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第11話 上陸三日目の3

 ☆★☆★☆★☆




 俺はオスター島の噂を思い出していた。約30年前に毒ガスが吹き出し、誰もこの島に近寄らなくなったが、それ以前は希少金属の採掘や希少な薬草類の採取で賑わっていた。だが、その当時、頻繁に殺し合いが発生したと聞いた。何も知らずにその話を聞けば、利権争いだろうと思うのだが、魔物化が原因だったのではないだろうか。


 少し前までは、少なくともこんな雰囲気ではなかったはずだ。


 今は広間の端と端に鉄の扉と竜の牙が分かれて集まり、お互いを牽制しあっている。


 これも魔物化の兆候なのだろうか。




「ノル、君はどっちに着くんだ?」




 エットが俺に話し掛けてくる。俺はちょうど両者の中間となる広間の中央に座している。




「どっちに着くと言われても困る。今はこんなことをしている場合じゃないだろ?一刻も早くこの島から脱出した方が良い」




 鉄の扉は顔色の悪いフェム、フュー、オッタの三人。竜の牙は顔色の良いエット、フィーラ、トヴォ、トレの四人。もし俺が竜の牙に着くと、バランスが大きく崩れる。竜の牙としては、早く俺を味方に引き入れ膠着状態から脱したいのだろうが、俺にとってはそんな場合じゃないんだがな。




「ちょっと話し合わないか?」

「俺はそうしたいが、あちらさんはそうではないようだが?」




 俺の提案にエットが答える。あちらさんとは勿論フェムのことだ。




「教えてくれ。調査ってなんなんだ?」




 この状態に陥った原因は、間違いなくその調査とやらだろう。フェムは竜の牙に出し抜かれたような印象を持っているようだ。




「それは私が説明する」




 それまで黙ってエットを睨み付けていたフェムが説明を始める。




「もう100年以上も前の話だが、当時この辺りを牛耳っていたある商人が、この島に魔力結晶を持ち込んだ。魔力結晶が隠されている洞窟がどこだか不明だったのだが、最近、昔の文献が発見され、その洞窟が絞り込まれてきた。我々が受けた調査依頼は、文献に書かれている洞窟の特徴とこの洞窟が一致するかどうかということだ」




 魔力結晶か。聞いたことはあるが、それがどれほど重要なものか分からない。魔力結晶を回収してくるのではなく、洞窟の特徴が一致するかの調査か。なんだか回りくどい気がするな。もし、その魔力結晶を手に入れたいなら調査依頼ではなくて、回収依頼にすれば良いのに。




「ノル、一つ補足をするが、魔力結晶はとても危険なものだ。普通に出回っている魔力結晶とは格が違う。村と国ほどの違いだと思ってくれ。この島の濃厚な魔素に触れ、100年もの間、死んだ魔物や人間の魔力を吸い続けたものだ。迷宮の核に匹敵する」




 フェムの補足に驚愕を受けた。もし迷宮核に匹敵する程の魔力結晶が存在するならば、もしかすると人工的に迷宮が生み出せるのではなかろうか。希に発見される迷宮の権利をめぐって国どうしが戦争を起こすほどのものを、人工的に造り出すことができるならば、その価値は想像が及ばない。




「ノル、どうやら魔力結晶の危険性が分かったようだな」

「危険性?いや、俺は莫大な価値があるって思っただけで、危険性は良く分からない。説明してくれないか」




 俺の返答を受け、残念そうな顔をするフェム。どうやらがっかりさせてしまったようだ。なんか悲しい。




「いいか、その魔力結晶は迷宮核に匹敵する。つまり、その周りの空間は迷宮と似てくるってことだ。迷宮には必ず魔物がいる。いくら倒してもいつの間にか増えている。つまり、この島、この洞窟を中心に、魔力結晶の力で魔物が生み出されている可能性がある。まだ閉じた世界だから良いとして、もし大都市にその魔力結晶を持ち込んだらどうなるんだ?答えは誰も知らないだろうが、危険性は高いと私は思っているよ」




 良く分かった。物わかりの悪い俺に懇切丁寧に説明してくれて。




「フェム、ありがとう。理解したよ。で、その魔力結晶があると書いてある文献の情報と、この洞窟は同じなのか?」

「同じだ。断言する。この洞窟に到着した初日に、私とフュー、セクスで洞窟の奥を調査したのだが、特徴が全く一緒だった。つまりは、この洞窟内に魔力結晶があるということだ」




 フェムが何を気にしているか分かってきた。となると、仲直りするには……




「エット、ということは、エット達が魔力結晶を持っていないことを証明すれば、フェムは引き下がるんじゃないか?」

「そのようだね。でも、持ってないと言っても信じて貰えないなら、どうやって証明すれば、いいのかな?」




 エットの返答に苛立ちを顕にするフェム。こんなに感情を現す人ではなかったのだが……これも魔物化の兆候かもしれない。まるで、少し前のセクスだ。




「エット、君達があそこに居た理由はなんだ!」

「さっきも言ったけど、鉄の扉と一緒だよ。単なる調査だ」

「では、文献の情報も知っていると?」

「ああ、知っている」

「誰に聞いた!」

「それは言えない。言えば俺達が殺される」

「では、壁を壊して入った中には何があった!」

「何もなかった」

「ちっ、そんな事を聞いているのではない!どんな台座があったのだと聞いている!」

「あぁ、台座ね。二人で抱えられる程の大きさの杯があったな。複雑な紋陣が描かれた杯だったよ」

「その杯や紋陣が何を意味するのか知っているのか?」

「知っている。地上の魔素や魔力を収集して杯の中の魔力結晶に全てを注ぐものだ。だが、俺達がそこに着いた時には魔力結晶はなかった。それは断言する」




 フェムとエットの問答。お互いにヒートアップしてきている。




「では、持ち物の中身を改めさせて貰っても構わないと?」

「構わない。だが、無かった時はどう責任を取ってくれるのかな?」

「自決しよう」

「ちっ。大した自信だな。自決されても困るが、別に荷物の中身は調べてくれて構わない。みんな、鞄や革袋を全て前に出してくれ」




 フェムとエットのやり取りにヒヤヒヤしてくる。エットが竜の牙の皆に指示を出すと皆が鞄や革袋を前に置いていく。




「これで全てだ。流石に懐にしまえるような大きさではないことは知っているだろう?身体検査は勘弁してくれよな」

「ああ知っているとも。更に、こんな鞄や革袋に入らないほど大きいってこともね。持ち物とはフィーラの次元空間を指していたのだが、その中はどうなっているんだ?」

「参ったな。そっちも対象なのか。そっちは覗けないぜ?どうやって確かめるんだ?」

「確認手段はあるから心配しなくていい。この魔道具をフィーラが持ってくれれば、次元空間内の魔力量が計れるからな。魔力結晶が入っていれば、きっとこの魔道具は壊れるだろう。さあ、これを持つんだ」




 押しに押すフェム。それに対してエットは涼しい顔でいなしているが……その後ろのフィーラの顔色が良くない。あれでは「私、持ってます」と言っているようなものだ。




「どうした?魔力結晶を持ってないなら、この魔道具を持っても問題ないだろう?」

「ちっ、嫌な婆ぁだな」




 エットの態度が急変する。長剣を抜き放ったのだ。それに遅れることなくトヴォ、トレが武器を構え、前に出る。出遅れた俺はアタフタするが、気付けば、フューもオッタも武器を構え、臨戦態勢であった。




「ちょっ、ちょっと待ってくれ、皆、落ち着こう、ほら、剣をしまおうか、ほら、そんな怖い顔しないで、笑おうよ、はっはっは!」

「お前が落ち着け!」




 折角、俺が一生懸命に皆を止めようとしたのだが、オッタから余計な突っ込みが入った。




「ここでやりあえば、確実に俺達が勝つ。大人しく退くんだ!」




 イケメンの面影は何処に行ったという程のエットの鬼の形相。




「私は死ぬ気で向かう。そっちも覚悟するんだな」




 本気だ。フェムは本気で死ぬ気で立ち向かうだろう。それほどの気迫を感じる。




「ノル、早くどけ、お前、邪魔なんだよ!」

「嫌だね、俺がどいた途端に魔術を撃ち合うんだろ?」




 相変わらず両者の中央にいる俺。両者が魔術を放てば間違いなく俺に当たる。両者とも俺が邪魔で魔術を使えないでいる。この場面で両者を争わせる訳にはいかない。死んでもどくもんか!


 と突然、魔力の高まりを感知する。オッタからは石散弾(ストーンショット)が、フィーラからは氷散弾(アイスショット)が飛んでくる。あれ~?




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