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第8話 上陸二日目の3

 ☆★☆★☆★☆




「二手に分かれよう」




 洞窟を出て素材の探索を始めて直ぐのことだ。フェムが提案してきた。四人で行動をともにして探すのは効率が悪い。最もな提案だし、誰も言わなければ俺が提案しようかとも思っていた。




「俺は以前、一度だけ造血剤の素材収集の依頼を受けたことがあるが、薬草の判別には自信がない。薬学に明るいフェムかフューと組ませて欲しいな」

「俺も自信ないからそうさせて貰いたい」




 俺の意見にニオが乗っかる。これも自然な流れだろう。




「戦力、タイプからもそうした方が良い。私とニオ、フューとノルで組んでくれ」

「はい」

「了解」

「分かった」




 意外なことにフェムからも同じ意見が出てきた。確かに、俺とニオは近距離タイプ、フェムとフューは遠距離タイプだ。それにフェムとフューは上級冒険者、俺とニオは中級冒険者。それぞれで組んだ方がバランスが良い。フェムの意見に対して、ニオ、俺、フューが同意を返す。


 またしてもフューと二人となる。早朝から見張りで一緒だったのだが、あと丸一日一緒に行動をともにすることになるのか。少しは仲良くしたいな。変な意味ではなく。




「確認なんだけど、造血剤の素材って、鉄火草(てっかそう)だったよな?」

「それは第三候補。それに森じゃ見つからない。鉄火草は草原に生える草だから」

「は、はあ」




 と言っても他には知らないしなぁ。




「質の良い造血剤を作るなら、鉄の実(アイアンナッツ)鉄火茸(てっかだけ)が良い。この森の植生なら多分、鉄の実が見つかる」




 なんだか名前は聞いたことがあるけど、どんな実なんだろうか。




「べ、勉強になります。鉄の実も鉄火茸も見たことないんだけど、どんなのを探せば良いの?」

「これ」




 フューはそう言って、懐から厚めの手帳を出してきた。ペラペラとページをめくり、あるページを俺に見せてきた。そこには、木、葉、実の写生が描いてあった。横には鉄の実と効能などが書いてある。その次に見せられたのは鉄火茸の写生。




「フューさん、凄い。これ、いつも持ち歩いてるの?」




 思わずさん付けで呼んでしまうほど驚いた。絵も上手いが何よりもマメである。




「人生、日々勉強。後進の育成も私の仕事」

「恐れ入ります!」




 もう、俺と違う種類の人間なのだと思う。種族が違うけど、もっと根本的に違うような気がする。フューと組んで良かったかもしれない。フェムと組んだニオは大丈夫だろうか?


 それからフューと相談し、洞窟の北西から西を探すこととなった。理由は東から東南方面に小鬼の砦があるからだ。極力、面倒な戦闘は避ける方針である。




「フューさん、これは?」

「椎の実。木が全然違う。良く見て」

「はい、すんません」




「フューさん、これは?」

「檪の実。葉は似てるけど、実が似てない。良く見て」

「はい、すんません」




 う~ん……難しい。探し始めて既に一刻は経っているが、一向に見つかる気配がない。そろそろ日が沈みかけ、森を橙色に染めてきている。




「そろそろ日が沈むけど、どうするんだ?」

「夜は大人しく休憩」




 全ての返答が事務的で短く、感情が感じられないのだが、全てが簡潔で的を射た答えなので、どこにも反論する余地がない。


 それから、日が沈むギリギリまで素材を探し続けたのだが、結局、見つからなかった。




「野営か……交互に見張るか。俺、最初に見張りに立つよ」

「三刻交替で」

「了解」




 その日は何の進展もなく、何事もなく終わるかに思われたのだが。もうすぐフューと見張りを交替するかと言うときに異変が起きた。




「フュー、起きて」

「……ん」




 フューはどうやら寝起きが悪いようだ。だが、今はそんなことを言っている場合ではない。




「フュー、早く起きて!西から大群が近付いてくる!早く逃げよう!」




 半ば引きずるように起こし、フューの荷物を担いで、ついでにフューも担いで逃げる。夜目は効く方なので暗闇でも問題なく行動出来るのは幸いだ。洞窟から遠ざかるが、逃走進路を北に取った。俺の察知範囲は約一町(約109m)なので、逃げるタイミングが遅れれば魔物の大群と遭遇する可能性が高くなる。それほどまでに大規模な群れであった。




「何?」




 ようやく起きたフュー。




「黙ってて。舌噛むよ」

「ん」




 フューに黙ってもらい、そのまま担いだ状態で約五町ほど走り続けた。




「そろそろ大丈夫かな」

「説明して」

「ああ。俺が捉えた気配だけど、かなり強い魔物だった。数がヤバイ。少なくても五十は居たと思う」

「どっちから来て、どっちに向かったの?」




 ヤバイ!




「フュー、ヤバイかも!西から来て、南東に進んでた!俺らの拠点のある方角だったよ!」

「今から先回り出来る?」

「難しいかな。進行速度がかなり速かったから」

「ノル一人で走ったら?」

「間に合う……けど……」

「私を置いて先に知らせに戻って」

「良いのか?」

「いい」

「じゃ、行ってくる」




 そらから、夜通し俺は走り続けた。魔物の大群を迂回するように、洞窟を目指して。




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