ある小さな恋の物語⑤
サブノック国とセリサンセウム王国との国境。
青空に高積雲、俗にいう羊雲草原が広がるその下で、シャキシャキという金属が扱われる音が響く。
「ほら、こうやったら、カッコいい!スパンコーンは背も高いから、髪型はこれぐらい派手でも構わないわよ!。
それにサブノックの男の人って、髪が長いのに、勇ましく見せる為に刈り上げ入れたりするんでしょう?」
バサッという音と共に、少年の首に巻いていた大きな布を褐色の肌の少女が取り去ると、刈られた青い髪が風に舞って散る。
いつもは従者のサルドが行うという、スパンコーンの整髪を、幼い者どうしながらも目出度く"恋人"になったジニアが行っていたのでした。
「ううう、本当に?」
鏡がない為に、現在、自身の髪形が判らないスパンコーンは、刈り上げをいれられている一部分だけ触れて"ヒャッ"と小さく悲鳴を上げる。
「なによー、私のセンスを疑うわけ?!」
ジニアが褐色の肌に紅色を加えて、頬を膨らませたなら腕を組む。
「そういうわけじゃないよ、ジニア……」
スパンコーンは、恋人になったばかりの友達が腹をたてているのがわかってあたふたします。
本当に気性の優しい男の子なので、初めて好きになって、初めて恋人になってくれた女の子に嫌われたら、本当に困る気持ちで一杯でした。
「どうだい、髪は無事に刈り終えたかい?」
《賢者殿、そこは"整えましたか?"と尋ねるべきではないですか?》
そこに、"用事があるから"と本来はスパンコーンの教育係である賢者と、従者であるサルドを従えて戻ってきた。
そして、ジニアが手掛けた髪型を視界に入り、賢者は"ほぅ"と小さく声を、声を出すことが出来ないサルドは息を吐き出します。
「ふむ、いいじゃないか」
《はい、そう思います。勇ましいサブノックの男児に相応しいかと》
賢者と従者の言葉に、ジニアとスパンコーンは顔を見合わせて、息を揃えて吐きます。
「画力とセンスは通じるものがあると思っていたけれど、違う時もあるんだねえ」
《賢者殿、あの画力とセンスが通じるものとして、ジニアにスパンコーン様のお髪を任せたのですか?》
サルドがなかなか厳しい視線を注いでも小さく口笛を吹いて、賢者はごまかします。
「あ、ジニア、臨時収入があったから、お小遣いあげるから、デートでもいっといで!」
そう言って、若い恋人達を送り出したのでした。