ある小さな恋の物語⑦振り返る影②
平定直後のセリサンセウムで行おうとした、サブノック、ヘンルーダとの共謀の奇襲は散々な結果に終わったという報告を、煙管の上に煙を揺らしながら、賢者は耳に入れていた。
それを伝える度に自国の兵士は、とても言い難そうに眉間にシワを寄せていたのを、一瞬だけ上げた視線で確認する。
(ある意味、ヘンルーダも共に動かしたという行動力と、引率力は"流石将軍殿"と評価するものなのだがな。"結果"だけ見たなら、本当に散々という言葉でしか表現できない)
そんな事を考えた次の間には、この国の遺跡から発掘されたという"絵本"に向けられていた。
細く長く唇を細めて煙を吐き出す中で、その中に溜息を潜める。
―――過去から何も学んでないの?。
自分が口にした言葉を、少しでも耳に聞き入れたなら、平定はされているけれども、均し終えてはいない大国の一部を掠め取る方法を、賢者として"例え話"としてするのも吝かでもなかった。
「だが、過去にとらわれ過ぎて、そんな方法しか示せない"我々"に、行動力のある将軍殿が苛立ちを覚えても仕方がないか」
そして、まるで仕上の様に、セリサンセウム王国の"若造賢者"に今回のヘンルーダとの奇襲を、向こうの新しく宰相となった人物と共に看破されていたのだと報告された時、苦笑いを浮かべる。
「―――これでまた、サブノックの賢者は、この国の将軍殿から嫌われてしまったわけだ。
だが、向こうの新しい宰相も頑張っているみたいじゃないか。
暗愚と共に旅立った"癖っ毛と八重歯のやんちゃ坊主の宰相"の辣腕に追いつくのも、そんなに遠くはないかもしれないねえ」
本格的な"平定"が行われる前、短い密書と共に、サブのノックのある場所が記された地図が届けられていた。
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│次の血と繋がるまで │
│ │
│娘の事をよろしく。 │
│ │
│ 対価は絵本だ。 │
│ │
│ S・トリフォリウム │
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「やれやれ、意味深な言葉と共に、厄介なものを押し付けて。
"娘"なんて、この世界の何処にいるっていうんだい。
こちとら、"カンレキ"間近のババア賢者だっていうのに」
サブノックの賢者がそう言った時、新たな伝令が、天幕に来たのでした。