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十一章

 朝の陽差しで目を覚ますと、高田は唐突に吐き気をもよおし、台所の流し台に駆け込んだ。身体は重たいままで、気力がいてこない。いつもとは百八十度違う体調だった。

 リビングのテーブルには、ビニール袋から顔を出す冷え切った弁当と、あの熱愛の現場がスクープされた週刊誌が無造作に置かれていた。

 あの記事は本当なのか?

 夢の中の彼女は、これ以上ないくらい幸せそうで、自分を好いていてくれて……他の男と恋愛関係にあるとは、とても思えなかった。

 やはりこの眼で直接調べずにはいられない。そう思った。

 高田は会社の上司に電話し、無理を承知で有給を取った。幸い、今までの功績のおかげで、文句の一言も無く許可を貰うことが出来た。

 高田は早速、週刊誌に撮影された写真の場所を調べ始めた。今はインターネットがある。該当する掲示板で画像や情報を集めれば、特定は造作もない事だった。

 周辺の地図を印刷すると、私服に着替え、ジャケットを羽織ってアパートを出た。平日の昼間に普段と違う行動を取るのは、むず痒いような違和感があった。

 ここ数ヶ月、仕事で多くの契約を結んできた事もあって、高田の顔は広くなっていた。

 こんな時に知り合いに遇っても面倒だ。

 高田は雑貨屋で野球帽とマスクを買うと、公衆トイレでそれらを身に着けた。サングラスも掛けたい所だったが、さすがに怪しくなりすぎる。帽子のつばを深く被ると、なるべく視線を下に向けて歩くようにした。

 電車を乗り継いで、写真のマンションがある最寄りの駅で降りる。少し歩いて雑踏を抜けると、住宅街に入ってすぐにその建物を発見した。

 やや丸みを帯びた特徴的なフォルム。高さからして、三十階はあるだろうか。自動ドアの奥には広いエントランスが見える。レンガ色の外壁には所々植物が蔓を伸ばしていて、隣接する広い駐車スペースには数台のカラフルなコンパクトカーが停まっていた。どれも高級車のようだ。

 週刊誌の写真で見た時には、白黒でマンションの色まで判別出来なかったが、周りの景色や建築物の形は一致していた。

 ここが宮倉彩夏の住んでいる……彼女が選びそうな、お洒落な建物だと思った。愛しさが込み上げ、いますぐ会いたい衝動に駆られる。しかし高田はここで、ふと我に返った。

 どうやって彼女に会えばいいのだろうか。高田は宮倉のスケジュールを知らない。今家に居るのか、それとも外出しているのか。

 いつまでもうろついていたら周辺住人に怪しまれそうだ。週刊誌に撮られた後でもある。

 無計画過ぎたかと思ったが、ここで引き返すわけにもいかない。

 ――物陰に隠れて待つか…………いやちょっと待て。そういえば、確か彼女は、深夜に生放送のスポーツニュースを担当していたはずだ。ならば、テレビ局へ行ったほうが確実か……。

 高田はその場から離れると、夜まで時間を潰すことにした――。

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