まれた菓子職人パティシエマーガレット・カノコユリの斜向かいにある場所である、シュトからしたら忘れたくても忘れられるものではない。


ただ、この事を心に"浮かべたなら"この場にいる一同に、知れ渡ることにもなるので必死に頭と心では一切せず形せずに、

"バロータ爺さんのパン屋さん場所は覚えている"

という事を強く思い浮かべて、返事をしていた。


《……やけに力強い言い切りの返答だねえ》


だが"鳶の眼は遠くの事まで目敏く発見し、ウサギの耳は、どんな小さな音も良く聞こえるという意味から熟語で、諜報活動の部隊の名称なった所に所属し、”トップ"となっている存在には、何やら勘付かれた様子である。


(そりゃあ、斜向かいが今もアトを保護して貰っている場所ですし、多分こうなったらこれからよく世話になりますからね。確り覚えてないと、これからの生活がありますから)


すっとボケるよりも、ここは敢えて強く否定をせずに言葉を皮肉屋の少年は浮かべる。


《ふ――――――――――――ん……おや?》


シュトが敢えて真面目にも応えた事に関しても、何やら引っかかるものを感じた様な反応をテレパシーでしたのと同時に、襟首からウサギの賢者はその身体を掴み上げられた。


勿論、ウサギ専用の靴を履いた脚を宙に浮かせた状態で掴み上げているのは、不貞不貞ふてぶてしい賢者を膝の上に載せていたアルセンである。

本日は私服の美人の貴族で軍人は、ある意味では器用にウサギの賢者を掴みあげていない方の手で、仕上げの様にカップに入っていた飲料を飲み干していた。


それから空になったカップを、ソーサの上に"カチリ"と小さく音を鳴らして置いた後、再び上等な仕立てのコートを纏った、ウサギのぬいぐるみ両脇に、手袋を嵌めた手を突っ込み抱えなおす。


極上の綺麗な笑みを浮かべつつ、傍から見たならどんな"仕掛け"があったのかという位、両脇に手を突っ込まれてから、しな垂れていた長い耳をそばだてている、ウサギのぬいぐるみを見つめた。


これまでは、周囲に聞こえても構わない様にテレパシーを飛ばしていたけれども、今回は眼前の玩具の様な眼鏡をかけているウサギの姿をした賢 者にのみ聞こえる様に、アルセンはダイレクトに送り付ける。


《シュト君が"バロータさんのパン屋さんの場所は覚えている"と、アプリコット殿に明言しているのに、何をそんなに興味津々で意味ありげな、必要以上の反応をテレパシーを飛ばしているのですか?》


《若人の若さの眩しさと甘酸っぱさに嫉妬しました、ごめんなさい、これ以上擽らないでください、後生です、お願いします》


とても綺麗な笑顔を浮かべている後輩アルセンが、とってもご立腹なのを察した先輩《ウサギの賢者》は、勝てない相手に行う自分の中で伝統的な戦法、当世風スタイリッシュに潔く降伏をする旨を、テレパシーで以て申し上げる。

だが、その赤裸々すぎる"降伏”の内容にされた方は呆れつつ、一般的に見たなら半眼でも大きめに見える緑色の眼で見据え、降ろす事はなく抱え上げたままとなった。


円らな眼を線の様に細めている先輩《ウサギの賢者》へと、後輩アルセンは更にテレパシーに続ける。


《大方、マーガレットさんとシュト君の様子を見ていて、薄々勘付いているんでしょうけれども、必要以上に揶揄からかうのは私が許しませんよ?》


2人が一緒にいるところを、見たこともないのにシュトの態度からそれなりに察していたが黙っていた大人アルセンが賢者に釘を刺す。


《はーい、わかりました》

《数えで36才にもなろうっていう人が、子どもみたいに返事を伸ばしても全く可愛くないので辞めてください……本当にもう》


取りあえず、ウサギの姿をした賢者の両脇に手を突っ込んだままだが、宙に浮かせたままの状態から、膝の上に向き逢う形に座らせる。


《まあ、若人のそういったやり取りを羨む気持ちは、正直解るような気もしますけれどもね》


"このお菓子、本当に優しいっていうか、思いやりに溢れた味を出してますね"


"う~ん、美味うまいって感じるんだけど、何かオレとシュトさんの感じ方が違う気がする"


ロブロウで、シュトが頬を赤く染めつつマーガレットが"差し入れ兼お土産で"と、アルセンに託した菓子を口に入れたと同時に、そんな感想を洩らす姿はよく覚えている。


アザミの店ではその様子を思い出し、もしかしたら位には考えていたし、当時同じ現場に居合わせたルイが口にしていたのも印象的だった。

そして現在、実際にマーガレットに関するシュトの反応を見たならば、どうやら自分アルセンの勘は外れてはいなかった事に確信を得るに至る。


多分、新たにザヘト兄弟の見人の立場になったアプリコットは、マーガレットにはまだ会ってもいないが、この反応に何かしら察している物もあるだろうと思える。

本来なら、何処ぞのイタズラ好き(ネェツアーク)と同じ行動からかいをしても、可笑しくはない性格の持ち主(アプリコット)ではある。


けれども、今回に限っては自身が身につまされるような想いをしている、同じ様な存在ダガー・サンフラワーが身近になった為か、察してはいるのだろうが、経過見守り(スルー)する様子である。


《さて、それでは、本日は解散としますか》


テレパシーで宣言する様にそう告げて、ウサギのぬいぐるみに扮した賢者を抱えて、アルセンは身軽に立ち上がる。


「シュト君、"預かり物"のぬいぐるみなのに、本日はじっくりと見せて頂いてありがとうございました。

こうやって膝の上に乗せていた事で、凡その重さや中に詰められている物も見当が付きました。

本当なら掻っ捌いて、中身と原材料もみたい物ですが流石にそれははばかられるので止めておきます」


丁寧ではあるが物騒な物言いに本気とも冗談か判らず、シュトが狼狽えている内に、茶々をいれる事を辞め、そばだてていた物を再び曲げて、ぐったりとしたぬいぐるみに徹する賢者を、アルセンから差し出される。


その意味を理解して受け取る為に、シュトはカップを置いて慌てて手を差したのと、先程の発言に対して、おかしくない返事を考えて口から出す。


「ははは、掻っ捌かれると持ち主のお嬢さんが大泣きしちゃいそうなんで、勘弁してください」

(取り敢えず、ぜってえ、王都においてはアルセン様は絶対に怒らせない方が良いと、アトにも言い聞かせておきます)


アルセンとウサギのぬいぐるみに扮している賢者が、テレパシーにおいてどんな会話行っていたかは計り知れないが、どうやら美人の方に軍配が上がったのは、皮肉屋の少年は察していた。


そして、これからも敵に回したり、無意味に反抗する意思もない意味も込め、感想を胸の内に浮かべていたなら、アルセンは満足気に、にっこりと綺麗に微笑んで頷き、きびすを返して、背を向ける。


《ええ、口出しや意見をするにしても、決してシュト君に対して理不尽事は言うつもりはないので、弟 のアト君共々そうしてくださると、幸いです。

でも、シュト君と一度は本気の喧嘩をしてもみるのも、いいかもしれませんね》


そう言って、振り返りもしないが手袋を嵌めた手が"安置場所に置くほどではないですから"と帯剣したままの細剣の柄の部分触れつつ、テレパシーで、今回はシュトにだけ向けて伝えてくる。

シュトには自分意志を浮かべる事で、それを伝えるのに限定する方法などは判らないけれども、取りあえず背に向けているアルセンに、返事も兼ねて正直に気持ちを浮かべた。


(冗談にしては、きつ過ぎますよ。ロブロウで、グランドール様と本気ガチを目の当たりにして、アルス共々十分肝が冷えたんで、喧嘩だけは例え銃を使えても謹んで辞退させて頂きます)


かじる程度に教わった丁寧な言い回しを、ユンフォに挨拶を告げようとしているアルセンに向けたなら、品よく笑みを浮かべられるに留まった。



(多分、賢者殿がイタズラしようとしたのを助けて貰ったんだろうけれど、あんまり助けて貰った様な気がしないのは、俺が子ども(ガキ)だからかねえ)


そんな事を考えながら、アプリコットの方に視線を向けると、取り合えず、移動する用意は出来た様子だった。


自分シュトの腕の中にいる、賢者は相変わらずぐったりとしているけれども、特にこれ以上何かしらを伝えてくるという感じでもない。


「それじゃあ、シュト。一度、マーガレットさんのお店の方に向かいましょうか」


椅子から立ち上がり結構な荷物を、片腕で抱えてているアプリコットから呼びかけられて、シュトも頷きぬいぐるみ状態の賢者を抱えて席を立つ。


「あ、はい、判りました、あ、そうだ」

ただ、席を立つと同時に雇い主と自分の”荷物”を見比べて、提案を口にする。


「アプリコット様、荷物は重ための物は俺が持つんで、このぬいぐるみと軽めの物頼んで良いっすか?」

「えっ?!、私がウサギのぬいぐるみ?」


あからさまに困惑した表情を浮かべて、シュトが抱えているぬいぐるみを殆ど黒に近い緑の瞳で見つめて、アプリコットが目に見えて、狼狽する。

その反応に今度はシュトが、苦笑いを浮かべながらぐったりとしたウサギを差し出す。


「いや、俺が抱えているより、(年齢的には兎も角)外見上は、アプリコット様が抱えていた方が、全然まともだと思うんですけれども」

「……何か、含みを持たせた言い方しなかった?」


「トンデモゴザイマセン」



鋭い貴婦人の反応に、シュトは短い付き合いながらも、不貞不貞ふてぶてしい賢者から学び取っていた要領で、まだまだ硬くわざとらしいながらも笑顔で返答をして誤魔化した。


シュトの貼り付いた笑顔とぎこちない態度に、もう少し追究をしようと思ったが、もう立ち上がっている状態でそれを続けるのも、周囲から余計な注目を集めかねない。

時間的に、”休憩しようか”というもので喫茶店"壱-ONE-"に訪れている客人は比較的多くなっているので、ここで自分が変にごねるのは良くないというのが、解る。


(私が、ウサギのぬいぐるみを抱えて移動する……?。うーん、ないわよねえ)


テレパシーにするまでもなく、それなりにある胸の内で、思わずそんな事を呟いた。


これまで”可愛らしい”ものはそれなりに好きだけれども、諸事情で決して身につけたりする事の無かった貴婦人でもある人には、かなり難関を提示されたような気持ちになっていた。


「にゃあ、アッちゃんが抱えても、ちっともおかしくはないにゃあ~」


これまである意味では不思議なほど、会話に参加する事を控えていた、歌って踊れる王族護衛騎士ライヴ・ティンパニーが突如として言葉を挟んでくる。


いつの間にか椅子から立ち上がり、猫の様に足音を立てず、実に素早くするりとシュトに近寄り、ぐったりとしているウサギのぬいぐるみを手に取って、未だ躊躇っているアプリコットに差し出していた。


「それにやっぱり、さっきアッちゃんも言ってたけれど、アトちん兄ちゃんがぬいぐるみを抱えている姿は非日常的シュールなんだニャ~。

一応、アッちゃんは"地方の貴族の子女"でやっていくんなら、大荷物はアトちん兄ちゃん……」


「そろそろ"シュト"位の呼び捨てで頼みます、ライさん」


いい加減、猫の鳴き声をつける魔術のお姉さんからの、自分に対する呼称をどうにかして欲しいと考えていたので、この際にはっきりと言った。


ついでに、ウサギのぬいぐるみを受けたられた事で、空いた手を荷物を抱えているアプリコットの方に伸ばす。


「アプリコット様、ライさんの言う通りだし、背が高い俺が荷物抱えている御婦人の後ろで、ぬい ぐるみを抱えていたら、やっぱりいい笑い者になってしまいますから。

と、いうわけで持たせてもらいますよ……」

「あ、ちょっと、気を付けてから持たないと!」


"大事な物でも入っているのだろうか"と考えている内に、一応気を付けて荷物が入っている"口”の大きなのが特徴的な鞄についている、”持ち手”にシュトが手を伸ばして握る。

シュトが握った事で諦めが付いたのか、アプリコットが再度”気を付けて”と口にして離した瞬間に”ぬわっ?!”と、親友アルスが、よく驚いた時に良く出す言葉と共に感嘆符を出してしまっていた。


それと同時に荷物を手にした腕が、アプリコットが持っていた荷物の重さに似合った引力に引かれる。

だが、銃を扱う事でそれなりに身体を鍛えている少年は、恐らく一般的な同年代の同性ならな落としていただろう荷物を、床につけることなく抱えていた。


「……っ!」

「おお、良く荷物落とさずに堪えたニャ~。じゃあ、アッちゃんウサギのぬいぐるみをどうぞだニャ~」


ライがシュトを軽く褒つつ、未だに躊躇っているアプリコットにウサギのぬいぐるみをグイと差し出す。

因みにぬいぐるみに徹している賢者の方は、引き続きぐったりとしていて、心境としては"無事にバロータ爺さんのパン屋さんに無事に運搬してくれたならそれでいい"という心境の様だった。


「にゃあ、アッちゃん覚悟を決めてぬいぐるみを抱っこするんにゃあ。

やっぱり、シュトちんよりも小柄な御婦人が持っている方が少なくとも"目立ち度"は減るんだニャ~」

《にゃあ、それに小細工をするなら、アプリコット様の方が良いんじゃないかにゃ?》

テレパシーを出来る事なら、使用を控えたいとしている歌って踊れる護衛騎士が使っている事で、伝えている事が"重要"な事であると、ロブロウからやって来た2人は察した。


「シュトちん?」

(小細工っすか?)


ただ、予想以上に重量のあった荷物を確り持ち直したシュトとしては、"アトちん兄ちゃん"から"シュトちん"に変わった呼称に、些か文句をつけたかったけれども、小細工という言葉が気にかかる。


シュトと行動を共にする事になるアプリコットの方と言えば、”小細工”というテレパシーの方に意識と、その重要性に気が付く。

その重要性に、気持ちが向けられたこともあってウサギのぬいぐるみを抱えるという躊 躇いは、一時的に引っ込んだ様子で、アプリコットはライからぐったりとした賢者を受け取っていた。


「そうね、覚悟を決めるしかないみたいね」

《本当、そう言えば、"バロータ様”のパン屋さん付近に迂闊に近づいたら、賢者殿を抱えたままの姿を見つかりかねないのよね。だから、付近になったのならどうにかしておかないと》


「……」

(あ、そうだった。アトの事だから、マーガレットさんからお菓子を貰ってから、少しは御店の中大人しくしていて、その後はアルスやマーガレットさんがいるから大丈夫だろうけれど……。ジッとはしていない確率の方が、圧倒的にたけえ)


無言で忘れ物がないか確認する素振をしながらも、シュトの方は 実弟の行動動作(パターン)を思い出しながら、これからの事を心配する。


《うーん、それに多分、リリィもアト君がジッとしてないなら、散歩をしたいってなったらそれに付き合うだろうし、ルイ君はもれなくそれについてくるだろう。

アルス君は、護衛だからって絶対にリリィについて行くだろうしねえ。何気に、突破口を開くのに難易度高いかもねえ》


まだまだぐったりとしているが、アプリコットの腕の中に移ったウサギのぬいぐるみを振りをしている賢者もテレパシーでもって、言葉を挟んでくる。


テレパシーは少々ふざけている感じは否めないが、賢者が伝えてくる事は最もな内容で、このまま無計画ノープランで行くよりは、必要な打ち合わせの様にも思えた。


「にゃあ、アッちゃん抱えてもやっぱりそんなに変じゃないニャ~。もし、持ち主の女の子に返すまで見つかるのが恥ずかしいなら、何かしら隠す様にして運べば良いんじゃないかにゃあ~」

《にゃ~、賢者殿発見の大穴は、多分周囲を警戒をしているアルスちん。

勘の良いルイ坊に、賢者様大好きリリィちゃんも、もしかしたなら何かしらの賢者殿検知器(センサー)を働かせるかもしれないにや~。

それに何より番狂わせ(ダークホース)にアトちんかにゃ~、。

にゃあ~、これって見つからないでバロータさんのパン屋さんにまでたどり着けるのかにゃ?》


ライのテレパシーで告げられる内容に、シュトはもしも荷物で両腕が使われていないのならば、腕を組んで考え込みたい衝動にかられていた。


(思えばっていうか、考えてみればそ うだよな……)


親友アルスは穏やかな気質で、天然なところもあるけれども、強くて容赦がない所はロブロウで十分見させてもらった。

それにライの告げるとおり、やんちゃ坊主の鋭さ、強気な女の子の"ウサギの賢者さま"の好きっぷりも、そして弟の一種の神懸った勘の良さは身を以て知っている。


"敵に回す"とい表現ではないのだけれども、この4人の相手をするとなると、"一筋縄ではいかない"という印象イメージだけは、外すことが出来ない。

荷物を抱えたまま、考え込んでいるシュトを尻目に、少人数だが引率となるアプリコットは、別れの挨拶をライに口頭でしつつ、頭の中では対策をテレパシーで発してみていた。



「誉めてくれて、ありがとう。そうね、でも、やっぱり恥ずかしいから極力目立たない様に持って行こうかしら」

《……ねえ、思ったんだけれど、”ウサギ状態”って見つかったらマズい理由って、賢者殿にはあるわけ?。ネェツアーク・サクスフォーンじゃあないんだから、"アト君の迷子の事が心配で、ワシ思わず魔法の箒できちゃった~"とか、いけないの?》


アプリコットは、自分の腕の中に納まるフワフワのぬいぐるみが何とか目立たぬ様に持ち換え、日中は暑かったのでしまっていた自分の上着を取り出し、隠し方を模索しつつ、テレパシーで、そんな事を確認をする。


《うーん、じゃあ、まあマーガレットさんのお店に向かいながら、話しをしない?。

もうアルセンとか挨拶しちゃったし、ここで立ちっぱなしで話をするのは不自然で、印象に残っちゃうよ。それで……、良かったらライさんもご一緒しない?。

というか、ワシ等についてきたくてこっちに来たんでしょう?……わっ!?》


賢者の驚きのテレパシーが出た理由は、アプリコットが上着で"ぬいぐるみ"と思える部分を、丁度隠してしまっていたからである。



上着は見事に"ぬいぐるみ"と見えるフワフワの毛の部分を覆い隠し、アプリコットは何かしらを"抱っこしている"というよりも、"抱えている"という印象となった。


「うん、こうした方が荷物を抱えている様に見えるわね。

万が一にも、上等なぬいぐるみを汚してはいけないしね」

《あら、ライさんそうなの?。

私達はちっとも構わないけれども、一体どうして……ああ、なーるほど》


会話の声はごく自然に落ち着いたものなのだが、テレパシーに関しては語尾の方が上機嫌で何やら"楽しんでいる"雰囲気が伝わってくる。


「にゃ~、ワチシ、荷物運ぶのお手伝いをしようかにゃ。

今日の作業分は、一段落はついたから、アルスちんの届けてくれた資料と併せてアッちゃんの意見も聞きたいからニャ~。

荷物運びつつ、仕上の最終確認にゃあ~」


それから、歌って踊れる王族護衛騎士隊のライヴ・ティンパニーは、舞踊の様に見事に回転ターンをその場で行い、上司であるユンフォ・クロッカスの方を向く。


すると優雅に紅茶を啜る老紳士の傍らに、男性ながらに美人な本日は私服の貴族と、こちらも本日は甲冑を外した凛々しく綺麗な、眼鏡をかけた護衛騎士が真っ赤になりながら、話し込んでいた。

不意に眼鏡をかけた護衛騎士―――リコリスが、相棒パートナーであるライの方に視線を向けたが、チャーミングなお姉さんは、綺麗に爪化粧を施している親指をグッとうえに向けた後に、ウインクまでする。


「ユンフォ様、ワチシ、お手伝いも兼ねて途中までお見送りしたいんだニャ~」


流石に上司で護衛対象になる老紳士ユンフォに失礼にならない様に、グッドサインは引っ込めて、許可の申請をする。

ライの申請の発言にリコが口を丸く開き、軽く固まる。


「リコリスさん、私では相談に乗れませんかね?」

「え、その、だからですね、私は落ち込んでいるというか……」


先程の挨拶から、どういう流れで話し相手となっているのか詳細は不明だが、美人の貴族アルセンとの会話も無碍に出来ず、珍しく情けない表情を浮かべて、再び視線を戻していた。


「ああ、構わないよ、行っておいでライちゃん。荷物持ちを手伝うなら鎧も重たいから、外した方が効率は良いだろうか、そのまま手伝っておいで。

そうそう、思えばアプリコット・ビネガー嬢は上京したばかりで道も慣れてないんだ、これは王都の貴族議員の1人として、護衛騎士を案内につけるべきだね。

だが、私も書物の仕事があるし、リコリスもまだまだ沢山あるからね。

それで私の護衛に関してはリコリスが残っているから、気にせずに行っておいで」


流石にウインクまではしなかったが、老紳士も親指をうえに向けた、グッドサインまで作って、許可を出していた。


ユンフォの許可を得て、相棒リコリスから何やら視線を注がれていたような気がしたが、再び回転ターンし、荷物持ちを手伝ことになった2人を見て、元気よく口を開いた。


「と、いうわけだにゃ~。シュトちん、荷物の軽い方、アトちんの方の荷物はワチシが持つから寄越すニャ!」

「ああ、じゃあ、よろしくお願いします」

(というか、この流れのままで行くんすか?。

リコリスさん、困っているというか、アルセン様に話しかけられて、照れているというか結構な状態になっている様な気がするんですけれど)


確か治癒術師の資格も持っているという、綺麗な護衛騎士は顔を真っ赤にして、親友アルスの美人の恩師に懸命に話していた。

自身がつい先程出逢ったばかりの菓子職人パティシエに抱いた気持ちがあるからこそ、治癒術師が似たような気持ちを持っていて、それで困っているのに気が付いた。


(でも、リコリスさんの気持ちって、"アルセン様に向いている"物じゃないよなあ)


そんな気持ちを拾い読まれても構わないつもりで、シュトは考えを浮かべたのだが、不思議と、先輩達は誰もテレパシーを返しては来なかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ