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第14話 上陸四日目の1

 ☆★☆★☆★☆




 太い木の上に、木の枝や蔦を絡ませ、枯葉、土などを利用した即席の野営拠点を作った。広くはないが、そこそこ頑丈に出来ており、木の下からは見えない作りにしている。幹にはフェム、オッタ、ニオ、ティオを括り付け、フューに再度、眠りの魔術を使ってもらった。真夜中。既に日付は変わっただろう頃、近くに複数の魔力を感知した。フューはぐっすり眠っているので一人で警戒を続けている。


 この魔力、知っているものだ。竜の牙の面々ではない。セクスだ。魔物化したセクスのものだ。足音から判断すると、セクスの禍々しい魔力と一緒にいるのは二足歩行の大型の魔物。魔力量もそこそこ多いようだ。それが三体いる。嫌な予感がする。もしかしたら戦いになるかもしれない。フューをそっと起こし、状況を伝える。




「魔物化したセクス、厄介。一緒にいるのは豚頭人(オーク)大鬼(オーガ)だと思う」




 まぁ、二足歩行の大型の魔物と言えば代表的な魔物だ。豚頭人(オーク)ならば、中級冒険者で狩れる魔物だが、大鬼(オーガ)であれば上級冒険者が適性だろう。ただし、相手が一体でこちらが戦団を組んだならばだ。そこに魔物化したセクスが一緒となれば、俺一人では荷が重すぎる。




「フュー、俺が注意を引き付ける。その隙に強力な魔術で倒せないか?」

「一網打尽とはいかない。けど、一番厄介なセクスは倒そう。だけど、通り過ぎるだけなら手を出さない方がいい」

「そうだな。ギリギリまで様子を見ようか」




 そう話し合っている間にも、セクスらはこちらに向けて近付いてくる。もしかして、此方の居場所を分かっているのではないかと勘ぐってしまう。この拠点に攻撃を受けてしまうと木に括り付けた四人がまずいので、俺とフューはそれぞれ別の木に移った。枝や葉に身を隠し、じっと息を殺し、木の下の様子を窺う。


 木々の隙間からセクスの姿が現れた。一緒にいる魔物は鬼だが、大鬼ではない。一本角で三つ目の鬼だ。体の色は薄い灰褐色。俺は見たことがない。大鬼であれば、二本角に二つ目で濃い灰色の筈である。体格も微妙に大鬼よりも小さい気がする。しかし、油断ならない相手なのは分かる。気配を殺し、気付かないでくれと祈り続ける。

 セクスと三体の鬼が俺が隠れている木の真下を通り過ぎる。距離はほんの二、三間(約4m)。俺の鼓動が聞こえてしまわないかと緊張する。息を止め、ぐっと拳を握り混む。

 極僅かな時間であったはずだが、時が引き延ばされたように長く感じる。徐々に後ろ姿が小さくなり、木々に隠れて見えなくなる。それでも暫く動かずにいた。




「ノル?」




 フューに静かな声で話し掛けられ、呪縛が解けたように体から力が抜ける。握りしめた拳を解放し、同時に止めていた息をゆっくりと吐き出す。




「……行ったな」

「行った。あれは朧鬼(ファントムオーガ)だと思う」

「朧鬼?聞いたことないな」




 フューと一緒に拠点に戻り、先程の鬼について考察する。フューが言うには大鬼の変異種だそうだ。肉体的には大鬼に劣るが魔術を使うらしい。厄介さは大鬼以上。何故、そんな朧鬼がセクスと行動をともにしているのか。奴らは何処に向かっているのか。その辺りは疑問として残ってしまう。ただ明確に分かっている問題もある。奴らが向かった先が俺らの目指す方角と一致している。この先で遭遇してしまう可能性があるってことだ。




「ノル、最悪の場合、フェム達を」

「フュー!それ以上は言わないでくれ」




 分かってる。分かってるけど、俺の感情が許さないんだ。皆で助かる方法を探すしかない。


 暫く体を休め、出発することとした。もう一刻ほどで日が登る。つまりは、船の迎えが来る。あと少しの辛抱なんだ。



 夜行性の魔物を避け、迂回しながらも何とか時間前に海岸線に辿り着くことが出来た。うっすらと明るくなりつつある。遠くに船の姿を確認することが出来た。


 だが、その手前に居て欲しくない奴らがいた。セクスと朧鬼三体だ。このままでは無事に船に乗り込むことが出来ない。




「フュー、俺達二人で勝てると思うか?」

「二人では難しい。でももしかすると四人で戦えるかも」




 フューが懐から取り出したのは、初日にフェムが使っていた魔物を使役するための魔道具。




「オッタを使役してみる」




 そう言うことか。気分は良くないが、フューがオッタを使役し、俺がフェムを隷属すれば四人で戦えるかもしれない。




「やってみてくれ」

「分かった」




 フューが魔道具に魔力を込めていく。魔道具がうっすらと光を発し、オッタをその光が包む。




「成功した」




 つまりは、オッタは魔物ってことだ。嬉しくなんかないが、これで乗り切るしかないんだ。納得出来ることではないが割り切るしかない。




「二人を起こせるか?」

「起こす」




 フューが柔らかな魔力を込め、魔術を使う。二人が同時に目を覚ます。




「フェムには攻撃タイミングとその対象を伝えれば自由に戦ってくれるはず」




 有難いが、タイミングを伝えるのか。少し難しいかもしれない。それも、練習も無しにいきなり本番は無謀かもしれない。




「混戦になったらフェムとオッタにはニオ、ティオを連れて逃げ隠れて貰おうか」

「妥当。先制攻撃はフェム、オッタに盛大にやってもらう」

「だな」




 大雑把だが作戦は決まった。そろりそろりとセクス達に近付いていく。幸いなことにセクスは感知能力が低い。朧鬼も昨夜の邂逅で俺らに気付かなかったってことはコイツらも感知能力が低いのだろう。十分に近付いたところで、フェム、オッタの出番だ。


 魔力を練って術を構築していく段階で朧鬼に気付かれた。




「行け!」




 強引に魔術の発動を命ずる。と、フェムの最大級の氷嵐(アイスストーム)とオッタの岩乱槍(ロックランチャー)が放たれた。


 着弾とともに地響きが起こり、周りの地面を巻き込んで盛大な砂煙が巻き上がる。




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