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It's not going to be that easy.その1

訳 ()うは問屋が卸さない。


今回の場合は、子ども達を城下に送り出し、大好きな仕立屋にブラッシングをしてもらって、見送り、"さあ二度寝だ!"と、屋根裏部屋の自分のベッドに入って、ウトウトし始めたら、2通の魔法の紙飛行機に邪魔されるウサギの賢者に当てはまると思われます。

渋々起きて、手紙を読みます。


「……、久しぶりに"魔法の箒"の正しい使い方をするかなあ」

そう言いながら、"外出準備"を始めました。


挿絵(By みてみん)


本日からは"通常運転"―――。



そうなる予定だったのだが、どうやら違う様子になりそうだと、朝食が終わろうとする頃やって来た、やがて旧友が養子にするというやんちゃ坊主を見た時から薄々予感はしていた。



それに、この国の賢者の役割を担っている他にも、一応国王直轄の"鳶目兎耳"という諜報部隊の隊長という役割を、王様から押し付けられていて、昨日の夜の会議(ミィーティング)中に届いた手紙に関しても、その予兆はあったと思う。


(でも、まあ、高確率でこの国の王様のお嫁さんになる人物がくるかもしれないって時に、のんびりしようというのは、夢のまた夢なんだろうか―――)


『アトさんから、手紙とか届いたんだ。後で良かったら、見せてくれよ。あ、アルスさん、リリィ、ありがとう!』


マクガフィン農場の"カレーパーティー"の招待状と、賢者に渡す様に頼まれていた日報を手に、魔法屋敷を訪れたやんちゃ坊主は、自分の椅子と配膳の準備をしてくれているウサギの賢者の部下となる2人に礼を述べていた。

食卓に使っている丸いテーブルの面積は、十分大きいので、位置的にはルイはアルスとリリィの間に座らせてもらう事にする。


『ルイ、良かったわね。今日はキングスさまがいらっしゃっているから、特に美味しい朝ごはんよ』

『オレとしては美味しいのは勿論嬉しいけれども、リリィが作ってくれたのを食べれる事が、一番嬉しい』


リリィが食器を並べながら、仕立屋の手がけた美味しいご飯を自慢気にいったのだが、ルイからの返事が、自分に向けられた好意の言葉で、巫女の女の子は流石に紅くなって厨房の方へ行ってしまった。


『可愛らしいですね』

『うーん、ワシの青春時代にはなかった光景だねえ』

キングスが食事の一段落がついたウサギの賢者に、"自分が飲みたいから"と持参し、魔法屋敷の戸棚に置いている茶器の道具を使って、"湯呑"という取っ手のない器に茶を注ぎながら微笑み、そんな事を口にすると、賢者はヒゲを揺らしながらそんな事を言う。


『へえ、こういうの青春っていうんだな』

ルイはルイで、自分が行っている行動が一般的に"青春"と例えられる物になっているのだと感心していた。


『あ、そうだ、オレの感覚なんだけれども、農場の事はともかく、こっちの方はリリィの眼に入れて良いもんかどうか、判断して欲しいんだよな。オッサンは、特に何も言っていなかったんだけれど』


口の聞き方はまだまだ"やんちゃ坊主"と例えるしか出来ないが、行動は"筋"を通しており、堅苦しい事が苦手だと公言するウサギの賢者にすると、ルイの振る舞いは最も気楽出来る物だった。


『自分も読んでもいいのかな 』

『うん、アルスさんは大丈夫だと思うし、気になることも載っていると思う。

キングス様、ありがとうございます』



アルスの確認に返事をして、キングスがルイにもお茶を淹れてくれたので、その礼を述べると、仕立屋は品よく微笑んで、耳の長い賢者の後ろに控えるように下がる。


『じゃあ、リリィが来る前に、皆で内容を確認しようか。アルス君、おいで~』

『あ、はい』

そうして、1匹と2人で日報を覗き込んだ。


┌─────────────┐

│             │

│ 日報セリサンセウム   │

│             │

│ 国内          │

│ ロブロウ代理領主    │

│ アプリコット・ビネガー氏│

│ 領地において不信任案可決│

│             │

│ 4名の貴族の処断、   │

│ 加えて先々代領主の遺品 │

│ である 魔術の道具を紛失│

│ が不信任案発生の原因か。│

│             │

│ アプリコット氏は退任した│

│ 後は、前領主でもあった │

│ 父バン・ビネガー氏が引継│

│ 模様。         │

│             │

│ 国外          │

│ ヘンルーダの英雄七人目の│

│ 「妻」をお迎えか?!  │

│             │

│ 一夫多妻の認められている│

│ ヘンルーダの英雄、どうや│

│ ら七人目の嫁を、親交のあ│

│ るサブノックから迎えると│ 

│ いう噂がついに現実に?!│

│ 七人目の妻は      │

│ 芸妓げいこを生業にし  │

│ ていた模様。      │

│             │

│ お知らせ        │

│ 本年のマクガフィン農場 │

│ カレーパーティーは例年 │

│ より早まる模様!!。  │

│             │

│ 続報は追って日報にて!。│

└─────────────┘


日報に眼を通し、先ず最初に感想を述べたのは、アルスだった。


『えっと、11才のリリィが読むには難しい字や、言葉が一杯ですね。紛失とか不信任案可決とか、多分まだ難しい言葉だし意味も判らないと思うんですけれど』


その感想に、新人兵士と仕立屋に挟まれている形で中央で日報を手にしているウサギの賢者は、ゆっくり深く頷いた。


『仮面が新しくなったことは、リリィも新しいのを作るその現場に居合わせたから、特に話しても問題はないと、ワシは思うんだよね。まあ、あれは"結果的"に無くしたと表現する様に、アプリコット殿と示し合わせた事もあるのだけれど』

『でも、ウサギの旦那、その日報の書き方ってさ―――』


そこでリリィがまだこちらに来ていないか意識しつつ、やんちゃ坊主のトレードマークでもある八重歯見えないくらい口と、それに合わせて声も小さくしながらも、ルイが意見を割り込ませる。


『何だか、アプリコット様の事、随分と嫌な感じに書いてねえか?』

ルイの意見をウサギの賢者は、あっさりと肯定する。


『うん、書いてあるねえ。でも、この日報を書いてる所が、貴族には手厳しい事で有名な"聞屋"さんだからね、まあこういう書き方になるだろうさ』


"貴族嫌いのグランドール・マクガフィン"を知っている旧友としては、ウサギの賢者は特に驚く事はないのだが、ルイには親しくなった貴族の婦人が悪く書かれているのが、面白くはないようだった。


『あ、マクガフィン農場がとっている日報って、これなんだね。

だから、こういった書き方をしているんですかね』

一方のアルスは、日報の発行元を見てどこか納得している様な発言を続けるので、ルイの質問先はそちらの方に変わった。


『何だ?アルスさんも、そういったの判るのか?』

『えっと……自分は、"判る"まではいかないまでも、"知っている"程度なんだけれども。

国が発行をしていない日報って、ルイ君が持ってきた物に限らず"貴族贔屓"、"平民贔屓"とか、"軍隊贔屓"とか発行している所によって色々あるみたいだよ。

あと、その逆もあるみたいで、"こちらは贔屓するけれど、あちらは(けな)す"のもあるらしい。

マクガフィン農場のは、平民贔屓で貴族に厳しい感じになるのかな』


『な?!……何だよ、そりゃ?』


最初、驚きの余り声が大きくなりかけたが、"リリィに聞こえたなら不味い"と何とか気持ちを鎮め、疑問の声を小さくして、やんちゃ坊主は漏らす。


『おや?ルイ君はそういう所は"(さば)けて"いると思っていたけれど、そうじゃないのだねぇ』


ルイの純粋に驚いた様子に、ウサギの賢者が興味深そうな視線を、丸眼鏡越しに向けるとやんちゃ坊主は憮然とした表情を浮かべ、八重歯の覗く口を開いた。


『いや、だって"みんな"が読むもんだろう?。

そんな贔屓をした書き方の記事をさ、その新聞を取っている人がみたら、その通りに思ってしまうんじゃねえのか?。

その日報だったら、貴族の処断した上に、アプリコット様が遺品の魔法道具を紛失した、おっちょこちょいみたいな扱いで、辞めさせられているみたいに書いているじゃねえか』


小声で早口ではあるけれど、ルイは活舌良く自分の意見を述べる。


『おっちょこちょい』


ルイの例えに、アルスは空色の眼を丸くしてキングスは困った様に微笑んでいた。


『成程、実際のアプリコット殿に会っているルイ君は、日報を読んでそういった印象を受けるわけだ。

でも、そのマクガフィン農場が取っている日報の文章にはおっちょこちょいとまでは書いてないよ。

ただ、思うのは"思わせる"様に書いている所もあるかもしれないし、ルイ君はアプリコット殿自身に、"そんな風に"思っている所があるかもしれないね』


まるで玩具の様にも見える丸眼鏡のレンズ越しに、ウサギの円らな瞳ながらも、鋭い視線を向けられ、ルイは少しばかり怯みはしたけれど、そこから逃げずに再び口を開く。


『ちょっと思っている所は認めるけどさ、オレとしてはアプリコット様のおっちょこちょいな所は、"良い面"って思っているから、それを悪い風に書かれている事も、軽くムカついているんだと思う。

それに、遺品―――銀の仮面は、そもそもアプリコット様のお祖父さんが、火傷のケロイドが酷かった状態を隠すために、”孫娘の為"に用意してくれたものだろ。

アプリコット様の祖父さんはそりゃ立派な領主で、領民の信頼が厚かったかもしれないけれど、その仮面を貰った当人がどうしようと、別にいいんじゃないのか?』


もしここに、農業研修には不在だった仕立屋が同席していなかったなら、"アプリコットの顔にケロイドは本当はないのだから、仮面は本来必要ない"と言葉にしたいのを、堪えながら喋る。


ただ、そう言葉を出さずに堪えた事で、ロブロウの領民も、仕立屋と同じ様にアプリコットの顔にはケロイドがあるままなのだと、信じているのをやんちゃ坊主は思い出し、少しばかり勢いを落とす。


『オレも少しは"失くした"事情を知っている状態だから、情報が公平(フェア)じゃないもしれないけれど。

でも、これだけだったら、まるでアプリコット様が、折角祖父さんから貰った仮面をただ失くした、そそっかしい恩知らずみたいな感じに見えるじゃねえか。

オレは途中から記憶がないけれど、仮面を失くしたそもそもの原因も、ロブロウの凄い集中豪雨で自然災害が起きてしまう前に、それを防ぐ為の、凄く大掛かりな儀式やったためだろ。

最後までの記憶はないけれど、あの天地がひっくり返る儀式みたいなことが続いていたなら、仮面が吹っ飛んでなくなってもおかしくはないと思う。

そこのところはさ、ロブロウの領民だって判っていてもおかしくはないと思うんだよ』



"天地がひっくり返る"という表現で、ルイは当時同じ場所にいたアルスを見たなら、新人兵士もごく自然に頷き返事を返してくれて、昂った気持ちは、同調してもらう事で、結構おさまる。


『―――それでは、第三者から日報を"今"読ませていただいたのと、昨夜、賢者様からとルイ君から聞いた話を合わせた感想を、私が言っても良いでしょうか?』


徐に、アルスがルイに向かって頷くその隣で、仕立屋が爪化粧が施された指を綺麗に揃えて、にっこりと笑って挙手をしていた。


『お、そうだねえ。ロブロウに行かなかった立場の人が、日報を読んで感じた意見がある意味じゃ、今は一番公平かもしれない。

キングス、よろしく頼むよ~』


この提案に、ルイが驚きに眼を丸くしている内に、ウサギの賢者が了承の返事を行ったので、仕立屋が"それでは"と前置きをして、身嗜み紅の引かれている唇を開いた。


『先ず、アプリコット様という前に領主様であられた方が、"先々代領主の遺品である魔術の道具を紛失"とだけ書いてあるのは、確かに誤解を与える物があると思います。

読んだ方はどういう状況で、遺品―――ルイ君や賢者様が仰ったように、"仮面"とも知りませんから、高価なものや、歴史的に価値がある物と勘違いもするかもしれませんね。

でも、やはり不信任案と記載しているのは、"何を失くした"というよりは"失くしてしまったから"に、重きを置いている様に感じますね」


仕立屋が敢えて"辞める"という意味ではなくて"不信任案"という言葉を使う事に、やんちゃ坊主は眼に続いて口を丸く開けたが、直ぐに両方を通常の状態に戻し、腕を組み考え込む。


大好きな女の子の側にいる時は、いつも上がっている口の端を下げて、無理矢理に近い形で眉間にシワを作り、懸命に考える。

そして、少しの間が過ぎた後、トレードマークとなる八重歯を見せながら大きく口を開く。


『ええっと、じゃあ、結局"何かを失くした"とか、物の事が重要なじゃなくて、"失くしてしまった"という"行動"が、不信任案ってやつか。

例え"命懸けで領地を助けた"としても、どんな理由があったにしても、偉大な領主から譲られた物を失くしたアプリコット様を、ロブロウの領主として信じる事が出来ない。

だから、不信任案って言葉で表現して辞めさせるって風に、日報の文章では伝えているみたいになるんすかね?』

ルイなりにキングスの意見を参考にして、頭の中で何とか懸命に言葉を纏めて言葉にしてみた。


それでも最後の方は自分で口にしながらも、己の説明の"あやふやさ"に首を傾けてしまっていたが、仕立屋はそこでにっこりと笑って、ルイの解釈に同意を示す。

それから、仕立屋は説明を頑張ったルイに向けた柔和な笑みから、優しさの温かみの部分だけを見事に抜きとり、残った物は冷を感じさせる微笑みに表情を変化させていた。


『―――それでいて"ロブロウの領主を辞めさせた理由"として、最も短い簡潔的な説明になっていると思います。

加えて、"ロブロウ"という西の果ての領地に住んでいらっしゃる方々の気質という物も、現している。

例えどんなに立派に、命懸けで領地を守るという勤めを果たしたとしても、領民の"期待"から外れたなら、それまで。

そして、直ぐに前任者でもあられた父親が、再び領主となる事で殆ど決定している。

貴族に手厳しい日報で、同時に贔屓にする平民が平穏に生活する為には、その土地を統括する役割をもった立場の方々のを表現が、まるで簡単に取り換えの効く歯車のようにされている。それを如実に現しているように、読んで私感じました』


笑みを浮かべながらも、打って変わった仕立屋の冷然とした態度に、隣に立っている新人兵士は軽く息を呑む。


『それなら、アプリコット様はやっぱり領主を辞めて、心の中で両手を上げているかもしれないな』

ルイが組んでいた腕を解き、頭の後ろに回して、少しばかり呆れたよう表情を浮かべて手を組んだ。


『でも、日報読んで感じたはっきりしないモヤモヤした気持ちが、すっきりした。

別にアプリコット様は"辞めさせられた"事に傷ついたりはしてねーってのは判ったんだけれど、何か文章が気にくわなかったんだ』

元々アプリコットが好んで領主をしていたわけではなく、それまであの領地が抱えていた諸々の事情で、勤めていただけの事でもあるのは、農業研修に行っていた一行は知っている。


だからマクガフィン農場で、最初にこの日報を読んだ時、


"アプリコット様、領主を辞めれてよかったな~、本人喜んでいるだろうな~"


といった風に、師匠の褐色の大男のグランドールと軽く話してもいたし、寧ろ"辞めた後"の事の方に話題は盛り上がっていた。

その話の盛り上がりの中に、"彼女が領主を辞めた後、どのように行動をするだろうか?"という物があった。


そしてその予想を、"アプリコットと考え方が似ているウサギの賢者に聞いてこい"とも、ルイはグランドールから申し付けられていた事をここにきて、思い出す。


魔法屋敷に向かう途中に改めて日報を見直しながら、アプリコットに関する記事で、自分の"怒りに感じている(ポイント)"になる部分が、あるけれど具体的にするまでは、至らなかった。


ついでに、魔法屋敷について、先ず大好きな女の子の可愛らしいエプロン姿が見た上に、土産のリンゴを渡したなら、とても嬉しそうに"ありがとう"と微笑んでくれたのが嬉しくて、一度引っ込んでしまってもいた。

ウサギの賢者に"内容を確認しよう"という事で、改めて具体的に判って、グランドールからの伝言も思い出して、ルイにしてみたなら、仕立屋の見解はとても有難い物となっていた。


(でも、まあ、とりあえず、"アプリコット様の行動について"はリリィの作った飯を食った後に話を聞いても良いよな)

それから、大好きな女の子の"兄"みたいな青年を見て口を口を開く。


『―――アルスさんはこの日報の事見て、どんな風に感じたんだ?』

『え?自分の意見は、さっき言った通り、"リリィには、表現としては難しいんじゃないかなぁ"って感じかな。

アプリコット様が領主を辞める辞めないについては、領地の事情までは多分考えが回らない……っていうか、自分がどうこういう事じゃない、って思っていそう』


新人兵士は、軍服の詰襟から出たそれなりに逞しい首を傾け、小さな同僚を思い出しながらそんな言葉を意見する。


兄妹と純粋に勘違いが出来る程、考え方がよく似ている2人なので、ルイもその考え十分あたっていると思う。

だがアルスの方は、途中で気を失ったルイとは違い、天地が引っ繰り返る様な儀式の一部始終を、グランドールや、恩師であるアルセンと、アプリコット共に見届けた。


日報を読んでの感想はそうかもしれないが、実際に"全て"を見た上での、"アルスの感想"をやんちゃ坊主は聞きたかった。


『いや、"リリィはどう思うだろうなあ"、じゃなくて、アルスさん個人の感想としてはどうかな~って。

オレと違って、意識を持って確り最期まで参加したから、日報と合わせてどう思うのかなって』


『参加したといっても、自分はあの時、指揮者のネェツアークさんの"護衛"だったから。

それに、ネェツアークさんは緊急の用事とかで、儀式の終わり直前だけれど途中で王都に戻ってしまわれたしね。


浚渫の儀式は大変だったけれどに無事に済んで、賢者殿が農業研修の総括としてライさんと一緒に、アト君でも判り易い様にってメモの3枚に纏めてくれた事で、仮面の本当の最後についての内容も、ルイ君も知っているだろう。

それで日報について、種類が色々あるのはしっているから、"貴族には批判的だな”て思った以上に特に意見はないかな』


苦笑いを浮かべながら、正直に自分の気持ち答えたがルイの視線からが予想外に真剣さを感じて、口元を閉じる。


(これは"真実"は話せないにしても、納得出来る言葉で話さないと、ルイ君と自分のこれからの関係に影響を与えそうだな)


それでいて"リリィとルイ"という"子どもには今はまだ『真実』を伏せておくように"と、ネェツアークから指揮権が譲渡されたウサギの賢者を含め、美人な恩師と褐色の大男、それに今はもう領主を辞めてしまったというアプリコットからと指示された事をも思い出す。


その時一緒にいた、今はアプリコットと行動を共にしているだろう、親友シュト・ザヘトと一緒に"確かに今は『真実』を知るには、リリィもルイも幼い"と思えたから、時期がくるまで話さないでいようと、2人は結束した。


("真実"を伝えない上で、自分の正直な感想を言うしかないか)

年下だからと、この少年を侮ってはいない事も、ロブロウの農業研修で知った事でもある。


『そうだね、実際に一連の事を見たのと、日報を読んだ上で感想があるとしたら、自分は余所者が意見をするべきところと、そうでない領地の事情があるって、思ったかな。

それで、今回の事については、多分アプリコット様は"領主を辞めたさせられた"ことについては、多分落ち込むこともしていない。

だから、余所者としても意見なんてはしなくて良いし、必要ないと考えている。


ただ、ロブロウの領民の方々をなんていうのかな、言い方が悪いかもしれないけれど、"勿体ない事をしましたね"って感じている。

領民の気持ちが離れてしまったのは、先々代の領主様の形見を"紛失"という報告を受けて、本当にその方を敬う土地柄の所為だったこともあると思うよ。

でも、自分は少なくとも、アプリコット・ビネガー様は優秀なこの国の"人材"であるように思う。

それを敬愛する先々代の領主様から仮面を紛失した一度の失敗で、自分達から手放してしまう"不信任案"を起こしてしまったのは、やっぱり勿体ないと考えてしまう』



丁度、今アルスの眼下の視界に入る、ウサギの姿をしたこの国の最高峰の賢者と同じくらい、アプリコット・ビネガーが役に立つ人材とも新人兵士は思ってもいた。

もし、この国の王様が、この耳の長い賢者を手放すという事を口にしたなら、何らかの伝手を使って"それは辞めた方が良いです"と、意見を立場を弁えずしてしまうかもしれない。


(あれ?、何だか思ったより"僕"は熱い事を考えてしまっていた?)


ルイの質問に、答え終わってから、俄かに耳の裏側から熱くなるのを感じながらも、"ルイにも聞かせた方が良いだろう"思える部分で、思い出した事を伝えるべく更に口を開いた。


『後、儀式の後に、アプリコット様が銀色の仮面を、賢者殿が造り直して新しい物に変えたと聞いた時から、グランドール様が仰られた事があった。

確か、ルイ君はあの時まだ気を失っていて聞けてなかったはずだから、自分が覚えている限りで、話そうか?』

『え?、そうなのか、だったら聞きたい!』

ルイはアルスの日報の感想に随分と感心しながらも、尊敬する"グランドール・マクガフィン"についての話しが出ると、躊躇わずに食いついた。


『ああ、ワシがリリィを迎えに行って、アプリコット殿の仮面の複製品(レプリカ)を届けた時の話しかな?』

モフっとした後頭部に毛皮の段々のシワを作りながら、ウサギの賢者も短い首を後ろに曲げて、アルスを見上げ鼻をヒクヒクさせながら興味を示した。


想像以上に柔軟に曲がる耳の長い上司の首に、多少驚きながらもその確認について認め、アルスは頷く。


『ええ、そうです。その時王都からの一行が行動を合わせようと、農業研修メモ用紙を鷲のイグさんが持ってきた時の話しです―――あ』


(そう言えば、こういった話を賢者殿の親友とは伺っているけれども、キングス様の耳にいれても良い物なのかな)


それから横にいる仕立屋に視線を向けると、先程の冷然とした雰囲気はは取り払われており、礼のたおやかな雰囲気で以て、笑みを浮かべ頷いた。

"大丈夫ですよ"

言葉にしなくても、十分にその事が伝わってくる。


『ああ、アルス君、キングスの事なら気にしなくても大丈夫だよ』


それから補足する様に、上司からの"許可"も出たので、アルスは軍学校で恩師から教えて貰い身に着けた特技でもある、”相手が言ってい事をそのまま暗記した"内容を披露する。



『それでは、えっと、確か―――


"ここからの流れは、大切な銀の仮面はなくなってしまったことで、ロブロウでは少々悶着はおこるという事だろうのう。

だが、ひとまずアプリコット・ビネガーが代わりの仮面さえつけてさえいれば、"ケロイドがあってもなくてもどちらでも良い"というワシらと、幼い頃から"酷いケロイドがあった"と信じている領民の心を無駄に騒がせないですむ。

折角、浚渫の儀式は無事に済んだのだから、先ずはそれをこの領地の領民は素直に喜ぶべきだろうしな。

後の成り行きは、アプリコット殿がどういう幕引きを望むかで、ワシらが出来る協力をしてやればいい"


―――確か、そう仰っておられました』


アルスの声ながらも、その抑揚は"グランドール・マクガフィン"そのものだったので、褐色の大男を知る人々は声に出さないが、随分と感心する。


『何だよ、オッサン。オレにはそんな事一言も言わなかった―――ああ、でもシエル兄さんがいたからかな』

ただ、感心し終えた後にルイが不服そうに口を開いたが、グランドールが口にしなかった理由は直ぐに察した様だった。


『シエル兄さん?』


アルスが初めて聞く名前に疑問の声を上げると、ルイは"そういえば、名前を出した事なかった"と言ってから簡単な説明をする。

『マクガフィン農場で働いている、ここ数年で"グランドールの両腕"って言われる様な兄さん達なんだ。

オッサンが、あの農場作る時から世話になっているおっちゃん達からも、兄さん達は信頼されている』


ただ信頼されていると語る割には、やんちゃ坊主の口調は何処かさっぱり―――というよりも、あっさり過ぎる様にも感じるニュアンスで語る。


『兄さん"達"って事は、そのシエルさんという方みたいな働きをする人は複数人いるの?』

『アルス君、シエルさんは、双子なんですよ。マクガフィン農場や、関わっている方には"フクライザの双子"と良く呼ばれていて、そちらのほうが結構有名かもしれませんね』

ルイの話に質問するアルスに答えてくれたのは、隣にいる仕立屋だった。


『へえ、双子の方なんですね。ああでも、だからグランドール様の"両腕"って例えになるのかな』

アルスが(ほどこ)された情報で、大体の"当たり"をつけたなら、ルイが大きく頷いた。


『そうそう、シエル兄さんにはシャムって名前の双子兄弟のがいるんだ。

それで、2人合わせた時はシャム・シエルって方が語呂が良いから、そんな風に纏めて呼ばれている』

仕立屋の説明に納得するアルスに向かって、ルイが相槌を打ちながらその事を認め言葉と、更に説明を続けてくれる。


『あとは、兄さん達はそれなりに忙しいから、あんまり一緒にいる事がないから滅多に見られないけれど、2人揃うと面白い喋り方をするんだぜ―――って、話がずれたな。

でも、兄さん達をオッサンも結構頼りにしている感じなのに、全く触れなかったのも不思議だな。

そりゃ、ロブロウでのアプリコット様の事情は込み入っているけれど少しぐらいなら、話してもいい感じなのにな。

兄さん達、オレと違って真面目だから、オッサンが話したなら確り話を聞くだろうし』

後頭部に回していた手を前に戻して、やんちゃ坊主は不思議そうに再び腕を組む。


『ルイ君がそこまで言うなら、グランドール様は本当に頼りにしているんだろうし、農業研修の間も、そのシャム・シエルさん達に留守を任せていたんだよね?』

アルスが早速フクライザの双子の兄さんを"短縮形"の形で呼んだなら、ルイは再び強く頷いた。


『そうそう、結局月が一回りするかしないかの間、留守を兄さん達を筆頭にして任せていた事になるけれど、全く不都合はなかった』


ルイがそう断言をした時、厨房の方から音がして、エプロン姿のリリィが、アルスに作ってもらった自分専用の台車を押し、姿を現した。


やってくるのが、リリィだと判った途端に、それまで話し合っていた"日報"の事は癖っ毛の頭の隅に追いやって、ルイは振り返り八重歯を見せて笑う。


『お料理温めなおしてるのと、お土産のリンゴ剥いてたら遅くなっちゃた、ごめんね、ルイ』

前に"空腹になったなら暴れる!"と言っていたの聞き覚えていたので、少しばかり申し訳済まなそうな表情を少女は浮かべていたが、ルイは頭を激しく左右に振った。


『全然遅れてもいいって、朝は一回軽くは食べてるからさ。待っている間も、リリィの飯を食えるのなら、オレは凄い楽しかったから』


もしこれをマクガフィン農場の面々が聞いたなら、やんちゃ坊主のルイが大好きな女の子に気を遣っているのが即座にわかる返答だが、これが"常"になりつつある、少女は"良かった"と安堵する。


『それにオッサンから預かった日報を読んで、賢者の旦那やキングス様やアルスさんの意見を聞いていたから、本当にそんなに"待った"という気持ちはないし』


これについても、殆ど本心で声に随分と真実味を帯びた響きを持つことで、リリはィやんちゃ坊主が、自分に気を遣ってくれていると察しながらも、そこまで気にせずに済んだのだった。


『それで、日報を賢者さまがもってて、アルスくんとキングスさまは、一緒にみているのね。私も読んでもいいですか?、賢者さま?』


ルイに配膳しながら、リリィが尋ねたなら、ウサギの賢者は円らな眼を細めて、瞬きを繰り返し、日報を改めて見つめ、フワフワの眉間に"波"の様なシワを作る。


これには"リリィは仮面の事情を知っている"と思っている、新人兵士と仕立屋は、空色と月の様な黄金色の眼で互いに視線を交わした後に、激しく瞬きをする。


『―――賢者さま、リリィさんに、日報をお見せにならないのですか?』

『どこか、リリィが読むのに、難しい部分は自分がさっき言った所以外ありましたっけ?』


キングスとアルスが挟み込む様にして、質問をしたならば、ウサギの賢者がモフリとした指先に、本当のウサギならない筈の肉球の先に延びる硬い爪で、日報のある個所を指さす。


『ーーーああ、ここですか』

『自分は、リリィなら大丈夫と思いますけれど……』


仕立屋は困った様な微笑を浮かべ、新人兵士は"何をそんなに心配をしているのだろう"といった感じで、言葉を口にする。

ウサギの賢者が硬い爪で指さしていたのは、丁度日報の中程にある、国外の記事だった。



┌─────────────┐

│ 国外          │

│ ヘンルーダの英雄七人目の│

│ 「妻」をお迎えか?!  │

│             │

│ 一夫多妻の認められている│

│ ヘンルーダの英雄、どうや│

│ ら七人目の嫁を、親交のあ│

│ るサブノックから迎えると│ 

│ いう噂がついに現実に?!│

│ 七人目の妻は      │

│ 芸妓を生業にしていた  │

│ 模様。         │          

└─────────────┘


そこで再び新人兵士と仕立屋は顔を見合わせ、今度は揃って首まで傾げてしまった。


『そこは精々、"文化の違い"という事を仰ればリリィさんは納得してくれると思いますよ?』

『自分もキングス様と同じ意見です、賢者殿』

キングスとアルスは、ウサギの賢者が"一夫多妻"の部分を気にしているのだと考えて、連なるようにそう意見を口にするが、硬い爪の先がつつっと、日報の紙面を滑り、ある単語の部分で止まる。


"芸妓"という単語で箇所で止まった事で、それまで一緒の反応を現していた仕立屋と新人兵士の反応が別れる。


新人兵士は相変わらず首を傾げたままで、仕立屋は困った表情から"複雑"そうな表情に切り替えて、自分の紅を挿している唇が隠れる様に、爪化粧が施されている口元を覆った。


『アルス君には、説明不足になると思うんだけれどね。

昨日、キングスがサブノックで出張のお土産話と一緒に、ワシが活字中毒でもあるから、あちらの地元の日報を数日分を持って帰ってきてくれたんだよね。

それに、このヘンルーダの英雄殿が、7人目の奥様をサブノックから迎える事になる本来の理由らしきものが記してあった』


勿論、側にリリィもいるのだが、聞こえても構わないといった調子で、賢者は自分専用の椅子に座ったまま、今度は頭を一切動かさずに、護衛騎士に告げる。


『えーと、つまりその本当の理由が、リリィに聞かせたくないといったものであるという事ですか?。

それで、その賢者殿が指さした単語が、それに繋がるから出来ればもう、日報事態を見せたくないと』


アルスも、上司が気にしていない様子なので、リリィがいても構わずに話を進めるが、少なからず意識して今はルイの配膳を終えた小さな同僚を見ていた。


そのリリィは、こちらの話を確り聞いているだろうけれども、今度はルイが農場からお土産に持ってきた、剥くのに時間がかかったというリンゴを"デザート"として配り始めている。


そして一番最初にリンゴを運ぶ先は、ウサギの賢者の元で、加えて丁度アルスの発言をが終わるところだったので、日報の方を見ていた一同の視線はリリィに向く。


『うん、まあ、そういうことだね。おや、頑張って"ウサギ"の形にしたんだねえ』

ウサギの賢者が言う様に、リリィの運ぶ小皿の上には”赤い耳のウサギ"となった、リンゴの2切が、平たい竹の楊枝と共に載せられていた。


『はい、私なりに結構うまく出来たと思うんですけれど―――』

『うん、まあ、頑張ったね、うん』


"うん"という発言を2回繰り返すウサギの賢者の物言いに、今度はまた別の意味でアルスの中に新たに、疑問が浮かんだが、今回は直ぐに解消できる。


(リリィには、難しいかったのかな)

空色の眼に入る、2切の"赤い耳"のリンゴのウサギの全体的な形は、揃っていて均等である。


ただ、"ウサギの耳"を表現する赤い皮の部分の形が、正直にいって同じ大きさに揃っているとは言えない。


"2匹"とも、どちらかの耳の長さが違っていて、また耳の横幅が違う。

しかし初見に"リンゴのウサギ"と判るくらいに、十分に形は出来上がっている。


『普通に剥く分には、それなりにっていうか、どちらかと言えば、皮を厚めになるんだけど、出来る様になったから、この前習ったウサギさんにしてみたんです』

アルスの視線に気が付いた小さな同僚は、少しだけ落ち込んだ様子で説明を始める。


『習って初めてしたのなら、これだけ出来たなら十分大丈夫じゃないかな』

『でも、皮を剥き終わってから、これでも"比較的うまく出来た"のだけ持ってきたの。失敗したのを"後始末"してたから、こんなに時間がかかったのもあったの。ルイ、ゴメンね』


食事を運んでくる遅くなった理由の付け加えして、振り返ってルイに謝ろうと振り返ったなら、やんちゃ坊主は既にほとんどの食事を、食べ終えようとしていた。



『おかわり!』


そして、その素早さにウサギの賢者以外が呆気に取られている内に、ルイが"おかわり"をリリィに向かって言っていた。


『あれ?もう、もしかして料理残ってねえとか?ないなら、仕方ねえけれど』


呆気に取られている一同に、呆気にとられるやんちゃ坊主という、ややこしい状況で最初に動いたのは、"おかわり"を頼まれたリリィだった。


『ううん、まだあるから。賢者さま、リンゴを置いておきますね。あと、キングスさまとアルスくんのも、席の前に置いておきます』


『ありがとう、リリィ』

『リリィさん、ありがとう』


小柄で身軽な身体を翻して、リリィは先ずはデザートして配る分のリンゴを食卓に置いて、ルイから空になった食器を受け取ろうと、手を差し出す。

けれど、ルイはそこで漸く"思えばここは、オッサンの親友の家だった"―――それなりに礼儀がいる場所だったという事を思い出して、斜向かいにいる耳の長い屋敷の主に向かって口を開いていた。


『ウサギの旦那、オレ、結構食べちまうけれど、いいのか?』

『うんうん、食べてしまっても構わないよ。


春も終わりかけて日中は暑くなりがちだから、食べ物は冷やして保存は基本だけれど、どちらにしろ早く食べてしまった方がいい。

それに、キングスも出張が暫くないから、手料理は機会があったなら直ぐにまた食べられるしね~』


『そっか。じゃあ、遠慮なく食べさせてもらおうっと』

そう言いながら、ルイは空になった皿を漸くリリィに渡す。


『あ、そうだ、リリィ。リンゴの皮剥きとか、そのウサギの形にするの練習したいなら、オレに言ってくれたなら幾らでも付き合うからな。っていうか、精々食べるくらいだけれど』

『え?』


唐突にそんな事を言われて、皿を受け取ったリリィの手が止まる。


『さっきの上手く剥くことが出来なかった"後始末"って、形の悪いのは結局リリィが食べたってことだろう?。それか、まだ始末出来ない分は、残して後で食べるようにしているんだろ?』


『え、どうして、残しているのがわかるの?』

強気な印象を与える緑色の眼を丸くして、やんちゃ坊主の顔を見る。


『だって、リリィはゆっくり丁寧に飯食ってるのは、ロブロウに行っている間に見たからなあ。

それに、こうやってデザートに配っているリンゴを見ても、多分2個以上つかっているだろ?』


『うん、確かにそうなんだけれど。でも、どうして2個以上だってわかったの?』

ウサギの賢者、アルス、キングスにデザートに出す分として置かれている"リンゴウサギ"の大きさからみたら、1個の大きさで十分足りる。


『だって"上手くいかなかった"とも言ってただろ。それで、多分リリィの事だからオレの分も、自分の食べる分も、もう剥いてくれているだろうからさ。

そうしたら絶対2つは使っているはずだし、失敗じゃないけれど、上手く出来なかったのも考えたらそんな感じになるって』


"上手く剥くことが出来なかったリンゴ"の事を考え、リリィと自分の分も"ウサギの形"に皮を剥いたなら、どうしても2個以上は使っているとルイは考えたようだった。


『すごい、当たってる』


感心しながらルイから空の皿を受け取り、台車に乗せたなら、表情を申し訳無いといったものに変えて、正直にリンゴを使った具合を、"友だち"にリリィは語る。

それは必然的に、自分の大好きな耳の長い上司や、お兄さんみたいな同僚、料理の先生もたまにしてくれる仕立屋にも聞こえるけれども、構わなかった。


『……それでリンゴを3個剥いたの。それに、言うとおり、ルイのは私なりに上出来なのもうちゃんと剥いて、塩水につけている。じゃあ、おかわりが終わってから、持ってくるわね』

『一緒に持ってきてくれていいよ、それで、失敗した方をオレにくれよ。オレはリンゴなら丸かじりでも十分いけるから。(しん)までしゃぶるし』


そう言って八重歯を見せて笑う。

だが、それまでやんちゃ坊主を感心した様子で話を聞いていたリリィだったけれども、芯までしゃぶるという言葉を聞いた途端に、ぷっくりと頬を膨らませる。


『リンゴの芯位は、いくらなんでもちゃんと取れるわよ!』

エプロンを翻し、三角布から出ているいつもはフワフワとしているのを三編みに纏めた薄紅色の髪を、振るって台車を押しながらリリィは厨房の方へと戻っていってしまった。


『あれ?オレ、リリィを怒らせたのか?』

『うーん、リンゴの芯までは、余計な言葉だったかもしれないね。"基礎の基礎が、出来ていない"みたいに取られちゃったのかも』

リリィと考え方が良く似ている、アルスの方を向いて尋ねたなら、実に具体的な返答を返して貰って、やんちゃ坊主は成程と納得していた。


それから各々自分の席に戻って、リリィが頑張って剥いた"リンゴのウサギ"を早速いただく。


『アッハッハッハッハ、それにしても、流石にリンゴの芯も大丈夫は蛇足だったねえ』

シャリシャリとリンゴの果肉を齧る特有の音を出しながら、ウサギの賢者はご機嫌でそんな事を言う。


『オレ的には、"リリィが切った果物なら、何でもオッケーだ"っていう感じだったんだけれどなぁ。

果物なら、料理と違って味でどうこう言う事でもないし』


『―――リリィさんは、基本の野菜の裁断は確り出来るのですけれど。

細かい事というよりも、"本来なら特に必要ない"という事に関しては、無意識に苦手意識が働いている様にも見受けられますね』


"ルイ流の褒め?言葉"に困った表情を浮かべた後に、リリィが頑張って作った、リンゴのウサギを微笑ましく見つめながら、キングスがそんなフォローを入れ、口に運んだ。


『お料理は必要なものだから確りとこなすけれど、こういった余計ーーーというか、飾り繕うみたいな事は何気に苦手って、ことなんでしょうか?』


"早飯"の習慣がすっかり根付いているアルスは、既に2切のリンゴを早々に食べ終え、この世界で多分誰よりも幼い同僚について詳しいだろう上司に、自分の考えを浮かべ尋ねる。

すると2切目のリンゴを頬張りながら、耳の長い上司はゆっくりと頷いた。


『考え方が似ているアルス君が、言う風に表現するのが一番しっくりと来るかもしれないね。

ある意味では、リリィという女の子の特性―――というよりは、性質なのかもしれない。

あの"強気な瞳"を持っている人は、皆、余計に着飾ったりとかが苦手なのかもしれないね』


その賢者の語り口で、リリィという女の子の起源(ルーツ)を含ませた物言いなのは、その場にいたなら感じる事は出来たのだけれども、誰も敢えて聞き出そうとはしなかった。

ただ、リリィという巫女の女の子の"お料理するのは好きだけれど、細かい事は苦手"という部分に、ウサギの賢者は随分と懐かしみ、感じ入っているのが、十分に窺がえる。


『オレからしたら、今日のはキングス様の手伝いもあったかもしれないけれど、ご飯は充分美味しかったから、デザートの切方なんて本当に気にしないんだけれどな。

ああ、でも、"リリィがちゃんとしたいから"って、言うならリンゴの皮むきの練習したいなら、出来る限り付き合う』


ウサギの賢者が、自分の秘書となる女の子の背景(バックグラウンド)的な物に想いを馳せているのを感じ取りながらも、ルイが口に出すのはやはり、大切な女の子についての事だった。


だが、やんちゃ坊主のそういった所は、上司でもあるけれども保護者の役割も担っているウサギの賢者としては、大歓迎なものとなり、上機嫌で言葉を返す為に小さな口を開いた。


『いやあ~、ルイ君は"リリィの友達"として、本当に信頼と安心が出来る相手だよ。

これからも、ちょっとした喧嘩もするだろうけれども、仲良くしてやってね』


ただ"友だち"としてという所を、やや強めに"念押し"をされて口の形を"へ"の字に変えて、鼻から息を出す。


『……リリィへの好意は露骨に言っているつもりなんだけれども、保護者であるウサギの旦那に"友だち"って強く言われると、結構複雑だなぁ』


『ルイ君は、リリィちゃんに大層懸想(けそう)をしていらっしゃるみたいですね』

やんちゃ坊主と強気の巫女の女の子とそれぞれ面識はあったけれども、2人が同じ場所にいるというのは初めて遭遇した仕立屋は、ニコニコとしながら感想の言葉を述べる。


一応、昨夜に話を聞いてはいたけれども、実際に目の当たりにしたならば随分と熱心なやんちゃ坊主のアプローチに、少しばかり新鮮な驚きと共に、興味も沸いていた。


『けそう?ってどういう意味っすか?』

『そうだね、"リリィの事を好きだ"って、心に想い留めるだけじゃなくて、表に出しているって感じの事かな』


仕立屋の奥ゆかしい例え言葉は、やんちゃ坊主には少々難しく、それを察した新人兵士が直ぐに解説をすると、ルイは元気よく頷いた。


『だって、リリィ、可愛いじゃないっすか。早めに"好き"って公言しておかないと、あと2,3年もしたなら城下でいきなり告白だってされてもおかしくない!』

『ああ、それはありえるねえ』

ルイが断言し、今度はウサギの賢者が力強く頷いたなら、仕立屋と新人兵士は思わず顔を見合わせて、苦笑いを浮かべた。


『……でも、ルイ君。考えてみたのですが実際問題として、大袈裟に聞こえたら申し訳ありませんが、"今"、リリィさんと恋人になったとしても、関係はあまり変わらないのではないでしょうか?』

『え?、それってどういう意味ですか、キングス様?』


仕立屋の方も、もうすっかりリンゴを食べ終えていて、先に淹れて置いた良い具合に冷めた茶を淹れた湯呑を、口元に運びながら、そんな事を口にする。


『少しばかり、具体的に表現になりますが、ルイ君が14歳で、リリィさんが11才。

例え仮に恋人同士に、"保護者公認"でなったとしても、常識的に考えてとても仲の良い"友だち"以上の付き合いは、望めないと思います。それに―――』


やや釣り眼の黄金色の眼を、この屋敷の主の方に向けると、自分専用の椅子に深く腰掛け、円らな眼を細め、いたって"普通そう"に振る舞っている。


が、それなりに、武芸の腕を磨いているやんちゃ坊主を含めてこの場にいる3人は、ウサギの賢者が長い耳をピンとさせていて、この会話にとても集中しているのを察する。

リリィの保護者であるウサギの賢者が、確り聞いているという"前提"と、それに敢えて触れないという"暗黙の了解"で、仕立屋が話を続けるべく、再び紅の引かれた唇を開いた。


『年齢の度合いにあったお付き合いとなるとしても、往来で手を繋いで歩くぐらいしか、その年頃の恋人とされる2人に相応しいスキンシップとして、私は思いつきません。

もしかしたら、私の考えが故郷の東の国の物も相俟って、古いだけかもしれませんが』


仕立屋にそう言われると、やんちゃ坊主は純粋に驚いた様子で眼を眼と口を丸くしていた。


『え、そうなんすか?"手を繋ぐ"は、ロブロウで、何回かしたかな。どっちかというと、体調がちょっと悪くて手を引いている感じだったけれど。

え、でも、それって"恋人"同士で初めてするものなんすか?』



自分と同世代に殆ど興味が無く、グランドールとばかり行動を共にしており、"自分の年齢で行う恋愛の諸々"について考えた事もない少年は、首を傾けていた。



『農場の、親が働いている時に預けられている保育所のガキ達は、そんなの気にしないで手を繋いでいたような……』

『……っ!』


これには自身の恋愛事は苦手だけれども、浅くはあるが軍学校で築いた交友関係や、そこに入る前に住み込みで働いていた王都の城下街で工具問屋で、人付き合いの経験のあるアルスが思わず声を漏らしてしまう。


『それは、その子達は、その、相手を"男や女"で全く意識をしていないからね。それこそ、"友だち"って意識しかないと思うよ』


アルスは、極々当たり前の事を話しているつもりなのだけれども、ルイはとても為になる情報を聞いたといった風に、新人兵士が語る事に頷いている。


『"友だちとして"か……。

それだったら、キングス様の言った様に、オレとリリィも、そのままで友だちの状態なら"男女"でも手を繋いでいても、オッケーという事なるのかな?。

今以上に関係進むって言っても、オレは恋人ってのはどういう具合に進んで行くのかが、良く判らないし』


ルイの言う"進む具合"は、アルスにも正直判らない。

けれど、取りあえず自分の周りで見た経験と重ね考えて、一般的に思える意見を口にする。


『小さい子ならともかく、ルイ君やリリィくらいの年齢になると、それこそさっきキングス様が仰っていたみたいに、"手を繋ぐ"事に理由が必要で、一番妥当なのが、やっぱり恋人かな。

けれど、何かの行事や、ロブロウの時みたいに、相手の体調を気遣うみたいな理由があれば、恋人でなくても普通にあるし、"仲の良い友だち"として繋ぐのは"ある"事と、自分は思う。

あと自分はリリィと城下で、人混みで離れたらいけないからって、理由があって手を繋いだことはあるよ。

自分達の場合は、ウサギの賢者殿の仕事の同僚っていうのもあるし、賢者殿によく例えて貰うけれど、兄妹っていう感じに見えるらしいから。

手を繋がないで、人混中でリリィを放っておくって事が自分が出来ない性分っていう事もあるけれど』


自身では経験のない事だけれども、好意を持っている相手や、俗にいう"付き合っている状態"になっている2人が、決まっている相手以外と、事情があって手を繋ぐにしても、大なり小なり"問題"が起こる所は、見た事があった。


なので、ルイとリリィは恋人同士でもないけれど、一応"手を繋ぐ理由"をアルスは添える。

理由を添えなければ、兄妹みたいな関係だとしても、ルイがもしかしたなら"嫉妬"するかもしれないくらい、リリィの事を好きなのは知っているつもりである。

けれど、ルイは嫌な表情を1つも浮かべずに"アルスとリリィ"の手を繋ぐ状況の話を聞き、更に頷いていた。


『そりゃ仕方ねえよ。リリィは小柄だし、多分王都の西側での話しだろ?。

あそこは、時間帯によったらオッサンだらけだもんな。

寧ろそこで、アルスさんがリリィの手を繋いでいなかったら、それこそ軽蔑するよ』


先程は"懸想"という言葉の意味を知らなかったのに、"軽蔑"という言葉の意味を理解して使っているのに、アルスは思わず呆気に取られた後に苦笑する。

だがルイの方はアルスが苦笑いを浮かべた意味は分からない様で、また師匠のグランドールと剣の稽古の時にでも拵えた掠り傷がある頬に手を当てて考える。


『ふーん、今まで男と女とかそこまで意識したことなかったけれど、年齢や関係によって段階とかそんなのがあるんだな。

オレとリリィが恋人になったとしても、今の段階じゃあ、賢者の旦那が言うみたいに、友だちぐらいが良いってことになんのかぁ』

至って真面目に、やんちゃ坊主は考える姿を、アルスは見つめた。


(ルイ君の詳しい素性は知らないけれども、もしかしたら、自分以上に"まとも"な子どもの時間を過ごしていないのかもしれない)

この時初めて、そんな事をアルスは考える。


"オレはオッサンに拾われた時は、あのスカーフと精々ズボンに靴に、どっかで拾った鈍なまくらの小刀ぐらいしかなかったから。

オッサンが上着くらい着ろって言うから、真似させて貰ったんだ"


ロブロウで、ルイの身体を診察するという機会があった時に、やんちゃ坊主は自己紹介という程ではないけれども、現在の保護者となるグランドール・マクガフィンとの出会いについて簡単に語った。


(ああ、それに)


"グランドール、失礼な尋ね方だけれど、教えてもらえるかしら。農業研修のご同行の子ども達に、"普通の家族"を持っている人はいるの?"


"いや、皆、災害孤児や理由があって家族というものを、知らない"

今はもうこの世界を"旅立った"、親友の師匠が以前にルイの保護者となるグランドール・マクガフィンに尋ねた時に、はっきりとそう言っていた。


アルスを含めてリリィもルイも、"普通の家庭"という物が判らないけれど、今いるそれぞれの居場所は、結構まともにも思える。

でも、今いる場所に辿り着くまでに、どんな過去であったのかは詳しく知らない。


(ルイ君は、グランドール様に"出逢う前"、いったいどんな風に)


『ああ、でも!"ロブロウ"で!』

『わあ!』

『おや、どうしたんだい?』


ルイが突如として"ロブロウ"と口にしたことで、丁度ロブロウでのルイについて思い出していたアルスは、驚きの声を上げ、今まで"沈黙"していたウサギの賢者が声をかけていた。


やんちゃ坊主の方は、声をかけてくれた耳の長い賢者の方に、少しばかり悲壮を含ませた表情を浮かべ、八重歯の覗く口を開く。


『なあ、でも、キスされても許す関係ってすげえ仲が良いって事っすよね?!。それって、その内に、恋人並みに親しくなってもおかしくないってことっすよね?!』


『な?!、リリィがロブロウで、誰か彼かにキスされた事でもあるとでも言うのかい?!』

普通なら、もっと詳細な情報があった上で、ルイの"キスされた"発言の当事者がリリィだと判るようなものである。

ただ会話の流れと、自分の秘書の巫女に、いつもの不貞不貞しく、かつ飄々としている雰囲気からは計り知れない程、思い入れを持っている賢者は直感と、ルイの狼狽えた様子で理解した。


『リリィさんが"されるような場面"というより、"状況"は、ロブロウであったのでしょうか、アルス君?』

『リリィが"される様な状況"ですか?』


一方、この中で最も落ち着いている仕立屋は、"とりあえず"一番落ち着いてロブロウについて語れそうな新人兵士に、賢者を刺激しないように"キス"という単語を使わずに語りかける。


新人兵士は空色の眼を激しく瞬きをしながらも、落ち着いた仕立屋の雰囲気が感染したのと、"キス"という単語を使わない仕立屋の意図を汲み取れる程落ち着きを取り戻し、"あ"と短い声で反応する。


『ああ、思い当たるのありました』

『何?!』


常に実直で真面目なウサギの賢者の護衛騎士が、"思い当たる"と明快に口にする。

するとその護衛対象にあたるウサギの賢者は、普段からかけている丸い眼鏡のレンズの奥にある円らな瞳を鋭くし、長い耳の先端が靡く程激しくモフリとした頭部を振るった。


上司の鋭い視線を感じ受けとめはするけれども、空色の眼は、引き続き落ち着いていて、先に質問をしていた仕立屋の方に向ける。

するとキングスが再び品良く微笑んだのを確認した後、やんちゃ坊主の方に向けて口を開いた。


『えっと、ルイ君。ルイ君が言っているのってロブロウの2回目の晩餐会の時の事だよね?。

"ウサギの賢者殿が姿を消してしまって、色々あって心配して泣き出してしまったのを励ます為に"、

アルセン様が色んな言葉をかけた後に、リリィの手の甲にキスした話しだよね?』

アルスの確認に、やんちゃ坊主は素直に頷いた。


『はい、それっす!。あの時アルセン様が、リリィが泣いたのを励ますのに手の甲にキスをしましたよね』

今度はルイが確認する様に尋ねたなら、アルスは何度目かの苦笑いを浮かべて頷いて、それを見たやんちゃ坊主は、首を傾げる。

それから、もう冷めてしまって茶を涼しい顔で美味しそうに啜っている仕立屋を見たなら今度は反対向きに、首を傾げながら口を開いた。


『……なんだ、アルスさんやキングス様の様子を見ていると、アルセン様がリリィにしたキスは、オレがそこまで気にする事はない事なんすか?』


これにはすっかり茶を飲み終えた自分の湯呑を両手包み込むようにして持っている、仕立屋が例のたおやかな雰囲気を伴って口を開き答える。


『そうですね。話しを聞いただけで鑑みるに、それは所謂、"迷子になってしまって、不安で泣いてしまった小さな淑女を励ます為に、頭を優しく撫でた"、その延長線上にある事だと私は思います。

それに実際、リリィさんはアルセン様のその"キス"というよりは、その"行動"で驚いたかもしれませんが、涙を止める事は"成功"しませんでしたか?』


『……それは確かに、そうだったっす』


自分の師匠の、男性なのにと綺麗過ぎる親友という人が、ルイのとても大切な女の子の小さな手に口づけをしたことは、声を漏らす程ショックな事の筈だった。

けれど、実際それでリリィは中々止められなかった涙を、予想以上にあっさりと止めることが出来た。


―――悲しむ女性を慰めるのは、今や軍人でも紳士の嗜みとして必要らしいですので。


後にアルセンがそう語っていた言葉の通りに、あの綺麗な人にとっては"リリィの涙を止める為の手段"であって、それ以上でも以下でもなかったと、ルイも無自覚に納得していたから、すっかり忘れていた。


(本当に、特に"オレが拘りさえしなかったなら"、アレはリリィの涙を止めるのにとても効果的な事だった)

勿論、涙を止める事が自分には出来なかった事を"悔しい"という思いはあるけれど、あの方法に、ルイは全く不満を抱いていない。


『―――詳しい状況は、話をもっと確り伺ってみないと判りません。

ただ繰り返しになりますが、リリィさんが泣いてしまったのは、"ウサギの賢者"様がお仕事かもしれませんが、"姿を消してしまった"事が一番の原因みたいですから。

ここで今更、キスがどうこう騒いでも、仕方のない事ですね、"賢者様"?』


仕立屋がたおやかながらにも、圧を与える雰囲気を醸し出しながら、ついさっきまでは結構な"加熱(ヒートアップ)"を見せていた耳の長い賢者の方を、月の様な静かな眼で見つめる。



先程は情報の"走入(はしり)"の方で、名前も出ていないのにキスがリリィについての会話と察知した様に、現状でも話の流れをウサギの賢者は掴む事は出来ていた。



自分の護衛騎士が、


"ウサギの賢者殿が姿を消してしまって、色々あって心配して泣き出してしまったのを励ます為に"


と口に出している頃には、リリィを"泣かせた原因"は自分自身であることに円らな眼を、線の様に細めていた。



その頃には、長い耳に(みなぎ)っていた緊張はすっかり抜け落ちており、フワフワとしたものに戻っている。



そしてルイがアルセンの"キスの処置"について腹をたてるのではなくて、納得している時には、世話をかけてしまった後輩に感謝しつつも、"手の甲にキス"という保護者として、少々複雑な思いは拭えない状態となっていた。



だが、そもそもの原因は仕方はなかったいえ、"ウサギの賢者"の姿を保てていなかった己に責任があるのは弁えながら、涼しい表情を浮かべている親友の仕立屋にテレパシーを飛ばす。




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