これからもお世話します。①
アト「師匠の師匠です!」
※この章ではキザの言い回しが多くなります、ご注意ください。
『それでは、良かったらですがアト・ザヘト君の持っている荷物を全て……というよりは、"全部"見せてくれますかな?。
今日、迷子になった時に身に着けていた物―――ああ、お洋服以外でお願いできるかな?』
『?、全部ですか?。ロックさんのカバンだけじゃないんですか?。
アトの中で無くなっているいる、"アトを助けてくれた人"の事、考えませんか?』
これを聞いた時に、こいつは―――"ゼブル"とか名乗っている奴は、絶対"俺"に気が付いている"というのは、何となく察したんだが取りあえず、静観をまだ決め込む事にした。
まだ何も露呈もしていないのに、慌てるのは洗練ではないから、俺の信条に反する。
ただ、弟子がとても可愛いがっていた、孫弟子を巧い具合に唆して、俺をあぶりだそうとしているのは気にくわない。
そしてまるでそんな俺の信条を更に逆撫でする様に、可愛い孫弟子に、優しく語りかけている。
『ふふふ、考えるにしてもどうせなら現場に居合わせた"者"を参加させることで、より具体的、判り易くなると思うので、お薦めしましょう』
『"もの"?』
純真な可愛い孫弟子には察するの難しいだろうが、今度は露骨に"人"扱いで、また俺の事を多分例えていた。
『そうです、取りあえず、迷子になっていた時に身に着けていた物を、ゼブル爺さんに見せていただけますでしょうか。
そうしたら、"アトぼくを助けてくれた人"については、更に良く判り易くなる方法が見つけられると思いますよ』
『!、わかりました、ゼブルさんに見せます、アト、ゼブルさんに見せます!』
ああ、これは覚悟を決めるしかないのかな……。
だが、個人的には幼馴染の"忘れ形見"になるのかどうかもわからないが、あの青年事は気になってもいる。
そんな複雑な俺の胸の内とは裏腹に可愛い孫弟子は元気な声を出していた。
『ハンカチに、はながみ、お財布、ふでばこ、人がいない場所で迷子になった時にだけ吹く笛、それにまがれっとさんにもらったお菓子に、……あと耳栓です。
いつもは、シャツの"えり"の所に紐を通してつけています。
でも今日は、マインド家のランドリーメイドさんが洗濯をしてくれています。
洗濯の時は、無くさない様に外してカバンに入れておきます』
愛弟子からちゃんと躾けられているのが伝わってくる、素直な響きを持った説明に誇らしい気持ちにもなるが、工夫もしているのだと感心する。
随分と幼いころから教会から引き取ったのもあるだろうが、細く小さな、紛失しがちな道具でもある耳栓には、愛弟子がそういった工夫を熟してあげてやったのだろうと俺は考え至った。
工夫をしている"耳栓"にはやはりゼブルと名乗る存在も、興味を持ったらしく可愛い孫弟子に語り掛けている。
『ほう、耳栓はいつもは洋服の襟元に着けているのを、今日は洗濯をして貰っているから外しているのですな』
心が幼く純真な可愛い孫弟子に伝わり易くする為に、優しく語りかけている所もあるのだろうが、ただ聞いている分には、少々わざとらしさを感じる部分もある。
ただ、わざとらしくありつつも、無邪気な子どもとの気取らない会話を楽しんでいる所も感じて取れる。
こういったのを目の当たりっていうわけではないが、日頃人の心の裏表や思惑ばかりを考えていたり、対応している者からしたなら物凄く癒されるという所もあると耳に挟む事もあった。
そういった話 をしてくれたのは、顔は美男としか例えようがないが、肌は褐色、腹は真っ黒な幼馴染となる。
もう1人の幼馴染で、紫色の瞳で人の心が拾い読めてしまう慈愛に満ちた婦人も似たような事を、口にしていたのを聞いた覚えもある。
だから、褐色の美丈夫は自分か視線を向けぬ限り意味が拾い読めない書物で、紫色の眼をもった優しい婦人は、心を偽らぬ赤ん坊を好むのだとも言っていた。
でもそんな2人も、影日向ない、正直すぎるキリリとした眉毛で鬼みたいに強くもある幼馴染がいたなら、書物でもなく、赤ん坊でもなくとも、そういった心の疲れは、癒されるというよりも、取れてしまうとの事だった。
それならキリリとした眉を持つ鬼神みたいに強い押さ馴染みと、この可愛い孫弟子と共通点がどこにあるかと尋ねれた時には、俺はまだ巧く出来ないとも思えた。
『はい、アトはうるさい場所は苦手です。
うるさいと思ったなら、耳に着けます。
でも、一番つけるのは"傭兵のお仕事"の時です。
練習の時も着けます、着けないと大きな音すぎて、耳が聞こえなくなってしまいます』
ただ、が俺が過去を振り返り感慨深く思い出に耽っている間も、素直な可愛い孫弟子は、ゼブルと名乗る人物の口車に見事に乗っている話は続いていた。
『……それは、何の練習の時ですかな?』
そして、ゼブルと名乗る奴のこの言葉を聞いた時に、俺は覚悟を決める事にした。
ただ、覚悟を決めながらも、"弟の銃"の俺は、魔法を得手としている奴にはどういった風に見えるのかが気になった。
「それは不惑も還暦も超えた、儂程ではないが白髪の目立つ気障な爺が、年甲斐もなく赤いスカーフを首に巻いてキザと親バカ孫バカ拗らせている姿かなあ」
顎に伸びている白い髭を撫でつつ、飄々として白髪の背の高いお爺さんのゼブル翁は、アトから渡してらった銀色の小さな拳銃を見つめ、そんな事を言ったなら、"まがれっとさん"のお菓子を摘まんでいました。
そして次はアト・ザヘトを間に挟む様にして、向こう側に身体を半分程透けて見える先程例えた様な姿で寝台に居住まいする、見かけは老人と例えても障りない存在を、ゼブル翁は不貞不貞しく半眼でみつめます。
その見つめられている方の存在は、自身も背が高い方でもあるけれども、綺麗に白髪に生えそろっている翁に、注がれる不躾な視線を顎を上げて、実に不機嫌そうに受けとめていました。
《……大方、"フワク"だか"カンレキ"だかは、ビネガーの性格ひん曲がった賢者が贔屓にしている東の国の慣用句なんだろうが、赤いスカーフ貶した事だけは謝罪しろ。
俺のかけがえのない幼馴染の親友の妻でもある婦人が、誕生日贈り物にくれたもんだ。
……で、お前はピーン・ビネガーじゃあないのかよ?》
そして、"弟の銃"の方に理屈は判りませんが意志を宿しているジュリアン・ザヘトの疑問には、可愛い孫弟子が、ゼブル翁が耳栓を摘まみ、魔法をかけた事で、お話にだけ聞いた事のある"師匠の師匠"の疑問について応えていました。
「凄いです!ゼブル翁さんの言った通り、初めて聞くお爺さんの声が聞こえます!。
それでこの声は、"師匠の師匠"の声です!。
"師匠の師匠"、このお爺さんはピーン・ビネガーさまそっくりだけど、ピーン・ビネガーさま違います!。ゼブルさんです!」
そう言いながら、アトはゼブル翁に魔法をかけて貰った耳栓を自分の耳に入れたなら、更にはっきり聞こえる様になった、師匠の師匠の声にニコニコとしています。
そもそも"弟の銃"に宿るジュリアン・ザヘトの疑問を尊重した流れになったのは、ゼブル翁がアトに
『……それは、何の練習の時ですかな?』
と尋ねた所からの続きでもあって、素直なアトは勿論答えます。
『銃の練習の時です。それとシュト兄とお仕事の時に使います』
元気よく答えを貰った後に、流れる様にゼブル翁が質問を続けます。
『それでは良かったら、そのお仕事に使う銃を見せて貰えますかな』
ただ、それまで流れる様に質問には答えましたが、そこでアトは唇をキュッと窄めます。
『見せるだけならいいです。銃はとっても危険で危ない道具です。危ないを知らない人が触ってはいけません。
本当に仲良しになった人にも、大切な道具だから、触らせてもいけません。
名前だけしか教えてもいけません。使い方も教えては、絶対にいけません』
"仲良し"という言葉を使う位、ゼブル翁の事をこの時にはもう随分と信頼をしてしまっている、アトはとてもと申し訳なさそうに告げます。
ただ断りの言葉が、半ば予測出来ていた白髪の背の高いお爺さんは、朗らかに笑っていました。
『ああ、それなら儂は"お爺さん"だけあって、銃については良く知っていますよ。
それに昔の話―――アト・ザヘトくんとお兄様であるシュト・ザヘトの師匠の師匠と当たる方と、"直接"あった事もあります』
『師匠の師匠ですか!?』
そしてアトにとっても、その時には意思伝達の術を持たず、枕の下に隠されるように置いてある"弟の銃"に宿るようあるジュリアン・ザヘトの意思も眼を剥く様な思いでした。
特に枕の下にいる弟の銃としては、勿体ぶった物言いに思わず心で口元を"へ"の字にしてしまいます。
けれどそんな事もお構いなしに、ゼブル翁の銃の話は続きました。
『それに"使っている"ところも目の前で見たこともありますから、とても危険な道具というのも知っています。使い方を誤ったなら、傷つけてしまうし、もしかしたなら"人"の命すら奪ってしまうかもしれない。それくらい危険な、武器になる道具です』
実際には目の当たりというか、銃口を正面から向けられて弾も発砲された覚えもあるのですが、流石にこれを"人"に言ってはいけないと分別がつけられるゼブル翁はアトにそう告げます。
それと、先程から"地獄の宰相"状態の自分に、武器を向けた蛮勇の持ち主気配は感じるので、どういった反応を行うか興味を持っているのもありました。
"ジュリアン・ザヘト"という存在にとっては所謂、逆鱗に触れるや神経を逆撫でをする位の発言だとも判ってはます。
ゼブル翁の立場からしたなら、損害的には僅かなダメージを負った程度ですが、人の命を簡単に奪えるとされている銃という武器を、向けられた立場です。
"この程度位良いだろう"という気持ちで、口に出してもいました。
けれども、気配だけしか感じ取れない相手の反応は静寂でしかありません。
『銃はとっても危ないのも知ってますか、?!。師匠の師匠もゼブルさんは知っていますか?!』
その静寂も、アトの驚きの声で瞬く間に掻き消される事になります。
加て、アトにしたなら"びっくりすること"が、いっぺんに 2つ起きてしまった事で、自分が執事のロックさんが作ってくれたカバンから出した"今日持っていた物"と、枕の下に隠している銃を交互にして見比べる事になります。
目敏くもあるゼブル翁は、その動きで初めてアトが隠す様に置いている銃の置き場所に気が付いた素振をして見せました。
『……ああ、枕の下に銃はあるんですな。
アト・ザヘト君、良かったならゼブルさんは扱い方も判っていますから、触らせて貰えませんか?。
触ったとしても"安全装置"は、絶対に外しません。約束をしましょう』
『!?、ゼブルさん、"せーふてぃー"も知っていますか?!』
エリファス師匠と兄であるシュト以外からは、"銃のお話"をしたこともないのに初めて聞く言葉に、アトは3つ目の驚きに、すっかり興奮状態になります。
『ええ、先程も言った通り師匠の師匠とも"知り合い"ですからな。話に聞いた事もあります』
あくまでも"知り合い"という事で"友人"という表現を使わず、ロブロウで伴侶の媒体となった絵本の一頁から"回収"した事で、得ている銃の情報を口にします。
『うう、でも、でも……アト1人の時は、銃を出したりしない方がいいです。
エリファス師匠はもういません、だからシュト兄がいる時でないとダメです。
それかアプリコットさま、グランさま、アルセンさま、ウサギのけんじゃさん、ネツさん、えっと今日からロドさんの誰かがいないとダメです。
危ないです、危険です』
"銃"に関しては、傭兵の仕事以外では"エリファス師匠"にも、"シュト兄"にも自分達が側にいる時に位にしか、人に見せる事、外に出す事は止めましょうとアトは言われていました。
ロブロウで師匠の友達であるというアプリコットさまに出逢ってからは、兄であるシュトも含めて信頼出来る"大人"で、銃という武器について詳しい人達がとても増えました。
それだけ"保護者"が増えたとしても、普段からしても余程慣れた事でもない限り、"1人で行動する"という事に関してはアト・ザヘトにとっては困難な事でした。
ゼブル翁の事はとても頼りになる大人だとは思いますが、やはり最後の砦ともなる様に、兄であるシュト・ザヘトの許可がないと見せる、」れさせるという事はアトには出来ない事でした。
今日の留守番も"1人 でお絵かき"と"安全な部屋の中での留守番"なら、これまで何度も訓練した事で、やっと身につついた事です。
そしてその事も、ゼブル翁は"判って"いるからから、アトが了承しやすくなるような言葉を口にします。
『そうですな、アト・ザヘト君が1人がどうしてもダメというのなら……。
それなら儂の魔法で、知り合いでもある"師匠の師匠"に助力を求めるのはどうでしょう?。
とはいっても、姿を出すまではいけませんが、精々声を出してもらう程度の魔法での助力という事になりますが。
ああ、助力というのは"お手伝い"をして貰う事です』
わざわざ助力の意味を教える言葉を最後に回して、アトに自分が行おうとする事に、強く意識を向かせない様にして唆します。
『?!、師匠の師匠の声、ゼブルさんが手伝って貰ったなら、聴けますか?。
エリファス師匠の名前はジュリアン・ザヘトです!。
とっても優しい師匠の師匠です!。
銃も"ひゃっぱつひゃくちゅう"で、エリファス師匠よりも上手だと言っていました』
すっかりゼブル翁の"思惑通り"となると申し訳ないのですが、純真過ぎる少年は師匠の師匠こと、初代銃の兄弟、ジュリアン・ザヘトの声が聞こえるという言葉に、遊んでもらえるの待っている子犬の様な状態になっていました。
アトからすると、師匠の師匠にことジュリアン・ザヘトについて言えば、引き取られて間もない頃、お兄さんであるシュトが新たな保護者となったエリファス師匠から、色々と話して貰っているのを一緒に聞いていました。
エリファス師匠の話し方もあったと思いますが、アトが憧れを抱くという所に関しては十分な効果がありました。
ただ、ジュリアン・ザヘトを例える際に、エリファス師匠が"きざ"という言葉を多用していて、その意味が解らないアトが尋ねます。
するとエリファス師匠はとても大きな胸を支える様にして腕を組んで、首を傾けて熟考した挙句に"やさしい"という意味だと教えてくれたのでした。
『―――それではその声を聞けるようにする為に、アト・ザヘト君の耳栓と……これは良かったらなのですが、今日お土産にもらったお菓子 を少しばかり分けて貰ってもよろしいかな?』
そう言って長い指は執事のロックさんが作ってくれたカバンから取り出された、耳栓と大きな紙にくるんでいる焼き菓子を指さします。
『耳栓は、触ってもいいです。……でも、お菓子は……うーん……ちょっと考えます』
とても美味しい"まがれっとさん"のお菓子は、本当ならロドさんのお屋敷についてから食べようと考えていたのですが、思った以上に興奮してしまってこの事があるまですっかり忘れていました。
"まがれっとさん"からは"早めに食べてね"と優しく言われていて、多分もう"早め"の時間は過ぎてしまっています。
それに今日はもう歯磨きを終えているので、お菓子を食べるという行為はアト・ザヘトにとっては"ごんごどうだん"の行いです。
だから、アトが食べるにしても明日の朝以降になるという事になります。
けれども、こういったお菓子は"まがれっとさん"の言う通り早めに食べないと湿気てしまうのは、お菓子が大好きなアトは知っていました。
"湿気ても美味しい"という事を考えていたなら、"まがれっとさんのお店"を離れる時に兄が言っていた事を思い出しました。
"いいか、アト。これからマーガレットさんのお菓子が食べたくなったなら、何時でもシュト兄に言えよ。
折角王都に来たんだから、美味しいお菓子を食べれる時に一緒に食べよう"
そんな風に言われたので、思わず"明日もまがれっとさんのお店いけますか?"とアトは尋ねたなら、笑顔で頷いてくれました。
でも、それから少しだけ困った表情を浮かべてもいました。
"あー、でも王都にきたばかりで色々手続きとかもあるだろうから、明日はもしかしたらら物凄く忙しいかもしれないけれど……でも、東側に寄れたら、絶対一緒に行こうな"
そう弟に向かって力強く言いました。
いつもはお菓子の食べ過ぎはいけない、アトが最も苦手としている歯医者さんにもかかるからと、朝とお昼のおやつの時間以外は、お菓子に厳しい兄がそう言ってくれるのが嬉しくてよく覚えています。
明日も、"まがれっとさんのお店"に連れて行ってもらえるというのと、今日は沢山お菓子が食べれた事も思い出して決心がつきました。
『ゼブルさん食べてもいいです。明日もまがれっとさんのお店に行けると、シュト兄言ってました。
それにお菓子も、お料理も美味しい内に食べた方が良いと師匠に教えて貰いました』
そう言って"まがれっとさん"が包んでくれた焼き菓子の入った包みと、耳栓をゼブル翁に差し出しすと、シワの多い顔の中に好々爺の笑みを浮かべ、受け取ります。
『フフフ、それはシュト兄にも師匠さんにも感謝をさせてもらいましょう』
そう言って、長い指にお菓子と摘まんで白い髭の中にある口に放り込みました
『正直、アト・ザヘト君とこのお話が終わったあとは、コウモリの姿に戻って、南国まで"上司"が戻る前帰らなければならないので、このお菓子は助かります』
水の天使の器経由の情報によれば、"マーガッレト・カノコユリ"という菓子職人が作った作品は、ロブロウの領主邸で竃番を勤めるマーサがかつて恋をしていた頃に作った作品と同じ効能を持っている。
今、ゼブル翁が依り代として扮しているピーン・ビネガーと戯れ程度に交戦した際に、予想以上に奮戦を強いられることになった。
彼が直前に何かしらを食べているのは、褐色の美丈夫が運んできた絵本の中から見て、覚えている。
ピーン・ビネガーにしても水の天使の器にしても、それまで比較的疲弊していたのにも、関わらず、菓子職人と料理人が、ある種の想いを込めて手掛けた作品を口にした事で、魔力を瞬く間に回復していた。
そして、有難い事にゼブル翁が器としているのが、"執事のロックさん"である為に、同じ様な効能を得る事が出来ていた。
『この世界の"器"からこそ受けられる、期間限定の"恩恵"なのでしょうな』
『おんけー?』
アトには少々難しい言葉に説明を行おうともゼブル翁は思いました。
しかしながら、詳らかにしても、意味としては抽象的で少年にとっては、心の安定を乱すと考え、すっぱりと話題を切り換える事にします。
『アト・ザヘト君からもらったお菓子を食べたお陰で、元気がでました。
だから儂は魔法を使って、アト・ザヘト君の使っている銃を通して話を師匠の師匠、ジュリアン・ザヘト殿の声を引き出したいと思います』
これは"弟の銃"にジュリアン・ザヘトの意志が宿っていると感知できているゼブル翁だから、提案できる理屈で普通では先ず通用しない物でした。
ただ、アトからしたならいきなり部屋に"コウモリ"の姿で現れたと思ったら、魔法でピーン・ビネガーさまの姿となり、剰え"御着替え"で、紺色の服を着たゼブルさんになったお爺さんです。
しかも、スケッチブックには上手にお絵かきもしてくれました。
そして、これは偶然ともなりましたが、昼間迷子になった際、"アト《ぼく》を助けてくれた人"がいた事がゼブル翁のお陰で気が付けました。
判った事で、迷子から再開した時に久しぶりにシュト兄とケンカの様になってしまった理由も、アトなりに判りました。
―――え?!おいちょっと待てよ?!。
―――アトは"キャラメル味のポップコーン"、アプリコット様に奢って貰って、シノさんと一緒に買っただろう?!。
でも、そのポップコーンの事を知らないと答えたなら、心配している気持ちを怒っている様子に隠しながら、兄は更に弟に確認します。
―――ちょっと待てよ、そうじゃないだろう?!。
―――王都に着いてからは、さっき言った話の通りで、それで大きなポップコーンを買ったおまけに黒糖味のポップコーンを貰っているはずだろ?。
でも、"シュト兄"は愕然としながらも、その後直ぐに"弟が嘘をつける筈がない"という事にも気が付き、信じてくれました。
その後、何にしても迷子になった事をちゃんと"ごめんなさい"と謝ったなら、とりあえずその話は終了という形を、青いコートに着替えていた"ネツさん"が取ります。
もしそのままだったならアトは、兄からかけられた言葉の意味について二度と考える事もなかったと思いました。
『ゼブルさん、でも、どうして師匠の師匠のお話が、アトの銃から聞こえる様になりますか?』
利き手である右手でお菓子を摘まみながら、アトから受け取った耳栓を左の掌に包み込んで拳にしながら、少しばかり時間もかかる事もあって説明をしてくれます。
『ああ、それはですな。アト・ザヘト君の銃は誰から貰いましたかな?』
『アトの銃も、シュト兄も銃もエリファス師匠からもらいました。
シュト兄の方がお兄さんだから"大きいお兄さんの銃"です。
アトは弟の小さい方の銃、銀色の小さい銃です』
昔、通う事は出来なかったけれど、"けんがく"だけををした"がっこう"の教室でみたように、何か言いたい事がある時に手 をあげる仕種をしながらアトは答えたなら、ゼブル翁はニコニコとします。
『そうでしょうな、それじゃあエリファス師匠は誰から銃を貰ったと思いますかな?』
『はい、エリファス師匠は、エリファス師匠の師匠から、シュト兄とアトの2つの銃を貰ったそうです。
シュト兄とアトに、エリファス師匠が教えてくれました』
そのアトの答えにも引き続きニコニコとしながら、ゼブル翁は頷きます。
『そうですな、だからアト・ザヘト君の銃とお兄さんの銃は、前は師匠の師匠である"ジュリアン・ザヘト"が使っていた物でもある。
だから、銃達は最初の持ち主であるジュリアン・ザヘトの事を覚えているという事で、儂が魔法を使って声を引き出そうと思います』
『はい、それでアトの銃"も"お喋りします!』
アトが"も"という言葉を口にした事で、叡智を納めているとも例えられている存在は白い両眉を大きく上げる事になります。
けれども、アトが"も"という言葉を使った事が意味することは直ぐに察して、元の位置に戻しました。
『アト・ザヘト君のお兄さん、シュト・ザヘト殿の銃は既に"喋った"事があるという事ですかな?』
そして確認の意味を込めて尋ねたなら、アトは上げていた手を降ろして、元気よく頷きます。
『はい!、ロブロウでシュト兄の銃はお喋りをしていました!』
ただ元気よく返事をした後は、首を傾ける事になりました。
『……でも、シュト兄の銃はシュト兄と、ともだちのリリにだけに声が聞こえていたみたいでした。
シュト兄の銃の声が聞こえる様になってから、御館さまとクラベルさんがりょーしゅさまの秘密基地にきたけれど、聞こえていませんでした。
それからシュト兄はクラベルさんとケンカして、リリがケガをして、仲直りして御館さまが持ってきたコートに着替えて、アルセンさまのお見舞いに行きました。
それでお留守番してたなら、ライちゃんやディンファレさん、大奥様がくると通信機で連絡ありました。
その後、何かわるいのきます。
紫色の紙飛行機が沢山とんできていました。
アトはクラベルさんが手伝ってくれるという事で、ようじんぼうの仕事をする事になりました。
ライちゃんとディンファレさんも一緒です。
大奥さまは、アトの代わりにリリと一緒に、秘密基地で留守番をする事になりました。
紫色の飛行機が集まってお腹から上は人でもとっても怖い顔 をして爪がとがっている、お腹から下は蛇のお化けになりました。
ライちゃんが魔法を使って、お腹から上は人でもとっても怖い顔をして爪がとがっている、お腹から下は蛇のお化けを抑え込んでいました。
アトは銃がないからスリングショットを使って、悪い事をするという紙飛行機をやっつけます。
きゅー領主邸の石にクラベルさんとディンファレさんが魔力を込めたので、スリングショットで飛ばしてやっつけました。
でも、紫色の紙飛行機が一杯になった時、ウサギのけんじゃさんが鳥さんとやってきて"アトの銃"をもってきてくれました。
それでアトは銃でお手伝いして、ウサギのけんじゃさんは、お腹から上は人でもとっても怖い顔 をして爪がとがっている、お腹から下は蛇のお化けをすごい魔法でやっつけました。
それから皆帰ってきました、シュト兄も帰ってきたけれど、もうシュト兄の銃はお話できなくなっていました』
正しく止まらないといった調子で、アトはそこまでを話しきりました。
普通なら呆気にとられて、もしかしたなら一般的に"引いて"しまうとも受け取られてしまうなアトの発言となります。
けれども前以て情報、主に伴侶となる女神が、"傭兵・銃の兄弟"として現で弟子と接していた事で、少年の発言は、アト・ザヘトなりの表現となるのが翁には判りました。
加て、"兄の銃も口を利く"という事に関して、アトなり知っている"全て"をゼブル翁に伝えたという事になるのが解ります。
本来なら、言葉を纏めたり端折るという事で、短くも出来る事かもしれませんがそれが出来ない、若しくはそれが少年にとっては著しく難しいというのもわかるので翁は最後まで聞き取ります。
ここで逆に遮ったり、止めたりする事の方が話を進めるという事については効率が悪くなるという事も、これまでの情報と経験で弁えいます。
それにゼブル翁自身、掌握できていなかったロブロウで"浚渫の儀式"に参加しなかった、若しくは途中から退場した面々の行動がアトの語りで、知る事となります。
特に"紫色の紙飛行機"に関しては、器も、ロブロウに赴いた王都からの使者がどうにかしてくれると確信がありつつ も、心配をしている所があってゼブル翁的にも、知る事でスッキリとする事に繋がりました。
そういった事も含めて、アト・ザヘトにとっての"シュト兄の銃が喋った"という話が一段落ついたと判断して、ゼブル翁は声をかけます。
『それで、アト・ザヘト君はお兄さんのシュト殿の銃の声が聞こえなくなったことを不思議に思いましたか?』
一応、主としている星の天使の器の親友でもあるシュトには"殿"という接尾語をつけつつ、ゼブル翁は質問を行います。
ただ、その質問はアトにとっては心から予想外だった様子で、激しく瞬きを繰り返した後に首を激しく左右に振った後に、視線の方向を右の方に向けたままゆっくりと口を開きました。
『アト、シュト兄の銃の声は最初から聞えませんでした。だから、聞こえていたリリが、シュト兄に聞いていました。
そうしたら、大きな魔法が終わってしまって、銃はもう喋れなくなった言っていました。
そこからは、ウサギのけんじゃさんがリリに話してあげていました。
アトにはとってもむずかしいお話だから、聴いたら疲れる気持ちになるいわれました。疲れるの嫌です、だからアトは聞きません』
"最初から聞こえていない"という所と今の返事の具合でみるに、アト・ザヘトにとっては、銃の声が聞こえる等に関しては、そこまで拘りを発揮するものではなかったとゼブル翁は考える。
それにウサギの姿の状態で、わざわざ後腐れのないように説明を行っていたように、アトの会話から見受けられる。
普通なら"銃が口を利く"という事に、魔法が使えても使えなくても大いに疑問と興味を抱いてもおかしくはなかった。
けれども、人の姿では小賢しい悪人面の賢者は、恐らくアト・ザヘトという男の子の抱えている障碍の特徴について翌々《よくよく》掴んでいるのは、これまでの少年の話し方で伺える。
もし、興味を持ったなら普段、日常で滞りなく行えていた事でさえできなくなってしまう障碍を、極力発露させないように、あの賢者なりに手を回していたのだろうと考える。
それにアト・ザヘトという少年にとっては、銃が言葉を話すというよりも、これまでエリファス師匠と、シュト兄と約束した、無暗やたらに銃については尋ねられない限り、公にしない約束を守る事を優先されている。
今も、どちらかと言えば自分の銃の声が聞こえるというよりも、 師匠の師匠であるジュリアン・ザヘトの声が聞こえるという事に興味を抱いていた。
そしてゼブル翁には凡その予想は出来ているにしても、アト・ザヘトは自分が迷子になっている間にあった真実を知りたくて、"現場"に居合わせたという事を理屈にして、銃にジュリアン・ザヘトの声を与えて参入させようとしている。
『―――そうですか。
じゃあ疲れない方法でアト・ザヘト君の銃の声、とはいっても私の魔法の場合では耳栓を通じて、師匠の師匠であるジュリアン・ザヘトの声が聞こえる様にさせてもらいましょう』
《と、いう訳で、これまでの会話を聞いていただろうけれども、観念して孫弟子となるのか。
アト・ザヘト君が銃を儂に触れさせてくれるように、協力をして貰おう。
儂個人なら、こうやって声でも済むが、アト・ザヘト君にジュリアン・ザヘトの声が聞こえる様になる為に、耳栓に調整・同調するにはやはり直に触れる必要がある》
アトには穏やかな声で、そして枕の下にあるだろう銃には、ほぼ命令調の声で告げた。
すると、アトが腰掛けている寝台の後方にある、少しばかり盛り上がっている箇所から、ゼブル翁が受ける感覚的には声に近い物が飛ばされてきました。
《個人的に、アトが忘れていたなら気が付かないままで良いとも思っていたが……。
迷子で再会した時の反応で、シュトが疑問を抱いてネェツアークは、最早行動に移してその疑問の種類に接触したみたいだからな。
アトが知るにしても、時間の問題だろう。
それに俺の声がアトに聞こえる様になる事で、もしかしたなら少しばかり役に立つことがあるかもしれない。
とは言っても、俺の声が"出せる様になったきっかけ"が、きっかけだからなあ……。
まあ、国が平定されたならトレニア、アングレカムが旅立っても"領主さま"としての役割を確り全うし、貫いたお前さんには、判らんだろうがな》
最後のジュリアン・ザヘトの言葉には盛大な"皮肉"が込められているのには、思わず片眉を上げる事になりました。
そこでゼブル翁は自分の姿が、"ピーン・ビネガー"を雛型にしているのを改めて思い出す事になります。
基本的にこの世界に姿を現す時には、"器"の事情に合わせ方が巧く行くだろう と、絵本となって永久的にこの世界に留まる方法を"旅人"から承諾した時に聞いています。
―――まあ、出たとこ勝負という事で、叡智を納める貴方様なら巧く対応が出来る事でしょう。
不貞不貞しい笑みを浮かべて、そう告げられて"次の待ち合わせある"と身軽に高所から、旅立ってしまった。
ゼブル翁にしてみたなら、"器《執事のロックさん》"が最も敬愛できる存在、ピーン・ビネガーに形成する事で能力が"割り増し"出来るのがあるのでしているにすぎません。
昔の"高所の神の王様"と呼ばれ、この世界の人々が暦を刻む前の姿を再現することも出来なくはありませんでした。
ただ人の世界で探し物をしている身としては、時代的に(ゼブル翁からすれば)近い存在に合わせている所もありました。
《まあ、何にしてもこういう状況になっているから、その孫弟子が不安に思ってもいるんだ。
取りあえず協力をしてくれ。
ということで、"弟の銃でなければ知らない出来事"を教えて欲しい。
そうしたら、こちらで上手い事やって、アト・ザヘト君のから信用を得よう》
挑発に乗らないというよりも、自分がピーン・ビネガーという意識が欠如しているので、弟の銃に宿っているジュリアン・ザヘトの言葉を流して、自分の要件をゼブル翁は声で述べます。
すると姿がないながらも、ジュリアン・ザヘトの舌打ちする様な音が頭に響き、常に行動を共にする"弟の銃"だからこそ知り得ている事を、伝えました。
《これは孫弟子の為でもあるから、巧い事伝えろよ……》
これまで言葉を出す事は出来なかったけれども、声形で出せる様になったのなら、アト・ザヘトの保護者に当たる存在に難とか報せたかった事でもあります。
ただ、保護的な振る舞いは十分出来るのだろうけれども、伝える存在に不満がある雰囲気をジュリアン・ザヘトは拭う事が出来ませんでした。
『それでは……、アト・ザヘト君。君は生野菜が嫌いだけれども、特にトマトが大嫌いという事であっているかな?』
"弟の銃"ことジュリアン・ザヘトの意志が報せた内容を口にすると、アトは好き嫌いがバレてしまって拙いというよりも、"トマトの苦手な味"を思い出し、顔を顰めます。
『はい、アトは生野菜が嫌いです、それでトマトが一番きらいです。
ムニュムニュして酸っぱいから、きらいです。
お肉やウインナーや卵やきやチーズみたいな、"おかず"の味がしないからきらいです』
アトなりに"トマトが嫌い"の理由を正直に口にして、背の高いゼブル翁を見上げます。
その理由にゼブル翁が好々爺の笑顔で"うんうん"と頷いていましたが、次の瞬間に笑顔を除いた神妙な面持ちになり、やや声を低くして続けます。
『……それで、前に何度かエリファス師匠と、お兄さんであるシュト・ザヘト殿が、食事で席を外した時に出て来たトマトを、御店にしても宿にしての野宿にしても、鼻紙に包んでいましたね?』
『……!?』
声にはならないけれども"どうして?!"という表情を、顔いっぱいにアトは浮かべています。
その恐れ入った表情に気を良くしたお爺さんは、"器"の影響もあってか少々悪戯っぽい笑顔を浮かべ、更に続けました。
『フフフフ、アト・ザヘト君、そのトマトを包んだ鼻紙は何処にしまっていましたか』
『ううううっ!』
怯みの声を出しつつ、アトが思わず両手で抑えるのはいつも銃をしまっている左側の胸元で、そしてゼブル翁が更に続けます。
『いつも、銃が目立たない様にベストを身に着けている場所だから少しくらい膨らんでもバレないと思っているようですが……。
いつも胸元のポケット越しに、隣に置かれている"弟の銃"にとってはバレバレの行動ですな』
『ごっ、ごめんなさい!』
そう言う頃には、いつもこっそりとトマトを隠している胸元から手を外して、思わず銃を隠している枕の元へと移動します。
放り投げる様に枕を移動させて、銃を取り出し握りしめて、"ごめんなさい"と半分泣きそうな顔で謝っている。
『ううう、銃さんも、トマト嫌いでしたか?!』
《いや、どちらかと言えば刺激的的な味付けは好みだから、トマトは好きな方だったかな》
アトが一生懸命に謝っていると、先程より聞き易くなった"弟の銃"の声がそんな返答を行っていました。
けれどもアトは一生懸命に謝り続けているので、"弟の銃"のほうが沈黙を醸しだすことになります。
《……俺はアトの健康の心配はしているけれども、怒ってはいな いと伝えてくれ》
『伝えても構わんが、それではアト・ザヘト君が信じるのは、難しいのではないのかな?。
今は自分がして来たことの罪悪感に苛まれて、余程の事がないと気持ちが切り換えが出来ないだろう』
ゼブル翁が少しばかりお道化けてわざとらしく肩を竦めてみせると、アトがビクリとしている抱きかかえている銃から、今度は幾分か不機嫌さを滲ませた声が聞こえます。
《罪悪感なんて、この子が素直で純真だからって大げさな表現使うなよ》
『?、ゼブルさん誰と話していますか?もしかして銃さん怒っていましたか?!。アトがきらいなトマトが、となりいたから怒っていましたか?!。
ごめんなさい!』
この反応で"弟の銃"の声は改めて声が聞こえていないのが明確化して、音のない溜息の様な物がアトの手の中から漏れ出るのが、ゼブル翁には聞こえていました。
『アト・ザヘト君、銃は怒ってはいませんが、君とお話がしたいそうです。
だから、お話できるようにこの儂に銃を貸して貰えますかな?。
さっきも言ったように、儂にアト・ザヘト君のトマトの事を教えてくれたのは、その銃からですからな』
『……銃……さんが、ゼブルさんにアトが隠したトマトの事言いました?』
銃に向けていたと視線をゼブル翁と交互にしながら、確認する様に尋ねます。
『そうですよ、さっきも言った通り、怒ってはいなくて、生野菜を苦手で食べないアト・ザヘト君の心配をしていました。
それに、銃とは言っても好き嫌いをなくなる方法を教えてくれるかもしれませんねぇ』
《おい、勝手な事言うなよ……。
俺は精々セロリの食べ方の工夫するくらいしかしらないぞ?》
勿論今回の"弟の銃"の声は聞こえてはいないみたいで、アトは涙目で銃を抱えたままです。
今まで誰にも知られていなかったトマトの件が、これまで馴染みのあった人ではなく、初めて出会ったゼブル翁に知られたのはアトにはとてもショックでした。
これまで見せる事ですら頑なになっていた、胸に抱えているようにしている大切な銀色の銃をジッと見つめた後に、ゼブル翁に差し出します。
『……アトも、トマトの事をごめんなさいしたいです。それで、迷子になっていた時の事を知りたいです』
謝りたいという言葉には、思わず微笑み口の端をグイと上げて頷きます。
『わかりました。責任をもって、アト・ザヘト君に聞こえる様にして見せましょう。
銃程ではないでしょうがアト・ザヘト君が、いつも愛用している耳栓を通じて聞こえる様にしますから、このまま上に乗せてください』
そう言ってゼブル翁が耳栓を握っている手を差し出したなら、いつもの様に素直に兄のシュト・ザヘトの物に比べたなら、一回り小さな銃をアトは載せました。
アトも手や背は小さい方ではありませんんが、ゼブル翁の身体、ピーン・ビネガーを雛型としたものは平均より大きいので、綺麗に包み込む様にして殆ど見えなくなります。
『それでは暫くお待ちください』
『はい、アトは待ちます……』
そう返事をした後に、銃を包み込んだ手を見つめ、ゼブル翁も期待に応えるべく掌の中で接触している銃と耳栓の同調を行います。
耳栓の方に"弟の銃"の方に宿っているジュリアン・ザヘトの意志となる"声"を受信できるように、魔力で細工を刻み込む。
《……可愛い孫弟子に聞こえるのは構わんが、何でかんでも聞こえる様になるのは、勘弁してくれよ?》
『……"言えないような事"を考えなければ良いだろう?』
ゼブル翁がアト向けではない、どちらかと言えば同等の存在に向けるような語り口で話す事で、アトが再びビクリとします。
『銃さん、怒ってますか?。トマトの事、怒ってますか?』
どうやらアトなりにトマトの事はバレた事は、結構な重大事件だったようで先程の"気にしない"という言葉を聞いていても、好々爺のゼブル翁が雰囲気を変えただけでも反応してしまいます。
『いいえ、違います。もう一度言いますが、トマトの事については怒っていません。
アト君に何を話そうか、今から考えているらしいけれど、難しい内容は止めた方が良いかなあという事です』
一般的に"しつこい"と感じてしまう様なアトの反応でも、そういった所が障碍の拘りの一部で延長であると知っているので、ゼブル翁が穏やかに言葉をかえしていました。
ただ、ゼブル翁がそうやっているのは、それはアトがそういう"成立ち"で育ってきた知ってるいるのと、その方が交流としての流れが、滞る事がないからでもありました。
無論、この世界での自分の器となった”執事のロックさん”の調子もその方が順調だからでもあります。
という訳で、同時進行では 耳栓に魔法の細工を施しつつ、”弟の銃"に対しては相変わらず辛辣というよりも、普段のゼブル翁らしい対応となります。
《人の都合など、"星の天使の器"殿に関する事や、伴侶が気にかけた子ども達以外、気にするつもりはないぞ。
それとも、お前が今更ながら"声"を持った事自体が俗にいう、"子どもには報せない方が良い事”に繋がっているのか?。
―――おや?》
一通りゼブル翁からの立場としての疑問をぶつけたのなら、調整を行う内に”弟の銃”の姿が、半透明ながらも形を持って見える様にもなってきました。
不思議と今手にしている銃の場所ではなく、半分泣きべそ状態のアトの後ろに口元を"へ"の字にして佇んでいます。
一応、絵本の影響の伴侶の女神の頁や、初対面の時を通じてジュリアン・ザヘトの姿を知っていますが、これまで見た中でも、人としては最も老いている姿に見えました。
そして先程の応答で最後を疑問で締めたので、"弟の銃"から声が投げかけられます。
《何だよ?、結局俺要望は通らないのかよ》
想ったままを伝えようとも考えたのですが、ゼブル翁の器を外見こそ"白髪の背の高いお爺さん"であるので、少しばかり考えて声を返します。
《この外観の器になった事で"人の事は言えない"という状況になったのでな、少々戸惑っているだけだ。安心しろ、"星の天使の器"殿の親友の弟、それにお前もそれなりに思い入れのあるだろう伴侶の女神との縁者でもある少年に、悪影響を当てそうな言葉位、遮断する事など造作もない》
そう声で伝えると同時に、一応"弟の銃"の要望を込みいれた耳栓は、仕上がります。
それから、未だに"トマトさんごめんなさい"というのが伝わってくる面差しの後に耳栓を差し出します。
《取りあえず、話を進めるからよろしく頼むぞ》
『はい、あと・アト・ザヘト君。これで君の銃に宿っているという表現でいいのかな?。
ジュリアン・ザヘトの声がきこえると思うから、早速はいつもの様に嵌めてみてごらん』
『はい、わかりました、耳に嵌めます……』
銃と共に握りしめている状態にあった、耳栓を掌を開いて差し出したなら、アトは素直に手に取って、そのまま耳に嵌めます。
一方、半分透けている姿の、孫弟子の背後にいるジュリアン・ザヘトの方は先程のゼブル翁の発言が気になっていた様で、声を寄越していました。
《さっきのこの外観の器になった事で"人の事は言えない"というのは何なんだ?。言葉から考えたなら、お前の姿と俺の姿がどっこいどっこいみたいに聞こえるが……。
何だ、そこまで若いつもりはないけれども、俺の姿がそんなに年寄りだってことになるのか?》
どうやら自分の姿は見えていないらしく、大いに疑問を含んだ声だったので、これにはゼブル翁は、自分でも親切と思いながらも応えてやることにしました。
『それは不惑も還暦も超えた、儂程ではないが白髪の目立つ気障な爺が、年甲斐もなく赤いスカーフを首に巻いてキザと親バカ孫バカ拗らせている姿かなあ』
顎に伸びている白い髭を撫でつつ、飄々として白髪の背の高いお爺さんのゼブル翁は、アトから預かっている銀色の小さな拳銃を見つめ、声を出してそんな事を伝えます。
そしてジュリアンの要望に応えるつもりでもなかったが、細かい調整をした為に思ったより魔力を多用したので、"まがれっとさん"のお菓子を摘まむ事で、ゼブル翁は魔力を補充します。
魔力を補充したなら、アト・ザヘトを間に挟む様にして、向こう側に身体を半分程透けて見えるジュリアン・ザヘトの姿は、よりはっきりとして見えました。
見かけは自分が器として雛型としているピーン・ビネガー程ではないが、老人と例えても障りない存在を、ゼブル翁は半眼で観察する様に見つめます。
その見つめられている方となる半透明のジュリアンは、自身も背が高い方でもあ るけれども、注がれる不躾な視線を気が付いているのか、いないのかは定かではありませんが顎を上げて、実に不機嫌そうに受けとめていました。
【……大方、"フワク"だか"カンレキ"だかは、ビネガーの性格ひん曲がった賢者が贔屓にしている東の国の慣用句なんだろうが、赤いスカーフ貶した事だけは謝罪しろ。
俺のかけがえのない幼馴染の親友の妻でもある婦人が、誕生日贈り物にくれたもんだ。
……で、お前はピーン・ビネガーじゃあないのかよ?】
そして、この"ピー ン・ビネガーではないのか?"という質問には可愛い孫弟子が答えます。
ただ、今はゼブル翁が魔法をかけた耳栓を着けた事で聞こえる様に"師匠の師匠の"に大変興奮して、"トマト"で浮かべていた泪も引っ込めて応えていました。
「凄いです!ゼブル翁さんの言った通り、初めて聞くお爺さんの声が聞こえます!。
それでこの声は、"師匠の師匠"の声です!。
"師匠の師匠"、このお爺さんはピーン・ビネガーさまそっくりだけど、ピーン・ビネガーさま違います!。ゼブルさんです!」
アトは耳栓を嵌めたまま、ゼブル翁が手にしている銀色の銃に向かって元気よく答えたなら、その後ろにいる半透明の姿の"師匠の師匠"となるジュリアン・ザヘトの方が却って驚いていました。
【お、おうそうなのか。何だ?アイツ、兄弟なんていた話なんて聞いた覚えないぞ】
「ピーン・ビネガーさま兄弟いません。ロックさんが"旦那さまはひとりっこ"と言ってました!」
アトはゼブル翁が手にする銀色の銃を見つめて笑顔で告げて、そんな屈託なく応える孫弟子を後ろから見守る様に半透明のジュリアンがいる。
それからアトが実に判り易く"はっ"とした表情を浮かべてゼブル翁に先程の発言を諫めます。
「ゼブルさん、バカって言葉を使ってはいけません。
バカは嫌な事をした人に使うことばです。
師匠の師匠は馬鹿な事をしていません」
基本的に"良い子"に躾けているアトに、どうやら伴侶であった女神は、"バカ"という言葉を使う事は禁止をしていなかったことを興味深く思いつつ、ゼブル翁は返事をします。
「取りあえず、話しの支障になりそうですから、先に"バカ"と言った事と、憤慨されていた御婦人からの贈り物を揶揄した事を謝罪しよう。
済まなかったな、ジュリアン・ザヘト殿。
それと、あと・アト・ザヘト君が言う通り儂はピーン・ビネガーにそっくりだが、俗に言う"似て非なる"存在だな。
まあ、物知りで魔法が使えるところは、似ていると言えば似ているかな。
厳密に言えば違うのだが、人としてこの世界に留まるのに一番相性の良い姿をさせて貰っているという所で、そ れがピーン・ビネガーだったという所だ」
《ジュリアン・ザヘト、こちらとしても尋ねたい事があるのだが、お前はロブロウにいたシュト・ザヘトの銃に宿っていた物とは"別物"と考えている。
アト・ザヘト君が言うには"銃が喋った"という形を当初は取っていたらしいが、話しかけていたのは、もう一丁の銃に宿っていたお前だろう。
その兄の銃の方に宿っていた、若いジュリアン・ザヘトについては、伴侶に迎えていた女神との旅立ちを、器と、絵本の1頁と共に見届けさせてもらった。
お前の要望通り、可愛い孫弟子には聞かれない形を余計な魔力消費してとったんだ、答えて貰おう》
言葉ではアトを宥める物を口にして、声では老齢の姿のジュリアン・ザヘトの姿をした半透明のジュリアン・ザヘトに語り掛けます。
【謝罪をして貰ったんなら、素直にその言葉を受け取ろうか。アトが折角俺の代わりに怒ってくれたんだから、それを活かさないというのは"バカ"のする事だ】
孫弟子に聞こえる言葉でそう告げた後に、ピーン・ビネガーに瓜二つの存在だけに聞こえる声を浮かべます。
《正直、銃に俺の意思が宿ったの宿らなかっただの理屈は判らん。
ただ"お前の姿をした賢者"が禁術とやらを行った際に、魔力が余ったかなんかで、俺の武器である銃に意識が植え付けられたとか言っていた記憶はある。
とは言っても、主に魔力が掛かったのは、諸事情で"兄の銃"のほうだからな。
もしかしたら、俺の方は"オマケ"程度の事だったかもしれないな。
お前がピーン・ビネガーではないにしても、物知りで魔法が使えるところは一緒ならそれなりに察してくれ。
俺はそれなりに頭が回る自覚はあるが、勉強と魔法はからきしだからそこら辺はそっちで解決してくれ。
だが、俺なりに考えた事を言わせてもらえば今回俺が出てきてしまったのは、恐らく"人《銃の兄弟ジュリアン・ザヘト》"の俺が持っていた絵本の一頁の力の延長みたいな物かと考えいる》
孫弟子への返事と、ゼブル翁に対して思い浮かべた内容の量が違うので、ジュリアン・ザヘト返答後に少しばかり妙な間が空いてしまいます。
「……師匠の師匠、ゼブルさん、ピーン・ビネガーさまそっくりだけれども、違う人、わかりましたか?。それともまだ怒 っていますか?」
なので、丁度2人の老人に見える存在に挟まれているアトは、師匠の師匠がピーン・ビネガーさまの事ことについて、理解ったという旨の言葉がなかったので思わず声をかけていました。
【ああ、すまない。顔がそっくりだからな、どうしても戸惑ってしまう】
「それなら、大丈夫です!。ゼブルさんのお洋服は"こんいろ"です。
ピーン・ビネガーさまはロブロウのりょーしゅさまで鎧を着てたり赤と黒が一緒のコートを着て居たりします」
師匠の師匠こと、ジュリアンが間が空いた事への"辻褄を合わせ"の為に発した言葉に、アトが得意気な表情になって"見分けるコツ"を口にします。
ただ、アトの立場からしたなら半透明の師匠の師匠は見えないで、ゼブル翁が手にしている銃に向かって説明ている事になります。
これには苦笑いを浮かべて、"真似"だけになりますがジュリアンが後ろから思わず頭を撫でていました。
「さて、それではアト・ザヘト君の銃に宿っていた師匠の師匠に当たるジュリアン・ザヘト……殿が出てて来ていた。
それに魔法を使って声も聞こえる様にさせてもらったという事で、本題に当たる事を話しあいましょうか。
アト・ザヘト君、メモ帳を手にしなくてよろしいかな?。
と、言いますか、メモ帳を使う事になった流れを覚えていますか?」
「メモちょう?……」
アトが半透明のジュリアンに頭を撫でられている事を気がつかぬまま、耳栓を嵌めたまま頭を傾け、寝台に広げられている、執事のロックさんが作ってくれたカバンから出された荷物を見て"はっ"とします。
「あっ、そうです、えっと……」
「ふむ、改めてお手伝いをしましょうか、それにこれではメモ帳よりもスケッチブックに書いて纏めた方が宜しいでしょうな。
ああ、もう声は聞こえる様になったのでこちらはお返しいたしましょう」
そう言って今まで手にしていた"弟の銃"を後に差し出したなら、アトは慌てて受け取りました。
ゼブル翁には、アトのこの反応は凡そこの事は想定の範囲内だったで、次に承諾を得る前に筆記具を手にとります。
ただ、アトの側にあったメモ帳ではなくて、先程言った通りで自分のディフォルメした形で描いた似顔絵も載っているスケッチブックでした。
「少々、お待ちください、儂が箇条書きで認めましょう」
「はい、わかりました。待ちます」
【確かにいきなり俺が知っている事を話し始めるよりは、ちゃんと順をおっておいた方が、アトは理解しやすいだろうな】
孫弟子が"はい!"と元気よく返事をしているのを聞いている間に、スケッチブックに手早く箇条書きをしているゼブル翁から、ジュリアン・ザヘトには声が贈られて来ていました。
《ここからは、アト・ザヘト君を中心に話を進めて行くから、勉学はできなくとも回る頭で記憶を抜かれている部分の"補填"をよろしく頼むぞ。
実を言えば凡そ、この少年の身の上で起こった事は解っているつもりなんだが、裏付けの様にやっていくつもりだ。
それでお前に必要な情報や、孫弟子君が知っていて損にならない情報があったなら出し惜しみをせずに出して欲しい。
無論、知らない方が良い事は声で宜しくたのむぞ》
《知らない事の方が良い事か……》
そこで帰ってくる声は、これまで"ピーン・ビネガー"の姿も影響をしていた事もあって軽口気味だった口調が一気に重くなった物でした。
これまで自分にある意味結構な風当たりもあった言い方が、瞬く間に治まっているので、アトに影響を与えない様に表情に出さずに声をゼブル翁は返します。
《何だ、早速あるのか?。一応儂が予想をしているのは、アト・ザヘト君を保護して記憶を抜いた御仁は、お前、ジュリアン・ザヘトがそれは”よーく"知っている人物の若い頃によく似ていると思うのだがな》
ゼブル翁が筆記具を動かす手を休めることなく、声を発したなら、"半透明のジュリアン良かったなぁ"としみじみ思える程、苦虫を数匹口に突っ込まれた様な表情を浮かべていました。
《……さっきはあんたの事を、"ピーン・ビネガー"にそっくりだからムカつくみたいな口にしたが、こういう状況だと、"貴族"としての意見を聞きたかった様な気もするんだよなあ。
いや、貴族じゃなくて年上の男か?。
あーでも、あんたはそっくりなだけであって、ピーン・ビネガーじゃあねえし、ピーン・ ビネガーはピーン・ビネガーで、貴族にしては珍しいタイプだったから、意見を求めるのは間違っているというという事になるのか?》
言葉に出しずらい事ではあるのだろけれども、声という事もあって、ジュリアン・ザヘトは恐らくこうやって"話せる"状況になるまで散々考えたという様子を感じさせる調子でゼブル翁に伝えます。
《……確かに、姿はピーン・ビネガーと同じで、中身が違う存在ではあるが、十分参考にはさせて貰っているのでな、某の考えていた事や、経験ならそれなりに話せる事は出来るぞ。
それとまあ、一応年上の年齢では確実ではある。
ただ儂個人の意見を口にするとしたなら、少々文化圏が違う事になる。
従って意見自体が、セリサンセウム王国という国の民からしたなら違和感を感じてしまう物を口にしてしまうかもしれんがな》
本当は国ではなく、世界単位で文化圏が異なり、"年上"という表現を使うのが正しいのかと思える程世紀単位で年上であるゼブル翁です。
けれども、今はその事実を言うべき時でも必要もないと弁えている叡智を携えている者はは、声でそう返事を行っていました。
《……文化圏が違うか、本当にいっそそうだったなら、俺も個人的に諦めが付くというか、聞き流せて、こんなあんたが言うには、老人の様な姿になってまで多分出てこないでいただろうな》
文化圏が違うという言葉に、羨望と希望を雰囲気にして伝わる程滲ませながらジュリアンは、半透明の身体ながらも再び孫弟子のアトの頭をなでています。
どうやら、アトには何も感じない様子ですが、ジュリアン自身は撫でる事で相手に影響を及ばさないまでも、感触得ている様で、それで気を紛らわせている所のある様でした。
そんな非常に、"人らしさ"を感じさせるジュリアンの行動を視界の端に捉えつつ、大方書き終えた箇条書きの内容を見直しなが、声改めて飛ばしています。
《……儂は、探し求めるある御方に関する事以外、情など動かすつもりはない。
だが、先程も言った通り現在使わせて貰っている外見上の諸事情で、ピーン・ビネガーが掌握していても不可思議ではない情報も一通り携えている。
だから、"アングレカム・パドリック"というジュリアン・ザヘトにとってかけがえのない幼馴染で親友が、してしまった事に関して余計なお節介だと事だと思いながらも、どうしたものかと考え込んでいる―――。そういった事も予想がつく》
正直に言ったなら"アングレカム・パドリック"の容姿を情報として、知ってはいるけれども、あくまでもゼブル翁の立場としては、それ程度でもある。
ただ、どうやら"器"も、アングレカムに関して言えば、随分な思い入れがある。
主であるピーン・ビネガーやその伴侶であるカリンに次いで、"器《執事のロックさん》"にとっては、アングレカム・パドリックは十分大切で重要な存在であるというのは、器を通じて伝わって来ていた。
最後の見直しを終えて、未だに孫弟子の頭を撫でている、半透明ながらも姿見からしたなら同世代のジュリアンに更に声を飛ばします。
《ただ、アト・ザヘト君に全てを絡めて説明をしても、理解出来る許容量はあっさりと超えてしまうだろう。
彼からしてみたなら、孫弟子なんて表現を使う位のお爺さん世代の話しで、しかもその内容は俗に言う恋愛事だからな》
《そりゃあ、そうだろうな。それじゃあ、うちの孫弟子が納得出来る形になるまで、保護をしてくれた美丈夫の表現をあやふやにするする事は可能か?》
"孫弟子が納得出来る"という条件も随分と難題だと思えるのに、抽象的な表現が不得手だという障碍を抱えている少年に対して、"あやふや"にしろという。
思わず呆れ返りそうになりながらも、要求をする相手を見れば不思議なものですが、半透明の見た目だけでは同世代の半透明のジュリアン・ザヘトに"信頼"を含んだ視線を向けられていることになります。
そして、その視線を含んでいる信頼の中に自分の外見である"ピーン・ビネガー"に関するものを滲ませていることを感じ取り、アトもいることもあって表情にこそ出しませんが、内心ため息をつくことになりました。
(やれやれ、アト・ザヘト君がわざわざ"ピーン・ビネガー"と"ゼブル翁"は違うと、先程教えてくれたばかりだとというのに……。
……まあこの子に限らず、視界から入って来る情報に、どうしても影響は受けやすいという事はあるのだろうな。それにーーー)
"外見"で影響をうけているという事で言うのなら、ゼブル翁は己も"星の天使の器"から十分受けている事も自覚しています。
彼という存在が器に過ぎないと判っていながらも、 2000年にも及ぼうとする時間探しても、その相応しいだけの素養や才能とを携えている存在がいたかもしれませんが、"絵本"の中では行動の制限もありましたが、巡り逢うという事は叶いませんでした。
ただ妥協などせずに捜した甲斐もあったというべきなのでしょうか、出会いの時期として最も誇り高く輝けていた、ゼブル翁が"|叡智と寛容を携える高所の神の王"として初めてで合った星の天使の姿として見えました。
現在は、今は"ウサギ賢者"というふざけた名前ではありますが、"理といった類を"学ぶ場所"としては最上の場所にいる事が"判っている"事で、安心してゼブル翁は器に納まるべき、星の天使を捜す事に専念できています。
(人の世の流れに、星の天使の器殿が、星の天使様が納まるのに相応しい成長を遂げる為に世話になっている。
それに仮に星の天使様が、親友たる存在の縁者が困っていたならきっと気にかけるに決まっているからな)
星の天使が堕天を決意し、それに協力をする為に"バアルゼブル"は臣下の契りを交わ為に"親友"という繋がりを一度解消しました。
星の天使は"ゼブルは親友のままでも構わないじゃないか"と、空色の瞳をまるで雲が入り込んだ様に曇らせて、友のゼブル翁に正直に自分の気持ちを口に出して伝えてくれましたが、それを認めるわけにはいきませんでした。
星の天使の望みを叶える為に、集ってくれた精霊や、管理を任せられていた以外の世界では、"|叡智と寛容を携える高所の髪の王"と同じ様に神という地位いた存在が、親友という関係に羨望の眼差しを注いでいるのに、叡智を携えている存在は気が付いていました。
特に強かったのはある女神でした。
その女神は星の天使が堕天覚悟で成し得たいという事に加勢をしたいという助成を行うという契りを交わした、筆頭の叡智を携えている存在に次いで力があるとされていました
そもそもこの女神と星の天使を縁づかせたきっかけは、自分自身でもありました。




