ある小さな恋の物語⑧catastropheの手前⑤
「判った、色々気を使ってくれて更に心配もしてくれてありがとう、サルド。
夜も遅いから、もう子どもは寝なさい。
どうせ、明日もスパンコーンより早く世話をやいてくれるのだろう?。
賢者殿の世話なら、前護衛騎士の私が慣れているから、安心しておやすみなさい」
《……はい、わかりました、おやすみなさいませ、スパイク様、賢者殿》
一通り"サルドの心配事"を報告をし終えると、恩人で主の腹違いの兄に戻る様に言われたなら、サルドは従う態度を取る事しか出来なかった。
本当は、自分が報告した事で、話しを続けたかったのだけれども、自分はまだ"参加"は出来ないのだと、暗に示されているのも感じ取れる。
冷静に心を落ちつけて報告する為に、浮遊させて携行していた水晶の球を伴ってサルドは、サブノックの賢者の扉のない入り口から退出した。
そして弟の忠実な従者で親友で、将来国にとって有望な魔術師になるであろう男児が退出し、その気配が完全に消えたの感じ取ったなら、スパイクが息を吐き出す。
それを視界の端に入れながら、現状で散々"健康に悪いから"と諫められている煙草を煙管を取り出して、詰めこむ。
けれども、今回はスパイクは"仕方がない"と言った面差しで、その行動を見過ごしていた。
彼自身も、もしここに賢者がおらず酒があったなら、煽りたい気分になっているので、野暮なことと考え、黙っている。
けれどもいつもは、温和な男が睦月になっている事で、相当不機嫌になっている事に、煙管に火をつける前に気が付いた賢者は、その手を止めて語り掛ける。
「……やれやれ、スパイクを南国にまで行かせたというのに。武人の国の方々は、まだまだ野心が尽きないのかねえ」
「賢者殿、その事は夜とは言っても声に出されてする話ではありません。
……それに、南の国の事については、確かに大変な事でしたけれども、私にとっては良い想い出ですから。
気になさらないでください」
スパイクはそう言いながら、珍しく自分から火種となる、火の精霊を呼び出して賢者の煙管に灯した。
「……ありがとうよ」
「いいえ」
スパイクはそんな風に答えながら、南国で出逢った褐色の美丈夫のセリサンセウムの英雄が、もし仮に生きていたのなら、この話を聞いて怒る姿しか想像出来なくて、再び溜息を吐いていた。