ある小さな恋の物語⑥の②
「スリングショットのお店で、スパンコーンが格好いい所が見れたのは嬉しかったけれど……。
"出禁"なんてあるのね」
スパンコーンが出店で取ってくれた、犬のぬいぐるみを笑顔で抱えながらジニアが、不思議そうに言います。
屋台で遊んだ後に、店の入り口に遊ぶ前は興奮して気がつかなかったけれど、判りやすい場所に貼り紙があり、"出禁(出入り禁止)人物"として晒されていました。
「うん、でもあの店のオジサンの様子から見たら、多分景品を"ごっそり"持っていかれての、出禁だろうね」
「悪い事をしたからじゃなくて?」
ぬいぐるみを抱え、スパンコーンと手を繋ぎながら、ジニアが尋ねます。
手を繋がれた事に顔を赤くさせながらも、それを拒まずに、スパンコーンは恋人に尋ねられた事に答えます。
「悪い事をしたなら、その理由を詳細にして、店の入り口に、似顔絵つきで貼り出してもいいんじゃないかな。
はっきり断るだけの正当な言い分も、損害もあるわけだけだから。
店にとって都合の悪い事だから、ただお断りをしているんじゃないのかな」
「あ、そうか。私自分が絵を描くのが苦手だから、似顔絵だなんて思い付かなかった。
それに、出禁の人の特徴が"紅いスカーフ"に"キザな言葉使い"だけじゃあ、はっきりしないし。
単に店が嫌なだけのワガママなわけね」
ジニアの"ばっさり"とした物言いに、母親が"商家"の出自である、青い髪の貴族の少年は苦笑いを浮かべます。
「多分……余程、あのスリングショットのゲームで損害と言うよりは、割りに合わない景品の持っていかれた方をされたんだろうね。
実は賢者殿に、あの店の話を聞いたことがあって、挑む料金も高いけれど、その料金で獲得できたら、ゲームに挑む側には、凄くお得で、店側は凄く損になる―――」
スパンコーンは思い出しながら、繋いでいない利き手の方の指を自然に十露盤を弾く形に動かし、その指が止まる。
「僕が話に聞いている装飾品で、特に高そうだって聞いていた金の指輪や、金の腕輪とかも無くなっていたから、多分その出禁の人にとられたんだろうなあ。
―――凄い損害だ」
いつも優しそうな垂れ眼の少年が、生家が携わる"商い"の事を考える時、とても鋭い眼元だけれども"格好良く"もなる。
「……?ジニア、僕の顔に何かついてる?」
「ううん、じゃあ、今度は私に奢らせてね」
恋人たちは、再び市場を進みます。