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gossip  "噂話"②


英雄や、この国最大の農場経営者となる存在が、跡継ぎと認めている優秀の少年に教えるようなことはない。

けれど、"普通の恋"に関しては経験者とし話してやることぐらいは出来ると双子は思っている。


『とりあえず、好きでもない相手の気持ちを断るのは良いとして』

『恋文の始末の仕方は教えた、慎重にした方がいいと助言しないとな』

そんな風に双子が考えるのは、勿論、ルイが恋文を"どうにかしよう"というのに気が付いたからでもある。


ロブロウから戻ったやんちゃ坊主の方は、疲れている所はあったもののそれは最初の内で、持ち前の若さで早々に回復し、色々とグランドールから命じられていた事を熟していた。

『噂をすれば』

『何とやらだな』


『オッサンからだよな』


双子がまた1人で喋っている調子で、2人で口にした後に、ルイが続ける。

マクガフィン農場の主ではあるけれど、英雄として時おり国の仕事もこなしている代わりに、軍の道具を限定で融通をしてもらっている。





とはいっても、軍の戦力の機密や漏洩に繋がりそうになるものは、一切記載する事を禁止されている。

あくまでもグランドール・マクガフィンが、国と個人の仕事を両立するのを補助するものだけで、今の所"国で一番早い"とされている魔法の紙飛行機が一番使われていた。


『多分、フクライザの兄さん達宛だよな』


ルイが機敏に反応し、窓を解放したなら、紙飛行機がルイが予想した通り、"用事"がある方双子の兄さんの方に飛んでいく。


すると紙飛行機の方も弁えているらしく、丁度双子の真ん中で停止飛行するので双子も器用に互いの利き手で紙飛行機を"開いた"。

やんちゃ坊主は興味深く、双子の兄さんが互いに前髪に隠れていない方の眼を動かしながら、そこに認められている内容を確認するのを眺めて、口を開くのを待った。



『ルイ、今日、大将はちょっと緊急で支度することがあって、日を跨がないと帰ってこないって連絡だ』

『大将の帰りを待つのは構わないけれど、相談事があるにしても、今日は寝てしまった方がいいと思うぞ』


敢えてルイが抱えている開封された手紙には触れずに、紙飛行機に記された連絡事項を教えてやる。


『そっかあ、じゃあオッサン疲れているだろうし、オレの"火の魔法の稽古"を頼むのも悪いし、疲れるだろうなあ』


そんな事を言いながら抱えている、開封がされた手紙を見つめるやんちゃ坊主の姿に、2人の兄さんの頭の中に不穏な予想が過ぎる。


『まあ、いいや。とりあえず、オッサンに挨拶だけして明日、頼もうっと。

じゃあ、兄さん達オヤスミー』


相変わらず、"兄さん達"には農場仕事と自分を抑え込める腕前だけに関してのみに敬意を払っているやんちゃ坊主は、居室に引っ込んでしまった。

と、思っていたら、癖っ毛の八重歯の八重歯の少年は直ぐに扉の隙間から頭だけを出す。


『なあ、兄さん達は寝る時にシャツつけているか?』


『なんだよ』

『いきなり』


大将からの手紙を双子で持ったまま、激しく瞬きをするけれども、どこかで"頼られた"のを感じたから、直ぐに"答えてやろう"という結論に同調(シンクロ)する。


『俺達は、冬や春先は着込むけれど寝る時は下は下着だけれども』

『他の暖かい季節は、取りあえず"上"はルイの言うように、シャツを身に着けて、寝るかなあ』


『それは何でだ?』


"何でだ?"と尋ねる口調が、不思議と、いつもよりもとても子どもっぽく感じて、いつもなら少しばかり揶揄(からか)いで返事をするのだが、兄さん達は真面目に答える事にする。


『そうだな、親に―――特に、母親にそう躾けられたからかな』

『"風邪をひくから"って、言われて続けて、つけたかな』


『"母親"にか……父親には言われなかったのか?』


(お父さん、お母さんとか)

(きっと言ったこともないんだろうな)



具体的な"親"というものを知らない少年に尋ねられて、双子は考え僅かに押し黙る。

けれども、自分達に尋ねているルイが、気にくわない相手なら、必要の無い限り無駄に言葉すらかけない賢さを携えているのは、知っている。


"グランドールの大将"に次いで、このマクガフィン農場という場所でやんちゃ坊主と、身近な関係でいる自覚はあるから、その場凌ぎの答えをしたくはなかった。



(それにこの前みたいに、答えたならきっとその場で見抜いて、呆れるだろう)

(ただ"結婚"に関して、尋ねられても、今の俺達にルイが聞き入れる価値のある返事が出来た自信はないけれど)


ただ、幼い頃に"親"という存在と離れたしまった大将には語る事が出来ない部分で、代わりに"子どもの部分"語る事が出来るのは、自分達だと自覚しながら、再び口を開く。


『俺達の場合、父親には、家の中に関しては特に何も言われなかったかなあ』

『フクライザ家の場合は、母親が家の中の決まりを任せられていた』


『成程、父親と母親で、役割分担していたんだな。

でも、母親っていうのは、主に女の人が熟す役割が主だから、やっぱりその意見は間違ってねえんだろうなあ……。

あ、兄さん達に良い事、教えてやるよ。

オッサン、今度から寝る時はシャツを身に着ける様になったから、朝の連絡とかよろしくな』


そんな言葉を残し、今度こそやんちゃ坊主は癖っ毛の頭を、自分の居室に引っ込め、扉は確りと閉められてしまった。

それなりに誠意を込めてやんちゃ坊主の質問に双子の兄さん達は答えたつもりだったけれども、ルイからの返事はどこか期待していたものとは違った。



『でもまあ、期待したのとは外れてしまったけれど』

『少なくとも呆れられなかったから、良しとして置くかな』


そして互いに一斉に小さく息を吐き出し、合わせ鏡のように"兄弟"で顔を見合わせ、自分達は別個の人で役割を熟す立場なのだと弁え、シャムとシエルで、相部屋に戻り会話を始める。


『今回の月周りで若い衆を纏めるのシャムだから、朝の報告は先に行くんだよな』


髪に隠れていない左眼を動かし、自分と同じ顔をしたシエルが確認をしたならば、右眼だけを出したやはり同じ顔をしたシャムが頷いた。


『そうだな、俺がグランドールの大将に仕事に関しては報告、連絡を受けるから、シエルがさっきの―――恋文の事を含めて、大将に話しておいてくれ』

『そうだな、十中八九"燃やす"つもりだろうからな。

それが最終的に片付けるやり方にしても、読んでいる事を目撃されたされた後に、直ぐに燃やしてしまう事は、少々行動が極端であると教えておかないと』

口に出しては言わないけれど、自分達の大将は、恐らく養子に迎えようとしているやんちゃ坊主がしようとする事に、特に反対もしない様に思える。


"要らないのだから、片付ける"


実に合理的にそんな風に考えそうだし、双子も要らない物を片付けるという事自体に反対は全くない。

でも、普通に育ち育んだ恋の感覚と、ただ生きる事に懸命になってきた中で見つけた、やんちゃ坊主の恋への捉え方は多分違う物になっているだろうと思える。


その違いが、長閑(のどか)なマクガフィン農場の不要な火種になりかねないと、考え至る。

そこで双子は互いに、腕を組んで前髪に隠れていない方の眼を右側に動かし、自分達の職場の上司と一応後輩となるやんちゃ坊主の姿を恋に対する姿勢を想像してみた。


『ルイや大将は、あくまでも自分と、その恋をする相手の気持ちを優先して物事考えそうだからなあ』

『大将の"相手"なら、多分裏も表も弁えて付き合う人―――分別のある大人だろうしなあ。まあ、随分と昔に大きな失恋してから決まった相手がいないとも、聞いているけれども』


まだ双子がやんちゃ坊主以上にガキの時代。

グランドール・マクガフィンが国に英雄として認められて間もない時期に、結婚まで考えた相手がいたらしい"噂"は知っている。


その相手となる人物は大層な女っぷりで、褐色の大男と似合いの胸の大きな、傭兵でもあり、とてつもない魔法の使い手だったと話が残っていた。

そして、農場の若い衆が、好漢として憧れてもいる男が"振られて"、酒場で大層美形な親友に"捨てられた"と泣きながら嘆いていたという、俄かには信じられない噂もあったという。


それからは自然と褐色の大男に関しては、その類に関しての話題が"禁句(タブー)"に近い形で、誰もその話をしない。


それに酒の勢いを借りたとしても、国の英雄に"振られた"話を聞きだそうとする、蛮勇と愚かさを持ち合わせている者はいなかった。


それ以降、グランドール・マクガフィンに決まった相手はいない―――というか、ここ暫く"女性"と飲んでいたりする姿は、王都の飲み屋街で見かけた程度の域を出なかった。

相手は毎度変わっていて、その後にグランドールの大将の親友だというアルセン・パドリックと美女が入れ替わり、楽しそうに酒をのみながら談笑しているという目撃は多数ある。


その美形の親友も、美しい婦人と食事をしている姿を月周りが2度の間に一度位の間隔で、目撃されていた。

だがその美人の親友も、毎度連れている女性が違うということだった。


先月などは、マクガフィン農場の中でも人気が最も高い、王族護衛騎士隊のリコリス・ラベルとその親友のライヴ・ティンパニーをつれて食事をしているという事実があった。

それは国の"日報"という堅い情報誌には載らないが、噂話などが好む御婦人が購読する冊子には確りと載ってしまっている。


マクガフィン農場の若い衆は、取り締まる大将が西の領地に出張中という事もあって、多少ゆるくなっている規律の中で調子に乗り、麦刈りの終えた畑で円陣を組んで嘆く現象まであったという。


双子も例に漏れず、普段は"クールビューティー"と評される彼女がバレバレな変装でもって、自分の休日を使って訪問治療行っている、優しく美しい婦人に淡い憧れを持っていた。


自分達の職場の大将の親友が、恐らくは世間のからの誤魔化しの為、リコリスやライヴといった、才媛と評される彼女達を食事に誘ったのだろう―――。

そんな冷静な考えも、フクライザの双子を代表とする、マクガフィン農場の若い衆も落ち着いたなら出来る。

だけれども、正直に言って、自分達の大将の親友を少々恨みもしたのだった。


勿論、グランドールの美人の親友アルセン・パドリックが、リコリス・ラベルとライヴ・ティンパニーを誘った上で、それを2人が了承したので、その"デートに見える状況"が成立しているのである。


日頃明るい陽気な基本的に壮快だとされるマクガフィン農場の若い衆だって、冷静になれば理屈も判っていた。


それでも、本当なら何の落ち度のないアルセン・パドリックを、美女を独り占めしているとふざけているとはいえ"恨む"気持ちを持つのである。


もし、これが自分の気持ちに制御をつける方が困難な、色んな意味で、特に恋という感情に素直を過ぎる年頃の女の子達が、ルイがしようとしている事を知ったなら。


ルイ・クローバーというやんちゃ坊主の方が、熱烈にリリィという女の子に惚れているというのに、まるで惚れられている側の方がいけないのだという"空気"が出来上がるのが容易に想像出来た。

"悪い方向にばかり考えている"

そんな自覚がありながらも、双子の兄さんは少しだけ身震いする。


『ルイが結婚したいって、思っている大切な女の子の方を、結果的に嫌な目に合わせてしまうかもしれないんだって、予想はつかないんだろうな』

『ルイからすれば、"どうして、オレに文句つけないで"って気持ちになるんだろうけれどなあ。

それを俺等が説明しても、感覚的にはあのやんちゃ坊主には理解しにくいだろうし』


普段なら譲りあうように短く喋るが、纏めて考察する内容が長いので、互いに珍しく"長文"でフクライザの双子は会話を交わす。


『多分、グランドールの大将はともかく、あの美人の親友さんくらいは、自分の行う振る舞いが起こす影響に気が付いているんだろうけれど、"相手"も自分も噂がたっても特に困らない立場だろうし』

『それで分別がついてる、大人だしなあ』


そこで双子は、前髪に隠れていない方の眼を同時に大きく見開いて、組んでいた腕を解き、鏡合わせの様に互いに逆の利き手の人差し指を立てて向き合った。


『ああ、そうだ、パドリック様にいっその事説明してもらうのも手かな』

『確かに、あの方ならグランドール大将の親友だしな、ルイも生意気な部分を引っ込めて真面目に話を聞くか』


確か、その美人の軍人はロブロウでルイが大きな粗相をしてしまったことで、王族の血も引いているという事で、謝罪の為に赴いたのは聞いている。

加えて、突如起こった局地的な集中豪雨の為に起こりそうな自然災害を防ぐ為の儀式にも、"途中参加"をした上で共に帰って来たと、グランドールから報せて貰った。


『大将とロブロウで多分行動も共にして話しているだろうし、ルイもそれなりの交流しているのだろう、けれど―――』

『でも、アルセン様に頼み込むっていうのも、少しばかり按排(あんばい)が違う様な気もするのは何故なんだろうな―――』


互いに語尾を伸ばし、再び鏡を見る様に、見つめあい腕を組んだ。

自分と同じ顔が、困ったと迷った感情を混ぜ合わせた様な表情を浮かべているのを眺めた後に、同時に眼を閉じる。

そして自分達の大将の親友で、貴族だという綺麗な澄まし顔が形の良い唇を開いて"フクライザの双子"に意見する姿が浮かぶ。


"頼まれた私が、親友の弟子に"そういった事"を教えるのは、(やぶさ)かではありません。

しかしながら、マクガフィン農場でグランドールの"両腕"とされているお兄さんを差し置いて、農場で働いているルイ君に、私が指導ですか。

確かに素早く効果的かもしれません。

でも、状況が戦でも商売でもない状況なら、じっくり考え向き合うのも良い物事だとも思うのですけれどもね"


綺麗な顔ながらも、指の本数程しか出逢った事の無いのに、思い出すのも容易な圧を持った雰囲気を纏う、英雄で軍人が綺麗に微笑み、想像の内でありながらもを試すような眼差しを向ける姿が、浮かび結局息を揃って吐き出した。

それから表情を引き締め、双子は向かい合う。


『頼んだなら、引き受けくれるだろう。けれど、嫌味じゃないけれども綺麗に微笑みながら、何か耳と心に痛い所を仰りそうだよな』

『その上でこちらの努力が足りなければ、心の負い目になっている所を容赦なく鋭く突くような言葉を吐き出されそうだ。

思えば、アルセン様も何気に苛烈と例える子ども時代と、大将は言っていたし、歴史で簡単な生い立ちは習ったよな』


とても幼い頃に、この農場の大将や、やんちゃ坊主と同じ様に"親"という存在を喪った。

母親もいたけれども、最愛の夫を喪った事で、とても"親"としての役割を熟せる状況ではなかったとも学んでいる。


『何やかんやで、跡継ぎに決めたルイに"一般的な感性"を教える事は、大将の考えを一般的な立場にいる農場の働き手に伝える立場にいる、俺達の"役割"なんだよな』


『どうしても、"楽で簡単で、効率の良い方"を考えてしまうけれどな。

でも、それはルイに"一般的な考え"を教えて理解させるという事が、難しいというのを無自覚に、俺達は理解しているってことなんだよなあ』


そして、無意識に出来る事なら避けようとしていた。

それはやんちゃ坊主や、褐色の大男に美人な軍人が抱えている、何があっても譲れないという気持ちを、持てていない事に、劣等感を抱いている自分と見つめ合う事になるから。

決して、そこを恥ずかしい物とも思っていない。


ただ、そこまで"想える"ものがあるのが単純に羨ましい。

その羨ましく妬ましい気持ちを、明瞭な言葉にするのを避けるところも同調(シンクロ)している所に、互いに気が付いて顔を見合わせ、何度目かの息を吐き出した。


同じ境遇、似たような背景を持っているのなら、互いに理解をするのは容易いし、相手の気持ちを予想し、思い遣る事も考えるのも難しい事でもない。

更に似たような感性同士なら、考えを読み取ることも簡単なのは、双子の兄さん達が一番よく知っているが、生きて行く上で人間関係という物は、単純な物でもないのも、体感している。


シャムもシエルも、双子という互いに姿も思考もそっくりすぎる存在について、稀に嫌な思いもするが、そのほとんどは外から寄せられる言動や振る舞いが始まりだった。

双子の片割から、嫌な思いをしてしまうことがあるとすれば、同じ顔の存在の内側に中に"迷い"という物が居座った時。


その迷いという物は、内側外側にしろ否定的な形状や音で"信頼"というものを揺さぶりをかけ、さらに距離を広げようと亀裂までを入れようとしてくる。

けれどもフクライザの双子の場合は、自分と同じ顔と思考を持った存在が傍らにいる事で、比較的早急で客観的に、迷いによって出来た亀裂に気が付ける。


そこに余計なものが入る前に、これまで培ってきた信頼で、その亀裂を埋めてしまう事は出来た。

その上で成人し、"マクガフィン農場"という場所で働いている事で、グランドールを大将として盛り立てていくという仕事での"共通意識"も、最近は稀に生まれる亀裂を埋める材料になっていた。


『俺達とルイが一番共通出来るところと言えば、マクガフィン農場で働いているって所だよな』


『俺達が、ルイと気持ちを揃えるのにとっかかりにするのは、やっぱりそこだよなあ』



マクガフィン農場で働いている事。



それは、ある意味で、セリサンセウム王国でマクガフィン農場で職を持っている事が一種の矜持(きょうじ)の様になっているのは、農場に関わっている者の不文律。


"先ずは余生を過ごせる分で、出来れば美味しい農作物を作り、日銭程度に稼げれば良い"


最初はそんな漠然とした考えで、英雄としてのグランドールが王から報奨として賜った土地で始めた、個人の趣味が延長した様な菜園規模の田畑が、マクガフィン農場の始まりだった。


その当時、グランドールの"農夫"としての経歴(キャリア)は、子どもの頃、まだ家族がいた時に、手伝いに農作物を作っていた位のもの。

だから、要らぬプライドを持たない、元々は農夫になる予定だった英雄は、先輩となる王都の付近に住む、農作物を作る農家を恐縮させつつ、頭を下げて一から学びなおした。


"英雄"として握っていた武器を農具に持ち替え、精力的にこの国の"大地"と向き合って思うがままに農作物を育てる。


土地は余っているから、品種改良や、実験的的に作物を育ててみたいという近所の農家にも、国が定めている最低の賃貸料で土地を貸していた。

味も質も良い物を作り、城下の経済のバランスを崩さない程度に破格の値段で販売すると、時間が経つにつれて規模を広がり、働きたいという人も増える。


自然は思い通りに行くものではないけれども、余程の事がない限り差はあるにしても、成長してくれる農作物は働き手の心を充足させ、心に豊かさを与えてくれた。


また、グランドールも英雄として何かと"国"―――国王に呼び出されることが多々あり、その際には、最初に農業を教えてくれた農夫や、そこから伝手の出来た縁者を信頼し、農家としての仕事を委ねる。

そう言った事を繰り返し、年数が過ぎて行く内に、金儲けからは程遠い所から始めたにも関わらず、信頼関係は確固なものとなり、当初の予定から外れて国一番の評判がつくような、立派な農場となる。


その頃にはグランドールが全てを把握する者困難な程、農場に働きたいと申し出る者も集まっていた。

また、国王ダガー・サンフラワーが、農業を奨励している事もあって、その"波"に乗って当人は口にも出さないが、グランドール・マクガフィンが大嫌いな"貴族"も、少なくではあるが農場に通い始めた。


苦手な貴族の応対を含め、褐色の大男が信頼できる者に農場については遠慮せずに頼りながらも、最終的な責任者として1人でまわす限界を感じ始める。



また苦手な事を手伝って貰った謝礼をするにしても、度合いも具合も"勝手"が、判らなくもなり、褐色の大男は大きな頭を抱える事になる。


これまで世話になった農夫達も、グランドールを手伝う事には、何の不満もないし報酬も貰いもするが、それが感謝を込めた意味があったとしても多く思えていた。


"このままではいけない"


英雄が何気なく始めた農業は、国にとって有益なものだが、"金"や"利益"が絡むと何かしらの歪みが、何時何処で発生してもおかしくはない。


何かしらの話し合いが必要と思えたが、世話になっていたり、逆に世話をする立場になっていたり、何より農作物は人の都合など知らずに、手入れや収穫の時期に入る。

それにまた時間を取られるような事になった時、1つの転機が訪れた。



”それならば、いっそ組織化して、大まかな形を作りませんか?。

大きくなってしまった田畑は、国に商売も行う"農場"として登録をし、"経営"を方針を定めた方が良いかもしれません、マクガフィン様"


そんな言葉が、国が落ち着いた事で学校という施設に通った子どもが、学問としての経済を学んだ"若人"となり、英雄が趣味の延長では収まりの着かなくなった状態の農場を見て提案される。


もし、提案する相手がグランドールではなく、年配の保守的な考え方の持ち主なら、まだ国の経済に携わる資格も持たない若い意見を一蹴していたかもしれない。


しかし、農家としての先輩に無駄な遠慮をせずに頼り、英雄であるにしても、経済に関しては、農作業以上に"ど素人"を弁えている褐色の大男は、ここでも要らぬプライドは棚に上げ、その案を採択する。

"任せる"

そうと告げると、その若人は

"やっと恩返しができます"

と、最初、言葉だけでは意味が理解が出来ない事を口にして、グランドールが逞しい首を捻らせたなら、照れ笑いをしながら、打ち明け話をしてくれた。


若人は元々は、小作農という土地を借りて農業を営む家の子どもだったという。

小作農故に、作物を育て売ったとしても土地を借りた分の代金を差し引いたなら、それなりの生活は出来るけれども、十分な余裕があるというものではなかった。


そこに若人がまだ子供の時分に、グランドールが最低の賃貸料で農地の貸出しを始め、多くの小作農は"助かる"と、借りる事になる。


前々から、農作物は作りたいけれども、世界規模の災害等があった事もあって前からあった農地が、崩れ不足し、軍隊を使って復旧させているが間に合っていなかった。


開墾された土地が不足していた事もあって、褐色の大男の英雄が国王から与えられた、日当たりと水捌けの良い広い、しかも王都から近い土地を掘り返して作った農地は本当にありがたいものだった。

開墾した農地の場所が良かったこともあってか、特に農作物の出来は良い。


広さもあって量もあり、他の小作農も王都の城下街が近い事もあって新鮮である事で、上々の売り上げが維持が数年続いたなら、貯えが出来る。

それは小作農の家の子供が青年とも呼べる年代になり、進学を望んだなら、王都の上級学校への学費を、何とか出してやれるという額にもなった。


そして進学が出来るようになった経緯についても、青年―――若人も、元々勉強が好きな性格もあって成長するにつれて、自然と察し、会う機会がない心の片隅に褐色の大男で感謝をしていた。


勿論、育ててくれた両親にも感謝しつつ、自分が小作農後を継ぐにしても、グランドールやそれに協力してくれている農家がいるお陰で、その時間に随分な猶予が出来た。

その事で更なる感謝をしつつ、恩人となるグランドールにいつか自分なりの"恩返し"をしたいと考え、日々王都の上級学校で学問に勤しんだ。


"僕は、マクガフィン様の様に英雄―――その前に力持ちでもないし、正直に言って、農作業は得意でもなくて、好きでもありません。

ただ、僕が好きな勉強が出来たのは、両親が働いてくれたお陰。

それで本来ならいけるはずのなかった王都の上級学校で学べたのは、マクガフィン様が農場を格安で貸してくださったお陰です。


両親やマクガフィン様への恩は、決して忘れたつもりはありません。

でも、僕は農夫としての恩返しをしたなら、自分の思いに比べて、とても小さなものになる。

けれども、大きな農場としての経営の形にするというのなら、僕は学んだ事をマクガフィン様の為に、恩返しとして活かす事が出来ます"


その打ち明け話に、褐色の大男は頑丈な顎を大きく開いて大笑いをして、若人が"力が弱い"と自己申告してくれているにも関わらず、左の手首に金の腕輪を着けた手で肩を強く叩いてしまっていた。


それは若人が、姿も性格も違うのだけれども、不得手な事はともかく、自分が出来る努力に関しては全く惜しまない様子が、付き合いの長い旧友似ているから、思わずしてしまった行動でもあった。


"お前に任せよう。それで、お前が考える農場経営にワシは、出来る限りで協力し、付き合おう。頭で練ったまま、思うがままやって見ろ"

"はい!"


若人は身体を揺らされ、痛みの為に眉間にシワを刻みながらも、"恩返しをしてみせる"という決意を顔に浮かべていた。


グランドール・マクガフィンが最初に農作に携わる時に掲げた

"先ずは余生を過ごせる分で、出来れば美味しい農作物を作り、日銭程度に稼げれば良い"

という方針(ポリシー)を根底に置きつつ、若人は農場を経営案を練った。


そこからは、グランドールが農業を始める頃から、基礎を教え、携わって来てくれた農家達に、現状のような組織化をする旨を伝える。

その組織編成に際し、"農家"として本格的に動き始める報告に、"面白い"としたのは国王ダガー・サンフラワーだった。


そこで国を救ったとされるより英雄よりも、国最大の農に携わる者という認識を浸透させる、"大農家"の称号を国王は造り、グランドール・マクガフィンは賜る事になる。


"その理念、生涯貫け通せるといいなあ"

そんな言葉と共に、余り身に着ける事もない、国王が(適当に)デザインしたという勲章と共に称号を贈られた。


あくまでも、儲ける為ではなく"生きる"為に始めた農業で、グランドール・マクガフィンの考えの賛同得て協力してくれる者達がいるから、誕生した"マクガフィン農場"という場所。

その場所で、働いてくれている、働けるという意味。


『マクガフィン農場の前身から、協力してくれていた者の縁者や家族が、前と同じ様に農場で働いてくれている―――勤めてくれている上での場所って事を、ルイは知ってはいるんだろうけれど』


『そんな前進から勤めてくれている人たちの、大切な子どもが、それなりに思いを込めて書いたのが、ルイが貰った手紙。

その事を理解した上で、受け入れられない告白を片付方を考えて貰わないといけないだよな』


「"恋は、儘ならん"というのは知っているつもりだが……。

確かにシャムやシエルの言う様にした方が、結果的にルイや恋文をくれた、うちで働いてくれている子ども達の為にもなるだろうのう」


就寝時にはシャツを身につける様になった大将は、フクライザの双子の後から報告に来たシエルの話を、少し困った様な表情を浮かべながら聞いて深く頷いた。

それから煙草を深く吸い込み、双子には気にならない煙を盛大に、頑丈そうな口から吐き出す。


「それに、子どもの喧嘩に口を出す性分ではないつもりだが、喧嘩になる前の部分に出すべきかどうか、個人的には悩むわい。しかも話は、子どもながらに恋愛だしのう。

何せ、"20年近く前に振られて"から、こちとら碌な恋愛をしてきておらんのでな」


「はははは、それはシャムも俺も、多分農場の誰もがグランドール大将には、コメント返し辛い言葉ですよ」


褐色の大男にそんな事を言われたなら、笑って誤魔化す程度のしか出来ない言葉に、"両腕"の兄さんだから出来る"コメント"を返し、同じ様に苦笑いを浮かべた。


「じゃが、ワシよりはマシな恋愛をしただろう。

で、"マシ"な子ども時代も過ごしているだろうから、そこら辺の忠告を離して貰えたなら、ワシは有難いんだがのう。

ワシは二親が揃ったまともな子ども時代は、殆どなかったし、思春期とやらは反抗する相手もおらんかったのでな」


ロブロウから戻ってきてから、眼に見えてこれまで以上の働きをしてくれている、双子の秘書の様な役割を熟してくれる青年が、自分の養子に迎えるつもりの少年に纏わる話するのを興味深く拝聴する。

逞しい指に挟んでいる煙草の煙を揺らし、シャツ越しでも盛り上がっているのが伝わる筋肉をつけているを反らしながら、開けている窓の方に視線を向けながら、口を開く。



「ルイは、多分うちの農場で働いてくれてくれている者の子ども達からは、想像もつかない程過酷な、幼少時代を過ごしていると思う。

やんちゃ坊主はそこの所は"賢い"らしくて、実に都合よく忘れてくれている。

まあ、ワシも話されたところで、どうにも出来んしルイをそんな風な目に会わせていた奴を殴れるわけでもないからのう」

「大将は"ルイがグランドール・マクガフィンに拾われる前"に世話になっていた方を知っているんですよね?」


"恋"に関する話題よりも聞きやすいと思い、シエルはごく自然に尋ね返していた。

「"方"なんて言葉をつける必要もない」


だがそれまで和やかでもあった雰囲気を断じる様に、グランドールが短く強く言い切ると同時に、褐色の太い指に挟みこんでいた煙草が、乾燥させた葉を僅かに散らし(くび)れ落ちる。


「すみません、大将」


"チッ"と大きい舌打ちをして、大きな身体を屈ませて、素早く散らしてしまった煙草の後始末を始める、グランドールにシャムは直ぐに謝罪の言葉をかけていた。


「……いや、ワシも農場で働いてくれていお前らを、信用も信頼もしておるのに、"話していない"部分が多くあるからのう。

"グランドール・マクガフィン"が、未だにトラウマに抱えている事を聞かせてもいないのに、それを察しろという事については都合よすぎるし、無理があるわい」


完全に火を消した事を確認しながら、掃除をしたばかりなので吸い殻が殆ど無いない灰皿に、先程の途中から折れてしまった煙草を捨て、新たに一本取り出して、火をつけて吸う。


「でも、少なくとも今ので俺はシャムや信頼の出来る農場のおっちゃん達には、"グランドールのオッサンとルイの出会いの前の話は聞くな"と報せる事は出来ますよ。じゃあ、話を戻しましょう大将」


自分達の職場の大将が再び煙を取り込み、大きく息を吐き出すのを 見て前髪に隠れていない左目を笑みの形状にして、シエルは笑う。

少なくともこの農場でも滅多に見せない褐色の大男がここまで、怒り心頭に発する姿については、胸の内で大いに驚いていた。


(グランドール・マクガフィンも英雄で好漢だけれども、普通に触れて欲しくない部分という部分もあるというわけなんだな。

でも、皆のもこればかりは大将の言う通り話してもいないのだろうか知らないだろうから、報せておかないと)


多分、今からグランドールにルイに関し忠告する事を話すことで、その手の話しの機会が、出来る事がある。

そして他の農場の仲間の間でも増えたなら、シエルが何気なく 言った言葉の内容に似たり寄ったりな事を言って、再び心頭に発する思いを大将にさせてしまう所だったかもしれない。

それをこうやって防げることに繋がったのなら、悪くはないと思いながら、大将の気にしている、義息子の恋文について、双子の兄さんは忠告を始める。


「取りあえず、重複しますが先程言った様に、恋文を燃やしてしまうのはとめさせときましょう」


「まあ、燃やすのは確かに極端じゃな。それに、ないとも言えないがルイに手紙を寄越した子供が数年後に"友達"になるとも限らん。

いや、1度はっきりと付き合いを断るというのなら相手の方が、"友だち"だなんてごめんかのう」

グランドールも若い時分はそれなりに"告白"をされてきたが、王都の軍に入るまでは、旧友"2人"と国中を旅暮らしだったので断ったならそれまでの縁だった。


なので、付き合いを断った相手がいる場所に一定期間、留った時の具合が判らない。

王都に留まってからも、国の情勢もあって英雄候補として慌ただしく、色恋どころではなかった。


それどころではなかったにも拘らず、そんな中でも"グランドールを振った婚約者"という存在が諸事情があっていたため、食い下がってまで付き合おうとするご婦人もいなかった。

一方、フクライザの双子の方は親の世代から、王都付近に移り住んでいたらしく、引越しもしたこともないらしいので、長年住んでいる事になる。


子ども時分に、世界的な自然災害を体験をしたけれど、それは目の前にいる英雄の働きによっておさまり、いたって普通の子ども時代だと前に聞いていた。

なので、"まともな子ども時代"を過ごした者としての意見を求める。


「そうですねえ……。根性(ガッツ)のある娘なら、手紙を燃やさとれる事はまあ少なからずショックなのは変わりありません。

けれど、1度振られたけれども、"友だちでも良いから"と、繋がりを持とうとするの話は、俺達の身の上であったわけではありませんが、話に聞いた事はありますよ。

それで、ルイはそういう娘を、"好きにならない"にしても、"嫌い"ではないように見えますけれど」


シエルの"根性のある娘"という言葉に、褐色の大男は深く煙草の煙を吸い込み、大きく頷く。それから大地の様に濃い土色の目を右上に向けて何かを思い出している様子だった。


「ふむ、確かに根性があるタイプ―――"強気"なのは、ルイの好みじゃのう」


大将のその仕草で、シエルはグランドールが(くだん)の"リリィ"という女の子について、思い出しているの察する。


(可愛いってのは前提条件にしても、具体的にどんな姿かは知らないんだよな)


少しだけ踏み込んでしまっているという自覚がありながらも、勇気を出して尋ねてみる。


「ところで大将、ルイがその好きな娘の為にというか、一筋なのを証明するのに、送られた手紙を燃やそうとしてまで惚れ込んでいるリリィという子は、どんな娘なんですか?」


恐らく双子の片割れとなる、今はもう仕事に取り組んでいるシャムも気にしているであろう事を口にしてみる。





「その性格的なもので言ったなら、"強気"なんでしょうけれど。容姿というか、見かけは……?」

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