三つの事件
これは、とある三つの事件についてまとめたものである。
その時に何が起こったのだろう?
この話は、それを知る手掛かりとなる筈である。
「いち」
20××年△月21日、N県郊外の山中にある小さな村で奇妙な事件が発生した。
村長とその家族全員が、一晩の内に自宅で変死を遂げていたのである。
事件は村の人間によるN県警への通報で発覚した。
通報したのは村長一家と親しい村の男性(67歳)で、男性は22日早朝に村で扱っている回覧板を回し終えたので、村長の家にその報告に行った際に遺体を発見したと証言している。
(男性の証言は、丁度付近を巡回していた地元の交番の警官がこの男性と道で会っていた為、裏付けが取れている)
男性は、遺体発見時の状況をこう話している。
彼はまず村長宅のインターホンを数回鳴らしたが応答が無く、玄関の戸を軽く叩きもしたが声すら返ってこなかった。
その為不審に思い玄関の戸に手を掛けた所、鍵がかかっていない事に気付いたという。
そして村長一家の名前を呼びながら戸を開けて中に入ると、玄関先で村長家の長男(32歳)と二男(26歳)、三男(24歳)と長女(28歳)が天井に取り付けた麻縄で首を吊っているのを発見した。
遺体はそれぞれ別の縄で首をつっており、顔は蒼白で白目をむき、区別もつかぬほどに顔の輪郭が歪んでいた。
その際男性は恐怖し混乱して家を飛び出たが、その際に家の中から甲高い人の声を聞いたという。
最後に急いで自宅に帰ると電話で警察に通報し、そのまま自宅で休んでいた、と言うのである。
その後通報を受けたN県警が駆け付け、村長宅内部の状況を確認した結果、以下の事が分かった。
・自宅からは村長一家と村の住人(指紋採取・照合済み)以外の指紋は発見できなかった。
・玄関の戸の鍵や窓は壊された様子はなく、鍵が開いていたのは玄関のみである。
・村長一家の子供達四人は全員玄関で首吊りを行っており、村長と村長夫人は自宅の仏壇の前で遺体が発見された。
遺体の死亡推定時刻は20日の午後11~12時。
・家の至る所に泥の付いた二人分の足跡が発見された。(DNA等は採取できず)
足跡は犯人がまず玄関から入り、その後一階から全ての部屋を訪ねて歩きまわっていた事を残している。
なお、足跡は二人分全てが一緒に歩いたように残されていた。
しかし足跡は二階の村長の部屋の中心で途絶えており、また村長宅内部以外では発見されていない。
・玄関の戸から小さな手の痕跡が発見された。形状と大きさからして乳幼児の手と推測される。
・村長宅に使用されている土間から、白骨体の一部と思われる物が発見された。
その後の調査により本物の人骨と判明し、他の壁や柱からも人骨の一部が発見された。
採取された人骨を検査した結果、家の土中には人骨が二人分あると断定され、鑑識が捜査に向かった。
・上記の鑑識の捜査の結果、土間から酷く破損した男性と女性の人骨が発見された。
また、女性の人骨の股関節上部から胴体下部にかけて胎児のものと思われる大たい骨が発見された。
また、司法解剖では以下の事が判明した。
・玄関先の息子らの遺体は、どれからも全身の骨に金づちで叩いた様な破損が確認された。
解剖を担当した医師の見解では、直接の死因ではないが相当の力で殴りつけられたものであり、また遺体の破損はどれも同じ角度・同じ力によるものだという。
また、全身の骨の破損状況については、まるで骨自体をバラバラにするのが目的だと言うように骨が破損していた、と見解を示している。
・村長夫妻の死因は心不全であり、恐らく何らかの外的ショックによる心停止がその原因だと思われる。
また検死の結果、二人の遺体は仏壇の前に祈る様に腰を曲げて頭を下げて座っていたが、その足から大量のい草(畳の原料)と、一般的な成人の大きさほどの手の痕が発見された。
手の痕は膝の下からつま先に掛けて無数にあり、内出血により変色していた。
最後に以下の情報は、捜査官が近隣への聞きこみにより得た、事件直前の一家の様子をまとめたものである。
・事件前日の20日には村長一家で何かの集まりがあり、その為か息子達が全員家に居た。
・息子達は一度も都会に出た事無く、生まれてからずっとこの村で畑を耕している為、力は強く、防犯意識も高かった。
また村人の内の若者はこの息子達のみで、他は齢60以上の住人ばかりである。
・事件前日、村長一家は山の奥にある寺の和尚に御祓いを依頼していた。
和尚に事情聴取をしたところ、御祓いに行くのは21日だったという。
・事件前日の深夜十二時ごろ、村長宅の隣に住む男性(68歳)がトイレに立った際に村長宅から複数の幼児の泣き声を聞いたと証言している。
・事件の一週間前、村長夫妻が悲鳴を上げているのが住民達によって確認されている。
その際住民と警官で村長宅を訪ねたが、「何も無かった」という村長の主張により帰っていた。」
・叫び声などは無く、村の住人全員が誰も悲鳴を聞いていなかった。
・事件の三日前、挙動不審な男女が村で目撃されているが、それ以降は現れなかった。
後日N県警による懸命な捜査が数週間続いたが、犯人には辿り付けず、この事件は未解決事件として処理された。
余談であるが、その後村は若者の死により活気が薄れ、閑散とした廃墟の様になってしまったと言われている。
「に」
20××年▼月03日、K県A市のG駅付近にあるマンションで事件は起きた。
マンションの11階に住む女性(32歳)が、マンションの脇にある路上で遺体となって発見されたのだ。
遺体は3日の午前11時に発見された。
大雨のために道は人通りが少なく、遺体の体温も亜目と気温により下げられていた為、死亡推定時刻は午前8~10時と曖昧になってしまった。
通報者であり遺体の第一発見者である買い物に来ていた女性(47歳)は、遺体発見時の様子をこう証言している。
女性は近所のスーパーに買い物に向かった際、マンションの傍を近道として利用していた。
その際、道の脇に黒い物が流れていた為、不審に思ってそれを辿った所、遺体を発見したという。
当時の遺体の状況は非常に奇妙で、足と背中と頭を抱え込むようにして身体を丸めており、体は少しだけ横を地面に向いていた。
遺体の顔は悪天候の影響もありよく見えず、頭部らしきところから血が流れているのを見たという。
それを見た女性はすぐに警察に通報し、混乱により少しの間その場から動けなかった、と証言している。
また、この時に悲鳴や怒鳴り声などの音や、不審人物は見かけていないとのことである。
その後通報を受けた警官が駆け付けた際、女性は遺体を発見した場所のすぐ隣にあるマンションの玄関ホールで休んでおり、警官らに事情を話し、遺体発見現場に向かった。
しかしその際に女性に遺体の確認を依頼したところ、第一発見時との誤差が生じた。
警官らと共に彼女が確認した時の遺体は、体が上を向いており身体を広げて大の字の形で伏していたのである。
現場に到着した警官二名からもそれを裏付ける証言があり、これは見間違いでないとされている。
また、その後現場に初動捜査の応援が到着するまでの時間に、最初に現場に駆け付けた警官二名は、付近の排水溝から黒いワイヤーらしきものが付着した白い欠片を発見している。
以下の情報は、現場とマンションに対する捜査により判明した物である。
・被害者は現場の脇のマンションの八階に住んでおり、事件当日の午前7時頃に隣室の男性(39歳)と廊下で挨拶をしている事が判明した。
その時被害者は自室に入る直前であったと、男性は証言している。
・現場から発見された欠片は、被害者の服の内側から発見された小型の日本人形の頭部である事が確認された。
形状も一致しており、日本人形には被害者の指紋が付着していた為、所持者は被害者と推測される。
・被害者宅の窓は開いて雨が吹き込んだ形跡が確認でき、その下の道が遺体発見現場の為、此処から被害者が落下したものと思われる。
被害者宅からは荒らされた形跡は発見できず、棚の上の台が倒れていたことやその埃の痕と日本人形の下部の形状が一致する事から、日本人形は此処にあったと断定された。
また、被害者宅からは犯人のものと思われる指紋やDNAは発見できず、痕跡らしきものは確認されなかった。
・被害者宅の玄関の外側から傷跡を発見。
傷跡は床から高さ17cmの所に在り、調査したところ幼児ほどの大きさの指が着けた爪痕である事が判明した。
指紋採取は出来ず。
・被害者宅の机から、経文が書かれた大量の札が付いた箱が発見された。
箱の大きさと内部のスポンジの凹凸の形状と日本人形の形状が一致。
・窓の淵から被害者の血痕が付いた指紋を発見した。
・マンションのエレベーター内部の映像記録を閲覧したが、死亡推定時刻には被害者の隣人(先述の目撃証言者)を除き、誰も八階に来ていない事が判明した。
しかし事件当日の午前9時21分に一度だけ、無人のエレベーターが一階に到着した際に内部の八階のボタンが作動し、八階まで到達した後に別の階へ移る様子が確認されている。
その為八階のエレベーター入口前に設置された監視カメラの映像を閲覧したところ、無人エレベーターが到着した時刻に画面下で何らかの物体が動いている事が判明した。
だがあまりにも小さな物体で会った事と、カメラの不整備や画面のフレームからみ切れていた事もあり、それが何なのかは確認できなかった。
以下の情報は司法解剖から判明した情報の詳細である。
・被害者の死因は八階からの落下による転落死であり、外傷から落下時の姿勢の予測(しかしこれは現代の医療技術ではあまりにも曖昧である見解)をした結果、被害者は体の前面を下に向けて落下していただろうと言う担当医師の意見が提出された。
・被害者の腹部から大量の頭髪を採取した。
DNAは前科者登録されておらず、その頭髪はどれも長さ10cm程しかなかった。
・被害者の頭部が一部欠損している。その部分は現場からは発見されていない。
最後に、身辺者等への聞き込みで判明した事実をいかにまとめる。
・被害者は一人暮らしで、日ごろ閉じまりもしっかりと行っていた。
また他人と遊ぶ事がほとんど無く、携帯電話のアドレス帳と照合して交遊関係は狭い物と推測された。
・現場付近では不審者の目撃情報や悲鳴などの物音に関する情報は一切無く、被害者とのトラブルで揉めていた人間は周囲にはいなかった。
・事件前日の午後8時頃、被害者は実家に母親に「最近おかしなことがある」と言う旨の会話を電話で行っている事が、母親からの聞き込みで判明した。
母親によると当時被害者は電話口でもわかる程に混乱しており、「おかしなこと」について酩酊状態の様な口調で語っていたという。
その内容は、最近よく車に轢かれかけたり、急に体調を崩す事が多くなったり、夜に部屋で物音がする等といった漠然とした内容ばかりだった。
また、被害者の友人の証言によると、事件の三日前に近所の寺に御祓いに言っている事が判明した。
・寺の僧に事情を聞いたところ、被害者に現場で発見された日本人形の御祓いを依頼されたという。
その時は祓い終えた後経文を書いた札を渡し、箱に取り付けるよう言っただけであると僧は証言している。
・事件の前日の午後11時ごろ、隣人が被害者宅の方の壁から話し声らしき人の声を聞いたと証言している。
この事件はマスコミが大きく取り上げた事もあり、K県警による捜査が長期間続いたが、結果として犯人発見には至らなかった。
その後被害者の住んでいた部屋は、時折何処からともなく小さな足音が響くようになったという。
「さん」
最後の番となったこの事件であるが、不明な点が多々ある。
まずわかっているのは、20××年の▲月07日に、T都郊外の交番に一人の少年が駆けこんできて、意味不明な話をした。
それだけなのである。
その時少年は名前等の身元の情報は一切明かさず、交番でただ警官達に対して話をしただけだったという。
当時応対した警官らによると、少年は中学生ぐらいで、走っていたのかひどく汗をかき、顔を真っ赤にして息も絶え絶えなまま交番にやってきた。
そして警官らに落ち着くよう促され休み、しばらくしてからボソボソと喋り出した、と警官らは証言している。
以下の会話は、警官の一人がただならぬ雰囲気を察して用意したICレコーターに記録された会話である。
警官
『落ち着いた? 慌てなくていいから、ゆっくり息をしてね』
少年
『……に帰ったんです』
警官
『え、何?』
少年
『僕、学校が終わったから家に帰ったんです。
今日は母さんも父さんも居ないから、鍵を開けて入りました』
警官
『ご両親は今おうちに居ないの?』
少年
『はい……いえ、でも居たんです』
警官
『じゃあ、おうちにいるのかな? 一度ご両親に連絡しようか?』
少年
『やめて! やめてください、家には……』
(十数秒間ノイズが走っている)
警官
『……れで、お家では何があったの?』
少年
『鍵を開けたら、2階から声がしたんです。
あれは母さんの声でした。おかえりっていってました。
僕は居ると思わなくて、嬉しくなって2階に行ったんです。それで……』
警官
『なに、何だって?』
少年
『いえ、それで……
2階に上がって何処に居るのって僕言いました。
そしたら、一番はしっこの僕の部屋から声がしたんです。
あれは……たぶん、おかえりって言っていました』
警官
『大丈夫? ゆっくり息をしてね』
少年
『いえ、でも……
ええと、それで僕は部屋まで走って、ドアを引いて開けたんです。
そしたら、中には母さんがいました。でも……ああ、ああ!』
警官
『どうしたの? 落ち着い』
(数秒間ノイズが走っている)
少年
『……あさんでした。でも、違ったんです。
母さんはドアのすぐ後ろにぼうっと立っていて、僕のすぐ目の前に居ました。
顔がさかさまで、ビックリして』
警官
『落ち着いて。おい、誰か毛布を持ってきてくれ』
少年
『僕はビックリして、逃げました。
一階に顔がさかさまになった父さんも居ました。
二人ともずっと「おかえり」って言ってたんです、僕は……』
警官
『お父さんとお母さんは今その家に?』
少年
『僕、見ちゃったんです。
ああ、も……』
(騒音の為音声が途切れる)
警官
『……ちなさい、待ちなさい!』
少年?
『……えり……り……』
この後、少年は警官達の前を走り去り、二度と現れる事は無かった。
警官らは、最後に見た少年はまるで家に帰る様な足取りだったと証言している。
世の中には不可解な出来事が無数にある。
もしかしたらあなたが知らないだけで、あなたの身の回りにもそれは訪れているかもしれない。
たとえば、あなたの背後とか。
ホラーを書くのは初めてですが、かなり楽しく書けました。
でも書いてる途中に部屋のドアを叩くのはやめてや母さん……