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十二章

 外はすっかり暗くなり、時刻は夜の零時を廻っていた。

 番組放送までかなりの余裕があったため、高田は映画館やゲームセンターで時間を潰した。

 映画館では三本もの作品を連続して鑑賞し、ゲームセンターでは、慣れないリズムゲームで身体を動かし続けた。高田自身は気にしていなかったが、ここでも疲労を貯めようという行動が自然に出てしまっていた。

 現在、高田はテレビ局近くのファーストフード店で、ハンバーガーを食べていた。窓の外に視界を向ける形で設けられた席に座り、道路を挟んで正面にそびえ立つテレビ局のビルをじっと見つめる。

 店内には数人の客が居たが、お互い距離を取って座っている状態だった。高田は携帯のテレビ機能を立ち上げると、番組を確認した。そろそろ始まる頃だ。

 やがて、野球、サッカー、バレーボールなどのシルエットが音楽に乗って流れ出した。オープニン映像が終わり、カメラが高い位置からスタジオ内を映し出す。そして、

『皆さん、こんばんはっ!』

 正面からの映像に切り替わると共に、宮倉彩夏の元気な声が響いた。高田はボリュームを落とすと、横にした携帯をフライドポテトの空き箱に立てかけた。

『さあっ、今日も沢山のスポーツをお見せしますよー。プロ野球は日本シリーズをかけた争い。サッカーでは珍しいプレーも。そして今日の一押しスポーツ選手は――――』

 これで間違いなく、宮倉彩夏はあのテレビ局にいるということだ。番組は約二十分の放送。

 高田は頃合を見て携帯を閉じる。ハンバーガーの残りを食べると、マスクをつけ直して店の外に出た。

 気温もだいぶ下がり、やや肌寒さを感じつつ、交差点を渡ってテレビ局へ向かう。

 二百メートルはあるだろう、その巨大なビルは、夜の街を照らすかのように無数の窓から多くの光を放ち、聳え立っていた。

 正面の入り口には警備員が常駐しているため、敷地には入れない。

 高田は警戒されないように、少し距離を取った位置で、道路と歩道を分ける手すりにもたれ掛かった。路上には数台のタクシーが停まっているだけで、人影はほぼ無く、静けさが辺りを包んでいた。

 時計を見計らい、再び携帯のテレビ機能を立ち上げると、番組はちょうどエンディングを迎えていた。

 高田は帽子を目深に被ると、腕を組んでその時を待った。

 高田は、宮倉が出てくるであろう、正面の出入り口をじっと見据える。そしてそこから人が現れるたびに、彼女の特徴と照らし合わせていった。真夜中のため、数こそ少なかったが、一人、また一人といなくなることで、宮倉が出てくる可能性は高くなる。そう思うと、緊張の糸は時間と共に張り詰めていった。


 それからどのくらい経った頃だろうか。常に一点を見つめていた高田が、初めて目線を外した。

それは、地下駐車場の方から現れた一台のコンパクトカーだった。それがなんとなく気になった。

 車は左にウインカーを出すと、左右確認のための一時停止をしたのち、高田のすぐ近くを通り過ぎて行った。

 暗闇での僅かな時間では、そのドライバーが女性であるという識別くらいしか出来ないと思われた。しかし高田は一瞬で確信した。それが宮倉彩夏であったと。

 高田は急いで近くに停車していたタクシーの窓を叩くと、ドアが開くなり乗り込んだ。

「すみませんが、あのコンパクトカーを追ってください」

 高田は信号待ちをしている車を指さす。しかし、

「失礼ですが……どういった理由で?」

 眠っていたのか、タクシーの運転手は目を擦りながら、気だるい声で言った。ミラー越しに目が合うと、心なしか、いぶかしんでもいるようだった。

「申し訳ないが、急いでいるんだ。これで頼む」

 高田は財布から一万円札を二枚取り出して渡した。すると、

「分かりましたっ!」

 運転手は倒していたシートを即座に起こすと、二つ返事でタクシーを発車させた――。

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