ある小さな恋の物語⑦振り返る影④
サブノックの賢者は、平定された国の”お披露目”で派生した更なる情報を得る為に、友人の南国の王の杯に、手酌で酒を振る舞います。
「―――それで、うちの国と、ヘンルーダの国は、少しばかり仲違いをしている様子はなかったかね?」
「ああ、互いに責任を押し付け合っている―――とは、残念ながらいかない」
少々"人が悪い"と言った雰囲気で、南国のレナンセラの王様は笑みを浮かべ、酒を煽ります。
それから、摘まみとなる豆を自分の口に放り込み、噛み潰しながら、話を続ける。
「サブノックもヘンルーダも、”誇り高い武人”が国の中枢ともなっている国だ。
今回のセリサンセウムについても、互いの見る目の無さというか、力量が計れなかったのだと納めている。
かつて、昔話の時代の様な頃、猛威を振るい自分達の国から土地を奪っていった"大国"相手に、叶わなかったのは、己の力が不足だったからだと、ある意味潔いものだよ」
「―――そんな昔話を覚えているのも、こんなババアの賢者と、ジジイの王様ぐらいなもんじゃないかねえ。
それに、こちらから見たら"奪った側"も"奪われた"も、その暦を紐解いたなら、どっちもどっちで、一概に相手が圧倒的に悪いというのが、少ないからね。
まあ、そんな事情で、国同士が喧嘩になるのも馬鹿らしい」
「それでは、馬鹿らしいと断ずる、"賢者殿"に国同士で喧嘩にならない為に御知恵を拝借したい。
サブノックという国が、我が南国を植民地とまでは行かないが、狙っているという噂が流れている。
本来なら、今回のセリサンセウム王国で"やらかした"後に、勢いにのって国の保養所にでも考えたのだろう。
大国でさえ従ったのだから、南国の戦士はいるけれども、軍隊を持たぬ国など軽いと考えたかもしれんなあ。
だが、そんな事をせずとも、我が国は如何なる客人だとしても、最高のもてなすというのに―――。
おや、酒がきれた。
―――ミルトニア!、サキ ヌ おかわり」
天幕の外にいる、自分の護衛騎士に南国の王様は呼びかけます。
一方、"南国に兵を向ける"という情報を全く知らなかった、サブノックの賢者は、舌打ちと共に、額に掌をあて指を髪の生え際に食い込ませます。
「"毒を以て毒を制す"しかないかねえ……」
早々と廃業し、呪術師となった南国の同朋を思い出しながら、サブノックの賢者は深く溜息を吐き出しました。