ある小さな恋の物語④のその裏で
「じゃあ、ジニア、ジニアが歌いたい通りに、僕にだけに歌ってみてくれないかな」
そんな求婚するような気持ちで、勇気を振り絞り、気弱な男のが提案したことに、褐色で闊達の女の子は、頬を染めながら受け入れる場面を物陰に隠れた上で、更に魔法で姿を隠している2つの影が"見守って"いました。
「うーん、相変わらず優しいけれど、"押し"が弱いねえ、スパンコーンは……。
もう、こう、ぐっと圧さないものかねえ、そこら辺にある大木にジニアをおしやって、ドンと顔の横に手をついたりしたりとか。
サブノックの殿方は、強引だと言うのが各国の認識なのにねえ」
昔何らかの本で流し読んだ、色恋物の一辺を思い出して、賢者が適当な事を口にすると、言葉を出せない従者はあきれつつテレパシーを飛ばす。
《そんな事をしたら、逆にジニアの方が驚いて、突き飛ばしてしまいますよ。
でも、優しい部分がスパンコーン御坊っちゃんの良いところです。
それと、私は大丈夫ですけれど、声を押さえてください、賢者殿。
風と水の精霊が協力してくれるとはいっても、限界がありますからね》
大きな岩の影に隠れながら、サブノックの賢者と、この国の貴族で武将でもある御仁の末息子の従者は、2人が手を繋いで歩き出すのを見送ります。
「んん?スパンコーンに気がつかれてしまったのかね?」
《いえ、どうやら、ジニアが歌う為の発生練習をするのに、森の方に行くみたいです、賢者殿。
これ以上は、本日は"発展"しないでしょうから、見守るのもここまでにしておきませんか》
元々は"スパンコーンにしか判らないウサギの絵"の一件があってから、落ち込んだ褐色の女の子を、髪の青い男の子が励まそうと国境に近い場所にある河原に連れてきていた。
そこに"待ち合わせがある"と賢者が護衛もつけずに移動しようとするのを、本来ならスパンコーンの従者であるミザルが慌ててついてきて、このやり取りに遭遇して見届ける事になったのだった。
「スパンコーンは、このままいけば自分の柵は振りきって生きていけるくらい強くなれるかもしれない」
賢者がそう言うと、ミザルは静かに同意の頷きする。
「あと、やっぱりもう少し、積極的になった方がいいんだろけれど―――」
賢者がそこまで口にした時、待ち合わせの相手が目印である"紅いスカーフ"を巻いてやって来るのが、視界の端に見えたのでした。




