ある小さな恋の物語⑧catastropheの手前④
ジニアが初めて恋人の兄であるスパイクと接触した日の夜。
結構色んな事を語り合い、闌な流れも、ごく自然に落ち着き始め、その場もお開きになって、それぞれが就寝した―――少なくとも"子ども"は寝る時間が過ぎた時。
《賢者殿、スパイク様、少しばかり宜しいですか?》
サルドが寝所を抜け出して、賢者の部屋を尋ねたなら、案の定灯りは点いており、スパイクを助手にしながら何やら帳面を認めている所に、声を出せない従者は声で呼びかける。
「サルドか?、どうしたんだい?。お前は確りしているけれど、まだ子どもなのだから早く寝なければ、ダメじゃないか」
スパイクがごく一般的な面倒見のよい兄の様に、弟の従者に呼びかける。
「……珍しいねえ、いつもならスパンコーンに付きっきりなのに……と言うのは、恋人が出来た主持ちの従者に言うのも、あれだねえ。
あんたは特に空気を読める子だからね、恋人達の邪魔をしないし、ババアがこうやって作業をしている所に声をかけるのだって、普段ならしない。
何かしら、心配事でもあるなら、作業しながらになるけれども、ババアに話して見てごらん。
というか、部屋に入っておいで」
サブノックの賢者にそう呼びかけられると、"失礼します"と一言声で断わりをいれたのなら、サルドは魔術を行う際には極力伴っている水晶玉を浮かせて、ただ姿は寝間着で扉のない部屋に入った。
「水晶玉までをつれて、どうしたんだい?。何やら、やけに警戒をしているみたいだけれども」
スパイクが驚き、弟の従者と賢者を見比べている間も、老婦人の帳面を認める手を止めることなく口だけを動かし尋ねる。
《はい、正直に言って、警戒をしています。
その、先程は賢者殿が"話題にするべきではない"といった雰囲気を出されていたので、あそこで中断したのですが》
「そうかい、そして、やはりそれでも何かしら気になって、ババアに報せたくて、育ち盛りの睡眠時間を削ってわざわざこちらに来たというわけだね。
まあ、後は恩人でもあるスパイクの耳にも入れておいた方が良いと思ったんだね―――」
そこで漸く一段落が付いた賢者は、手を止め、水晶玉を浮かせている魔術師の少年の方に眼を向けた。




