これからもお世話します。②
星の天使、親友となった好々爺のゼブル翁から多くの事を学び意見を交わしていく内に、ある程度気持ちを満たされ来た時、その中で新たに芸術という事に関して興味を抱きます。
しかしながら、好々爺のゼブル翁は"芸術"を語る事は出来るけれど、理解させる事は無理だと白い髪を左右に振って告げました。
それでも、好奇心旺盛な星の天使は引き下がらず、何とかならないかと"信頼"を含んだ視線を空色の眼から、向けられていることになります
とうとう根負けした親友は、大変渋りながらもその女神を紹介します。
"……貴方に芸術に関して、伝えるのに適任の、儂と同じ様に異国の神がいる事はいるのですが……。
少々性格が……見た目は美しい女神で、芸術や豊穣の植物神、植物を司る精霊の元締めみたいな役割もありますが、戦の神としての側面もあります。
だが、やはり一番は芸術を代表する女神―――結構な変わり者だから、動揺しない様に、御留意ください。
動揺をしたなら、あの女神はとことんそこを攻め込むでしょう"
穏やかにではあるけれど、確りと注意をしたなら星の天使はその意見を確りと聞き入れ理解をしている様に見えたので好々爺の神はお気をつけてと送り出しました。
星の天使については全く心配をしていなかったというのは、ゼブル翁の本心でした。
けれども、星の天使が管理を任された世界の基礎を創った、父と敬い仰ぐ神の眷属でもあり、その行動を逐一報告しなければならないという縛りがあるという話を思い出した時ふと不安が胸を過ります。
出来れば、杞憂であって欲しかった好々爺の心配は的中しました。
芸術に関して携わる女神の元に行こうとした時、双子の弟である、姿だけは星の天使と瓜二つの天使が、珍しく"ついて行きたい"口にしていたの、精霊の囁きで知ります。
弟の天使とは接したのは最初の挨拶くらいで、そこまで性格を掌握をしていませんが兄である星の天使が"引込思案で心配している"というのも知っていました。
そして、自分が紹介をした女神の気性からして、星の天使の弟と相性が抜群に"悪い"という事も予想出来ました。
ただ兄となる星の天使は いつも控えめな弟が積極的になっている事が嬉しくて、好々爺の親友に注意をされた事が僅かに気になったけれども、連れて行きます。
―――動揺をしたなら、あの女神はとことんそこを攻め込むでしょう。
"叡智を携えている存在"が使ったその言葉の意味を星の天使は十分理解をしていた、弟は兄から聞いて"知る"事は出来ていましたが"理解"までは出来ていませんでした。
そして星の天使が弟を伴い出逢ったと同時に挨拶をしようとするのをわざわざ遮り「姿はそっくりだけれども中身が全く違う」と、女神は弟の天使を指さし、大笑いを始めています。
そんな様子を、気がつかれない様に自身の眷属である闇の精霊達の力を借りて、叡智を携えている存在は影に溶け込む形で経過を見守りつつ、溜息を吐き出していました。
動揺をしたなら、とことんそこを攻め込む女神は、挨拶を遮られて実に判り易く目に見えて狼狽える弟の天使を散々揶揄います。
最初は挨拶を続けようと努力をしていましたが、最終的に俯き兄の背に隠れてしまいました。
"キャハハハハハ、そっくりで同じ力を持っていても、それじゃあ"いない"のと同じ―――"
まるで止めを刺すな言葉を持って存在を否定され、その甲高くよく響き渡る、綺麗な高い笑い声に堪えきれなくなった弟の天使が、女神の領域から逃げ出します。
呼び止めても弟は、双子の兄である私と同じ枚数の羽根を羽ばたかせ、やはり同じ強さを持っているのだと感じたと後に、叡智を携えている存在に語ってくれました。
それと同時に、件の女神に"己自身"の存在も否定されたような怒りが、弟の天使が司る"火"の様に、星の天使の心を包み込んだ様だとも言っていました。
気が付いた時には、怒りの力を抑え込むのが出来ず、けれども逃げだした弟の天使も巻き込まないと、どこか冷静な心で考えて、女神に実力行使の抗議を行ってしまいました。
そして世界を管理する創るとされる力で、女神を吹き飛ばした時に、影に潜んでいた叡智を携えている存在が、飛び出し全力をもって親友となる星の天使を止めていました。
叡智を携えている存在は比較的早く止めたつもりでいましたが、女神はその身体を星の天使に吹き飛ばされています。
ただ吹き飛ばされつつも、流石が世界は違うとしながらも神の位置にいる存在というべきか、辛うじて半身のみですがその存在を世界に留めました。
星の天使は自分のしてしまった事に、驚いていましたが叡智を携えている存在が声をかけ、"貴方の力を以てすれば十分助けられる"と告げると直ぐに冷静になり、女神に謝罪の言葉を告げ、復元を試みます。
叡智を携えている存在の指導と助言もあって、女神は元の様子に戻りましたが、やはり星の天使の力が衝撃的だったのか、暫く呆けていました。
その女神に星の天使は何度も素直に、"ごめんなさい"と頭を下げて叡智を携えている存在に伴われて、その時は引き上げました。
叡智を携えている存在の価値観としては、こういった事があったなら普通は、|自分を吹き飛ばした相手と色んな意味で距離を置くと考えます。
けれども世界の隅々の叡智を修める立場として、"学問は知るもので、芸術は感じる物"という理屈を弁えている叡智を携えている存在は、女神はそうでないという事を知っていました。
そして自分と同じ様に星の天使に途轍もなく惹かれているという事も、感じ取れました。
自分が思うがままに振る舞う女神の行動力は、好奇心旺盛な星の天使に匹敵する所があって、"親友"である叡智を携えている存在の所在を突き止めて"紹介しろ"迫ってきます。
ただ、ここも女神と叡智を携えている存在の感覚の捉えどころが違うと言うべきなのでしょうか、彼女が星の天使との中継ぎをして欲しいと迫ってきた時には、その存在を救った立場でもある白髪の背の高い好々爺をすっかり忘れていました。
これには叡智を携えている存在の方が呆れて思わず、"初の出逢い"を語り聞かせると、
"ああ、そんな事もあったわね、でもそんなことどうでも良いわ、それよりも星の天使よ、星の天使、あんたが知り合いなら紹介しなさいよ。
逢わせてよ、あんたなら会える方法を知っているからって聞いたからわざわざ西の果ての高い所までこの私の方が来たのよ、さっさと連絡をつけないさいよ"
と、全く叡智を携えている存在を意に介さない発言をするので、その時は心の底から呆れ返りました。
ただ当時は親友でもある星の天使は芸術に関しては、未だに諦めずに興味を抱いていたので、女神には素気なく接しながらも連絡を取ります。
星の天使の方も、叡智を携えている存在からの報せに空色の眼を丸くして、世間には色々な呼び名をされていましたが最も浸透している"女神アプロディタ"という名前を呼称とする事にします。
天使としては、女神の半身を吹き飛ばした事もあって再会した時には随分と申し訳なさそうにしていたのですが、アプロディタの方は叡智を携えている存在の事をすっかり忘れていた様に、その事も忘れていました。
ただただ星の天使をその視界に入れたなら、上機嫌で女神にとっては適当な鼻歌なのでしょうが綺麗な旋律を奏でてニコリと魅惑的に微笑みます。
そして星の天使が芸術という物を、自分が管理を任せている世界に広めたい、なので女神の協力が欲しいと口にしたなら、
"そういった事なら喜んで―――"
と、弾むような声と共に、空色の眼をした天使を抱擁をしようとしたのを好々爺が、素早く間に杖の切先を差し入れて止めました。
アプロディタがそれまでの上機嫌を潜め、弟を嘲笑った時にも感じさせた攻撃的な視線を好々爺に向けていましたが、叡智を携えている存在は涼し気に微笑んで、シワだらけの口元を動かします。
"そちらの世界では当たり前かもしれませんが、出逢ったばかりの関係の事がなさるのは少々……。
それにこちらの少年は、父である神に世界の管理を任せられているお方、軽はずみに出逢ったばかりの"友"でもない方に抱擁をされたら、星の天使殿がお立場的に困る事になります"
天使が困る、という言葉に女神は実につまらなそうな表情を浮かべましたが、直ぐに星の天使に向けて笑顔を作りなおしました。
"それでは星の天使"様"が望む事を、私が教えて差し上げますね―――"
女神は魅惑的に微笑んで傍らにいる好々爺を、たまに鬱陶しそうに見つめながらも、奔放あ振る舞いながらも実に判り易く芸術という物を伝えてくれました。
そして一段落がついて星の天使が礼を口にして、女神アプロディタの元を案内してくれた好々爺の神と共に辞する事になりました。
それに女神も見送りとして付いて来ていました。
女神アプロディタは日頃尋ね人があっても、気まぐれに相手をした後、"帰りたいなら勝手に帰れ"と言った態度からは信じられない物でした。
愈々《いよいよ》別れ際という世界の境界線についたのなら、空色の眼を真直ぐ見つめて熱の籠った声をだして、別れの挨拶を口にします。
"星の天使"様"、今度は是非とも1人でいらしてね"
その挨拶が住んで、数秒の間もおかずに案内をして来た叡智を携えている存在が言葉を挟み込んでいました。
"星の天使殿、次回は何時にしましょうか?。アプロディタ殿の所に赴く際、儂はいつでも御一緒させて頂きますから、気兼ねなくお誘いください"
"えっと、初めてきたばかりだから、万が一を考えて次に来る時もゼブルと共に思っています。
その、アプロディタ……殿の話しはとても興味深いです。
だから絶対にまた尋ねてきます、その時は宜しくお願いします"
日頃余り物事に動じない星の天使ですが、異国の神々とされる2つの存在が笑顔を浮かべつつも、精霊達も遠巻きしてしまう雰囲気を発している所には少々言葉を選んで口にしました。
圧倒はされましたが、今までの自分の周囲にはいた事がない傾向の存在とその出来事に、星の天使には新しい興味を抱いてもいました。
女神アプロディタの方とは言えば"絶対に"という星の天使の言葉に、目に見えて上機嫌になり好々爺の杖が間にあるのも構わずに、距離を詰めました。
"殿なんて他人行儀な言い方は止めてくださいな、アプロディタと呼び捨てにしてくださいな。
星の天使様、貴方が望むなら私は友人、いえ、それ以上の関係を御所望なら―――"
"星の天使、陽が沈むまでに帰らなければ弟君も、前に話してくださった綺麗な水の天使殿も心配しますよ。
それでは―――"
先程に増して情熱的に語る女神の言葉を遮り、やや強引にもにも好々爺が少年の姿をした天使の肩を抱いて、見事に反転させた時に、背後に舌打ちの音がしたのを最後に、漸く異国の芸術を司る女神の元を辞しました。
ただ星の天使からしたなら日頃、頂点に立つ立場としては、決して見る事がないやり取りに、好々爺の親友が見せた事がない側面に触れた事はやはり興味深い事でもありました。
しかしながら、これまでのやりとりを思い出したならふとある疑問が擡げます。
"……ゼブル、アプロディタと仲良くしてくれるのは僕はとても嬉しい事なのだけれども……これで良い物なのかな?"
初めて芸術という物について学び、アプロディタに感謝の言葉を告げて、星の天使は帰路、叡智を携えている存在と共にしながら尋ねます。
星の天使は双子の弟を嗤われ傷つけられた事に、激怒し我を失い自分の"世界を管理し創るとされる力"で、女神アプロディタの半身を吹き飛ばした事を後悔も反省を続けている事を叡智を携えている存在には知っています。
そして、女神アプロディタが件の事を"全く気にせず、さらに動揺もしている星の天使に何もしかけてこない"事に、困惑しているのも気が付いていました。
それもこれも、星の天使に、叡智を携えている存在が"動揺をしたなら、あの女神はとことんそこを攻め込むでしょう"と忠告した為であるのも、理解しています。
なので星の天使が口にする前に好々爺の方が口を開いていました。
"星の天使殿、私が芸術について教える事が出来ないと言った際、前置きの様にした言葉を覚えているのですな"
"……うん、"学問は知るもので、芸術は感じる物だと説明をした所で、その例えでさえ聞いて漠然としているでしょう?"というのだよ、ゼブル"
いい加減な風の天使に翻弄されない様にと、水の天使に教わったという、暗記の方法でもって確りと覚えていた叡智を携えている存在の言葉を口にしたのなら、星の天使にだけに向ける好々爺の笑みで頷きました。
"女神アプロディタは正に"芸術は感じる物"として、感じ取ったまま、感情のままに振る舞っている女神です。
まあ、多少は考えるという事もするでしょうが、先ずは自分の気持ちに正過ぎるほどに振る舞い、彼女が顕在する世界で通しています。
そして女神は前に申した通り美しき女神で、芸術や豊穣の植物神、植物を司る精霊の元締めをしてもいるが、戦の神としての側面を持っています。
そこが顕著に表れているのが動揺―――弱味を見せたのなら、あの女神は戦の神として、とことんそこを攻め込む、その様な事を言いましたな。
それで今回、星の天使は初対面の際に女神にやってしまった事に大いに動揺といいますか、反省して何かしらの言葉をかけられと思っていた。
若しくは僅かばかりの苦言でも、口にされると考えていたのに、全くされなかったことに動揺というよりは、困惑をしていらっしゃる。
そしてその困惑している状態なのに、女神はやはり何もしかけてはこない。
叡智を携えている存在に、アプロディタが戦の神として、そういったと頃を、とことん攻め込まれると聞いていた。
双子の弟程ではないにしても自分は十分に、攻め込まれてもおかしくはないと思う、といった所ですかな"
いつもの様に星の天使が疑問に思っている箇所を、如実にまとめて叡智を携えている存在が口にしたなら、素直に頷いてくれました。
"星の天使殿は、"攻められてはいない"と考え、感じているようですが、儂から見たなら、アプロディタは十分に攻めておるとは思うのですがな。
まあ攻めるといっても、戦う類の物ではございませんから御自分で御自覚した方が、星の天使殿の為になるでしょうな"
"え、そうなの、攻めているの?何時の間に……。それで僕は戦うというか、そういった類の以外の事には無神経というか、機微な所に疎いんだなあ……。
アプロディタ殿、僕の何処の何を攻めているんだろう、気が付かないと申し訳ないよね、ゼブル?"
然様ですな、と何故か気が付かない事に上機嫌な様子で笑みを浮かべている親友の横で星の天使は、溜息をつきながらそもそも芸術を知ろうとしている動機を思い出す事になります。
空色の眼を持つ天使は、自覚は出来ているのですが物事に良い意味でも悪い意味でも、その眼の色と同じ様に大らかで鈍感でありました。
その事 が、管理を任せられている世界に悪い影響を及ぼしているわけではないのですが、"それだけでいいのだろうか"という気持ちを起こさせるものもありました。
親友である叡智を携えている存在も、何かと補助をしてくれることが多くなってきていた水の天使も"そこが貴方の良い所でもありますから"と言っては貰えるのですが、やはり世界の管理に際し微細な感覚を必要とすると感じます。
けれど1人で考え込んでいても巧く細やかな所を感じ取るにはどうしたなら良いのか、見いだせません。
すると、日頃から不在になってばかりの風の天使がいつもの様に捉えどころがない調子で姿を現し、
"それには芸術に関して知った方が良いだろう。知る分にはこの前紹介した叡智を携えている存在を頼るといいと思うよ、うん"
と誰にも相談の類をした事がをないのにそう告げられました。
風の天使がどうやって自分の悩みを知ったかどうかに関しては、彼が情報を集め知識を司る立場と役割でもあるので、特に疑問にも感じません。
"そうか、先ずは知る事からだよね"
星の天使が無邪気に表情を明るくするのですが、それに抑制をかける様に風の天使は少々慌てた声を出していました。
"あ、でも、自分で進めておいてなんだけれども今回は、あの爺さんに尋ねたなら"知る"という事に関しては兎も角、星の天使が理解出来るというのは按排が少しばかり違うからなあ……。
まあ、取りあえず1人で悶々と考えているよりは、友達と話した方が"道"は開けるよ、うん"
風の天使は星の天使の眷属でもあるのですが、情報を集める役割を担っている事もあって、基本的に別行動ばかりで互いに"従属関係"という気持ちもなく、意見として素直に受け止めていました。
それに叡智を携えている存在を紹介してくれたのもこの風の天使で、その事については本当に感謝をしてもいました。
今回もやはり親友と話した事で、女神との出逢いには予想外の事もありましたが、星の天使にとっては芸術という物を理解する為の糸口を掴めた様な気がしました。
そして目下のところは、芸術を司る女神アプロディ タから親友曰く"攻められている"そうで、それが戦いの意味でないのは理解出来ます。
けれども具体的と言われたなら、わからないのが叡智を携えている存在と共に帰路についている際の現状でした。
"うーん、アプロディタ殿はどういった形で、僕を"攻めて"いるんだろう。相手から動いてくれているのに無反応って失礼になってしまうよね"
空色の眼を丸くし両眉を上げて後に"ハ"の形にして、星の天使が考え込む様子に、好々爺は相変わらず上機嫌さを一切隠さずに共に進んでいました。
"まあ、直ぐに気が付く必要は個人的にはないと思いますから、そこまで急かなくても良いと思いますよ。
そうですな、助言を与えるつもりではないですが、普段からあの女神は自分が気に入った存在にはその魅惑的な姿と、感動を与える情熱的な芸術でもって、虜にしてしまいます。
儂の知っている限りでも、既に幾柱の神々が女神アプロディタの虜となっておりますな。
そして、満足して飽きた、若しくは新しい興味をもった存在が現れたならそちらに全力を注ぎ始めます"
助言ではないという前置きをされた上での、女神アプロディタの情報に少々面食らいましたが、星の天使からしたならその続きが気になってしまい、自ずと話を進める言葉を口にします。
"えっ、じゃあその満足して飽きてしまった異国の神にもあたるだろう方々を、アプロディタはどうするの?"
気になりながらもその語り口で何となく予想が着いてはいるのですが、帰路を並んで歩く白髪の背の高い好々爺の姿をした叡智を携えている存在に、星の天使は尋ねます。
すると、白髪の背の高い好々爺はいつもの理知的な雰囲気ではありますが、星の天使相手にしては珍しく素気ない口調で答えてくれました。
"それはもう相手にしませんな。そこら辺の道端に転がる小石の様に、存在を無視といいますか「あら、いたのね」程度の反応になるでしょうな"
自身が感じる思う様に、気まま奔放な振る舞いをする女神と前以て聞いている事と合わせたなら、十分予想できる返答内容ではありました。
けれども、親友の口から改めてこうやって聞くとなると星の天使の中では、緊張を伴う 物となります。
"うわあ、異国の神となる方達もそういったことになるのなら、尚更僕も注意しないといけないね。
アプロディタから芸術の事を学びとる前に飽きられてしまったなら、とても教えて貰える状況にはならないだろうし。
でも、アプロディタから飽きられない様にする為の注意をするとしても、どういった事をすれば良いか具体的には判らないな。
ゼブル、アプロディタから飽きられない為の技術みたいな物はあるのかな"
親友の前でしか晒さない自信なさげの表情に、好々爺は心配ない断言します。
"……ふふふふ、星の天使殿の場合、飽きられないというのなら、やはり"そのまま"でいるの一言に尽きますな。
そうすればアプロディタは、決して飽きることなく星の天使が必要とする芸術"を喜んで須らくな事として、教えてくれることでしょう。
但し、少々過激にならぬ様に留意をしなければいけませんがね"
過激という言葉に、好々爺は眉間にシワを増やし、星の天使は首を傾けてしまいました。
けれども直ぐに快活ないつもの調子に戻っし、頷いていました。
"何にしても、ゼブルがそう言ってくれるなら下手に緊張せずにアプロディタに芸術について教えを乞う事にするよ。
そのゼブルの言った過激の意味が掴みきれてないけれど"
しかしながら過激の意味が解らないという旨の発言に、顔に新たに作ってシワも戻します。
"ええ、掴み切れたら却ってアプロディタが飽きるのが早くなってしまうかもしれませんから、逆にその方がいいかもしれませんぞ。
いつも星の天使殿でいる事で、アプロディタは十分刺激的な事となりますから、気取らずに接してください。
それに儂も星の天使殿とアプロディタが芸術を語るところに御一緒させて貰って、久しぶりに芸事を復習い直そうかと思います。
何と言いましたかな、東の国でいう"温故知新"という奴ですな"
"ああ、それなら知っている。
うちの学問や情報を携わる風を司る天使"が、最近何かと連絡をとっているところだよ。
あちらの世界で、月を司っている神様と仲良くなったとかで、公私とも充実出来ているから嬉しいですって、最近何かと上機嫌なんだ。
何だか、あちらの国の風を司る神が行方不明なったとかで、風を司る天使に代理を頼む事になりそうなんだって"
そこまでいつもの様に明るく親友と共通の話題と言った形で会話を楽しんでいたのですが、風の天使が持ち帰った情報で少しばかり気にかかる事を口にします。
"僕たちの世界では考えられないけれど、異国の世界では神と定義されている様な方々でも、身罷られたりその人でいう"死ぬ"という概念があるそうなのだけれども……"
"ああ、ありますな。
東の国はどちらかと言えば、人に寄り添った神々が多いので、色んな諸説がありますが……。
儂が知っているのでは、あちらの世界の始まりは神々が住まう場所としてある高天原に、役割としては造化となる、天之御中主神、高御産巣日神、神産巣日神三神がうまれた。
続いて現れたのが宇摩志阿斯訶備比古遅神、天之常立神。
しかしながらこの五柱の神は性別はないともされているが、後の話しで性別があるとされているものもある"
叡智を携えている存在に相応しく、朗々とある意味では随分と難解な文言を連ねている東の国の神々の名前を口にします。
星の天使の方も配下としての知識と情報を司る風の天使から、上げられた報告で掌握した内容と、新友が口にした内容は殆ど同じだったので頷いていました。
"うん、僕も風を司る天使からそういった東の国の色々話は聞いている。
性別っていうのも、最初はなかったそうだけれど、人の営みに合わせるようにその東の国の神様が担っている加護に併せて、役割的に性差も付加されたんだって。
それでも、最初に東の国の祖の神様として登場してきたけれども本当に土台となる部分でしか暦を刻む立場となる人とは関わりを持たないから、文字でしかその存在は残っていないって"
"そうですな、星の天使殿の仰る通り、根元的な影響力を持つ特別な神でありますがそれ以上の活躍はせずに、身を隠してしまいました。
東の国で言う、神が"亡くなった"状態ですな"
神が"亡くなった"という表現に親友である少年の姿をした天使が唇を噛み少しばかり辛そうな面差しをしましたが、穏やかな好々爺の表情 を崩さずに、叡智を携えている存在は話を続けます。
"だが、これ以降表だって登場こそしませんが、東の国の世界に影響を及ぼす為に別天津神とも呼ばれるそうです。
その後に国之常立神、雲野神という二柱の神の神が産まれましたが、こちらは性別がない神として捉えられている。
続いて産まれたのが五組十柱の神々とされています。
五組の神々はそれぞれ男女の対の神々として産まれて、先程星の天使殿が仰られた様な人の営みに合わせるように、その神が担っている加護に併せて、役割的に性差も付加されたのですな。
先ず宇比地邇神と須比智邇神。
宇比地邇神が男神で須比智邇神が女神であり、神名の「ウ」は泥、古語で「うき」、「ス」は砂の意味で、大地が泥や砂によってやや形を表した様子を表現したものです。
次いで角杙神と活杙神。
この神は角杙神を角杙神とも読み、こちらが男神。
活杙神は活杙神と読み、女神となります。
そして名前に含まれている「クイ(クヒ)」は「芽ぐむ」などの「クム」で、「角ぐむ」は角のように勢いのある芽が出はじめるという意味があります。
「活ぐむ」は生育しはじめるの意味ですな。
これが先程の宇比地邇神と須比智邇神の二神の活躍により築いた泥土が段々固まってきたことにより、角杙神と活杙神の力を以て生物が発成し育つことができるようになったことを示している。
さて次は、意富斗能地神と大斗乃弁神ですが、この二神はこれまで造られた東の国の大地が完全に凝固した時を神格化したものだそうです。
名に含まれる文字の読みにおいて「ジ」は男性、「ベ」は女性の意味で、二神の性別もそのまま当てはまるそうですな”
そしてここで一度、今度は叡智を携えている存在が言葉を区切り、星の天使の方を見ます。
実を言えば、意富斗能地神と大斗乃弁神は性別を現すと口にしましたが、もっと露骨な男女の差を示す部位という見解もありました。
星の天使は"風の天使から報告して貰った"と快活に言っていましたが、叡智を携えている存在が見受けるに、どうやらそこまで報告されていないのだと察して安堵します。
(この方が意味を理解してどうという事もないのだろう。
個人の感傷でしかないが、星の天使殿には情報としては知っていたとしても深くそこに意味を囚われて欲しくないものだ。
まあ、全くに意に介していないからこそ、アプロディタの"攻め"の意味も理解してはいないのだろうけれどもな)
親友となる存在が自分が主として治める世界ではない、異界の神が"天の使い"として定めた星の天使という存在であるだけとは十分弁えてはいました。
年齢も性別もその容姿も、その世界の管理と創造を任せるに相応しい物に定めて創ったというのも解っています。
そういった見方を出来る一方で、まだまだ希望ある前途に、努力を続け乍ら進んでいる若人の様にも、叡智を携えている存在の心が捉えてしまっているのを自覚していました。
"ゼブル、どうかしたの?"
星の天使が思わず尋ねてしまう程沈黙が続けてしまったのに気が付いて、叡智を携えている存在は苦笑いを浮かべます。
"いえ、東の国の神々の名前は文字自体が中々難解で、しかも読み方が独特なのでここまで思い出して、少しばかり滞りました。すみませんな星の天使殿"
適当に誤魔化した言葉だったのですが、星の天使には十分共感できる内容であったらしく、これには大きく頷かれてしまいました。
"あ、それと同じという訳ではないけれど、うちでは読み方が東の国の神々の名前の文字の読み方が難解過ぎてちょっと揉めるような事があったんだ"
そして星の天使が話してくれるのは、風を司る天使が東の国の成立ちと、先程までが叡智を携えている存在が話してくれていた神々の名前に関しての事でした。
流石に口頭ではなく、文字の形状も文面で認めての報告となります。
その余りにも長い文言と、難解の読みに困るような名前に、傍で補助作業を行ってくれていた美しい水の天使は思わず口を挟んできていました。
―――風の天使、東の国の神々の名前は本当にその様な読み方なのですか?。星の天使様が素直だからと悪戯を仕掛けていませんか?。
―――私が知識や情報を司るけれども、悪戯好きな風の天使の"長"だからって仕事内容まで疑われたならたまらないよ、水の天使。それに嘘を吐くなら尤もらしい嘘つくよ。
変な自信をもって応える風の天使に、呆れた視線を注ぎつつも星の天使にも教えた暗記の方法で、直ぐに前にされた悪戯を綺麗に復唱したなら流石に(見た目は)反省をしていたという。
"ふふふふ、そんな話を聞くと水の天使殿は、配下ながらもまるで星の天使殿の保護者の様な振る舞いですな"
保護者という言葉に僅かに嬉しそうな表情を浮かべましたが、管理を任せられている世界では決して見せないような弱気を僅かに含んだ表情を見せました。
"……でも、一応立場は僕が上でもあるんだから、水の天使に迷惑をかけられないよ。迷惑は、これまでもかけていないつもりだけれども"
"……そうですか"
口ではそうこたえましたが、親友としてこれまで星の天使の話を聞いた上で、考え至るのは水の天使は恐らく、頼られる事に関して迷惑に感じてはいないという事でした。
ただ、星の天使、水の天使双方の立場からして、自分から頼りたいとも、頼られたいとも言葉には出せないのも同時に好々爺の頭に浮かびます。
これまでは友という関係でもあっても、余計なお世話となりかねない事に関しては極力口を出すまいと叡智を携えている存在考えていました。
しかしながら、今回関わった芸術と女神については紹介をした立場として報せておくべきかもかとも思えます。
初接触の様子からアプロディタに星の天使が惑わされるという事が決してない事も、芸術に関して学び取る以外は興味もないのが伺えたので心配という物はしてはいません。
心配はしてはいないのですが、魅惑的な女神の"クセ"の強さを知っている以上報せておくのが、友としての義務にも感じていました。
(知っているだけでも、大事を避けるきっかけにもなれる)
極力、 星の天使に負担にならない様に、よく話に出てくる水の天使にどうやって連絡を取ろかと考えつつ、先程の話しの続きを始めます。
"さて、少し休憩させて貰った事で、東の国の神々の名前もすっかり思い出しましたので、続けましょうか。
五組十柱の神の内、残り二組ですな。
於母陀流神と阿夜訶志古泥神。
これまでは、世界の成立ちや人の繁栄に関わる性別が象徴的に出てきましたが、男神が於母陀流神、女神として阿夜訶志古泥神で、はっきりとし男女差が出て来たようですな。
於母陀流神のオモダルは完成した、不足したところのないの意味。
阿夜訶志古泥神のアヤカシコネはそれを「あやにかしこし」、美称したものだそうです。
つまり、人体の完備を神格化した神と捉えられておりますな。
そして、最後の1組、伊邪那岐神と伊邪那美神。
風の天使殿のお気に入り月の神の祖神殿となります”
そこまで言い終えたなら、星の天使は何とも言えない表情を浮かべながらも頷きます。
叡智を携えている存在はその親友の表情の意味に気が付いておきながらも、話を進めました。
"その風を司る天使殿がお気に入りとされる月を司る神、月読殿の御姉弟である、伊邪那岐神と伊邪那美神の2人から産まれる、いや、正確に言うならば違いますか。
まあ、詳しく話すとしたならその前に国産み、神産みという結構な量の話しの流れと逸話がありますが……。
帰路で語るには、時間が足りませんから止しておきましょう"
"……時間は確かに足りないね。
僕も風を司る天使から、それなりに簡潔に報告をまとめて貰っているけれども、随分な長さだった。
でも随分な長さだとしても、ゼブルはその風を司る天使が親しくしている月読殿が産まれた経緯は、勿論知っているんだよね?"
親友が不安な顔をしてまで話す事ではないと思い、誤魔化そうとしたことはあっさりと見破られてしまったうえに、更に確認までされてしまいます。
叡智を携えている存在は腹を括ると同時に、星の天使が、"神が隠れる"という事を気にしている事について話す事にしました。
"一通りは……ただ、少なくとも儂が関わりを持っている世界では余り聞かない話ではありますな。
所が変わればという品変わるという諺は、どの世界にでも当てはまる事ではありますが"
"そうだよね、それが東の国の成立ちというのなら、そうなんだろうとしか言えない。
でも初めて聞いた時に、本当に驚いたんだ。
その、協力して一緒に世界を作って来たそして伴侶として迎えた相手なのに、その顛末を聞いた上で仕方がない所があるかもしれないけれど、そういう別れ方しか出来なかったのかなって。
でも、そんな別れ方をしてしまう位なら、最初から迎えになんていかなければ良かったのにとも考えている。
亡くなったのは、寂しいし辛いと思うけれども、向かえに行くというのなら、何が何でも迎えに行って連れて帰ってあげれば良かったのにとも思ってしまう。
少なくとも、僕はそうする"
真直ぐ前を見てそう口を開く親友の姿に、出逢った頃から変わらない誇り高さを感じて懐かしみ、眉の外側を下げ口の端を上げてしまいます。
けれども、次に浮かべるのは誇りの高さは損なわないのですが、少しばかり不安を滲ませた面差しでした。
それから直ぐに隣を歩く自分を空色の眼で見上げて、今度は躊躇いがちに、言葉を選んでいるのを感じさせながら星の天使は口を開いていました。
"それで、ゼブルは所が違えばとは言ったけれども、その、こういった事を聞くのは凄く失礼だとも判っているんだけれど、神としてはまだまだいるんだよね?。
その姿も、叡智を携えている存在を崇める、ゼブルの世界に住まう人々がそうあって欲しいと願った"好々爺"という形をしているだけ。
だから、決して本当は年寄りという訳でもない―――"
次の瞬間には、"翁"という表現は抜けきれませんが、いつも星の天使の話をにこやかに聞いている好々爺ではなく、暦に"神"と認められる程の影響を携えた存在が佇んでいました。
"いいえ、年を取っている表現を使っているのは違うという訳でもないのです。
世に言う遥か昔の、まだ紙という記録を刻み付ける道具もない、人が言語で会話をしていたのかどうかも判らないくらい昔。
人の力ではどうしようも出来ない自然の力を崇める事で恩恵を得ようとする事で、産まれたのが"儂"という存在の始まりです。
大地に転がる石を、広く平らな岩壁にぶつけて、そこに人は自然の植物を磨り潰した物を染料にして染み込ませて何かしらを描いた。
それを奉る事で、乾燥している地域で嵐と慈雨を齎しに農作に携わる人々から豊穣神として崇められた。
そして歴史が進んだなら、彫像という形になり、棍棒と槍を握らせた姿となりました。
この武器は嵐の神として稲妻の象徴とを握る戦士の姿でもあるそうで、古代世界では一般的に嵐の神とみなされていました"
"戦士の姿という事は、ゼブルは"神として自分の世界で戦った"という事なの?"
今横に並び立つ、これまでに見た事がない姿に加えて、これまで穏やかな好々爺の姿でしかなかった存在が、戦という物を行うに当たって"叡智"ではなく"力"で戦ってきたという事に純粋に星の天使は驚いていました。
その驚いた顔は、いつも自分を"優しい物知りなお爺さん"と言った調子で見上げるのと全く違い、神の中でも年嵩の箇所にいる立場として、結構興味深いものとなりました。
"ええ、世間一般にいう"若い頃"という時期に戦いばかりを繰り返し、負けずにいたおかげで、こうして歴史に名を刻み人に崇め称えられる信仰される神として生き残っています"
生き残るという表現に、これまで向けられた事の無い類の感情を星の天使が込めて自分を見つめているのに気が付いていましたが、構わずに続けました。
"ただ、好き好んで戦ったという訳ではありません。
儂が神として望まれている世界で、そこに住む人々が行える努力を全てやり尽くした上で、どうしようもならない時、武器という物を手に取って、戦ったという事です。
そうしなければ、こちらに攻め入ろう―――儂を神だと信じている存在の土地や信仰が消え失せる事になりますからな。
特に、神の命というものをこうやって星の天使殿と話すまでは意識した事もありませんな"
そこで穏やかに笑みを浮かべる頃には、いつものとても物知りな好々爺のお爺さんの姿をした、異国の神といった物に戻り始めていました。
"恐らく、この世界で儂という崇めて信仰しているくれる物がいる限り、神としての寿命は尽きないとけって思いますので、心配はしないで大丈夫だと思います。
少なくとも星の天使殿が、儂の叡智を頼ってくれている間は、この世界を治めているでしょうから、安心して頼ってください"
"別に、頼れる相手が欲しいとかではなくて、その、純粋にゼブルがいなくなったなら寂しいと思って……"
寂しいという言葉を口にした事で星の天使は俯いて赤面になり、引き出させた好々爺のお爺さんの姿をした存在は至極嬉しそうに笑っていました。
俯いて隣を歩いている少年の姿をしている天使が、恥ずかしがっている事も解っているのでこれ以上揶揄うような言葉を口にはせず、好々爺の姿にすっかり戻っています。
"……でも、戦って勝利して残って来た神でもあるゼブルが、どうして高所で叡智を携わる神という今みたいな形に定まったの?"
恥ずかしさを誤魔化す為もありましたが、 話を聞いた限り純粋に疑問に感じた事でもありました。
"高所ですか、こればかりは人の都合といいますか、概念と言いますか……星の天使殿達にも通じる所があると思うのですが"
はっきりしない調子で、そう言って普段は可視化状態ではない、12枚の羽根がある星の天使の背を見つめます。
"羽根と高所が関係があるという事なの?"
直ぐにその意味を理解して星の天使の方も、親友の視線を受けて赤面が漸く止まりました。
それから必要がない以外は精霊の力を借りて"無い"状態にしている羽根を、力を入れて出現させます。
出現させると、相変わらずどこの神が治めて管理している世界であろうが関係なく慕われる懐く精霊の中でも、今は風に携わる精霊が早速纏わりつき始めました。
そして、それと同時に羽根と高所が結びつ事柄を思いつきましたが、言葉にしようとすると、内容が抽象的な為に巧く纏められませんでした。
先程叡智を携えている存在が、口にした概念という言葉を使えば一番表現しやすいとも思ったのですが、それでも巧く短く纏める事は難しくなります。
"相手が理解して納得出来る説明を、簡潔にするってこうやって見ると存外難しいな。その説明するべき事は感覚的に判ってはいるんだけれど、筋道立てて文章にしていくとなると……"
星の天使を慕って、姿を現してくれた風の精霊にを僅かばかり申し訳なく思いながらも考えに集中する為に、羽根を見えない形にします。
ただ集中したのは良いけれど、やはり巧くまとまらないらしく、真似をするつもりもなかったのですが風の天使が考え込む時にしている様な、頭を掻く仕種をしてしまっていました。
何かしらの議論行ったならいつも明晰に返答するのに今回の事はどうやら、星の天使としても難しい物の様です。
"ふふふふ、そこは「天の使い」と「神」としての誕生の違いがあるのかもしれませんな。
まあ、ここは短く纏めようとはせず、経緯をそのまま聞いた方が納得出来るだろうから、お聞きくださいますかな?。
そんなに長い話でもないですから”
好々爺の親友の提案に、コシの強い黄金色の髪に突っ込んでいた指を引き抜いて、星の天使は頷きました。
"そうだね、短くして手間を省こうと纏めている間に、逆に時間を使っている。よろしく頼むよ、叡智を携えている存在"
"それでは早速。
これも随分と昔になりますが、儂を信仰崇めてくれる人々は、自分達の住まう場所を徐々に広げていきました。
ただ広げ方でいえば、戦ではなく土地を攻め込むというよりも、まだ誰も治めていないような場所を田畑として拓き、そこを新たな人の住処を作る。
そして儂は、嵐というよりも慈雨の神としてその土地で祀られ恵みを齎します。
そうする事で自然と営みは豊かになり、戦を行う事もなく広がって行きました。
すると、儂もどちらかと言えば戦の神としての役割は徐々に潜めて、慈雨の神という側面が強くなりましてな。
生活の方も安定し余裕が出てくると、文化面の向上が始まります。
その中には儂という神に対する信仰の仕様も、その向上に伴い最初は岩壁に染料を塗り込んだ二次元の姿から、肖像画、次いで三次元の彫像と姿を変えて行きました。
神を模したとされる絵であったり、像であったりする物を納め祀られる場所は、最初は小さな丘の様な場所から、洞窟や祠となり、社。
そして、ついには神殿となりました。
祀られている立場として言うのも何ですが、どうやら暦から見ても儂を神として扱う世界と文化は、結構な隆盛を極めているようですな"
好々爺が謙遜を含んだ物言いをすると、これには星の天使の方は大きく頭を縦に振ります。
"それはそうだよ。
その、奢った言い方になるかもしれないけれど、ゼブルには聞いて欲しい。
僕を筆頭に配下で眷属になってくれている四大精霊の長ともなる天使達も、父なる神が作った世界の管理を任せられた。
自分でいうのも何だけれども、他の神々が治める世界よりも、混沌はしていないし、結構纏りもとれていたと思う。
でもその当時、既に人の信仰を集めその世界の西の果ての高い場所に神殿を立てられる様な叡智を携えている存在という、父なる神程ではないにしても凄い存在がいると、情報を司る風の天使は注目もしていた”
初めて聞く親友の知らなかった側面にやや興奮気味に反応を示しつつも、星の天使は好奇心に空色の眼を輝かせていました。
"思えば、儂の事を、星の天使殿に教えたのも、確か風の天使殿でしたか。
彼は儂の神殿を「何時」見つけたのでしょうな"
星の天使が話の途中に入って来たことに実は内心苦笑をしていましたが、風の天使の名前が出た際、不意に浮かんだ疑問はそのまま好々爺は口にします。
しかしながら、その疑問は好奇心に溢れていた気持ちに抑制をかけるような効果を与える事になりました。
"風の天使が、ゼブルを含めて神殿までを知ったきっかけ?。考えてみたなら、確りと聞いた覚えはないよ。
風だから留まってないで、色んな情報を拾う事ばかりを役割としている所もあるから、それで知ったのかな?。
それ以外には特に思いつかないかな"
星の天使からしたなら、やはり口にした通りの考えしか浮かばない様で、少年の天使という立場からしたなら、それは仕方のないこととも好々爺には考えました。
叡智を携えている存在と同世代の芸術と戦の女神を、弟を侮辱されたからと、感情の抑えが効かずその半身を吹き飛ばす様な力を持っていたとしても、星の天使の役割は"天の使い"でしかないのです。
能力という強さで比べたなら、星の天使の力は叡智を携えている存在と同等かそれ以上の物を携えているのは感じ取れています。
けれども、世界の管理を任せて星を作る程の力もつとしながらもその思考は、星の天使に限らず、眷属の四大精霊を長とする4人の大天使を含めたとされる存在も、あくまでも"父なる神の使い"の範疇を出る事を恐らくは許してはいないのだろうと思いました。
もし自身の世界で叡智を携えている存在という名の神として、天の使いという存在を創るとしたなら、それは同じことをすると考えます。
けれども、それはそれでとても"勿体ない事"をしているようにも、"神"の1柱として考えてもしまっていました。
"―――あ、ごめん。ゼブル、僕が言葉を挟んだから止まってしまっていた。
それでどうして、ゼブルの神殿は高い場所に出来る様になってしまったの?"
少し遅れながらも、自分が発した言葉で話の流れを止めてしまったのを気が付いた星の天使が謝りつつも、いつも調子で話の続きを求めました。
これには遠慮なく苦笑いを浮かべる事になりましたが、好々爺の姿の親友は話を続けます。
"そうですな、神殿も造られて人々の間にも叡智を携えている存在という存在も、儂の世界ではすっかり浸透をしていました。
儂も神殿に丁寧に祀られて、これ以上特に何を不満に思う事もなく、ゆったりとしておりました。
けれども、人は叡智を携えている存在という神を、もっと大切にする―――いや、判り易くする為に新たな神殿を造る事にしたようでした"
新たに神殿を造るという親友がさり気なく使う言葉に、実際の好々爺が祀られている神殿を眼にしている星の天使としては、舌を巻く様な気持ちになります。
星の天使が管理を任されている世界でも、既に父なる神を祀る神殿を造られてはいますが、その建築の造形は情報を司る風の天使が仕入れてきたり、それこそ今最も必要としている芸術の融合でもあります。
加て建築の資材なども四大精霊の管轄するもの、それぞれ総動員といった具合で建造を始める前から入念な、人の世界の暦で言えば十数年単位の計画で建造されるものでした。
そういった事を考えた上で、親友の世界に住まう人々が好々爺の姿になった"神"に関して感謝し、信仰している事。
"判り易くする為に新たな神殿を造る"という行動を取る程への、神を信頼し崇める歴史の厚み、重みが違うと感じ、少しだけ恐れ入るような気持ちになっていました。
そんな星の天使の心情を察してはいましたが、どうして"高所で叡智を携わる神"という神に落ち着いたかという説明が終われそうなので、そのまま進める事にします。
"そして判り易くする為に新たに神殿を立てようと考えられた場所は、"西の高い場所”でした。
最初は日が昇る方角という考えも出ましたが、誰でも朝日が昇る時に眼を覚ましているという訳でもない。
特に幼子等は、やはりある程度日が昇った時間に眼を覚ますのが通常でしょう"
好々爺の言葉に星の天使も素直に頷きます。
星の天使自身は、子供の成長の加護に携わる水の天使から、丁寧に教えて貰った事があったので納得出来る事でした。
"朝の始まりが揃うのが、理想でしょうがな。
しかしながら、それぞれにある程度の文化が整っていたなら、子どもと呼べる立場を除いた人々の区切りを朝日が昇ってという物にするのは、少しばかりどうだろうという考えも出た様でした。
それなら、少なくとも日の出よりも多くの者が確認を共にできる"日の入り"の区切りとして象徴する場所に、西に建造してはどうだろうという事になりました。
日の入りが物事の締めという訳ではありませんが、区切りをつけるにはタイミング的に、判り易いという事もありました。
そしてこれは、儂が創った世界の偶然でもあるのですが、西の果てとされる場所に随分な高所、丘がありましてな。
日の入りを確認しつつも、神殿が影になるのも視覚的な特徴が映えるというのもあった様です。
その影の形も日の入りを考えて設計した、神殿となり"影もある意味では信仰の対象に含まれ、その事もあって、儂には更に"闇の精霊"とも縁が出来ました"
好奇心旺盛な星の天使は極力我慢をしていようと思ってはいたのですが、前々から不思議に思っていた事の答えをあっさり出された事で、思わずまた口を挟みこんでいます。
"ああ、そういう事があったから、ゼブルは闇の精霊を眷属というか、そちらの方面が得意と事もあったんだね!。
叡智を携えている存在という事で神であるのは知っていたけれど、闇の精霊とも相性が良いのが少しだけ不思議でもあったんだ。
余り異界の神々でも、夜とかに携わるとか"暗さ"や”闇"と専門とする事でしか精霊や魔法を得手する存在の方はいらっしゃらないから。
ゼブルは納めている世界の神であるから全体的でも不思議でもないんだろうけれど、珍しいなって思っていたんだ。
でもこれでスッキリした。
風の天使はこの事知っているのかな?"
"ふふふ、情報を司るというのなら、どこかでその逸話は仕入れているかもしれませんな。
ある意味ではワシの世界の、象徴的な扱いでもありますから"
日の入りの紅い光を神殿が遮り、僅かな冷えと共に黒い影になって、人々に届く時。
人々はその影を感じ取り"見上げ"、自分達やその祖先が遥か昔から神として崇めている存在を感じます。
信仰ある者は小さいながらも感謝の言葉を胸に浮かべ、深き者は併せて祈り言葉を口にしていました。
小さな子ども達は、大人達から教えられた通り、"神さま影"が届居いたなら家に帰る時間だと約束をまもり、ともだちと"神殿"にさようならと告げて家路につきます。
細やかな秩序を重ね続けて、盤石な安寧の生活をその中から築き上げていく事。
優しく静かに、日の入り時は自然と顔をあげて、自分達を守っていくれているという神の存在を、心に信仰という形で根付いていきました。
そんな穏やかで安寧の日々の中で文化は、更なる発展を遂げて、更に深く物事の道理に通じ、突き詰めた学問に"叡智"という物を考え事に繋がります。
慈しみの雨を齎し、思慮深い世界を治める神様はそれに印象を重ねる様に"優しいお爺さん"の姿に変わり、語り継がれていくようになりました。
世界の西の果ての、とてもとても高い丘の上にある神殿の周囲には 、その落ち着きと調和に相応しいコスモスという花が咲き乱れているのは、何時の日にか様々な世界に知れ渡る様になります。
一通り話終えた後、もうすぐ叡智を携えている存在の世界と星の天使が管理する世界の境目が間近に迫ってきていました。
星の天使の方は別れる場所が、空色の眼に映った時、つまらなそうな表情を浮かべてつつも、時が許すまで話を続けるべく口を開いていました。
ただ話題にするにしても、話を引き延ばせるような話題が咄嗟に思いつくことも出来なくて、先程の話を引っ張ってくる事になります。
"……じゃあ、やっぱり僕がゼブルと出逢ったのは、神様として自分の世界に現れてから本当に物凄く時間が過ぎた頃だったんだね。
あ、その、別に年寄り扱いをしたいとかではなくて、その敬意を払いたいっていうか、出逢った頃の僕は、今考えたなら凄く生意気な態度だったから"
"それは仕方ありません、互いに初対面でしたからな。でも、儂星の天使殿のお陰で久しぶりに空を見上げた様な気もしました"
思わず笑いながらそんな言葉を口にされたなら、今度は罰が悪くて言葉を続ける事が出来なくなって、星の天使は顔を紅くして俯いてしまいました。
横並びになったなら好々爺の姿ながらも、まだ星の天使よりも頭1つ高い背丈である叡智を携えている存在はコシの強い金色の頭を撫でていました。
"本当に、星の天使殿が弟君共々挨拶に来て、その後尋ねに来てくれなければそれまでの御縁だったでしょうからな"
感慨深くそう口にして、それまでの事を省みます。
自分が祀られている神殿が建造されている場所が、とても高い場所でふと周囲を見たならば地平線が良く見えていました。
"空"は視界に入るから、わざわざ見上げるようなことをもう随分としてはいなかったのに、見上げたのは自分の姿が"影"に突然包まれたからに他ありませんでした。
丁度日中の最中ということとで、日は頭上の上にある筈だったのに、叡智を携えている存在に見えたのは、これまで見たことも大きな影とになります。
異界の神が、自分の造った世界を、同じ様に自分の造った"天の使い"に管理を任せているという話は、流れてくる風の精霊の噂には聞いた事がありました。
その神の使いとなる"天使"がその背に羽がある事も、その筆頭となる天使が双子の兄に当たる存在がとても精霊に慕われる素養を持っているという事も知ってはいました。
けれども12枚もの羽根があるのと、その眼が精悍で空色であるという事と、とても好奇心旺盛な元気な少年であるという事までは知りませんでした。
そして、自分より上の場所にいた存在が随分と無遠慮な挨拶を口にしたと途端、羽根を広げて舞い降りて隣に立ったなら、まだ自分よりもまだ背の低い幼さ感じさせる少年の姿をした星の天使でした。
未だに会った事はないけれども、叡智を知る存在として星の天使に叡智を携えている存在を紹介をしたという風の天使には礼すらしたいと思う程でした。
"……ゼブル、あのそれで思ったのだけれど、ゼブルはその独り身というか、伴侶をむかえようとか考えた事はないの?。
話をまた戻す様な感じになるのだけれども、東の国の神様とかで夫婦とかの話しがとても沢山あるみたいだし"
この言葉には真っ白な両眉を上げた後に、星の天使という親友相手にしては珍しく視線を逸らします。
けれども無視という事はせずに、非常に答え辛そうにしつつも、髭とシワに覆われた口元を開いてくれました。
"うーん、今の今まで一人できましたからなあ、今更という気持ちが……。しかしながら、どうして儂に伴侶の話などを振るのですか?"
すると、今度は空色の眼をした少年の姿をした天使の方が視線を逸らします。
姿見は兎も角、心情はまるで鏡映しの様に、非常に答え辛そうにしつつもシワ1つ無い口元を開いてくれました。
"いや、その、ゼブルが簡単に神様の寿命というか、簡単に消えて居なくなったりしないっていうの聞いてとても嬉しかったんだけれど。
でも、僕がいない間とかその1人だと退屈しないかなってみたいな気持ちがあって……。
これから芸術の事もアプロディタ殿から学んだ事で、僕の所も神殿を多分新たな物を建造する事になると思うんだ。
父上が伴侶ではないけれども、新たな女神を僕の管理している世界に迎え入れる事でその子の世話を任せるみたいな事も言われたんだ。
それで、神という立場の方々のその婚姻みたいな話はどうなるんだろうなって思ってその"
結構な量の言葉を口にしましたが、星の天使の方の説明には、その言葉の多さの中に少しばかり、何かしらを隠しているのが親友の好々爺には感じ取れました。
"……仕方ありませんな、先にこちらも正直に言いますから、お話を出来る事ならしてください。
実を言えば、儂の記憶も承諾もした覚えは無いのですが、一時"伴侶"がいたり"妹"がいた事にさせられたりしていたような、"昔話"があります"
必要のない情報だと考えて、叡智を携えている存在の誕生からこうやって帰り道を共にするまでに至った随分な時間の長さを省略して話していました。
好奇心旺盛な星の天使なら、絶対に訊きたがるだろうし、誤解がないように説明する為には、時間が帰路の間では収まらないと軽く模擬思考してみても予想できていました。
すると予想は的中し、大いに興味を持った様子で、少年の姿をした天使は今までに無く大きく口を開くことになります。
"……え!?。あ、でも、そんな言い方をするということは、ゼブル自身はそういったつもりはなかったという事?"
星の天使の解釈が間違った物ではなかったので、叡智を携えている存在は大きく頷いたなら、少年の姿をした天使は、眼に見えて安堵した表情を浮かべました。
"そうだよね、ゼブルにそういった方がいたなら、風の天使が前以てそう言うだろうし、水の天使は失礼のないように何かしら手土産を持たせるだろうし。
弟も優しいお爺さんの神様1人だから安心して、挨拶についてくるみたいな所もあった。
ゼブルに初対面でかなり生意気な態度をとっていたから、もし伴侶となる方がいらしたなら、更に非礼を重ねていたかと思ってしまったよ"
この返答には好々爺の親友の方が噴き出してしまいましたが、星の天使の方もされても仕方がないといった調子で、苦笑いで浮かべていました。
"ふふふふ、随分と人の世界の夫婦の関係に影響を受けているみたいですが、神の伴侶となると少しばかり具合が違ってきますからなぁ"
"……、あ、そうだ、思い出した!。
僕も人の夫婦とかは関わりは、管理する立場として間接的ににしか持たないから良くわからないから、風の天使に訊いたんだ。
彼は夫婦じゃあないけれど、その前身である恋人達の守護者みたいな役割も熟しているから。
そうしたら、「水の天使と土の天使みたいなもんですよ」と言われたんだ。
でも、その説明ではよくわからないから更に訊こうと思ったら、何時の間にか来ていた土の天使に脳天締め、水の天使に喉絞め喰らってて……。
僕が驚いて、後ろにいた弟が怯えて後ろに隠れている内に、風の天使に喉絞めをしたまま水の天使"が綺麗に微笑んだまま
「星の天使の親友に当たる叡智を携えている存在様に訊いたら良いですよ。
神々の婚姻を正しい意味で教えてくださいますよ」
って言われたんだけれど、父から芸術を世界に加えるべきだと言われて、そういったのはすっかり忘れていた"
当人は何気なく発した言葉ですが、天の使いとしての役割が、星の天使という少年にとっては最も重要な事なのだと、好々爺の親友が感じ取るには十分なものになりました。
どんなに好奇心が旺盛で、異国の神にも微塵も怯まず誇り高くあったとしても、先ず少年の中で念頭になるのは父と崇めてる神という存在に仕える事なのだ―――。
そういった認識を新友が深めている間も、自分に課せられた仕事について思い返しています。
"そうだ、父から言われたから、いつもは消極的な弟も、頑張ってついてきたんだった。
でも、アプロディタ殿との一件があってから、益々表には出たくなくなってしまったんだ"
そこまで口にした時、恐らく自分が管理を任されている世界の星の天使という立場では決して見せないだろう、落ち込んだ表情を浮かべていました。
それと同時に丁度、別れの場所となる世界に境目に辿り着きます。
ただ、区分的には叡智を携えている存在の領分ではあるので、星の天使からしたなら、心置きなく"落ち込める"状態でもありました。
"物事には何にしても向き不向きがありましょう。
弟君は、星の天使殿に様に、矢面に立つような交渉事は苦手かもしれませんが、その炎の力を司る力で、着実に世界の管理を手伝ってくださっているのでしょう?"
その言葉には確りと双子の兄でもある星の天使も頷きました。
"本当に、ゼブルが言うように交渉事が不得手だけれども、他の精霊達が慄く程厳格な土の天使と共に役割を熟す時も、全く怯まず確り対等に出来ているんだ。
本来なら役割の関係上相性の悪い水の天使とも、水の天使が優しい事もあるけれど、全く障りなく熟している。
それに僕に、水の天使に土の天使だって中々捕まえられない風の天使を掴まえて、確りと仕事を報連相出来ているのも、弟ぐらいだし"
"そうですか、それなら大丈夫でしょう。
それに、全てを統括する兄上に信頼されている事は、きっと弟殿の自信に繋がるでしょう"
口ではそう言って親友を励ましながらも、そっくりな姿と、同じ様な能力を持つとされている双子の弟であるという火の天使に叡智を携えている存在は、苛立ちを抱えている事も事実でした。
けれども、その苛立ちをおくびにも出さないで星の天使が今以上の"輝き"を損なうような事に繋がるのを、親友として留めます。
星の天使は叡智を携えている存在と出逢い、抱えていた疑問が晴れる度に、管理を任せられた世界は、更に発展し素晴らしく向上をしました。
けれども、それと伴いそれまで以上に多忙になり管理をする事は精細差を増し、更に量も増えていきます。
今回の芸術の事も、管理する世界に戻ったなら星の天使は多忙となる事と思われました。
―――でも、僕がいない間とかその1人だと退屈しないかなってみたいな気持ちがあって。
先程星の天使の何かしらを誤魔化す為に使ったであろう何気ない言葉が、今更ながら叡智を携えている存在に、ズシリと重みを齎します。
退屈どころか"寂しい"という思いが好々爺の胸を占めました。
最初こそ、凛々しくもあるけれども元気すぎる輝きに、星の天使を目の当たりにする度に、その眩しさに眼を細めるような想いをしていました。
けれども、出逢いを重ねて、言葉を交わす度にその眼を細める所作は、いつの間にか笑みを作る為の物となり、口角も上に引き上げていました。
そして、別れを告げる度に白い髭の中に隠しつつも、その口角の端が、寂しさの為に下がりそうになるのを自覚をしてもいました。
(……孤独など、今の今まで感じた事など、無かったというのにな)
"ゼブル、どうかしたの?"
自分を励ましてくれていた好々爺の親友の言葉が止まった事で、自分の落ち込みより、相手の事のほうを直ぐに気遣う優しい空色の眼に、少しばかり翳り及びそうになった思いは晴れます。
そして晴れた事の証明の様に、叡智を携えている存在の心に影が出来ました。
(せめて、"親友"である儂ぐらいは、星の様な輝きを持つ天使殿の輝きの妨げにならない様にせねばならん)
"いえ、折角水の天使殿が風の天使殿に喉絞めをしながら、儂に神同士の婚姻について尋ねろと仰ったのです。
その事について、時間が許す限り話しましょうか"
せめて、管理するという重責が付き纏う世界からほんの少しでも離れた距離にある、好々爺の姿をした叡智を携えている存在という神が治める場所では身軽でいて欲しいと思いました。
時間が許す限りという言葉と共に話を振ると、それこそ星が煌めく様に少年の姿をした天使は表情を明るくします。
"そうだ、僕、そのゼブルの伴侶になっていた神……、女神についてとても気になっていたんだ。
どんな方なの?、僕も知っているかな"
その明るくなった表情に、好々爺の親友も気持ちを晴れやかなものとなりましたが、その相手を思い出したなら、少しばかり躊躇いの気持ちがもたげます。
しかしながらここまできて、言わないのは勿体ぶっている以外の何物でもあり得ないのもわかっていました。
"星の天使殿、改めて前以て言わせてもらいますが、叡智を携えている存在の伴侶や妹と呼ばれる様な存在 としている相手は、あくまでも人の暦の上で御伽噺のようなものです。
人の世の世俗的なことを言いますが、世代が一緒であったり、丁度時期的に神としての活動期間が重なったり、それが2柱だからと勝手に連れ合いみたいに認識するのです"
"……えっと、取り敢えず人の暦というか、神として扱われている部分で、伴侶や妹と記されてはいるけれども、ゼブル本人は非公認という事を、僕は弁えておけばいいの……かな?"
入念過ぎる好々爺の否定を非情に珍しく思いながらも、親友の譲れない部分なのだろうと聡明な星の天使は、理解します。
親友である叡智を携えている存在が、一番承知しておいて欲しいことを見事に言い当ててもいました。
"ええ、世間が何と言おうとも、儂は伴侶の女神をこれ迄迎えた事はありません。
もし迎える事があるとしたなら、何があったとしても星の天使殿にお知らせしますからな"
本当は"一番に貴方に伝えたい"という言葉を使いたいのが、好々爺の本音でもありました。
ですが世界の管理を任されている立場の星の天使が、今回学んだ事を持ち帰ったなら当分こちらにはこれないというのは判っていることです。
叡智を携えている存在が、直接赴いて伝える事が不可能ではありませんが、星の天使という存在が自分の為に無理をする姿勢で気遣われる事を苦手としているのも、親友として知っています。
だから、最も星の天使が現状の立場で望ましい方法で、そして何より伝えるという事を約束しました。
状況の先を見越してして、結果的に良かったとなれるようにと好々爺の親友がしてくれる努力に感謝しつつ、星の天使も、相手の望みを復唱する様に口にします。
"判ったよ、ゼブルは今まで誰も伴侶なんて迎えた事も、妹なんて家族みたいな扱いな神様は誰1柱としていなかった。
人が勝手にというか、そう流れ的になっていただけの話。
僕はゼブルの事に関しては叡智を携えている存在が、直接僕に言った事しか信じないことにする。
例え、とても信頼しているしている相手でもだよ。
あ、でも、状況的にその時は一応会わせた方が良い場合は、返事はするけれども、確信するのはゼブルに会った時みたいな形でもいいかな?"
最初は勢い込んで、叡智を携えている存在の事を信じると、少年の姿をした天使は口にしました。
けれども、好々爺の親友と親友となった事で培った思慮を行い、自分の言葉で無駄に縛られない発言を付け加えます。
"ええ、そこまで気を使って頂いて有難い限りです。
そうですな、固く信じてくれるのは嬉しいことですが、星の天使殿は勘は鋭い御方です。
儂に関する事に関しては、余程慎重にならなければいけない限り様な事以外は、信頼されている方からの発言は信じて貰って結構ですよ"
それまではどちらかと言えば、短慮でもあった親友の言動や行動を、軽く窘めて来た立場としては、こういった行動がとれるようになっただけでも、十分な成長に感じました。
"それではお話しましょうか。儂の伴侶扱いをされたのは、星の天使殿も先程あったばかりの女神、アプロディタ殿です。
まあ、これも先程も言いましたが伴侶でもありますが、妹みたいな扱いもされていました"
普段の好々爺という雰囲気からかけ離れた調子で、新友である星の天使に淡々として、叡智を携えている存在そう告げます。
そして告げられた直後といえば、流石に少しばかりその"伴侶と(勝手)にされている女神"の名前に驚き、髪と同じ黄金色の眉を上げ、空色の眼を丸くしてしまいました。
しかしながら名前が出て来たことで星の天使自身も、先程熱烈な別れの挨拶をしてくれた、多分一般的には魅力的という表現が当てはまる視線を送ってくれた女神をふと思い出します。
(アプロディタ殿は、とても個性的で美人で魅力的で、面白くて興味深かったけれども、性格でいうのなら、物静かで落ち着いた雰囲気なのが好きなゼブルと、正反対で相性は悪そうだったもんな……)
それと先程親友が念入りに語った前置きを合わせて、慎重に言葉を選択しながら反応を返します。
"えっと、ゼブルが言うには
「人の世の世俗的なことを言いますが、世代が一緒であったり、丁度時期的に神としての活動期間が重なったり、それが2柱だからと勝手に連れ合いみたいに認識するのです」
ということなん だよね。
それでその、アプロディタ殿と夫婦というか、妹と、いうかそのとても親しい間柄という関係性にある様に、人からは勝手に認識されていたんだね"
星の天使が例の如く、水の天使から教わっていた暗記法で覚えていた先程の好々爺の親友の発言を引用して、言葉を並べたのなら、実に深く頷かれました。
少年の姿をした天使が確りと自分が訴えている事を理解している事に大いに、感激しつつ好々爺はシワだらけの口元を開きます。
"流石、星の天使殿、そうです、大変に遺憾ながらもそういう事になるのです。
確かに神として誕生した次期も殆ど同じで、特に最も活躍した時代が重なったのも影響があったと思います。
儂がまだ、嵐と慈雨の神として信仰を集めつつも、戦の神としての役割も熟していた時、アプロディタもまた戦の女神として大いに活躍していました。
あとは儂の納めている世界とアプロディタの治めいる世界が隣接と言うわけではないのですが、文化的に重なる箇所もありました。
そういったのも含め、何かと関係がある様に見られていましたな"
叡智を携えている存在にしてみたなら、随分と早口でありましたが滑舌良く 言い終えて、はあっと最後に区切る様に大きく溜息を吐き出します。
そのまま星の天使と共に歩いた帰路の方を振り返り、今度はいつもと変わらる朗々とした調子で話を続けました。
"やがてそれぞれ神として関わる世界が落ち着き始めたなら、儂は戦いの神としての役割は潜めて、嵐と慈雨、そして叡智を象徴とされる神として存在が定まった次第です。
儂の祀られ住処となる神殿の方も、彼女が司る芸術を携わる面もあって、文化圏が重なり部分で世話になったという事もあって感謝もしてはいるのですがな。
だが、アプロディタの方と言えば……落ち着かないといいますか、初心を曲げないと言いますか……。
神としての姿はに美しき若い女神で、芸術や豊穣の植物神、植物を司る精霊の元締めあるのは大いに結構だとは思うのです。
しかしながら、儂と同世代だというのに、現役で戦の神としての側面をもっていますからな。
その為か、彼女が治めている国は武人や芸術が合わさった所が、特徴的な世界となっているようですな"
一 通り好々爺の親友の語りを聞き終わった後に、星の天使は改めてこれまでの話しを聞いて、自身の感想を口にする事にしました。
"……僕としては、その神という存在に年齢は関係ないとは判ってはいるつもりなんだけれども、こうやって、その、ゼブルとアプロディタ殿がそういう風に捉えられたいたのが不思議だな―――。
あ、そうか、えっと、だから、”夫婦や妹と見られていた時期"というのは、ゼブルが僕が慣れ親しんでいる優しいお爺さんみたいな姿に落ち着く前って事で良いんだよね?。
その活動的という言葉だから、ゼブルが今も同じ姿dあというアプロディタ殿と釣り合いが取れていた程、若い姿って事でいいのかな?"
"……そうですな、今まで若い姿とは言っても気が付いた頃には、人でいう所の成人で壮年を越したくらいの年齢の姿ではありました。
確かにあの時期は、優しいお爺さんと言う訳でもなかった。"
若い姿という言葉には、叡智を携えている存在は改めて苦笑いを浮かべていましたが、否定の言葉は口にはせずにいました。
"現状の様な、星の天使殿が言う様な、落ち着いたお爺さんの姿になったのは、今祀られている神殿の類が建造され始めてからです。
それに建造に関しては、やはりアプロディタの方の文化の影響を受けてもいますが、ある程度て儂の世界の好みが加味されて、大人しい物となっています。
それからは叡智も……こちらは、儂の元々の興味の方ですが治めましたからな。
今では昔関わりがあった程度の認識を人の暦の方でしてくれているので、それは有難い限りです。
決して悪い方ではないし、強き力を持つ存在で共にここまで残った数少ない柱の数少ない1柱ではありますが、日々を一緒に過ごしたいとは思いませんな。
騒がし過ぎます……"
叡智を携えている存在がここまで個人的の事を口にするのが珍しくて、星の天使の方は、半ば感心するような気持ちでその話を聞いていました。
"そっか、ゼブルが1柱でいる間、退屈しないかななんて余計なお節介だったね。
騒がしいよりも、落ち着いていた方が、ゼブルにとっては良いんだよね。
僕も水の天使から偶に元気が良すぎるって叱られると気があるから、気を付けないと……。
あ、でもゼブルとの話をする様になってから、落ち着いてきたたとも言われたよ"
慌てた様に自分の成長と、新友への感謝を口にされたなら、すっかり好々爺の調子を取り戻して微笑ます。
"ふふふふ、それは嬉しい限りですが、儂も何が何でも1人が良いという訳でもありません。
それにアプロディタとはそういった関係ではありませでしが、神々の婚姻は人の物より結果として記される物語が多いです。
結果が最初から決まっているから、読む側としてはあっさりとしたという感想を抱く物がものが多いです。
能力が同等な神を伴侶とするなら、逸話等も増えますが、眷属や配下に置く様な形なら更にあっさりとしたものが多いですな"
"じゃあ、ゼブルが伴侶の女神を迎える事はそこまで難しい事ではないんだね?。
それで、アプロディタのような苛烈な女神でなくて、気が合うような……大人しいかどうかわからないけれども、優しい女神なら、ゼブルの伴侶に迎えて―――"
不意に先程の、苛烈な芸術と戦の女神を語る叡智を携えている存在以上に淡々とした口調で星の天使がそう言った事を口にします。
"……星の天使殿?"
その異変に普段にないものを感じ取った好々爺が星の天使に声をかけたなら、空色の眼に実に判り易く翳りが出来ていました。
どこの世界にも共通する日の流れが日の入りという時刻で、影があってもおかしくは無いのですが、それは星の天使の心情も映し出している様にも見えました。
"……何かあったのですか?"
"ゼブル、その……"
そこで星の天使、次いで叡智を携えている存在の動きがピタリと止まり、自分達の真横の空間を見ると、"シュン"とい風が鋭く吹いた時の様な音がしました。
次の瞬間に空間に斜に白い線が現れたと思った瞬間に、まるでカーテンの端が強風にあおられるようにして、その空間が捲りあがります。
そこから姿を現したのは、兼ねてから星の天使から聞いていた彼の眷属となる存在の姿でした。




