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第12話 上陸三日目の4

 ☆★☆★☆★☆




 散弾は単発の弾と違って複数の小粒な弾が拡散しながら飛んでくるものだ。それが、左側からは石散弾が、右側からは氷散弾が飛んでくるのだ。避けられるもんではない。俺は急速に体内の魔力を操作し、体の表面を硬化させ、頭部を両腕で守る。


 直ぐに衝撃に襲われる。纏っていた服はボロボロになり、胸当ての繋ぎ目も壊れて落ちる。が、身体には軽微な傷しかついていない。




「避けろよ!」

「無茶言うな!」




 オッタが避けろと言うが、避けさせようとするならば、せめて散弾ではなく、単発の弾にして欲しかったよ。まぁ、それでも加減してくれているから、こんな傷で済んでいるのだけどね。多分、フィーラも加減してくれたのだろう。




「落ち着けよ!ここで争ってもお互いに消耗するだけだ。その状態で外の魔物を突破して、この島から脱出できるのかよ!」




 無駄かもしれないが説得を試みる。




「確かに、それはあるな」




 意外にも俺の説得に反応してくれたのはフェムだった。




「エット、お前が壊した壁に彫られていた紋陣の意味を知っているか?」

「…… ……知っている。集めた魔力が漏れないようにするための結界だ」

「つまり、今は、ここに集められた魔力が漏れ出している。この洞窟を中心に大量の魔力が宙をさまよっている」

「…… 何が言いたい……」

「この洞窟を中心に、ここらの魔物が狂化している可能性が高い」




 狂化か。これも聞いたことがある。人間が魔物化するのと似ているのだろう。魔物が狂化すれば、痛みを恐れず、死を恐れない狂った化け物となる。ただでさえ普通よりも強い魔物が狂化してしまえば、脱出は更に困難になるだろう。




「その魔力結晶は、この島から持ち出してはならない。絶対にだ。だからこそ、私はお前らと刺し違えるつもりだ。命を燃やせばそれが出来ると確信している」




 フェムの冷たい情熱が爆発する。フェムの実力を全て知っているわけではないが、必ず刺し違えると思わせる気迫がある。




「だが、ここで起きた出来事は必ず冒険者組合長(ギルドマスター)に伝えなければならない。残されたフュー、オッタ、ノルだけでは心許ないのも確かだ」




 俺もか!俺がその使命を負うのか!まぁ、頼まれたら引き受けるけど。




「なるほど。俺達も必ず魔力結晶を持ち帰らなければならない。ってことは、この洞窟を脱出して海岸線までは共同戦線って訳か?」

「この状況でお互いに協力して魔物を倒すのは無理だろう。背中を任せられないからな」

「確かにそうだ。俺もお前らに背中は見せたくねぇ。ってことはだ。この場ではお互いに消耗するのは避けて、別々に海岸線に向かって、そこで決着を付けるってことだ。だが、いいのか?それだと俺達に有利だぜ?」




 この場で消耗するのを避けたとして、何故、竜の牙が有利になるのだろうか?




「ちっ……気付いているのか。だが、仕方無い。私の命はどうでもいいが、若い仲間を犠牲にする訳にはいかない。去れ」




 気付く?なんのことだ?




「じゃあ、お言葉に甘えて去らせてもらおうか」




 エットのその言葉と同時に竜の牙の面々が壁際を入口に向けて移動する。あいつら、荷物は放ってやがる。最初から鞄には不要なものしか入っていないのかもしれない。便利だな、次元空間ってやつは。


 竜の牙の姿が見えなくなると、この場に満ちていた殺気が消えていく。




「オッタ、どれほど持ちそうだ?」




 フェムがオッタに問う。




「分からないが、刻一刻とリミットが迫っている感じだ」

「そうか、私もだ。この空間の魔力濃度が濃くなってしまったからだな」

「私はまだ大丈夫そう」




 オッタに続き、フェムも限界が近いと言っている。フューは大丈夫なのか。今もオッタとフェムは、魔物化に抗っているのだろう。だが、今はそんな話をしている暇はない。




「取り込み中に悪いが報告がある。大至急だ。竜の牙の面々の魔力反応が消失した」

「なんだと!」

「遠ざかったのではなく、突然消えた。これは何でだ?」

「まさか……転移の魔術か?いや、それは幾らなんでも個人が使用出来る魔術じゃない」




 転移か。確かにそれだと納得がいく。一瞬だけだがフィーラの魔力が膨れ上がり、そして四人の魔力反応が消えた。一瞬で何処かに移動したと思える消え方だった。




「転移には膨大な魔力が必要。フィーラはそんなに魔力は多くない」

「フューもそう思うよな。私もそれには同意する。まずは調べるか」




 フェムを先頭にフュー、オッタ、俺と続いて拠点を出る。




「この辺りだ。やつらの反応が消えたのは」




 俺が感じた範囲を教える。




「何か大掛かりな魔術を行使した残滓(ざんし)が感じられるな。これは……転移したのだろう。だが、一体どうやって……まさか……」




 フェムが自問自答を繰り返す。どうやら、仮説には辿り着いたようだ。




「もしかすると、魔力結晶から魔力を引き出して魔術を行使したのかもしれない。いずれにせよ、竜の牙に逃げられたのは事実だ。私は大間抜けだな」

「じゃあ、仕方ない。フェムもオッタも魔物化する前に帰ろうぜ。勿論、ニエもティエも俺が担いで行く。と言うことで、フューさん、当てにしてるぜ!」

「ノル……」

「何も文句は言わせねぇよ!ここからは俺の好きにする。反対されようが、ニオもティオも連れていく。フェムやオッタが魔物化しそうになったら、縛ってでも連れて帰る。三人でも四人でも担いでな!ちょっと引き摺るかも。あ、その場合、女性は担ぐから。引き摺るのは男にしとくから安心して」

「ノルは糞真面目で大馬鹿なんだな」

「昔っから、こんなヤツだったな」

「可愛くないけど、教えがいがありそう」




 俺の発言に、フェム、オッタ、フューが返す。何とでも言ってくれ。俺は誰も見捨てない。絶対に連れて帰るぜ。


 拠点に引き返すと、ニオ、ティオに途中で暴れられないように更に厳重に縛り、二人を俺の背中に括り付ける。動きは阻害されるが、この程度ならば重さは問題ない。身体強化が前提だけどね。




「フェム、オッタ、限界だと思ったら言ってくれよな」

「俺は限界になったら、何も言わずにノルを襲うぜ。多分、全力の石散弾かな」

「フュー、魔物化しそうになったら、遠慮なく、私に魔術をぶつけてくれ」

「分かった。麻痺か昏睡にしとく」




 四者四様とでも言うのか、皆、思うところはあるだろうが、とりあえず、この洞窟から出て、海岸線に向かうことにした。さぁ、どうなるかな。




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