表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/180

"過去"との遭遇

ここで"鳩から逃げた"、アトがロドリー・マインド、"ロドさん"に保護されるまで、起こった出来事を辿ってみましょう。


※ここから、少しばかり、語り口が"アト・ザヘト"に合わせたものになります。

挿絵(By みてみん)

『いやー!ハト、こわいです!』

大好きなキャラメル味のポップコーンが入ったを落としても構わずに、アトは走り出します。


『おい!アト!待てって!』

『嫌です!こわいです!』

お兄さんのシュト・ザヘトが声をかけても、心の中では"ハトがこわい"の気持ちで一杯で、自分でもどうする事ができませんでした。




「ハト、いやです!」

出来るだけ、ハトの声が聞こえなくなる様にと一生懸命に走るうちに、眼の中が熱くなって、気が付いたなら涙が出ていました。


「―――!、ダメです、周りの人、びっくりします」


そこで漸く走る足を止め、自分の涙に驚きながらも、手を拳にして、ごしごしと涙を拭こうとします。


「うう、涙が一杯です~。もう、ハトもいないから、涙とまってぇえ……」


―――アトはもう、15才を超えたから、見る人が見たら"大人"だからね。

―――だから、知らない人の前で泣いたら、周りがびっくりしてしまうから、外では先ず止められそうなら、涙を止めようね。

―――師匠(せんせい)との、約束だからね。


兄のシュトから、これからもう、長い間会う事は出来なくなった"せんせー"から、今はチョッキの下に隠れている小さな銃を、貰った時にした約束でもありました。


―――でも、どうしても涙が止めにくい時は、"人に、あまり見えない所"まで行って、涙が落ち着くまで、待ちましょうね。


「うう、人にあまり見えない所に行きます」


元々、鳩の出す鳴き声や羽根の音が、頭の中で騒がし過ぎる音から、逃げる様に走っていたので、気が付いたならあまり周り"音"のしない場所にアトはいました。

左手で懸命に左眼をこすりながら歩きますが、右の眼から出る涙を拭うことが出来ません。

右の手には"ポップコーンの店"から、オマケでもらった"こくとうあじ"のポップコーンがあるので、拭くことが出来ません。


「人が、もっと、いない所に行きます―――」


そう口にしながら、アトは涙を拭いつつもっと東の方へと歩いて行きます。

そうすると、人は少なくなりますが段々と建物が立派になって来るし、人は余りいませんが大通りになっていて、立派な馬車が並んで通り過ぎる事の出来る広さでした。


「……馬車の近くは、危険です。ぶつかったら、大人でもとても大きな怪我をします」


だから、アトは少し暗いけれど、細い小道へと入って行きます。


大きな建物ばかりの所の細い道は思ったよりも暗くて、しかも明るい場所から急に暗い場所にはいったので、アトは良く前が見えなくなりました。

それで足を止めればよかったのですが、とにかく人を驚かせてはいけないと、涙を止めないと思いながら、ぼんやりとする視界の中を進んでいたのなら、誰かにぶつかってしまいました。


「"ヌーソーガ"?!」

「ごめんなさい!……あれ?」


聞いた事がない言葉だけれども、"声"の方はどこかで聞いた覚えがある声でした。

誰だろう、そんな事を考えながら眼を擦りながら、ぶつかってしまった相手を見ようとします。

ぼやけた視線の先にいるのは、最近では少なくなったアトよりも背の高い相手の様でした。

着ている服も、アトはあまり見た事がありません。

そして相手ぶつかった相手の方も、どうやらアトの事を見てとても"驚いて"いる様子でした。


「……オマエハ、セリサンセウム王国の者か?」


最初の言葉は少しだけ"おかしい"と感じたのだけれども、大分涙でぼやけていたのと、明るい所から急に暗い所に来た為の良く見えなかった視界が、良くなって"見えた人"に、アトは眼と口を丸くします。


「?!、"アルセンさま、どうしてグランさまみたいなお肌の色になっていますか?!”」


すっかり良くなったアトの視界に入ったの、見た事の形の服を身に着けた、肌の色や髪の色が”グランドール・マクガフィン”という本当の名前の、グランさまみたいになってしまった、"アルセンさま"でした。


ただ瞳の色は、前から変わらず、アトと仲良しの女の子の"リリ"と一緒の緑色です。

そして"グランさまの色をしたアルセさま"に見える人が、どうしてだかとても怒ってしまったのが、アトにも伝わってきます。


「ご、ごめんなさい、アルセンさま」


悪い事はしていないけれども、"グランさまの色をしたアルセンさま"が怒っているのが伝わってくるから、アトは謝ります。


「……ワン……私はアルセン・パドリックではない。お前の名前は何か?」

「……"ボクはアト・ザヘトです。16才です"」


また、アトには少しばかり意味が理解できない言葉を口にして、今度は名前を尋ねられたので、前に練習した様に答えます。


「……"アト、ザヘト"だと?」


そう言うと、"グランさまの色をしたアルセンさま"は見た事がない服装の胸元に手を差し入れて、何か冊子を取り出しました。

それは丁度、"アプリコットさま"が王都の城門を過ぎた時に手にしていた案内に似ています。

でも表紙に書かれているのは、アプリコットさまが持っているのと違っていました。


アプリコットさまが持っていたのは、セリサンセウム王国の国旗にも描かれている"向日葵に獅子"の絵ですけれど、その人が持っているのは、"蟷螂に紫陽花"の(マーク)が入っています。


(絵本で、見た事あります……。せんせーに貰った、世界の絵本に載っていたマークです。

確か、アジサイにカマキリは、"さぶのっく"という、カレーライスのおいしい、"へんるーだ"となかよしの国です)


アトが"勉強"と呼ばれる分野で、その情報を経験と共に記憶する時、効率の良いやり方としては、一般的なものと同じですけれども、"興味を持たせる"というやり方が行われています。

そしてアトの場合は、大好きな食べ物に関連を付箋(タグ)にして覚える事が多いのでした。


だから、この世界では一般的にどちらかと言えば、誇り高く、のんびりとしたセリサンセウムという国では、サブノックとヘンルーダが好戦的な印象を抱いている人が多い中。

アト・ザヘトの中では、"ヘンルーダはカレーの国"という印象とセットで、サブノックはそこと仲が良いという"一塊"で覚えていました。


アトがそんな事を思い出している間、"グランさまの色をしたアルセンさま"はサブノックの国の印が記入された冊子の(ページ)を次々と捲っていきます。

そしてある頁で、手を止めて、綺麗な緑色の眼でアトとそこに書かれている文字も見比べてた後、聞かせるためのその文字を読み上げを始めてくれていました。


「……"アト・ザヘト、主にセリサンセウム王国を拠点としている、最近代替わりをした"傭兵銃の兄弟"の3代目のシュト・ザヘトの弟。

現在は、西のロブロウの領主の用心棒として雇われた"。

だが、確かロブロウの領主は、先日の日報で罷免されたとなっていたが」


"グランさまの色をしたアルセンさま"が、読み上げた後に、眉間にシワを寄せながらそんな事を言ったなら、アトは自分が判る言葉の中で反応をします。


「はい、ボクはアト・ザヘトです。お仕事は3番目の"銃の兄弟"で、シュト・ザヘトはシュト兄です、アトのお兄さんです。ロブロウでの仕事は、一昨日終わりました」


アトなりに一生懸命に説明をしましたが、"グランさまの色をしたアルセンさま"は形の良い眉の間に縦のシワを作っていました。


けれど、所々の言葉を拾い読んだなら理解が出来きたようで、"グランさまの色をしたアルセンさま"は、こちらは焦げ茶色をした長い髪に、褐色の指を差し込んで頭を掻きます。


それから今一度、手にしている"サブノック"の国の印が入っている冊子を見つめ、小さく、"ああ"と声を漏らし、涙が漸く落ち着いたアトを見つめます。


「少々、発達?に偏りはあるけれども、傭兵としての能力は兄と同等か。

"年齢と比べたなら、まるで幼子の様な口の聞き方をしなければ、混乱もする"。

成程、サブノックのアチョウドゥから買った情報は間違ってはいないみたいだな」



「あちょどう?」


少々早口に喋る、"グランさまの色をしたアルセンさま"が口にする、唯一理解出来た言葉を鸚鵡返しに返していました。


その言い方が、本当に小さい子どもみたいだったので、、"グランさまの色をしたアルセンさま"は形の良い薄い褐色の唇の端が緩やかに上に上がります。


「"アチョウドゥ"、ワンの―――私の国では、"あきんど"、商人という言葉の意味だ、アト。物を売ったりする人の事だ、"店"の人だ、わかるか?」


「お店の人、わかります」


そう答えたなら、アトの頭をポンポンと軽く、まるでグランさまの様に撫でてくれます。


("グランさまの色をしたアルセンさま"、アルセンさま違うと言います、でも、グランさまとも違う、一緒なのは肌の色だけ)


そんな事を、アトの頭の中で一生懸命考えを纏めます。

"アルセンさま"なら、アトの事を"アトさん"と呼びます。

けれど、今目の前にいる人は、まるでお兄さんのシュトやグランさま、それにアプリコットさまみたいに名前だけで呼ばれています。


アトはやっと"アルセンさまと違う人"なのだとわかり始めます。


それにロブロウにいた時、アルセンさまが"せんせ―"が作ってくれた絵本に出てくる"天使さま"と似ていたり、子犬の世話をしていた時には"お母さん"と感じていた部分が全く感じる事が出来ない事にも気が付きました。

でも、顔の形だけで言うのなら、本当にアルセンさまにそっくりです。


「アトは、アトの"ニィーニィー"、兄ちゃんはどうした?。確か、シュトニィーニィーが、アトにはいるんだろう?」


"グランさまの色をしたアルセンさま"が先程の案内の冊子を見ながら優しく、まるで"お兄さん"の様に尋ねます。



そして不思議と、"ニィーニィー"の意味がアトにも"お兄さん"だと、この会話だけで判る事が出来ました。

いつもお兄さんのシュトを呼ぶ"シュトあに"と、"ニィーニィー"の言葉の響きが似ているからかもしれません。


「アトは、一杯のハトさんが怖くてポップコーンのお店から逃げました。だからアトは今は、"迷子"です」


でも、よく迷子にもなるし、"身体が大きくなってからの迷子"は、どういう風にすればいいか、知っているので、怖い思いをしなければ、アトは大丈夫でした。

少なくとも、苦手な沢山のハトや大きな犬が来ない限り、さっきみたいに逃げ出す事はありません。



「それでは、迷子だから泣いてワン、私ににぶつかったのか?」

「迷子で泣いた違います、ハトさん沢山で怖くて、アトは泣きました。アトはもう身体が大きいので、泣いたら周りがびっくりします。

周りをいきなりびっくりさせる事はいけない事です、せんせーが言っていました」


「"せんせー"、ああ、先代の事か」


それから、再びサブノックの印が載っている本を、"グランさまの色をしたアルセンさま"は見つめます。


「お前達、3代目の"銃の兄弟"は、親はいないのか?」

それから、一度冊子を畳んでアトに尋ねます。


「おや?シュト兄とアトのお父さんとお母さんは、アトが赤ちゃんの頃に、病気で"旅立ち"ました。シュト兄は、お父さんお母さんを覚えているけれど、アトはどっちも覚えていません」

「そうか。ニィーニィーが知ってて、ウットゥが知らない事もあるかもしれないな」


"うっとぅ"の意味を"グランさまの色をしたアルセンさま"に尋ねたいのだけれども、名前を呼ぶことが出来ないので、アトは困ってしまいます。


先程、"アルセンさま"と呼んだ時に、とても怒っていたけれども、何だか少しだけ哀しそうにも"グランさまの色をしたアルセンさま"が見えたのでした。


「……どうした?、アト?」

「なまえ、教えてください」


"アルセンさま"と、とてもそっくりだけれども、その名前を呼ぶことで怒ってしまうというのなら、そうならない名前を知りたかった。


「……ワンの名前はアザーーー、いや、"アングレカム"だ」


少しだけ、意地悪そうな笑みを浮かべて、"グランさまの色をしたアルセンさま"はそう言いました。


でも、アトはいつもの通り、"長い"名前は、コツを掴めないと覚える事は出来ません。

"アルセンさま"や"アルス"は不思議と語呂が良いのか、アトでも直ぐに覚える事が出来ましたが、仲良しになったリリィやルイでさえ"リリ"と"ルウ"となります。


ルイに関しては2文字なのに、覚えて貰えないので実は少し落ち込まれたりもしていました。

なので、"グランさまの色をしたアルセンさま"が口にした"アングレカム"という名前も勿論1度で覚える事なんてできません。


「あんぐー?」

しかも結構長い名前なので、いつもなら結構確り出来る鸚鵡返しも出来きませんでした。


何とか聞き取れた言葉だけでアトが返事をしたなら、"アルセンさま"では見た事がない表情を"アングレカム"と名乗った、"グランさまの色をしたアルセンさま"は浮かべます。


「それはわざとか?アグーはうちの島の方言(スラング)で、豚という意味だ」

「わざと?アグーが豚?、豚さんはブーブーです」


如何にも小さな子どもらしい勘違いの発言をするアトに、"グランさまの色をしたアルセンさま"は、"アルセンさま"でも見た事がある困った表情をして、腕を組みました。


「はあ、慣れないワッサン事はしない方が良いって事か……」

「"わっさん"?、アグさん?」


名前は判らないけれども、先程口に出された名前でアトが口にしたなら、大きくこげ茶色の髪を靡かせて、左右振られました。



「"ワッサン"は"悪い"って意味だ。それにアングレカムという名前ははユクシ、嘘だよ」

「!、うそ、いけません!」


これにも、小さな子供の様に頬を膨らませて怒るアトに、褐色の肌の手で頭をポンポンと叩くように撫でられます。


「ワッサイビーン、わるかった、あー、じゃあ、ワンの事は"アザ"と呼べ。アザ、2文字なら、判り易いだろう?」


まるで何か"吹っ切れた"様に、"アザ"と名乗りなおしアトにそう言いいます


「アザ……さん、アザさん。"グランさまの色をしたアルセンさま"の名前は、アザさん、アト覚えました」

「よーし、じゃあ、アトは迷子から、シュトニィーニィーの所に戻ろうか」


そう言いながら、"アザ"は今度は何か違う紙きれを取り出します。


「"呪術師"がワンでも使えるとは言っていたけれど……」


その紙きれを少しばかり躊躇いながら、アトの頭に近づけようとします。


「アザさん!"うっとぅ"の意味を教えてください!」


ただアザが、その紙きれを近づけようとした瞬間にアトが両手をあげて、先程名前を知らなくて、尋ねたくても尋ねる事が出来なかった言葉を尋ねます。

それにアトの額に何かの紙切れを近づけようとしたアザは、驚いて思わずのけぞります。


「はっし?!」


アトが聞いた事がない驚きの声で、反応して指先で挟む様に持っていた紙切れを、何とか手放さないように、アザは掴んでいました。


「!、アザさん、その紙は何ですか」

「落ち着け、ウットゥの意味を知りたいんだろう!」


アトの情報はあったとしても、拘りの具合までは、知らないアザは興味を持った物への集中力と執着に多少驚きます。

アトの方も自分の中にあった"うっとぅ"拘りを思い出し、落ち着きます。


「―――はい!アトはうっとぅの意味を知りたいです、それで次に、アザさんの持っている紙について知りたいです!。1番目"うっとぅ"、2番目"アザさんの持っている紙です"」


「わかった!、順番だ、順番!。それで、"うっとぅ"は弟の意味になる」

取りあえず"教えないと落ち着かない"というアトの具合は理解できたので、アザは口にします。


「"うっとぅ"は、弟、アトわかりました。アトはシュト兄のうっとぅ!」

「ああ、そうだ、そうだな……」

(今の内に、"紙"を取り替えておこう)


アトの嬉しそうな言葉を肯定しつつ、やや疲れを浮かべた面持ちながらも、今の内にアザは、手にしている紙を、先程王都の城下街に訪れたばかりの頃に手に入れたものと交換していました。


「シュト兄の"うっとぅ"はアト。アザさんは、誰か"うっとぅ"はいますか?」


言葉の意味が判った事で、嬉しそうにアトがそう訊ねた時、アザの動きが止まり、ゆっくり振り返ります。


「アトは、ワンに"ウットゥ"がいる様に見えるか?」


少しだけ、アザの声が今までと違って沈んだ物になったけれど、それは出逢った当初に聞いた落ち着いたものであって、アトに再び―――"アルセンさま"を思い出させます。

でも、アザという人が"アルセンさま"の名前を出したなら、怒りながら悲しそうにするのを覚えているので、口にする事が出来ません。


「ワンに、"兄弟はいない"。ワンの家族は、アンマーだけだ」

アトが答えることが出来ない内に、アザは畳み掛ける様にそう告げます。


「あんまー」


そしてアトは、いつもの通り、初めて聞いた言葉は言われた言葉を繰り返します。

その言葉の意味はまだ解りませんでしたけれども、アザと名乗る人が"アンマー"をとても大切に思っているのは、アトにも伝わってきました。

アザもアトがちゃんと自分の言葉を聞いてくれている事を確認しながら、その言葉が持つ意味を口にします。


「アンマーは"おかあさん"って意味だ」


褐色の肌をした、落ち着いた雰囲気になったら、十分美人と言う表現を使える人は、一番大切な人の名前と意味を教えてくれます。

ただアトは勉強をする時、いつもグループを作って、纏めて教えて貰う事が多いので、この時も"お母さん"という言葉と一緒に教えて貰った、もう1つの存在について尋ねます。


「……アザさんに、お父さんは、いませんか?」

「ワンにはお父さん、"スー"はウラン、アト」


"おとうさんはいない"


"ウラン"という言葉の意味を習ったこともないのに、アザのその言い方で、"居ない"と否定しているのがアトにも分かります。


更にそう言っている顔は、"アルセンさま"と呼んだ時と同じように、アザは怒っている様で悲しそうでもありました。

そして肌の色以外は、やはりアトの知っている、アルセンさまと"優しい"所も含めてそっくりな様な気がします。

アザの方も、アトの浮かべる表情がどことなくもの悲しい物になっていたのを察していました。


自分の言葉で"発達偏りがある"と調べられている少年が、なんの言葉を返す事も出来ずに落ち込んでいる姿に堪える事が出来ずに、言葉をかけます。


(とりあえず、ここら辺の記憶も吸い取らないといけないな)


加えて"絶対に使うにしても隠して使え"と国の"呪術師"から預かっていた、人の記憶を吸い取るという魔法の紙切れを使うタイミングを考えながら、話題を変える為に、アトがずっと手にしている紙袋を指さし、尋ねます。


「……思えば、アトが右手にずっと持っている物は何なんだ?」


「これはポップコーンの店の人から貰いました!

大きな袋を2つ買ったなら、オマケの試作品をくれます。

アトは、アトの好きなキャラメルあじとアプリコットさまの好きなソイソースチーズあじ2つを買ったから貰えました。

オマケの味は"こくとう"あじです」


それまで結構空気が読めないとされているってアトでも、アザが理由(わけ)は知らないけれど落ち込んでいるのを感じ取れています。

それが明るい調子で、"手に持っている物は何?"と話しかけてくれたので、アトが出来る限りの説明を元気よく行いました。


「ポップコーン?ああ、確かこの国のグスントーナチンを炒め破裂させたクヮーシの事か。

思えばサブノックと提携して、セリサンセウムに何らかな商品を納め始めるとか、アチョウドゥのスパンコーンも言っていたか。

それでうちの国はクルザーターを福祉の研修も兼ねて、ほぼただ同然で出したとか言っていたか。

まあ、"英雄"の仕事に関わってはいないから、ワンには詳しくは判らないが」


すると、アザの方もそんな雰囲気は嫌だったのでしょう、アトの言葉に添うように、結構長い返事を返してくれます。


ただ返事は嬉しかったのですが、アトには長すぎるし、判らない言葉が多くて、いつの間にか首を傾げていました。

勿論アザも、自分が口にした言葉が判っていないのはその様子をみて直ぐに判ったので、改めて、アトが理解出来ればいいと思える部分を説明をします。


「グスントーナチンは"トウモロコシ"、クヮーシは"お菓子"、それで、クルザーターは"黒砂糖"の意味だ。

それを纏めたなら、丁度、アトが今持っているポップコーンの店に貰った、"黒砂糖味のポップコーンのお菓子"という意味だ。

とは言っても、いっぺんに言っても難しいか。アト、ワンの国の言葉、難しいか?」


アザの確認の言葉に、聞き取れはしたけれどアトは素直に頷きます。


「初めては誰でもむずかしい、せんせーに教えてもらいました。でも、アトはクヮーシは"お菓子"は、判ります」


興味のある言葉と、"お菓子"と"クヮーシ"の発音が似ていたので、理解出来た事を伝えると、丁度前に"アルセンさま"に褒めて貰った時と同じような、優しい笑顔をアザは浮かべてくれました。


「そうか、アトはお菓子が大好きなら、それならこのチラシも嬉しいものかもしれないな。ほら、さっき見たがっていた"チラシ"だよ」


そう言って、アザはすり替えて置いた紙切れを取り出し、アトに見せます。

すると、アトの顔が今までにない位、正しくぱあっと明るくなりました。


「アザさん!、凄いです!、これはお菓子屋さんのチラシです!」


アトが1文字ずつ、区切る様に文字を読み上げるのを聞きながら、アザは改めて胸元にいれている紙きれを、気づかれないように取り出します。


「これ、お菓子屋さんのチラシです!マドレーヌ売っているって、書いています!。ロブロウでチョコレート食べました、とっても美味しかったです!」


とても興奮しているアトに、アザの方が思わず眼を丸くしてしまいますが、自分が何気なしにあげたものが喜んで貰うのは本当に嬉しい事でもありました。


「へえ、そんなにマーサン(美味しい)なアマガシ(甘いお菓子)なんだな。良かったら、そのチラシやるよ」

「ありがとうアザさん!。このチラシ大切な物にします!、ロックさんがくれたカバンにしまいます」


アザが自分の国の方言の合いの手を入れても、気にならない程、アトは嬉しそうにチラシを一度抱き締めてから、丁寧に折りたたみ"ロックさん"が作ってくれたというカバンにしまいます。


(さて、じゃあ、アトも落ち着いたみたいだから、"マーガレット"さんのお店にまで案内出来そうなチムヤファラサンなマクトゥーを捜してから、"記憶を抜こうか”)


出来る限りで、"チムヤファラサン"親切で、"マクトゥー"誠実な人に、この無邪気な少年を託したいとアザは考えます。



(このセリサンセウム王国って国は平和ボケしているって言うから、昼休憩中の軍人にでも任せたら大丈夫だとは思うが)


"アザ"と偽名を使い、"南の国の英雄"の立場を隠し、わざわざこのセリサンセウム王国に訪れ、サブノックの商人から仕入れた情報を元に、"隠蔽"を行う場所にアトは連れて行きたくはありませんでした。

そう思った時、アトに服を引っ張られます。


「アザさん、それじゃあ、アトはお礼に、黒さとうのポップコーンあげます。お試しで食べたら、とても、やさしい味でした」

「"ニフェーデービル(ありがとう)"」


小さな紙袋に入った、故郷の"優しい"と言われた菓子を受け取りながら、アトの無邪気さにまぶしさを感じて、仕方がありません。


「ワンのアンマーも、アトみたいなウットゥなら、きっとこんなトゥガ、カンゲーユン(罪になる事を考えなかった)。

ンジチャービラ(さようなら)」


そう言いながら、アザと名乗った人はアトの頭に紙切れを触れさせます。




《……アングレカムも、罪な事したもんだ》

アトの胸の内で、そんな声ならぬ声が出た事は、誰も気が付きませんでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ