家で引きこもってたらいきなり異世界に連行されたんですが
あらすじをちょっと肉付けしただけです。
私は馬鹿だ。そしてニートだ。いや、もっと正確には引きこもりといったほうが正しいと思う。だって家事とかしてないし……。
私は暗い部屋でいつものようにパソコンに向かってネットサーフィンをしていた。
その時、いきなり両脇をがばっとつかまれて引き上げられた。
(えっえっなに?なんなの?っていうか痛い痛い!)
「って、私足が浮いてるぅううう!?」
そしてそのまま私は世界から消えた。
* * *
「連れてきました」
「うむ。ご苦労」
私の両脇にはよく見たら黒服サングラスのマフィアみたいな人たちが私をつかんでいた。
(お前らかぁあ!痛いの!離して!ていうか怖い!)
「ふむ。離してやりなさい。痛がっとる」
そう白髭のおじいさんが言うと、黒服の二人はぱっと手を放した。
どすん。と音をたてて落ちた私は、持ち前の運動能力のなさで、腰骨から背中にかけて痛みが走る。
「きゃっ」
「ふむ、意外と可愛らしい声を出すんじゃな」
なぜかおじいさんに貶された気がする。
(っていうかここどこ!私パジャマだし!恥ずかしい!っていうか腰痛い!)
「せわしない娘よのう。ほれ」
おじいさんが持っていた杖を一振りすると、痛みは治まり、服が旅人っぽいものに変わり(当然のように靴も履いていた)、背中にはパンパンに膨れた登山鞄みたいなものが。
(いや私登山鞄なんか見たことないけど、っていうか、この格好何?まさか外に出されるの?)
「そのとおりじゃ」
その時漸く私はおじいさんが私の心を読んでいることに気が付いたのである。
「イヤー!乙女の心を読まないでぇ!恥ずかしすぐる!」
(乙女ってなんだよ。私そんな年じゃないし。ってかすぐるって……)
ごほん。とおじいさんは咳ばらいをした。
「儂はそなたたちの言う神じゃ。そして今回はお主を罰するために連行した」
「ば、罰する?わ、わたしが家事とかしなかったから?親不孝者だから?」
「それもある。だが、今回呼び出したのはお主が祖父母不幸者だからじゃ」
「!」
「覚えがあるようじゃのう。そう、お主は老い先短い祖父母にこれでもかというほど愛されながらも実家に帰ることをしなかった。よってお主には罰を与える」
「ごめんなさいおじいちゃんおばあちゃん。う、うぇ」
「今更後悔してもどうにもならん。泣くなどという行為も許さん」
そういうと、私の目からは涙がとまり、声も出なくなった。
「ところで、三枚のお札というものがあるそうじゃのう。物語は知らんが、それに伴ってお主には三つの能力を授ける。この中から選ぶがいい」
そういうと、神様は太い巻物を投げてよこした。
(わわっ)
案の定、私は取りこぼしてしまったが、それを拾い上げ、巻物の紐を解いた。
(うわ、なんかいっぱいある。っていうか、ゲームのスキルみたい。片手剣なんて無理に決まってるし……そうだ魔法!魔法もあるはず!)
探すと確かに魔法があった。
(どれにしようかなーサバイバルするなら火と水がないと生きていけないよねー。あれ?そもそも私って向こうの菌に耐性ってあるの?)
「ふん、気づきおったか。それに関してはほら、これを取ればいい」
巻物がしゅるるると引き伸ばされる。そして朱文字のところで止まった。
「万事健康じゃ。これで病気にもならんわい」
(ありがとうございます!神様やさしいんですね)
そう言いながらも、私は先ほどの高速巻物解きの中で目に入った物があった。
(万事健康と、回復魔法は鉄板でしょー。これで怪我にも対応できるわ)
「そしたらお主、火魔法と水魔法のどっちを取るつもりじゃ?」
(あ……うーん火がないと夜とか不安だし、火にしよっかなぁ。あでも水も必要……)
「よろしい。ならば万事健康、火魔法、回復魔法の3つじゃな」
(え、私まだ決めてないんですけど……)
「特別に言語理解をサービスしてやろう。これでいいだろう。お前たち!」
私が文句を言おうとする前にまたもやがっしりと両脇をつかまれた。
「捨ててこい」
「了解です」
(捨てるってなにぃぃぃ!了解しないでぇぇぇぇぇ!)
結果、日のあたる場所にぽいっと棄てられた。
「うわー。光が目に染みる―!目がー!」
そしてようやく目が光に慣れたところで、自分が今いる場所を確認した。
こういう時人間は案外生存本能が働いたりするものである。
「ここって、街道……なのかな?」
(その通りじゃ。そこをまっすぐ歩くと三時間ほどで街に着く。あとは自由に生きるんじゃな)
「さ、三時間……無理、無理無理無理!私の筋肉と体力のなさをなめんなよ!」
(さっさと行かんか)
げしっと頭を蹴られた感覚がする。というか、絶対に蹴られた。
ここで燻っていてもしょうがないので、街まで頑張って歩くことにする。
* * *
「はぁ、はぁ、はぁ」
(何時間たったのかわからないけど、たぶん数十分なんだろうなぁ)
私は早々にばてていた。かんかん照りの日差しに久しぶりに歩いた足を引きずるようにして進む。
「ああー水魔法なら、頭からかぶりながら歩けるからまだましなのにぃ」
そう文句を言っていると奇妙な光景が目に入った。
それは辺りに血の池ができ、硬貨がばらまかれ、その内側に血まみれの人々がいて、さらにその内側に豪華な馬車があった。
近づいてみると、馬車のそばで一際豪華な鎧をした人に、ピンクの派手なドレスを着た金髪の女の子が泣きすがっている。
(そういえば……回復魔法取ったんだっけ)
回復してあげようと近づくと、そこには贓物をまき散らしたり白いものが見えていたりと、凄惨な光景だった。
私は吐いた。朝食べた一枚のパンと、胃液をげーげー言いながら吐いた。だが、そうしているうちにも人が死んでいくんだと思うと、いてもたってもいられず、泣きながら血の池に近づいた。
倒れている人たちは鎧を着ているところから見るに兵士のようだ。私は死亡確認もせずにひたすら傷を治すように意識して魔法を使った。そして最後に豪華な鎧を着ているところに近づいた。ら、女の子が呆然とこちらを見ていた。
「回復、魔法?」
「うん……そう。その人、回復したいんだけどいいかな」
「はい!ぜひお願いします!お兄様をよろしくお願いします!」
(兄、か……あの人は今頃何やってんだろう)
一人暮らしをしている兄を思い出しながら、私はその人の傷を治していく。
その人は幸い白いものが見える程度だったので、ちょっと顔が青くなるだけにとどまった。
そしたら、私の周りをたくさんの兵士が並んでいるのが見えた。
(えっ、何?なんなの?)
「おやめなさい!この方はお兄様はもちろん、あなた方の命の恩人ですのよ!それに悪い方じゃありません。むしろ心地いいくらいです」
(は、はぁ?)
少女が一括すると、お兄様とやらが起き上がって、私に質問してきた。
「君が、治してくれたのかい?」
「は、はい……」
私が返事をすると、がばぁ!と音がする勢いでお兄様とやらに担がれて馬車の中に放り込まれた。
(ひえー)
そして少女が馬車に乗り込むと、馬車はすごい勢いで走り出したのだった。
* * *
窓の外から見てると大きな城壁が見えてくるのがわかった。馬車は検問を軽々と越え、大きな城の中まで入ってしまった。
そしてお兄様とやらは侍女に私に湯あみをさせろと命令すると、少女とともにどこかに行ってしまった。
その後のことは言いたくない。とにかく侍女さんに湯あみをされた後、私はきれいな白いドレスを着せられ、侍女さんに案内された部屋で緊張していた。
(なに?なんなの?何この豪華な部屋!ヤバイソファー柔らかすぎて体が沈んでるんだけど。っていうか動けないよ!何もかもが豪華すぎて出されたお茶のカップすらつかめないよ!)
しばらく待っていると、着替えたのだろう金髪碧眼が眩しいおそらくお兄様とやらが、これまた衣装チェンジした少女とともに、壮年の人物を伴って部屋へ入ってきた。
その人が前のソファーに腰かけると、少女はその隣に腰掛け、お兄様とやらはなぜか私の隣に腰掛けた。
「話はミリアから聞いた。まずは礼を言おう。近衛とヴァルカスを救ってくれたそうだな」
おそらく少女がミリアで、お兄様とやらがヴァルカスなのだろう。
「は、はい」
「ミリアから回復魔法を使ったと聞いたが、本当か?」
「は、はい。本当です」
「そうか。では、お主、名はなんという?」
「カンナと申します」
「カンナか。そう緊張しなくていい。何も取って食べるわけじゃなし、そういうのはヴァルカスの仕事だ。そうそう。カンナ、お主は今から筆頭王宮治癒士だ。まあ、筆頭と言ってもそなたしかおらんのだがな」
はっはっはっと大声で笑うおそらく王様を前に私は混乱していた。
(え、誰が何を食べるって?っていうか、筆頭……なんだっけ?それに私がなるってどーいうこと!?)
「あ、そうそう。ヴァルカスはカンナと婚約したと民に発表したから、王妃の間がこれからのカンナの部屋だ。まあそのうち慣れるだろう。ゆっくりくつろいでくれ」
(王妃!?なにそれ!どーいうことなの!?)
「そういうことだ。これからよろしくな、カンナ」
ちゅ。と音がしたと思ったらなんと王子と私の唇がくっついて……!?
なにか選択肢は、選択肢はないのぉー!?
①たたかう
②にげる
③ながされる
どーすんの私!!!
読んで下さりありがとうございました。