gossip "噂話"①
┌─────────────┐
│ │
│ 日報セリサンセウム │
│ │
│ │
│ 国内 │
│ ロブロウ代理領主 │
│ アプリコット・ビネガー氏│
│ 領地において不信任案可決│
│ │
│ 4名の貴族の処断、 │
│ 加えて先々代領主の遺品 │
│ である 魔術の道具を紛失│
│ が不信任案発生の原因か。│
│ │
│ アプリコット氏は退任した│
│ 後は、前領主でもあった │
│ 父バン・ビネガー氏が引継│
│ 模様。 │
│ │
│ │
│ │
│ 国外 │
│ ヘンルーダの英雄七人目の│
│ 「妻」をお迎えか?! │
│ │
│ 一夫多妻の認められている│
│ ヘンルーダの英雄、どうや│
│ ら七人目の嫁を、親交のあ│
│ るサブノックから迎えると│
│ いう噂がついに現実に?!│
│ │
│ │
│ 七人目の妻は │
│ 芸妓を生業にし│
│ ていた模様。 │
│ │
│ │
│ お知らせ │
│ 本年のマクガフィン農場 │
│ カレーパーティーは例年 │
│ より早まる模様!!。 │
│ │
│ 続報は追って日報にて!。│
│ │
└─────────────┘
「ふむ、カレーパーティーを早めた事を日報に載った具合を確認する為に久しぶりに読んで見たが、最近は情報がそれなりに早いのう」
そう言いながら、数日ぶりに戻った私室で家政婦が運んできてくれたコーヒーを一口飲んだ後に、慣れた仕種で煙草を咥え、指を弾いて火を点す。
大きな身体に合わせて造られた椅子を少しだけ軋ませて、ひじ掛けに逞しい腕を置いて頬杖をついて、煙草を咥えたまま器用に口を開く。
「まあ、情報は早いがあまり興味がないもんも多いがのう―――と、窓を開けんと掃除の時にまた匂いが籠もっていると、迷惑をかけるのう」
大きな身体を機敏に動かし、部屋に唯一ある窓を開いたのなら、まだ完璧に夏でもない事と早朝というのもあって体感的に冷たい風がが流れ込んできた。
「……油断したわい」
周囲に誰もいないので、遠慮なく舌打ちを行い、凶相とも例えられてもおかしくない、鳶色の旧友の悪人面にも引けを取らないくらいの"怖い顔"となる。
日頃、上着は毛皮を羽織っているだけなので、"暑がり"だと思われているグランドール・マクガフィン氏であるが、実は極度の寒がりでもある。
ただ、ここ十数年はこの国の"英雄"となったお陰もあって、この国最高峰の仕立屋が拵えてくれる服のお陰で、精霊が温度を調整してくれる為、寒がりの褐色の大男もそこまで難儀をしない。
それでも、普段着や寝間着まで、仕立屋に頼むというわけにはいかないので、普通に市販されている薄手のズボンとシャツを身に着けていた。
なので今回も冷たい風に触れ、少々不機嫌になりもしたが、煙草を灰皿に置いて温かいコーヒーを含んだなら直ぐに、寒さからも持ち直し、普段の穏やかな"好漢"と例えられる表情に戻れる。
「ふむ、やはり、これからは身に着けた方が良いかもしれないのう」
実を言えば、これまで弟子としていているが、その内養子に迎えようとしているルイ・クローバーと共に、就寝時は冬でもなければ、精々下に下着一枚だった。
しかしながら、先日日報にも載っていたロブロウという土地に出張した際に、その姿をひょんなことから見られてしまってから、師弟揃って取りあえず上下を何かしら身につけようと決めたのだった。
再び煙草を咥えて、日報を眺めていると、部屋をノックする音がして聴き慣れた声が扉越しに聞こえてくる。
「グランドール"大将"いいですか?」
ただ聞きなれているけれども、それが"どちら"の声かは、姿を見るまでは判らない。
「おう、構わんから入ってくれ」
「失礼します―――って、わあ、ルイの言ったとおり、本当だったんですね。
寝る時は、シャツをつける様になったんすね、グランドール"大将"。
あ、そうだ、おはようございます」
そう言って姿を現したのは、少し長めの前髪を斜めに流し左目だけがが隠れた状態の、右目だけが見えている、マクガフィン農場では若い衆を束ねる役目を担う、"シャム・フクライザ"という青年。
既に着替えを終えていて、利き手である右手でドアを開け、尊敬する農場の主に朝の挨拶と共に、そう呼びかける。
「シャツを着て寝るのも悪いもんでもないのう、それで、おはよう、シャム」
隠れていない右眼を確認した後、農場においての自分の部下にそう呼びかける。
この場合の"大将"の意味は、"英雄グランドール・マクガフィン"として軍に組み込まれた時の立場ではなく、"マクガフィン農場の代表"としての大将で、"愛称"みたいなものだった。
グランドールの方も、農場を始めてから自然と呼ばれ始めていつの間にか定着していた。
"マクガフィン農場の主"
"マクガフィンの旦那"
と他にもあったのだが、"主"は偉そうな響きがあってグランドールが嫌で、旦那は一応独身でもあるので、周囲がしっくりこない。
"大将"は、軍隊の方ではあまり好きな仕事ではなかったが、農場の方はそれなり背負う責任の方は"やりたい事をやっている"という自負もあって嫌な物でもなかったから、そのままにしているのが事実だった。
「それでだ、シャム。恐らく近日中に、夏の時期に入る前に貴族議員のユンフォ・クロッカス様からの方から連絡がくる。
その連絡と摺り合わせて恐らくこれからはどんなに暑くても作業中に、肌を露出するなという話になると思うから、若い衆が納得しやすくなる様に根回しを、前以しておいてくれ。
後は、肌を晒さん為の具体的に―――案というか、何かしら身に着けるという方向で話に公で決まると思う。
で、それについて一定の予算も出すから、会計と話し合って、今の経済状態でうちの農場が経費で負担して良さそうな配分も、考えて貰う様に話しておいてくれ」
「判りました、大将。それではこちらの要件もいいでしょうか?」
「おお、そうじゃな。ワシに用事があって、シャムが来たのだったのう。じゃあ、報告をしてくれ」
シャム・フクライザが報告してくれたのは、グランドールが国王から命じられて、西の領地に言っている間に頼んでいた農作業の報告だった。
十数日以上前から王都に戻って来てはいたのだけれども、グランドールもどこかの耳の長い不貞不貞しい賢者と同じ様に後片付けに追われていたのだった。
早急に返事の要するもの以外は、引き続きシャムに任せた。
その間にグランドールは王都に不在の間に貯まった"国の英雄"、"王族護衛騎士隊の指揮官"、そして"国王ダガー・サンフラワーの影武者"としての役割を熟し、先日一段落がついたのだった。
そして、その中で最も困難な影武者業務を行う上で、活力源である大好物の食べ物が、予期せぬことで逸している事が判明する。
多くの人々に好漢とされる大農家グランドール・マクガフィンでもあるが、一、セリサンセウム王国の国民として、この大好物が日々の御馳走として欠ける事は耐える事が出来ない。
なので男なのに美人と例えられる、親友に
"こんな時ぐらい、国の長者番付殿堂入りを果たしている財力で、ワガママを起こしてもいいのではないのでしょうか?"
と、唆され、半年に一度、定期的に大好物を作る為に行っていた、マクガフィン農場主催の催し事の開催期日を早める事を決断する。
元々、農場主催で、あくまでもグランドールの好物を作る為だけで、"単体"行っていたの催しであったのだが、自由参加で無料とあって王都中から人が集まり、年々規模が大きくなって行く。
それに合わせて、国は勿論、国外からも時期を合わせて旅行に訪れる者もある行事になってしまっていた。
中には"国主催のカレーパーティー"だと思い違いしている国民も少なからずいるのが、現状だった。
「じゃあ、農場からの報告はこれだけです。日報の方も開催日の変更が確り載っているみたいだから、今日の会議で日にちが決まったなら、また王都の日報の事務所に連絡入れときます。
それと、昨日ルイが、結構遅くまで大将の帰りを待っていたみたいでしたよ」
ロブロウから戻って来てから、幾らか素直になったやんちゃ坊主の事も農場の若い衆を任される立場として、シャムは報告する。
「ああ、帰って来てから文句を言われたわい。後で、ワシもルイに用事があるから、聞いておくわい」
「それじゃあ、失礼します」
「おう、今日も宜しくな」
軍に任期契約ではあるけれど、所属した事がある青年は一般社会では堅苦しく、軍で今少し深く、行った方が良いだろうぐらいの深さの"お辞儀"をし、利き手の右手で扉を開けて出て行った。
シャムが出て行って、今一度日報を眺めて、"ヘンルーダ"という国について、ぼんやり思い出しながら、もう一本煙草を消費し、コーヒーを飲み終えた後、再びグランドールの私室をノックする音がする。
気のせいでなければ、先程シャムが叩いた調子と殆ど同じだった。
「グランドール"大将"いいですか?」
そして、聞きなれているけれども、それが"どちら"の声かは、姿を見るまでは判らない。
「おう、構わんから入ってくれ」
全く同じ反応をグランドールはするけれど、空になったコーヒーカップと、増えた吸い殻の本数で、先程とは違うのだと、目覚めたばかりで本格的に動いてくれない頭に言い聞かせる。
そして扉が開いて、現れた人物の姿を見て、やはり違うのだと前以て言い聞かせる。
「失礼します―――って、わあ、ルイの言ったとおり、本当だったんですね。
寝る時は、シャツをつける様になったんすね、グランドール"大将"。
あ、そうだ、おはようございます」
"シャム・フクライザ"と全く同じ内容を口にして姿を現したのは、少し長めの前髪を斜めに流し"右眼"だけがが隠れた状態の、"左眼"だけが見えている。
丁度、先程グランドールの元に報告に姿を現した、シャム・フクライザと鏡合わせをしたような姿をした、彼の双子の兄弟"シエル・フクライザ"だった。
マクガフィン農場では、今はマクガフィン農場に、通いで働きにやって来る家庭持ちのオッサン達の連絡役の役目を担うのがシエル・フクライザ。
とは言っても、2人で月が満ち欠けをする一回りで、その役目を交代している。
そして彼らが双子だというのは、マクガフィン農場全体で掌握をしてはいるけれども、大農家としてのグランドールの"両腕"という認識が強く、シャム・シエルの個人の判別をつけている者が少ない。
ただシャムでシエルという区別は、髪形と出ている眼が左右どちらかで見分けることが出来る。
しかしながら、仕事に関しては今でこそ真面目な双子だが、未成年の頃にはそれなりにやんちゃをしていた。
とある人物との出会いで、双子は友人共々セリサンセウム王国の軍隊に、半ば強引に先ずは任期契約で入隊をする。
最初は不満も多かったが、その生活で学んだことは悪くはないとも思えた。
ただ、如何せん軍隊故に"堅苦し"さは、一生付き合える物でもない。
双子は意見が割れることなく、そう判断し、4年の任期退役した後に一般的には堅苦しいが、軍隊程ではないと評判のマクガフィン農場に、流れる様に就職した。
共に、任期入隊させられた友人の方は、軍隊生活の方が性に合っていたのと尊敬出来る上司に出逢ったらしく、そのまま"本職"の軍人になり、軍に残った。
軍隊経験を含めて、そう言った"軍に残っている親友"を持っている経緯も、農場の主と似ているシャムとシエルなので、何かと意志や基本的な考え方が、グランドールと疎通出来る。
そのお陰もあってか農場に努めて数年で、大将は自然と重用する形になった。
これだけだったなら、少なからず軍隊経験者の身内贔屓という印象も与えてしまうし、マクガフィン農場で重用が始まったばかりの頃は、実際にやっかみもあった。
しかしながら、フクライザの双子だから出来る仕事のパフォーマンスは、単純に2倍というわけでもなくそれ以上の成果を出す事で、つまらない不満は時間をかけずに霧散する。
更に付け加えるなら、本当は軍の方からも"残らないか"と随分と強く引き留められる誘いを受ける程の、武芸者に数年の軍隊生活で育っていたが、双子は退けていたことも、何処からか情報が流れてきた。
その事も古参の農場で働く者達も、シャムとシエルの双子を認める事に繋がる。
加えて双子にとってはグランドールを、心から尊敬出来る御仁だという意識が共に農場で働く中で伝わり、広がる。
それからは順調そのものでここ数年は、大将グランドールを筆頭にシャム・シエル・フクライザの双子を両腕として纏り、農業としての業績も右肩上がりとなっていた。
この双子がいれば、余程長期でもなければ、農場の留守も任せられる様にもなる。
そして更に双子を重用する部下だと農場で働く者達を印象付ける出来事として、2年前にまるで"野生の猿"の様な少年を、グランドールが拾ってきたというものがある。
『ワシの弟子にするから、宜しく頼む』
いきなりの発言に、躾けのなってない"野猿"を前に、昔はやんちゃをしていた双子も流石に驚き、鏡合わせの様に揃って瞬きをした。
説明するオッサンと呆気に取られる双子の青年の隙を見て逃げ出そうとした野猿を、シャムとシエルは見事に掴まえ、少々乱暴に抑え込んだ。
その方法が正しかったかどうかはさておき、野猿の様な少年には有効だった。
野猿―――ルイは、抑え込まれても、隙を見ては暴れて逃げ出そうとするし、言葉は判っている様子はあるが返事はせずに、最初の一年は従うのはグランドールのみだった。
ただ、一度抑え込んだ、だけだけれども、少なくとも、無意味な反抗をしなくなった。
双子も最初の一度のみ抑え込んだ後には、ルイなりの理屈があり暴れたり、逃げ出す時は抑え込む事だけに留める。
抑え込む度に"今の自分では敵わない"と攻撃的な眼差しを向けつつも、双子の"兄さん"達の強さをルイは冷静に観察し、認め始めていた。
それに時間が過ぎて振り返ってみたなら、グランドールが拾って理由があっても暴れ逃げ出そうとしていた期間は、精々月が2周りする程度だった。
暴れて逃げ出そうとする当初は、手をやいたものだったが、大将を含めて双子や、腕の覚えがある"オッサン達"なりの世話をする度に、"野猿"は"クソガキ"になり、人に近づいて行く。
季節が1つ移り変わった頃には、周囲からの印象は、何とか"やんちゃ坊主"と落ち着いたものになった。
ただ大分マシになった"やんちゃ坊主"状態でも、口は生意気で納得出来る事ならある程度従うが、牙の様な八重歯を唇から覗かせるルイが相変わらず"認めている"のは、褐色の大男のみであった。
そこについてはフクライザの双子を含め、同じ様に軍隊経験のある元軍人となる農夫達も勘付いてはいたが、グランドールが多忙の中でも確りと面倒を見ていたので、特に大きな問題にもならずに時間は過ぎていく。
やがて、農場の数人から"危険"で"無謀"という意見が上がりながらも、グランドールは帯剣する為の試験の受験許可を出す師匠の立場になり、ルイに2振りの短剣を持たせた。
そして双子が何気なくだけれども、
"そんなにグランドール・マクガフィンの大将しか認めないのなら"
と、試験の前に、やんちゃ坊主の格好も"師匠"の大剣以外は同じ仕様のものにしたなら、年相応の笑顔を浮かべて周囲を驚かせる。
ただ、首の後ろに入墨らしきもがあったのでその箇所にはグランドールが、滅多に着ないが一応貴族の私服として用意はしてあるスカーフを首に巻いてやっていた。
そんな中で剣の実技の方ではルイは1度、帯剣の実技試験の方で"太刀筋が荒すぎる"という明確な理由をはっきり試験官に述べられた後に、落ちてしまってした。
ただ落ちてしまったが、実技試験に至るまでに合格せねばならない学科試験は、1度目の時は余裕で終えていた為か、落ちた後に復習する姿は見受けられない。
双子が見る限り、グランドールに割り振られたやんちゃ坊主専用の農作業の休憩に、教本を読んでいる所見たぐらいで、筆記をするという所は見た事がなかった。
世話を任されたわけではないけれども、自分達の大将の弟子が"心配"というよりは、気にかかり、シャムとシエル、双子が別々に"学科の方は大丈夫なのか"尋ねてしまっていた。
傍目から見たなら、精々違う箇所が目元位の双子なので、知らない者がルイの様に尋ねられたなら、双子という事を知らなければ、1度目はともかく、2度目は戸惑う。
だが、ルイはどちらにも戸惑わず、直ぐにどちらがシャムでどちらがシエルか気が付いた。
そしてそれぞれの名前を確りと区別をつけて、呼ばれる事に、双子の方が全く同じ反応で逆に驚く事になる。
"グランドール・マクガフィンにしか従わない"という態度で、周囲の事など意に介していない様にしか見えないようでいて、やんちゃ坊主はオッサンに関するその隅々を、いつの間にかよく見ていた。
そこから双子で話し合って行く内に、どうやら地頭というものが、やんちゃ坊主は随分と賢いのが、グランドールを除いて唯一直に接する様になったことで気が付いた。
そして前回落ちてしまった、帯剣する為の試験の失敗の原因も十分理解していて、定期的にグランドールから指導を受けつつ、全く以て心配もせずに次の試験に備えている状態だった。
自分達の"大将"がどういう経緯で"クソガキ"状態ではあるが、成長のさせ方次第で、農場にとっても、このセリサンセウム王国にとっても、十分役に立つ人材を拾って来たのかは知らない。
ただ、大将が現在でも国の英雄であり、軍の枢機を担っているのは知っているので、もしかしたならその絡みで引き取ったのではないのかと、双子の兄弟で出した結論だった。
そんな中で、やんちゃ坊主が幾ばくかの変化を見せ始める。
帯剣の試験を無事に通過した、グランドールに拾われて2年目の王国歴2018年の春の季節。
やんちゃ坊主は、どうやら初恋という物をしてしまったらしい。
とはいっても、マクガフィン農場においてはそれに気が付いたのやんちゃ坊主にそれなりに眼を置く様になっていた、双子のフクライザのみだった。
グランドールが重用しているという事で、ルイも双子を"シャム・シエル"と別個に認識はしてくれているが、それ以上でもそれ以下でもないので、心を開いてくれているというわけではないの判っている。
でも、その初恋の出会いは、"グランドールのオッサン"以外に話をしてみたいという気持ちを、ルイ・クローバーに起こさせるには十分な物だった。
ルイは別に"一匹狼"を気取っているわけでもないのだが、同世代の友達という物を持たなかったし、持たない事で不便をしていない。
それに"意見"を聞いてみたいだけであって、話で盛り上がりたいというわけでもない、少年は、それで双子の兄さんを選んだだけの事でもある。
また、やんちゃ坊主の扱い辛さは、拾われた直後の逃げ出そうとする現場や、グランドールに直々に"叱られる"場面を農場の多くの者が、老若男女問わず見ていたので、避けられるの当然の流れとも見えた。
ただ、"好漢グランドール・マクガフィンから眼をかけられている"という背景と、よくよくみると、美形という類ではないのだが、悪くない顔立ちに、最年少に近い形で帯剣の試験に突破している賢さ。
そして何事も流行りの影響を受けやすい時分に、"周囲を気にしない"という態度は、同世代の異性の関心を惹きつけるという物になっていた。
そんな最中にいる少年に、出来るだけ人のいない所でシャムとシエルで、2人揃って
"何か良いこ事が最近あったのか?"
やんわり話しかけてみた所、ルイの方は明確に頷いた後に、
"好きな女の子が出来た"
と、はっきり口にする。
その発言に、双子の青年は揃って"おおっ"と反応するが、ルイは全く気にせずに丁度良いとばかりに今度は、逆に
『兄さん達は、恋をした事があるか?恋人はいるのか?』
と、直球で質問返しをしていた。
しかしながら、この質問はシャムとシエルの双子には少々答え辛い質問となる。
双子ではあるけれどそこは普通の兄弟や家族と変わらず、仲が良い、普通、悪いの三段階の関係があるくらいなもので、フクライザの双子は良い方だった。
"仲が良い"の延長になるのかどうかはわからないが、"好みのタイプ"が重なるというのは、多々あった。
だが、それは普通に仲の良い同性の兄弟の間でもある事で、今は王族護衛騎士の女性騎士が2人揃って"いいな~"と口で言っている位である。
それよりも、この2人が恋愛を語るにあたっては、先ず話さないといけない事がある。
とりあえず鏡を見る様に、双子は互いの顔を見合わせたなら、先ずはシャムの方が先に口を開いた。
『恋はしたことはある』
『恋人もいた事もある』
そして引き継ぐようにシエルが口を開いて、これまでの互いの恋の遍歴を短く纏めて語った。
『そうなんだな、教えてくれてありがとう』
だが、自分から恋愛事情を尋ねて置いて何だが、その話まとめてくれた話よりも、双子の兄さんの話し方の方に気を取られてしまう。
『フクライザの兄さん達、今更ながらにオレ、気が付いたんだけれど、双子なのも知ってたけれど、こうやって聞くと殆ど同じ声なんだな』
そしてグランドールのオッサン以外には、どんな相手にも無遠慮なルイは、聞こえたままの感想を口にする。
『1人の人物が、一度区切りを入れ、続けて喋っている様にしか聞こえなかった』
それを言うと、眼が出ている箇所が反対なだけな双子は、眉の外側の両端を揃って下げて、同じ口角の角度で、上げて苦笑いの表情をごく自然に作った。
フクライザの双子は、2人揃ってに行動することは、マクガフィン農場で働いている時間は、実は少ない。
特に余り知っている者がいないが、双子が同じ場所いる時の発言をする際には口にしたい内容が"シンクロ"してしまうので、まるで言葉を譲りあうようにして、語り合う現象がある。
また同調する会話内容ではなくて、話が進むと、2人で会話を続けているのに、かなりの割合で、長い独り言と勘違いされる事もあった。
それが、ルイが口にした"1人が話している"様に聞える現象に当てはまった。
『双子だとここまで似てしまうものなんだなあ』
初めて出逢った頃、双子の見事な連携で、グランドールが動くことなく野猿の状態のルイは抑え込まれたけれど、会話を2人が揃って交わした場面に出くわした事がない。
だから、今更ながらのその発見に、やん茶坊主はに目を丸くする。
けれども、兄さんが自分の質問に答えてくれているので、真面目にはではないけれど、失礼のない態度を続けていた。
その態度に少し感心した事もあって、フクライザの双子は、自分達の現在の恋愛事情を、大将の弟子となる少年に、語ってやることにした。
『けれども、俺達は眼が出ている位置と、利き手が逆な事ぐらいしか、違いがないから』
『恋人になってくれた御婦人が、付き合っている時に、どっちがどっちで混乱してしまって長続きしないんだよ』
『俺達も互いにそっくりなのはしっているけれど』
『間違われるのは、やっぱり嫌なんだ』
『そんな嫌な想いを、若造の頃にしたからな』
『後は、王都で別行動をしていたのに、同時に気になった別嬪さんをナンパした事もあった』
再び、同じ声で互いに言葉を交代しながら話す姿に、やんちゃ坊主が"納得"をしながら頷きながら、八重歯の生えている口を開く。
『そうか、農家のオバちゃん達が、"いい物件なんだけれどねえ"って、フクライザの兄さん達の事を世間話で言っていたのは、そこの所もあるんだな』
共に二十代後半で、容姿に関しても"片目を隠す前髪が少々うっとおしい"という意見は以外は、一般的に並み程の姿であると、当人たち込で周囲も認めている。
軍隊上がりの丈夫な体に、一般的に言われる"稼ぎ"も、国一番のマクガフィン農場の主の秘書的業務も熟せていて、それに見合った給金も貰っており決して悪くはない。
『―――でも、フクライザの兄さん達に先ず、結婚願望みたいなものがないような気もするけれども』
ルイが少しばかり考え込みながら、腕を組んでまた無遠慮に意見を口にすると、同時にフクライザの双子は頷いた。
『そうだな、俺達も、綺麗な御婦人は大好きだけれども、グランドールの大将の下で仕事をするのが今は一番楽しいからな』
『御婦人と楽しい時間を過ごしたいなら、確りお金を払ってその分接待をしてくれるーーー"飲み屋"に行けばいい事だし』
ルイが思いの外確りした発言をするので、危うく"多分まだ知らないであろう接客業"の名目を出しそうになりそうにながらも、双子の兄さんはそう言った。
だが、その"結婚願望はない"発言でもって、やんちゃ坊主はフクライザの双子に相談する気は完全に失せてしまう。
『じゃあ、兄さん達に相談しても、オレの知りたい事には繋がらないかな。
オレは今からプロポーズするまでの、貯金の積み立てやら、女の子の方が結婚したくなるような男の振る舞い方を、知っているなら教えて貰おうと思っていたんだけれど』
『何だって?!』
『ルイ、初恋相手にそこまで入れ込んでいるのか?』
双子が全く同じ反応で、相変わらず言葉を繋げる喋り方が、とても興味深いと所ではあるけれども、目的とする情報を持っていないなら、やんちゃ坊主的には、"用事はない"。
『そうだよ。それで、多分オッサンから連絡あるだろけれど、オレとグランドールのおっさん、なんか西の方に出張するって。
そこで、そのリ―――そのプロポーズまで考えている子も、一緒に行く流れみたいだから、結婚までしたいから、そこで少しでも意識してもらえるようにオレなりに頑張るよ。
じゃあ、兄さん達もオッサンtがいない間の留守番よろしくな』
それだけ言って、癖っ毛の後頭部に腕を組んでやんちゃ坊主は、双子の兄さんの前から立ち去った。
国最大の農場のグランドール・マクガフィンの両腕とされる兄さん達なので、やんちゃ坊主が好きな女の子の名前を言いかけたのも、ここで深追いしてもダメだとも判った。
しかしながら、尊敬する"大将"が眼にかけている少年の、結婚まで視野に入れた恋の行方が、(野次馬根性で)気にもなる。
ただ、"結婚願望がないなら、話をしても参考にならない"と自分達双子を頼ってくる機会を計らずも逸してしまった。
その事を残念に思いながら、シャムとシエルは、グランドールとルイの2人を、セリサンセウム王国の西の果ての領地、ロブロウに送りだす。
そして"出張"に間に、外回りの方をしていたなら、マクガフィン農場の野菜を贔屓をしている王都の城下で汁物屋を営んでいる店主から、ルイの事を尋ねられた。
どうやら、グランドール、ルイ共々結構利用していたらしく、この国の西の領地に出張に行っている事で姿を見せない事で、心配してくれていたらしい。
なので、心配する事はないと、箝口令が出ているわけでもないので、ルイがロブロウに行っていることを話す。
ついでに、向こうで突発的な豪雨に見舞われて、色々な手伝いもしている事で、帰ってくるのが遅れる旨を報せてやったなら、安心をしていた。
そして汁物屋の店主のオヤジに僅かながらに済まないと思いながら、"ひっかける"つもりでルイが好きな女の子と同行している事を伝えたなら、店主のオヤジの方も直ぐに見当がついた様子で笑う。
『ああ気の強そうな、でもとっても可愛い気の良い巫女の女の子だよ。
確か名前は"リリィ"とか言ったかな。
偉く凛々しくて、格好いいお兄さんの護衛騎士と一緒にこの国の賢者殿の所で働いているみたいだったな。
後、サービスのつもりでセロリを野菜スープに足してやったなら、有難迷惑になってしまったみたいでな』
どうやら、ルイとその"リリィ"という気の強そうという美少女との出会いが、汁物屋で起こった物らしく、店主はその当時の様子を詳しく語ってくれた。
それは多分マクガフィン農場のグランドール以外の者が見た事がない、"ルイ・クローバー"という"男の子"が好いた女の子にアプローチをする姿だった。
でも、そのリリィに想いを告げる姿は、ある意味ではマクガフィン農場にいる時と同じで、周囲の反応など気にせず、自分の気持ちに素直にしていそうだった。
だが、素直過ぎてそこの所を"好いている"女の子であるリリィから叱られている場面もあったが、ルイはそれすら喜んでいたと、教えて貰った。
そんな話を終えた後に、グランドールとルイが西の果てにあるという領地から、戻って来時、少年の方は少しばかり疲れている印象もあったけれど、雰囲気が変わっていた。
変わっていたという表現は、"成長"したというものにも言い換えられるもののようで、それはマクガフィン農場の要所の役割を任せられている―――主に軍隊上がりで農場に勤める"オッサン達"も同様だった。
そして戻ってから直ぐにグランドールから、農場の幹部ともなる役割加え、先程の要所の人々が集められて、"ルイ・クローバーをグランドール・マクガフィンの養子にする"と報せる。
フクライザの双子のはその報告に少々驚いたが、農場に勤め家庭を持っている幹部のオッサン達はそこまで驚いている様子はなかった。
ルイの性格や、素質はともかく、グランドールのやんちゃ坊主への接し方に十分"親子"という物を感じさせるものがあったと、結婚願望のない2人の青年に笑いながら教えてくれた。
"まあ、まだ"1人が良い"と言いながら、都合の良い時だけ相手を求めるんじゃあ、判らんだろうなあ"
そう言って、また笑われた。
『これは、マクガフィン農場でグランドール・マクガフィンの両腕とされるフクライザの双子としては悔しくないか?』
『そうだなあ、これからは少しばかりお節介ぐらいの気持ちで、動いた方がいいかもしれない』
"2人"の会話の筈なのに、前にルイが感じた様に双子の喋りは、まるで1人の人が自身に語り掛ける独り言の様に響いた。
それから双子はいつもの様に、2人で2倍以上の仕事の成果を出しつつ、仕事だけではなく、それに携わる"仕事仲間"にも興味を持つ。
これまでも、決して不親切なわけでもなく、農場では困った人がいるなら世話をやき、助けを求められる部分は十分に応えていたが、それまでだった。
それを"少しばかりお節介ぐらい"の気持ちで、困った人の"原因"を考え出来る限り解消し、求められる"助け"は、どうしてそんな事態が発生したのかを調べ、再発しない様に努める。
すると、不思議ではなく"当たり前"なのかもしれないが、マクガフィン農場の職場環境は更に向上した様に感じた。
元々"良い職場"でもあったのだが、小さな不満や問題は浚いなおしてみたなら、向上した現状に、グランドール・マクガフィンの両腕と青年は少しばかり"バツの悪い"気持ちになる。
しかも、長い期間調査をしたというものでもなく、ロブロウから農場の"大将"となるグランドール・マクガフィンが戻って来て、ルイを養子にする発言を聞き、十数日が過ぎただけの間に判明した事だった。
『これまで、"仕事"に関してはそれなりやって来たつもりだったけれど』
『その仕事に携わる、人に関しては俺達は、そこまで見てなかったみたいだな』
―――最近、前にもまして働きやすくなった。
そんな"褒め言葉"をかけられる度に、フクライザの双子は互いに前髪に隠れている方の眉をグイと上に上げ、心の中で舌打ちを行う。
これまでは何か問題があったなら、グランドールに報告し、大将である褐色の大男が問題の発生した現場に赴き対峙したなら、当たり前の理屈を出したなら直ぐにそれは治まっていた。
それで無事に"問題"は解決していたと、これまでは思うことが出来た。
でもそれは"グランドール・マクガフィン"という屈強な力の前に、問題を力任せに抑え込ませていただけ。
それだけだったのだと、自分達で仕事場で起こる問題の"原因"と向き合い、"助け"を簡単に出す前に調べて再発しない様に努めて、思い知らされる。
あくまで"腕"であって、あれば随分と便利に使いこなせてもらっていたけれど、腕に抱える重さと、背や肩に担う重圧は雲泥の差だと気が付けた。
『まあ、三十路に到達する前に、甘いと言われるかもしれないけれど』
『自分達の至らなさに、ギリギリ自力で気がつけた事で良しとしよう』
思考が同調を続ける頭で、双子の青年は考える、譲り合うように語り合う。
『さて、それではどうすれば、グランドール・マクガフィンの両腕と呼ばれる立場として、本当の意味で役割を働かせることが出来るだろう』
『これまでの事を、挽回しようとするよりも、返上をした方が大将は喜んでくれるだろうな』
互いにそこまで言葉を交わしたなら、暫く考え込み、いつものように示し合わせた訳でもなく、気の向いた方から唇を開く。
『多分、過去よりも先となる、"未来"の部分の方を見据えて行動した方が、大将は喜ぶ』
『でも、大将の未来と言っても、農場の仕事に関していえば、ロブロウから帰ってから気が付けた事に関しても十分だ』
そんな事を口にしながら、片方の目を隠した青年2人の頭に同時に浮かぶのは、自分達が尊敬する人物が、養子にしようとしている少年の姿だった。
『でも"あっち"は、俺等を頼ろうとは微塵も考えてもいないだろうな』
『それは、仕方ない。
俺等の方が、先に"外して"しまったからなあ』前なら、そこで考える事を止めてしまった。
相手に助けを求められてないのなら、考える必要が無いように思えたけれど、今回の事で"必要のあるお節介"に気が付いてしまった。
『ルイはさ、何気にモテるよなあ』
『でも、アイツが大事にしたいのは、この前言っていた結婚まで考えている1人の女の子だけなんだよなあ』
そして、共有している、まだ言葉だけの女の子の情報を思い出す。
強気で可愛らしいという情報以外で、ルイがそこまで惚れ込んでいる確固たる理由をまだ双子は知らない。
本当にルイの好み―――"ツボ"という所で、リリィという名前の女の子が、全て合致しているという単純な事かもしれない。
『だから、アイツに憧れているマクガフィン農場に様々な形で関係している、女の子の気持ちなんて知ったこっちゃない』
『一応、恋文を渡されたのなら、受け取り貰っているけれど、部屋の寝台の木箱に無造作にため込んでいる。
けれど、最近それをどうにかーーー"片づけよう"としている』
それもこれも、"結婚したい"とまで考えている女の子の為にやっているのは、一応話を聞いている双子には判った。
『でも、そのやり方は気をつけないと、色々拙いよなあ』
『ああ、そうだな。
でも、それが拙いって事にルイ自身が解っていない』
今でこそ"やんちゃ坊主"という落ち着いているが、グランドール・マクガフィンに拾われて、そこに至るまでは"クソガキ"でその前は人にも至らない、"野猿"扱い。
『ここに―――マクガフィン農場にくる前まで"、まとも"になんて生活してなかっただろうし』
『誰かに、育てて貰ったという感覚すらないんだろうなあ』
でも、ルイという少年が、それまで生きていた場所が"まとも"でいることでは、生きていくには困難だったのは、野猿の時の少年の眼を見て感じとる事が出来た。
その眼に似ものを、フクライザの双子も見覚えがある。
でも似たものといっても、その荒み具合はルイの物より程度の軽い物だった。
まだ、双子自身が身体は大きくとも、世間では"こども"と判断する時分で、気に食わない輩には喧嘩を吹っ掛けてしまう時期。
バカが出来て、仲違いしても仲を保てる友もいたし、危険や迷惑なことしたなら、頭を小突き叱りつける親や大人がいた。
でも、そういった存在がいない同世代が数人いた。
その上で、世間というものに無碍で迷惑という視線を向けられ、その数人は若さという勢いもあってか、"小石が坂道を転げ落ちる"という例えが使われるような状況になって行こうとしていた。
しかしながら、双子の眼にしていた小石はこの国の治安のお陰か、それとも運が良かったのか、何とか"落ちて砕ける"手前で止まる事が出来る。
大きな法を犯してしまう前、何とか保護という形で警邏の兵士に拘束され、未成年が収監される施設に引き取られ、落ち着いたなら王都は離れたが、それなりの生活を送っていると噂に聞いている。
そして、グランドールによって連れてこられた頃のルイの視線は、その拘束された子ども達よりも年齢は幼いのに、数段凄みと鋭さを合間った視線だった。
グランドールを筆頭に、国から帯剣の許可得ている双子を含む若い衆、何らかの戦の経験をした事があるオッサン達は、ルイは、既に"一線"を超えている事を察する。
普通でまともから、とても遠い場所から、少年は自分達の大将である褐色の大男によって、運ばれやってきた。
『思えばルイの本当の年も判ってはいないんだよなあ』
『多分、名前も大将が考えたものだろうし』
年齢も名前も少年の身体つきを観察し、本来の適当という表現に当てはまるものを、八重歯が特徴的な癖っ毛の男の子に、保護者となるグランドールが贈った。
農場に連れてこられたルイは反抗し、逃げだそうともしたけれど、与えられた名前を拒ばまず受け入れる。
それが、"野猿"を人の"クソガキ"に近づける第一歩だった。
『それで、凄く良いことだと思うんだが、多分グランドールの大将も、どちらかといえば"まとも"に育つことが出来ていない』
『時代の流れがまともに、育つことの出来る時代と環境じゃあなかったしな』
自分達の大将の生い立ちは簡単になら、知っている。
そして、大将が子どもであった時代の背景と流れに関しても、国が作った学校という施設で歴史として、今は青年とされている世代は学んでいる。
『大将はそんな所で、ルイに親近感を抱いている所もあるかもしれない』
『ルイが、普通の人には躾ける事が出来ない、しかも強いクソガキだから、面倒を見るのは拾って来た大将』
それが当たり前だとばかりに思っていた。
でも、もし拾ったルイが"普通の子ども"だったなら、農場の子ども好きな家や、世話好きな家に預けるか、自分の手元に置かなかっただろうという考えが、双子の頭の中に浮かぶ。
公にはしてないが権限の融通が利く、マクガフィン農場に限り、もし"親がいない子"や"子どもが欲しいけれど出来ない夫婦"の間を取り持ったりしていた。
『そういった所は、普通の概念や国の法律の煩わしさをすっ飛ばしているのは、尊敬出来るんだけれど』
『でも、一般的じゃないから、やっぱり普通の人には戸惑いを生むところもある』
やんちゃ坊主は、そんな逞しい人の背や生き様を、自分らしさを見失わずに追いかけようとしている。
『大将と、やんちゃ坊主だけだったなら、心配もしないけれど』
『その結婚したい程の大好きな、巫女のお嬢ちゃんを巻き込むことになったなら、一般的な恋の考え方を、"普通に育った"俺達が忠告した方がいいだろうな』
大農家の"養子にする"という発言が本決まりでないにしても、セリサンセウム王国に住まう同世代の子どもなら動揺しそうな内容にも、"オッサンが望むならそれに従うよ"と返事をしていた。
生意気なのは相変わらずだけれども、師弟の関係乱すこともなく落ち着いた日常に戻った先日、夕刻に戻って来たと思ったなら夕食もそこそこに、自分の部屋に向かった。
そして今の今まで見もせずに貯め込んでいた恋文を、グランドールの私室の"近所"にある居室の扉を開けっぱなしで、眼を通しているのを、寮母さんを含め双子で発見する。
寮母さんは、掃除の度に寝台の下に、"別にみられても構わない"と言った調子で開封もしないで貯め込まれていた手紙をルイが読んでいる事に小さく驚き、早速職場の話題していた。
子どもが息子な上に、もう成人に近い年なので、寮母さん自体にはそこまで興味のある話でもないのだが、一部の人々の耳に入ったなら、結構な速やかさで広がるのは想像に容易い。
一方双子の方は、夜にしか戻らないという報告を貰っている大将のグランドールに報告がある為に、日が暮れてから時間を空けて交代で赴いたのだが、会えず仕舞いだった。
帰りを確認する為に、訪れる度にルイが"オッサンが帰って来たなら直ぐに判る様に"とドアを開けっぱなし状態だったので、手紙を読んでいる姿を目撃したという流れになる。
あと一時間程で日付が変わるまでにグランドールに会えなかったなら、今日はもう諦めようと話してたところに、開封した手紙の箱を抱えているルイに遭遇したのだった。
『兄さん達、オッサン今日遅いのか?』
ルイの方開封した事で嵩の増した、恋文の手紙を抱えながら、仕事に関しては秘書的役割をこなすフクライザの双子の兄さんに尋ねる。
『夜にしか戻れないっていうのは、話に聞いていた』
『ただ、この調子だと戻りはするけれど、もしかしたなら"今日"じゃあないもしれないな』
その言葉にルイがつまらなそうに息を吐き出す。
『"面倒くせえ"事は、さっさと片づけたいのになあ』
そんな事を口にし、やんちゃ坊主が肩を竦めた時に、3人は気配を感じて同時に窓に視線を向ける。
独身者の為に、屋敷を寮にしてしまった"マクガフィン邸"の窓に、軍で伝達事項を伝えるのには、最速とされる魔法の紙飛行機が闇夜にフワフワと飛んでいた。
『噂をすれば』
『何とやらだな』
『オッサンからだよな』
双子がまた1人で喋っている調子で、2人で口にした後に、ルイが続ける。
マクガフィン農場の主ではあるけれど、英雄として時おり国の仕事もこなしている代わりに、軍の道具を限定で融通をしてもらっている。