ある小さな恋の物語⑤の前に友だちの話
「サルドって、耳が聞こえないの?」
《セリサンセウムの女は、ズケズケとそんな事を訊いてくるのが常なのか?》
サブノックの賢者の庵の内。
従者のサルドは、胡座をかいて座り自分の"武器"を手入れをしながら、尋ねてくるジニアにテレパシーで答えます。
見た事のない、掌の大きさの複数の色の着いた水晶の球体を、柔らかい布で拭き上げ、浄められた湧水一滴垂らすという手入れは、魔法をまだ学んでいないジニアには理解不能です。
「うーん、普通の耳が聞こえない方なら、躊躇うかもしれないけれど、サルドは全くそんな感じしないから」
《何だ、その褒められてるんだか貶されているんだか判らない言葉は?》
呆れた様に返事をしたなら、1つ緑色の水晶の球体を拭き上げたなら、フワリと浮きます。
そして、ジニアの周りを一周したなら、また元の場所に戻りました。
「わあ、凄い」
《風の精霊の力だから、気紛れなものだ》
返事をしたならば、目元位しか見る事が出来ない仕様のサブノックの装束を纏ったミザルは、正面に座る褐色の少女を見つめた。
《何用で私の所に来たのだ》
「サルドはスパンコーンがどうやって友だちになったが、気になって……」
《私はお坊っちゃんの従者であって、友だちではない》
そうジニアの頭の中に告げて立ち上がると、水晶も従うように一緒に浮き上がります。
ジニアはそれも興味深そうに大地の色の瞳で見つめながら、不思議そうに口を開きました。
「でも、スパンコーンは友だちだと思っているみたい」
《それも、判っている。だから、坊っちゃんが望む友だちの関係も築いているつもりだ》
「うん、そうだよね。サルドは従者としても注意もするけれどちゃんと、友だちとしても考えて行動してくれているよね」
ジニアがそう言った時、賢者が作ってくれたサルド専用武器の安置場所に水晶の球達は止まり、そして先程、自分の周りを飛んでいた水晶の球を見つめなが話します。
「スパンコーンに、恋人になって欲しいと言われた。サブノックじゃあ、早い内に誓った相手がいないと、直ぐに許嫁が作られるからって」
《それは、本当だ。だから私も友だちとして、頼む。スパンコーン様が好きなら―――》
「うん、スパンコーンは元より、その友だちが良いっていってくれるなら」
サルドが最後まで頼む前に、ジニアは嬉しそうに笑っていました。