ある小さな恋の物語⑧catastropheの手前①
「……スパンコーンは好きな人が出来て、恋人にまでなってしまったというのに。あんたはまだ良い人はいないのかい?」
"トリの市"に自分の秘書と教え子を送り出して、一仕事を終えて天幕に戻ったなら客人が来ていた。
随分と久しぶりにやって来た、元護衛で見張りだった騎士の青年でスパンコーンの腹違いの兄となるスパイクに、丁度一仕事終えた賢者は多少やや大袈裟に語るかける。
スパイクの方は賢者の方から、色々と手紙貰っていて内向的で自分にだけよく懐いてくれた弟が、"恋人"が出来た事で更に活発になった事を喜ばしいと思いつつ、口を開く。
「これは"出会い"があっての事ですから。相変わらず、"ご紹介"の方はされているので、安心はしてください」
「そうやって、紹介されているのに、お付き合いしないのはどうしてだろうね?。
もう、スパンコーンを私が教育をしているんだから、誰かの教育にとかを、お前がやいやい言われる事はないだろう?」
そんな会話をしていたなら、スパイクが答える前にサルドが盆に茶の入った器を乗せてやって来る。
「やあ、サルド!、久しぶりだね、元気だったかい?」
"言葉を喋れない"弟の親友兼従者に、語り掛けると、ゆっくりと深く頭を下げて、賢者、スパイクの順に茶の器を差し出した。
《はい、お陰様で元気です。スパイク様もご健勝の様で何よりです》
前回会った時から暫くぶりとなる"恩人"に、サルドはそうテレパシーで返事をしていた。
この地域では今は廃れ、散り散りになってしまった魔術の得意とされていた民族の末裔で、"声を出す事ができない"という障碍まで抱えていた幼いサルドを引き取ったのはスパイクだった。
引き取るのを決めたのは、サルドの二親は流行り病で亡くなり、身内が誰もいないという事と、幼いながらに既にその頃からテレパシーを使いこなしている所もあった。
それに言葉以外を除いたなら、身辺自立も同年の者より余程確りしているし分別もある。
引っ込み思案の弟に友人を作ってやりたいとも考えていたのだけれども、言葉をかけられただけで、相変わらず警戒する様な態度をとってしまうから、テレパシーはどうだろう?。
結構行き当たりばったりな考えで、連れてきた男の子は弟にとってよい友達になれた様だった。
「それで、ジニアという女の子はどんな女の子なのか、サルドから教えて貰おうかな」
そう言って賢者の追究から逃れた。




