ある小さな恋の物語②
「兄さんて私には結構意地が悪いの」
「へえ、そうなんだね、ジニア」
青い髪の、少し垂れた眼をした男の子、スパンコーンは褐色した色の肌の女の子が、話しを興味深く大人しく聴いていた。
2人は賢者が国から与えられている屋敷で、図書室とされている部屋に、藺草で編まれた敷物の上で向かい合う様にして座っていた。
そして、兄に不満を抱いているという女の子の名前は"ジニア・マクガフィン"だと、少女自身から教えて貰う。
スパンコーンの従者(殆ど友だちだと思っている)の、サルドが言う通り、自分達の住むサブノックの西側にある大きな大陸を有する国の女の子だった。
予測した通り、頻発していた竜巻の被害で家族は散り散りになってしまったらく取りあえず、彼女は、手当てした賢者が一時的に引き取っていた。
《スパンコーン様、賢者様が戻られました》
「ジニア、あんたは今日からこのババアの秘書だよ」
大抵扉を開くのが面倒だからと開かれている、図書室のドアにフードを深く被っていて顔の見えないミザルが、テレパシーでスパンコーンとジニアにそう告げる。
それにかぶせる様に、国の紋章を胸元に大きく刺繍された衣を纏った、この国の賢者が現れ、そう告げられた。
「わあ、良かったね、ジニア」
「うん、ありがとう、スパンコーンにミザルに、賢者様」
本来ならサブノックにも、"迷子"を預かる国の機関はある。
けれど、もし万が一"保護者"が現れない場合、"サブノックの孤児"という立場になり、この国の人とされてしまう。
しかしながら、それではセリサンセウムという国で育った娘には、サブノックの文化はきついだろうと、一人称をババアと評する賢者が動いのだった。
「秘書なら、ババア賢者の権限でいつでも止めて貰えるからね。ご家族が万が一の時も」
「賢者殿、万が一なんて滅多な事言わないでください!、今だってお兄さんの話をしてたんです」
"強がっている"のを男の子は、気がついていたから、思わず口から言葉を出してしまっていた。
「こりゃ、悪かったね」
いつも黙って人の話を大人しい男の子が、声を荒げた事に、賢者も、声が出せない従者も、女の子も、そして出した当人が一番驚いて、口を抑えていた。
それから、直ぐに笑い声が響く。
「ありがとう、スパンコーン。あなたは、本当に優しいんだね」
そう言われた瞬間、男の子は頬を赤く染めた。