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第9話 上陸三日目の1

 ☆★☆★☆★☆




 夜通し走り続けた俺は、なんとか、魔物の大群よりも先に洞窟に辿り着くことが出来た。直ぐに、見張りに立っているであろうトヴォ達に知らせようと思ったのだが、俺が捉えた気配はトヴォでもトレでもなかった。誰だ?あの二人は。洞窟の入口から中を窺うような位置で怪しいことこの上ない。良く良く見るとフェムじゃないか!となるともう一人はニオ?あれ?もう一人は腰掛けているというか、眠ってるような……でも、間違いなくニオだ。どういう状況なんだ?


 物音を立てず、気配を殺し、フェムにそっと後ろから近付く。何をしているのかと思えば、やはり洞窟の中を窺っているようだ。


 俺は素早くフェムの背後をとり、腕を回して身動きを封じた。




「フェム、お前、何をしていたんだ?」

「ノルか。驚かせるな。見ての通り、中を窺っているのだが、分からなかったか?」




 いやいや、分かりすぎて怪しんだんだけど。




「そこのニオに何をしたか説明してくれ」

「魔術で眠らせた」

「理由は?」

「魔物化の兆候があったからだ」

「魔物化だと?」

「心配ない。あと六刻は眠り続けるだろう」




 何が心配ないのか。本気でこいつを絞め落とそうかと思ったが、今はそんな暇はない。




「で、洞窟の中を窺っている理由は?」

「見張りが居なかった。何か異変が起きた可能性がある」

「異変?」

「例えば、ティオが魔物化したとか」




 ニオとティオは双子だ。何が魔物化の原因なのか分からないが、例えば体質とか魔力の質だとかが原因であれば、ほぼ同時に二人とも魔物化してもおかしくない。




「こんなところで疑っていても仕方ないな。フェム、重要な報告がある」




 回した腕を解き、フェムを放すと先程の魔物の大群のことを説明した。




「その大群の目的地がどこか分からないが、確実にここの付近には来るってことだな」




 フェムは俺に問う訳でもなく、自らに問い掛け、答えを出しているようだ。




「洞窟内で様子見、守りを固めるか…… ……直ぐに逃走するか…… ……」




 フェムも俺と同じ考えに行き着いたようだ。まぁ、それしかないしな。




「ノル、護衛と索敵を頼む。直ぐに拠点に向かおう」

「了解。ニオも連れていくからな。俺は誰も見捨てられないから」

「好きにしろ」




 ニオを肩に担ぎ上げ、洞窟の奥へと向かっていく。俺の後ろから付いてくるフェムは、魔術で明かりを灯している。そのまま分かれ道までは特に何の気配も感じなかった。皆、拠点に集まっているのだろう。




「閉ざされているな」

「やはり何かおかしい」




 洞窟の広間に着くと、洞窟の入口を塞ぐように設置された拠点が、その扉を閉ざしていた。ここを出発する前までは半開きだったのだが。扉に手を当て押してみるが、びくともしなかった。




「ダメだな。内側の閂がおりているようだ」

「中の気配は探れないか?」




 ニオを下ろし、扉に耳を当て、中の気配を探る。




「魔力の反応からすると拠点内の個室に二人いるな……片方は確実にオッタだ」




 良く知っている魔力の感じだったので、間違いなくオッタだ。となるともう一人は…… ……




「ティオか」

「そうだろうな。そこで寝ているニオと似たような感じだ。ティオには動きがないが、オッタは動いているようだ。後は拠点内には魔力も生き物の気配も感じない」




 念のため、臭いに意識を注ぐが、扉に塞がれ、臭いは感じない。音に注意を向けると、定期的に金属音が聞こえる。金槌で何かを叩いているような……




「どうする?」

「ノル、この扉壊せないか?」




 俺が壊すとなると物理的な衝撃となるが、それよりもフェムの魔術の方が簡単に壊せそうな気がするが。




「考えていることは分かるが、私の魔術では無理だ。魔術対策に高等な紋陣が施されているようだ」

「魔術は殆ど効かないってことか。物理的な衝撃で壊すには少々骨が折れそうだな」




 仕方ない。扉から距離をとる。己の体内を廻る魔力を操り、肉体を強化していく。体勢を低くし、扉に肩から体当たりする。鈍い音が響くが扉は動かない。何度も何度も繰り返した。幾度目か数えきれないほどの体当たりの末、ようやく片方の扉が軋み、隙間が出来る。




「もう大丈夫だ。紋陣の効果が無くなったようだ」




 フェムは、そう言うと魔力を紡ぎ、扉に魔術を放つ。炎の壁(フレイムウォール)だ。炎が扉を熱し、扉が段々と赤熱していく。少しずつ扉の形が変形していく。あまりの熱量に思わず後ずさる。炎が消えると、今度は氷の壁(アイスウォール)を放った。扉が嫌な音を立て、砕ける。どんな理屈か知らないが改めて魔術の凄さを体感した。




「さて。オッタの様子を見に行こう」




 とんでもない魔術を使った後だと言うのにフェムは涼しい顔をして先を行く。慌ててニオを担いでついていく。広間に着くと、個室の一つから定期的な金属音が鳴り響いている。オッタが居るのはあの部屋だ。分かりやすくて助かる。



「オッタ、フェムだ。今、扉を開ける」




 フェムは、扉の前に設置されていた魔道具を退けると扉に手を掛ける。




「オッタ!」




 中からは顔色の悪いオッタが倒れるように出てきた。




「頼む……ティオを助けてやってくれ……」




 悲壮な顔でそんなことを言うオッタ。オッタの後ろを見るとティオが獣のようなうなり声を上げている。良く見ると、いや、良く見ないでもオッタもティオも手足を拘束されているのが分かる。ティオはオッタよりも幾重にも拘束され、柱に縛り付けられている。




「魔物化だ。一旦、私の魔術で眠らせる。元に戻るかは不明だ。ここのニオとともに拘束して、この部屋に閉じ込めて置くしかないだろう」




 そう言うことか。エット達もティオが魔物化したか、しそうだったから拘束して個室に閉じ込めた訳だ。そうなるとオッタはどうして一緒に閉じ込められていたのだろうか?




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