十五章
しばらくしてコンビニに待たせていたタクシーに戻ると、運転手が驚きの声を上げた。
「だ、大丈夫ですか、お客さん! 顔から血がっ!」
「あ? ああ、大丈夫。ただの擦り傷だ」
「でも……いったい何があったんです?」
「別になんでもない。ちょっと転んだだけさ。とりあえず疲れたし、もう休みたいから、家まで送ってくれないか」
「は、はあ。分かりました」
高田は自宅の住所を告げると、後部座席のシートにもたれ掛かった。
アパートの前に到着すると、料金を支払い、タクシーを降りる。運転手は、おぼつかない足取りの高田を心配そうに窺っていたが、やがて静かに車を発進させ、その場から離れていった。
高田は玄関のドアを無造作に開けると、立っているのも辛くなり、真っ暗な廊下を這うようにして進んだ。
――早く。現実に戻らなければ……。
寝室に入ると、ベッドサイドテーブルに置かれた瓶を掴んだ。高田はその蓋を開けると、中に十個ほど残っていたドリームキャンディを全て口に入れた。
空になった瓶を放り捨ててベッドに倒れ込むと、押し込んだ飴玉の半分ほどを噛み砕いて嵩を減らす。
それでもまだ閉まりきらない口を、もごもごと動かしながら、高田は眠りに入っていった――。




