第7話 上陸二日目の2
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「変わったことはないか?」
フューと会話語、暫く自分の中で状況を整理していると背後から二人が近付いてきた。フェムとエットだ。声を掛けてきたのはエット。
「特に」
「じゃあ、まずは内部の探索からだな」
フューの短い返答。エットがそれに答える。内部の探索とは、分かれ道の拠点とは反対の道のことだろう。
「ノルとフューはそのまま見張りを続けてくれ。トレは俺らと一緒に内部の探索だ」
「了解」
「分かった」
「オーケイ」
内部に何者も居なければ、精神的な負担が減る。それと、今起きている事の可能性が絞れるだろう。
「ノル、分かれ道のところでトヴォを警戒に立たせているから、何かあったらトヴォに伝えてくれ」
「了解」
これまではフェムが仕切っていたが、今はエットが仕切っている。二人の間で何かあったのだろう。
「エット、オッタの行方は?」
これは今のうちに聞いておきたい。
「端的に言うと、重症を負っていて、個室でティオとともに休んでいる。何が起こったかは回復してから聞くつもりだ。また状況が変わったら迎えに来る」
オッタが重症?可能性としては、オッタもセクスに襲われたということだろう。殺されていなかったことは幸いだ。
今、拠点にはニオ、フィーラと負傷しているティオ、オッタの四人が残っていることになる。分かれ道にトヴォ。未探索の道にはエット、トレ、フェムが向かった。俺とフューはこのまま見張りか。一度、全員で集まって何が起きているか共有したいな。
更に暫くすると、背後からトヴォ、トレが近付いてくる。
「見張りの交替だ」
「拠点に戻ってくれ」
「了解」
さすがに見張りを置かずに全員では集まれないようだ。
フューと二人で拠点に戻ると、負傷している二人と見張りの二人を除いたメンバが集まっていた。
「集まったな。じゃあ、始めようか。フェム、説明は任せるよ」
「……まずは、未探索の分かれ道の先の状況から説明する。魔物は小物が少数いたが、全て殲滅した。洞窟の行き当たりには、小さな穴があり、地上へと繋がっていた。侵入経路を絞るために今は塞いでいる。警戒するのは、入ってきた入口のみ。今はトヴォ、トレが見張りをしている」
内部に脅威は潜んで居なかったってことだ。
「セクスは恐らく、この島の負の魔力に中ったようだ。断定できないが、魔物化していると見ている」
魔物化?通常、犬などの普通の動物が魔力溜まりなどで暮らしていると起きる現象だな。人にも起きるとは聞いていたが……
「オッタ、ティオはセクスに襲われた。意識は回復し、傷も塞がっているが、血を流しすぎたようだ。今すぐに動くのは厳しい」
オッタもセクスに襲われたのか。
「と言うことだ。状況が悪すぎる。依頼は捨てる。この島から帰還することとする」
フェムの説明に続きエットが今後の方針を述べる。妥当な判断だろう。
「……それは、竜の牙の意見だ。鉄の扉は依頼を続行するか考える」
エットの方針に異をとなえるフェム。竜の牙と鉄の扉で意見が分かれているようだな。
「俺は撤退に賛成だ」
竜の牙でも鉄の扉でもない俺も一応意見を述べておいた。
「待ってくれ。ティオはこのまま置いておけない。俺とティオも帰還したい」
ニオの意見だ。オッタも俺が連れて帰ろう。そうなると、鉄の扉はフェムとフューの二人だけになる。依頼続行と言っても二人では厳しいだろう。
「……だそうだが、鉄の扉はこのまま居残るのか?」
「……、………撤退しよう」
フェムの苦渋の決断だ。依頼不履行により、俺達はペナルティがあるだろうが、生きていてこそ。それは、鉄の扉だって同じだろう。何故、ここまで苦渋の決断になるのか不思議で仕方ない。
「決まりだな。船が迎えに来るのが二日後の早朝だ。あと二日、どう過ごすか皆の意見を聞きたい」
「ギリギリまでこの拠点で過ごしてから移動するか、直ぐに移動して海岸沿いで待機するかってこと?」
選択肢はこの二つしかないだろう。俺としては直ぐに移動したいが。
「まぁ、そうだな。少しずつ移動しながらってのもあるが、考えなくても良いだろうし」
多分、竜の牙としては、今すぐに移動したいのだろう。島の真ん中で、この洞窟の近くには小鬼の砦もある。海岸近くの洞窟に拠点を作って待ちたいのだろう。負傷している二人はともに鉄の扉の団員。竜の牙としては、足手まといは置いておきたいかもしれない。が、鉄の扉としてはそうはいかない。今すぐには二人とも動ける状態ではないからだ。
「直ぐに移動する方に一票だ」
発言はフェム。個人の命よりも全体の命を考えたのか、もしくは自分の命だけを考えたのか。
「負傷者はどうするんだ?」
「背負っていく。無理なら置いていく」
「……てめぇ……」
ふざけた事を言いやがって。てめぇの団員だろうが!思わず殴りかかりそうになる。
「ノル、落ち着け。俺もそれに賛成だ。フェム、英断に感謝する」
「ちょっと待てよ!二人を捨て置くってことかよ!」
「ノル、落ち着いて考えて欲しい。仮に何事もなければ、皆で順番に二人を背負って帰れば良い。もし、魔物に囲まれたら?もし、動けるメンバが絶体絶命の状況に追い込まれたら?それでも背負って逃げるか?その所為で他のメンバに危険が及んでも?」
「くっ…………」
悔しいが何も言い返せない。何がなんでも仲間を連れて帰りたいというのは俺の我儘なんだ。俺の我儘によって他のメンバを危険にさらす訳にはいかない。それは理性では分かっている。だが、感情が納得していない。
「じゃあこうしよう。あと1日、この拠点で閉じ籠もる。その間に、造血剤の素材を収集しよう。フィーラが調薬出来るから、それをオッタとティオに処方する。もし、造血剤の素材を収集出来なくとも、きっかり1日後に移動を開始する。危険がない限りは背負って連れていく」
「エット、ありがとう」
エット、お前は何てヤツだ。性格もイケメン過ぎて眩しいや。お陰で涙が滲んじまうよ。
「鉄の扉も異論はない。決まりだな」
「俺、索敵には自信があるから素材の収集に立候補するよ」
「俺も収集に参加する。猫系獣人族だし、気配を殺すのは得意だ」
「私も探そう。薬学全般は押さえている」
「私も薬学は得意」
造血剤の収集に立候補したのは、俺、ニエ、フェム、フューの四人。誰も異論はなく、この四人に決定した。拠点に残るのは竜の牙の四人とオッタ、ティオの負傷者二人。まぁ、防衛だけなら竜の牙の四人で問題ないだろう。
直ぐに出発することになり、装備や持ち物を整える。と、こっそりと同室のエットが耳打ちしてくる。
「多分、フェムとフューは途中で個別行動を提案してくると思う。もし提案されたら、それに乗って、こっそり動向を探って欲しい」
「分かったけど、造血剤の素材収集を優先したいんだよな」
「わりぃ。そうだよな。無理にとは言わない。出来る限りで頼むよ」
「それなら問題ない」
エットは相当、フェム達の行動が気になるようだ。何があるのだろうか。
それから直ぐに出発となった。洞窟の外は太陽が西に傾き始めたところだった。暗くなれば草の判別は難しい。残された時間は思ったよりも少ないってことだな。
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