第6話 上陸二日目の1
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微睡みの中、誰かの悲鳴が聞こえ、意識が急速に覚醒していく。
「ノル、起きろ!」
目を開けると、既に起き上がり革鎧に着替えようとしているエットの姿が目に入る。
「何があったんだ?」
「分からないが、悲鳴と争いの音が聞こえた」
俺も起き上がり、胸当てや籠手を付けていく。
「よし、行くぞ!」
ほぼ同時に着替え終わり、個室の扉を開け大広間に出る。幾つかの扉から仲間が出てくる。向かい側の扉からはフェム、フュー。左隣からはトレ、トヴォ。右隣からはフィーラ。
「どっちだ?」
「入口の方だ」
エットとフェムの短いやり取りに、皆で拠点の入口の方へ駆けていく。
「助けてくれ!」
俺達の姿を見たニオが助けを求める。
「何があった!」
エットが駆け寄る。ニオは血塗れのティオを抱えていた。
「セクスに襲われたんだ。いきなり斬りつけられた」
見ると、ティオの背中から血が流れ出ている。
「治癒魔術を」
「はい」
この中で治癒魔術が使えるフェムとフューラがティオに近寄り治癒を始める。みるみるうちに傷が塞がり、流血が止まったようだが。
「血を失い過ぎたな。ニオ、ティオを奥に運んで安静にさせるんだ」
フェムの指示にニオが従い、個室にティオを連れていく。その時、警報が鳴り響いた。洞窟の入口の方だ。だが、鳴り響いた警報がすぐに止まる。
「結界に強めの魔物が引っ掛かった。セクスと関係する可能性がある。エット、トヴォとトレを連れて入口の様子を見るんだ」
「了解……とは言えないな。鉄の扉のメンバで何か企んでないか?」
「……じゃあ、混成で行こう。フュー、トヴォ、トレ、ノルの四人で入口の様子を見るんだ。急いでくれ」
混成チームについては、エットからも反対意見が出なかったため、俺達は急いで洞窟の入口に向かった。
「結界の魔道具が壊されている」
入口に辿り着いて直ぐに壊れた魔道具をフューが発見した。
「近くに魔物の気配は感じられないが……どうする?」
俺がフューに問いかける。入口を見張る人、戻って状況を伝える人が必要だろう。
「私が戻った方が正確に状況は伝えられるだろうが、怪しまれているなら、このまま此処に残って見張りについた方が良いな」
「じゃあ、俺も残るよ。索敵は得意だし。と言うことでトヴォ、トレが戻って状況を伝えて欲しい」
「あぁ分かった。だが、戻るのは俺一人で十分だ。どんな驚異があるか分からないから、トレも残ってくれ」
「オーケイ、兄貴」
トヴォが壊れた魔道具を持ち、洞窟の奥に戻った。
「ノルは外の警戒を、トレは内部を警戒してくれ」
「了解」
「あぁ分かった」
状況が動きすぎて理解が追い付かない。外の警戒に集中するが、頭の中は状況を整理しようとグルグル回っている。
まずは、昨日から順を追っていく。エットと俺が最初の見張りに立ち、約一刻、何事もなかった。で、ニオ、ティオを起こして見張りを替わった。寝ていると悲鳴が聞こえた。あれは、多分、ティオの声だったと思う。部屋を出ると、皆に広間で出会い、拠点の入口に向かった。いや、待て待て。広間で会わなかったのは、ニオ、ティオとセクスだけじゃない。オッタにも会ってない。可能性は二つ。オッタが個室に残っているか、既に拠点を出ていたか。オッタの同室がセクスというのも何か関係しそうだ。セクスは何かしらの理由でティオを襲って、拠点を出ている。どんな理由だったのだろうか。で、警戒が鳴ったこと。結界の魔道具が壊れていたこと。フューが言うには壊れていた、ではなく、壊されていたってことだ。何故、警報が鳴ったのか、何故、壊されていたのか。そんで今、俺は外を警戒しているが、フューは内の警戒をトレに指示している。これは、洞窟内部にも驚異があるかもしれないからだろう。じゃあ、洞窟内部の脅威とは何なのだろうか。疑問が多すぎる。
「フュー、知ってることを教えてくれないか?」
もう一人で考えるには限界を感じ、フューに助けを求めることにした。
「何がだ?」
「洞窟内部の脅威はなんだと思う?」
「二つ。強い魔物が既に侵入しているか、セクスが内部に潜んでいるか」
拠点から洞窟入口までに、それらの脅威とは出会わなかった。が、途中の分かれ道の反対側は見ていない。強い魔物が内部に侵入していても、セクスが潜んでいても、居るとしたらそっちだろう。
「じゃあ、セクスを脅威とする理由は?」
「…………既にティオが襲われている。我々が襲われないとは言い切れない」
「そんなに危ないヤツだったのか?」
「いや……おかしくなったのは、この島に着いてからだ」
「おかしくなったと言うのは、どの辺が?」
「何となくだな。強いて言えば攻撃的だったこと」
確かに誰に対しても攻撃的だったな。頭のおかしいヤツなんじゃないかと俺も思ったほどだし。
「オッタの行方は知ってるか?」
「知らない。が、恐らくは個室の中だろう」
俺も何となくそうではないかと思うが、フューにはそう考えるに至った理由がありそうだ。
「理由があるのか?」
「二つ。オッタは疲れすぎていた。一度、眠りにつけば朝まで起きないだろう。ニオがオッタについて何も言っていなかった」
そうか。そうだ。俺が感じていたこともこのへんなんだろう。
「一体、何が起こっているのだろうか…………」
「……」
俺の呟きにフューは無言を通す。だが、その表情は何か言いたいことでもありそうな感じだ。俺に言えない理由があるとしたら、エットが鉄の扉を疑っていることと関係がありそうだ。
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