ある小さな恋の物語⑥の③
「ねえスパンコーン。今日の市場で"帽子屋"さんなんてあるかしら」
先程は青い髪に、垂れ目の優しい少年が自分の為に張り切ってくれたので、今度はジニアが応えるべく、目的があって尋ねました。
「帽子屋さん……?。うーん、普通の市場の時は見たことがないけれど、今日は本当に色んな行商があるから、もしかしたらあるかもしれない。
でも、本当に沢山の店があるから、捜すのは大変かもしれない。
それに……やっぱりないかも知れないし」
スパンコーンは、ジニアとこうやって賑やかな市場を一緒に回れるだけでも―――"楽しい"と思える時間を、恋人になってくれた女の子とすごせるだけでも、十分幸せでした。
もし、大好きな女の子が探し求める帽子屋さんが、探してみてもやっぱりなくて、がっかりするのも見たくはありません。
「じゃあ、もし残念ながら帽子屋さんがなかったなら、生地屋さんでもいいわ。でも帽子なら革の方が良いのかしら?」
「え?!、それって、もしかして?!」
手を繋いだまま、スパンコーンは思わず自分がスリングショットの的当てで、獲得した
犬のぬいぐるみを抱えている恋人を見つめます。
すると、恋人の健康的な褐色の肌をした女の子は、ぬいぐるみを抱えたまま実際の年齢よりも発育がよいため、結構膨らんでいる胸を、"えっへん"と張ります。
「そうよ、帽子屋さんがなかったなら私が作るつもり!。まあ、賢者様に教えて貰うつもりだけれどね」
小さく舌の先を出して、イタズラっぽく笑います。
「でも、賢者様の秘書をしながら作るのは大変じゃない?」
それに自分の指導係をしてくれている国の賢者が、それなりの多忙なのは知っている。
ジニアもそこは、わかっている様子でした。
「うん、だから、極力帽子は、帽子屋さんで買えたらいいなあって思ってる。作るにしてもやっぱりプロの仕立て屋さんの方がいいとは、私も思うもの。
だから、その、帽子を買ったなら、せめて名前ぐらい、私が刺繍しようかなって」
「名前の刺繍だけでも十分うれしいよ!。でも、どうして僕に帽子なの?」
「……帽子は、大体外に行く時に被るでしょう?。その、離れている間は、私が名前を刺繍した代わりに帽子がスパンコーンの側にいれるかなって、思ったから―――わっ」
少し照れながらを言う恋人を、気がついたならスパンコーンは抱き締めていました。